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「作戦あれこれ」第6回 試合前のコンディションづくり①

試合前のコンディション作り(1)

 6月から8月にかけて、1年の中でもっとも試合の多いシーズンに入った。高校生は、高校生のメインイベントであるインターハイの予選が各地で行なわれる。大学生は春季リーグ戦や学生選手権、そしてインカレ。中学生も全国中学選手権の予選が始まるだろう。
 しかし一生懸命やっているのに、試合前の練習の仕方、トレーニングの仕方、過し方を知らないで調子をくずし、自分の力が出せないまま負ける人が多い。私自身も高校1年から昨年の12月まで13年間現役生活を続けていろんな失敗をしてきた。また「失敗は成功のもと」というように、失敗を生かして成功したことも多い。失敗例、成功例を上げて説明していこう。


ゲーム練習の割り合いを多くしよう

 試合が近くなったらやはりゲーム練習を多くやろう。試合の感じ、雰囲気(ふんいき)とかタイプのちがいによって攻め方、逆に攻められ方がよくわかるからである。そうすれば、どのようなタイプと対戦したときにも臨機応変にプレーすることができる。またゲーム練習からその時の自分のコンディションがわかり、調子の悪い点、欠点などをよく知ることができるからだ。そうすれば基本練習、応用練習のときに調子の悪いところをとり上げれば無駄な練習がはぶけ、質の高い良い練習ができる。
 しかし、ゲーム練習をした方が良いからといってゲーム練習だけしかしないチームがいるが、それはよくない。一例を上げると、私が高校3年生のインターハイのときだった。試合のときはごくわずかしか練習できないということから、調子を早くだすために大会の10日前から、3本だけ打って試合をするゲーム練習ばかりをした。はじめのうちは調子が良かったが大会前にフォームをくずし、試合で自分の力を出せず東山高校の岡田選手に完敗してしまった。このようにゲームばかりやりすぎるとフォームをくずしやすく危険である。とくに中・高校生はフォームがまだ十分に固まっていないだけに、大会直前になっても練習時間の1/3前後は基本練習と応用練習をしてフォームを調整した方がいい。
 私は大会直前に練習量を少なくするが、1時間ぐらいは必ず基本と応用練習をしてフォーム、足の運びをチェックして万全な態勢で臨むようにしている。

フットワークをやろう

 コンディション作りに欠かせないのは、何といってもフットワーク練習だ。疲れが残るからといって2日ぐらい前からすっかり休む人がいるが、そのような人の足の動きを見ていると鈍い。
 「卓球の生命はフットワークだ」といわれるように、足の動きが悪ければ鋭い3球目攻撃、うまいレシーブ、連続攻撃ができない。サービス、レシーブなどと個々の練習も大切だが、まず一番大切なのは素早い動きを身につけるフットワークである。高い打球点でボールをとらえることができれば入る確率が高く、自信をもって思い切って振ることができる。攻めが早くなるから先手をとりやすい。また相手はどこに打たれるかコースが読みづらく、簡単に攻撃できなくなる。その他、多くの利点がある。
 しかし大切だから若いからといって、フラフラになるまでやりすぎてはいけない。体力によってちがうが普通の人であれば試合前は15分から多い人で30分ぐらいの間が適当だろう。
 私が世界選手権で優勝したときは、ショートとフォアハンドでオールにまわしてもらい、それをできるだけフォアハンドで動くフットワークを大会に入っても毎日20分前後続けた。苦しい試合の連続であったが、大事なところで粘り勝ちをしたり思い切りのいい3球目攻撃ができて初優勝をすることができた。フットワーク練習が大きな支えになった。すべての技術で足腰が安定していることは基本だけに、フットワークをして素早い動きができるようにしておくことは大切だ。

