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「作戦あれこれ」第6回 試合前のコンディションづくり②

試合前のコンディション作り(2)試合前にウォーミングアップをしっかりやろう

 私は8月になるとインターハイ前の苦しかったことをいつも思い出す。試合のことが気になって大会数日前からなかなか眠れなかったこと。最初に調子が悪いとイライラして集中した練習ができなかったこと。普段は軽くどんぶりに2杯はペロリと食べていたのに、茶碗に1杯ぐらいしか食べられなかったこと。焦りから自分自身に負けて満足な練習ができなかったこと、などを思い出す。
 インターハイに初出場の選手、全国中学大会に初出場の選手、あるいは輝かしい伝統あるチームは希望に夢をふくらませていると同時に、複雑な心境でいる選手も多いことだろう。またこのような心境になるのはいかなる大会でも同じだと思う。しかしそのようなときにコンディションを狂わせやすいから十分に気をつけなければいけない。
 たとえば私は高校時代、大学時代に一番多くコンディションを狂わせたのは練習前のウォーミングアップ不足から、心、技、体が充実していないままコートにむかったためになかなかエンジンがかからず、自信をなくし、焦り、イライラしてコンディションを狂わせたことが何度もあった。'66年の北京国際招待試合ではジュースをガブ飲みして失敗したこともある。また'74年のアジア選手権で絶好調だった河野選手が急にコンディションを狂わせて負けたことなども取り上げて、今回はどのような状態の中でもコンディションをよくする方法を述べていきたい。


練習前にウォーミングアップをしっかりやろう

 試合直前の過し方を思い出してみよう。
 試合でスタートから自分の力を十分に発揮する人、気迫のあるプレーをする人、集中力のすばらしい人、うまい攻め方をする人、粘り強く気力あふれるプレーをする人、などの試合前の過し方を見ると、体操、柔軟体操をして体を柔らかくしたあとダッシュや素振り、シャドウプレー、あるいはモモ上げやジャンプその他をして必ず一汗かいて足の先から手の先まで十分に暖めた状態で試合に出る。それに作戦を立て試合の心構えを考え、心、技、体、智の4つを充実させてから試合に出る。中でも特に大切なのは素振り、シャドウプレーをしながら試合の気迫、集中力を養うことと、筋肉やスジを伸ばし内臓も激しい運動に耐えられるように、心、技、体を充実させていくことだ。
 体が十分に暖まっているから振りが鋭く、動きがよく好調なスタートを切りやすい。たとえ前半リードされてもウォーミングアップで技術、体力の裏づけがあるから焦りが少ない。接戦して苦しい場面にぶつかっても気力、気迫が充実していることが多く思い切った攻撃がとりやすい。心、技、体、智が充実していて困難な局面に出会っても試合で大切な最後まであきらめない粘り強さがでてくる。
 しかしウォーミングアップ不足のときはどうか。体が暖まっていないために動きが悪く振りが鈍く、なかなか調子が出ない。前半リードされると焦ってますますおかしくなる。激しい動きに耐える内臓ができていないためにすぐに疲れる。気迫、気力に欠けるために決断が悪く勝負どころで弱い。などのまったく反対の結果が出る。
 試合のコンディション作りも練習のコンディション作りもほとんど同じである。少し違う点といえばウォーミングアップの量。試合直前のウォーミングアップは8分~13分間ぐらいが適当だが練習は試合時間より何倍も長い。もし3時間の練習量であれば体操、柔軟体操のあとにダッシュやジャンプ、横振り、モモ上げなどをやり最後に連続スマッシュの素振り、7~10動作のシャドウプレーなどを30分ぐらいは必要と思う。
 そうすればさきほど述べた試合と同じように筋肉は十分に暖まり、激しい運動に耐えられる内臓もできあがり長時間がんばる気迫、集中力も養われる。スタートから鋭い動き、鋭い振りで調子よく進む。焦ったりイライラすることも非常に少なくなるだろう。