レシーブと3球目練習をやろう

 試合は、半分がサービスで半分がレシーブである。だが高校生、大学生の練習を見ていると、サービスから3球目攻撃、5球目攻撃は多いが、レシーブとレシーブから4球目練習が少ないのに驚く。またレシーブ練習をするときの集中力の低さには驚く。いい例が、大学の代表選手が中国選手と対戦したときだ。サービスを持ったときは対等に戦っても、レシーブにまわると4本、5本と取られて勝てない。というようにレシーブの下手な人は試合に弱い。もちろん3球目練習も大切だが、サービスを持ったときは相手の心理を読んで出すとか、弱点をつけば大体どのコースに返ってくるか予測できて動きがよければ3球目攻撃がしやすいものだ。しかしレシーブになると反対になり、よほど練習を積まないと、相手の攻撃を防ぐことはできにくい。そのようなことからサービスから3球目攻撃と同じ量か、レシーブの苦手な人はそれ以上多く練習をした方が良い。サービスを持ったときに3本を取り、レシーブのときに対等に戦えば勝てるようになる。
 全日本選手権の前に、早大の体育館で今野選手、田阪選手と一緒に練習をすることが多かったが、やはり彼らはレシーブと、レシーブからの4球目攻撃の練習が多い。たとえば、フォア前に出してもらい、強く払うのと小さく止めるツッツキレシーブ。あるいはバックに小さく出してもらい、強く払うのと小さくストップする練習をよくやっている。
 それからゲーム練習のときもできるだけ変化のあるレシーブをすることだ。よく勝敗にこだわって消極的なレシーブをする人がいるが、そのような人は試合のときいざ払おうとしたときに自信と勇気がなく、どうしても払えなくなってしまい損である。ゲーム練習であるから、試合のときに自信がつくようにした方がいい。

軸となる主戦武器の練習を多くやろう

 試合で自分の軸となる主戦武器に凡ミスが多いときとか、自信がないときは負けることが多い。試合に出た人は何回か経験があるだろう。たとえばドライブマンなのにドライブのミスが多いとき、ショートマンにショートのミスが多いときのラリー展開は、他で得点することがむずかしく、低いボールを無理して打ちいちかばちかの戦法になってしまう。そのようなことから、ドライブマンであれば威力のあるドライブを何本も連続して打てるように、カットマンは速いドライブやスマッシュをカットで拾えるように、前陣攻撃型は止まるショートとプッシュそれにツッツキ打ちなどのコントロールをよくするとともに、どのタイプも決定打とするスマッシュの練習が必要である。
 たとえば、昨年の全日本選手権に備えてのコンディション作りである。勝ち抜くには仲村渠選手、河野選手、田阪選手などを倒さなければならない。みんな止めるショートがうまい。それに備えて練習で表ソフトの選手にナックル性ショートをしてもらいドライブで攻める練習を多くやった。あるいはドライブ選手、カット選手にも当たるから、ドライブ対ドライブのかけ合い、カットをドライブで粘る練習からスマッシュもやった。高島選手には負けたが、仲村渠選手と大屋選手に雪辱を果たすことができた。
 ともすると、自分の欠点ばかり練習する人がいるが調子が出ないうちに終わってしまいやすい。有利な戦いができるように軸となる主戦武器を忘れず練習をしておこう。

試合前日は軽く汗を流す程度にしよう

 普通の調子なのに試合前日に5時間ぐらい猛練習をする人がいる。これは非常に損である。というのは、試合は技術だけでするものではなくて、精神、技術、体力、作戦(決断、勇気)などの総合力で戦うからだ。
 それなのに前日まで猛練習をしたり激しいトレーニングをすると、いくら体力があるからといっても翌日に疲れが残ってしまう。すると、たとえ力がある選手でも試合のときに大切な集中力、気力が長つづきせず自分の力がでない場合が多い。それよりも2時間から3時間で練習を切り上げて家に早く帰った方が良い。そして自分の主戦武器でどう戦うか、どのような心構えで臨むかを考える時間を作った方が良い。たとえば相手が強い場合は思い切ってぶつかっていくとか、相手が対等以下の場合は油断をせず1本1本がっちりいくとかの試合の心構えを考えるのが良い。翌日に疲れが残らないし、心、技、体とも充実して自分の力を出しやすい。またベストコンディションに持っていくには、試合前日に練習量を落として8分か9分ぐらいにした方が良いようだ。自分の力はベストではないと思えば、正確に打つんだとかしっかり動くとか思い切っていくんだ、というように慎重な試合運びになる。そして徐々に調子を上げていってベストに持っていける。しかし前日に最高調になると自信のつきすぎから、荒いプレーをして慎重さが欠けとりこぼししやすい。普通の調子であれば2時間から3時間ぐらいの練習で切り上げるぐらいが良い。
 私が5度目の全日本優勝をしたときの試合前の2日間の練習時間は次のようだった。
 7時~7時30分  体操、20分間インターバルトレーニング、バーベル5分間、
柔軟体操
13時~14時50分 ゲーム練習
15時~16時 応用練習と基本練習
18時30分 夕食
19時30分~21時 河野、伊藤、阿部、今野、井上の各選手と対戦したときの作戦と、試合の心構えをノートに書く
22時 消灯


筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1975年6月号に掲載されたものです。

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