練習前に必ず練習内容を考えておこう

 コンディション作りとして練習前のウォーミングアップをしっかりやることを述べたが、それだけでは50%程度でまだ十分とはいえない。
 試合でもそうだ。今度対戦する選手とやるときは、台上のボールの処理が下手だからレシーブを小さく止めるとか、フォアが弱いからフォアを攻めるとか、横回転のレシーブが弱いから横回転を多く出すとか作戦を考えていく。あるいはスタートのときの作戦、接戦したときの勝負どころの作戦はエースボールを使ってこう攻めると考えていく。そうすると迷わずやれて良い結果が出ることが多い。
 しかし何も考えないで試合に出ると、試合中にこうしたほうがいいと思ってもいざやるときになるとこれも効くのではないか、あれも効くのではないかと迷って中途半端な攻めになって自滅することが多い。
 練習も同じで何も考えないで練習をしたときというのは、あれもこれもやりたくなっていろいろな練習に手を出し、結局何一つ満足にいく練習ができないことが多いものだ。もちろん練習時間とそのときのコンディションにもよるが、あれもこれもやるよりは2つか3つの練習を集中的にやるのが良いと思う。
 たとえば昨日のゲーム練習でレシーブとスマッシュの調子が悪かったときは、その2つの練習をとくに力を入れてやるとか。フットワークと3球目攻撃が悪かったときはそれを特に力を入れてやるとか、あるいはサービス練習とカット打ちをやろうとか、ツッツキ打ちとショートをやろうとか、すでに練習前に考えとくことが大切だ。
 そしてできることならやる練習の注意点を考えておく。たとえばツッツキのスマッシュ練習をするときは「バウンドの頂点を、よく踏み込んでミートを鋭くして打つ」というように、勉強をするときと同じように練習する課題を頭の中で予習をしておくことだ。
 '73年度の全日本選手権のときだったが、大会前、軸となるドライブが振り遅れていて練習で負けてばかりいた。半ば全日本のベスト8さえあきらめていたが会社から練習場に行くまでの歩きながらと電車の中で、ドライブの練習をするときはもどりを早くしてボールを正確な位置でひきつけて打つんだ。一球一球しっかり動いて打つんだ。振りを鋭くするんだ、などと考えながら練習場に向かった。練習する前に毎日イメージトレーニングをして考えていたので、普段の3倍ほど早く調子をとり戻すことができて、6度目の全日本優勝をすることができた。
 練習の前に練習内容を考えておくこと。内容の予習をしておくことは、良いコンディション作りに欠かせない。

もっとも得意な練習と、もっとも苦手な練習をしておこう

 今まで2つのことを述べたがただ自分の調子を出すだけではまだ十分とはいえない。対戦しそうなチームの選手の分析をした練習、個人戦であれば対戦しそうな選手の分析をした練習なども必要だ。好成績を収めているチームはほとんどやっている。
 一例を上げると、大学3年の夏のインカレに備えての強化合宿のときだった。準々決勝で伊藤、河野、井上の専大と対戦する組み合わせだった。愛工大は笠井、浅田のカットマンと私がいた。私が3点取らなければ勝ち目が薄かった。大会前に対伊藤、対河野に備えてかなり練習を積んでいった効果が出て、3点を取り5対3で破った。
 反対に大学1年の全日本学生選手権のときだった。勝ち進んでいけば好調だった左の北村選手(専大)と対戦しそうだった。私は左のレシーブが大変苦手であった。中でもとくにバック側に小さく出されたサービスに対してはツッツキレシーブしかできなかった。それにもかかわらず左対策の練習を1つもやらなかった。そのために決勝戦で北村選手と対戦してもっとも苦手なバック前をつかれて3球目に強烈なドライブをされ3-0のストレート負けを喫(きっ)してしまった。
 そのように試合で相手はもっとも弱いところをついてくる。相手が強ければ強いほど弱点をうまく攻めてくる。それに対して何もできないのでは試合に勝てない。
 私が完敗を喫した一週間後に1年の総決算である全日本選手権があった。北村選手に負けた敗戦を生かして自分のもっとも苦手とするバック側に小さく出されたサービスに対するレシーブ、それとバック側に小さく返されたときの3球目の処理の練習を毎日1時間大会の直前まで続けた。
 試合は順調に勝ち進み決勝は前年チャンピオンの左腕から豪快なドライブをひく木村興治選手との対戦となった。半月前の全日本選抜ではバック側に小さく攻められて豪快なドライブをされ手も足も出なかった。この試合もやはりバック前を攻めてきた。しかし1週間みっちりバック前処理の練習を積んでいった私は逆にそれをねらって攻めた。レシーブで対等に戦い激しいドライブの応酬の末3対1で勝ち、大学1年生の18才で史上最年少の全日本チャンピオンとなることができた。それも、試合前にもっとも苦手な練習と、最も得意な練習をして、コンディション作りに成功したからだと思う。

ねらった位置へ必ず出せるサービス練習

 私はコーチに行ったときに地元の選手と試合をする。試合後選手にアドバイスをするが、一番多いのは試合に強くなるには「もっとサービスをねらったところへ出せるようにしないと、試合に強くなれないよ」とよくアドバイスをする。試合の弱い人を見ていると中途半端なサービスを出して相手に強打されたり、ドライブをかけられて先に攻められているからである。それではいくら良いスマッシュを持っていても、ドライブを持っていても、宝の持ち腐れでちっとも発揮できずに終わってしまう。
 私も試合でコートで2バウンドさせるサービスを出すつもりが、1バウンドで出てドライブで攻められて負けた試合が何度もある。しかしねらったところへネットスレスレに入っているときは、3球目攻撃が非常にやりやすい。くるコースが大体わかるものだ。また相手は強く払うとミスが出るのでつないでくる。サービス練習はコンディション作り、またベストの試合をするに欠かすことができない練習だ。
 そこで試合で非常に効果が出ている私のサービス練習を1つ紹介しよう。ねらったところに1センチと狂わないように使用不能になったボールをフォア前、ミドル、バックに3バウンドするぐらいのネットぎわに置く。それと一番深いところにボールを置く。そのボールを試合で使うサービスで落とす練習。よくねらって落ちついてサービスを出さないと当たらない。一球一球サービスを大切にするようになるし、3本に1個ぐらい当たるようになればかなり自信を持つ。集中力も養われる。私は大会が近づくとボール落としを日課としているが、3球目攻撃がよくなり試合で大変に役に立っている。

食後すぐに激しい運動は禁物

 昨年横浜で行なわれたアジア選手権大会の準決勝の前に、絶好調だった河野選手が急に体調を崩して優勝チャンスを逃したことがある。
 その原因は食後20分ぐらいしてすぐに猛練習をしたからである。そのため試合直前に食べた物を吐き調子を崩し、郗恩庭選手に元気なく3-0のストレート負けを喫した。私は河野選手と一緒に食事をして練習場に行ったが、幸運にももしものことがあったらいけないと食後すぐに胃薬を飲み、練習についても軽いランニング、体操、シャドウプレーなどでウォーミングアップをしてから練習を開始したので何もなかった。河野選手は絶好調であっただけにもし河野選手と決勝戦を争っていたら勝てなかっただろう。一服の胃薬とコンディション作りで勝負が決まったといえる大会で、勝負の恐ろしさ厳しさを強く感じた大会だった。
 そのように食後すぐに試合や練習をすることは絶対にしない方がいい。もしすぐ試合があるときは、サンドイッチか野菜か果物などの胃に持たれない物を軽く食べるのが良い。
 また試合の日は試合のことが心配で食事をほとんど取らない人がいるが、体力を失い大事な場面で気力がなく負けてしまう。食事を取るときはできるだけ試合のことを忘れ、楽しいことを考えながら食べた方がよい。また夏は水分を取り過ぎないように十分注意することが大切だ。


筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1975年8月号に掲載されたものです。

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