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「作戦あれこれ」第17回 甘いコースは危険

甘いコースは危険

 私は高1のころ、試合で元気だけは人一倍あったが、試合が下手でミドルへ返球しては「アッ、しまった」と思ったとたんバシッと打ち抜かれる。相手が少し動けば取れる甘いコースへ強打してカウンターされる。ということがよくあった。そんなまずい戦い方をしたために、自分より弱いと思う選手に良く負けたことがある。
 大学へ入ってコーナーワークがよくなってからも、コースの甘いボールをたたかれることがあった。とくにフットワークのいいドライブ主戦の伊藤選手とか、大屋選手とか、前陣攻守型の河野選手とか、田阪選手などと対戦したとき、ねらったサイドライン上よりわずか2、3センチコートの内側へ入ったばかりにショートやツッツキや得意のドライブを「アッ、危ない、守備の構え」と思ったとたん、構えを取る時間もなく1発でものの見事に打ち抜かれることがよくあった。またはコーナーをついてもコースを読まれていたために、1発で打ち抜かれることがよくあった。
 そのために、彼等と対戦したときはコースにものすごく神経を使った。もちろんあまり神経をつかいすぎると腕が委縮してよくないが、全日本や日中卓球大会や数々の国際試合の経験から、いくらパワーのあるドライブやスマッシュがあってもコースが悪ければショートで止められてしまう。パワーも非常に大切だがコースのつき方がよくなければ勝ち抜けない。相手を考えないでミドルや甘いコースをついた場合、野球のピッチャーでいえばホームランコースへ投げたと同じだ、ということを身をもって体験していたからだろう。

 ドライブマン、カットマンに多いコースのつき方

 しかし最近、コースのつき方が悪くなっているように思う。つい先日、関東学生春季リーグ戦および、ある県のNo.1の社会人チームとNo.1の高校チームとの試合を見たときもそう感じた。もちろん全部がそうだというわけではないが、とくに回転の威力と変化にたよりすぎているドライブマンとカットマンにコースの甘い人が多い。
 県の高校女子No.1の実績を持つカットマンが、あまりカット打ちがうまくない相手にミドルに集まるカットを連打されて負けたり、高校女子No.2のドライブマンが、同じく甘いコースに返したのを打たれて1ゲーム目を失い苦戦をしていた。関東学生リーグ戦でも多く見た。このようにコースのつき方が悪いと、自分より弱い相手に負けることがある。
 では、コースのつき方をよくするためにはどうしたらよいだろうか。その前に、まずコースのつき方が悪いとどのようなマイナスがあるのかについて考えてみよう。

 形勢が一転して不利になりやすい

 主な点をあげると次のようなことだと思う。
 1.甘いコースやミドルにつないだ場合
 ①相手がミドルから打つのが極端に弱い場合は別だが、相手は十分な態勢で打てるため相手の打球に威力があるしミスが少ない。
 ②フォアにはフォア側へ曲がるボール、バックには流しボールを打たれやすく、動かされる範囲が大きい。
 ③フォアとバックの両面に打ちわけられるだけであれば"両面待ち"で守備も比較的にらくであるが、ミドルにもスキができるため"三面待ち"をしなければならないため、読みが複雑になる。
 ①、②、③のことから、ミドルへつないだ場合は、攻守とも非常にむずかしい。
 ④1打前にたとえ相手の態勢をくずしたとしても、その次に自分が甘いボールでつなぐと相手が態勢をたてなおし、相手に逆に攻めこまれることが多い。
 ⑤強い選手と対戦した場合。前後左右に大きく動かされ、ますます苦しい態勢に追い込まれやすい。
 2.甘いコースや、ミドルへ強打した場合
 ①相手が台について両ハンドで待っているから、ミドルへ攻撃をする。あるいは、相手の態勢が崩れて動けないので、むずかしいコースへ打たず確実な甘いコースへ打つ、というような作戦としてミドルや甘いコースを衝く場合は別だ。その他の場合は、甘いコースやミドルへの強打は危険だ。相手は瞬間的にラケットが届きやすく、また少し動けば打ち返されるのでショートや強打で打ち返されやすい。
 ②相手が前陣で返してきた場合、ボールが返ってくる時間が早いため攻撃する余裕がなく一転して不利な態勢になることが多い。
 また、相手が1本うまく打ち返したことから自信を持ったり、タイミングがあったりして調子づく場合もある。裏をかえせば、相手に甘いコースに打たせるようにとか、威力のないボールでコースをつかせるようにして攻める作戦を取れば勝ちやすいということでもある。
 しかし、ここでよく考えなければならないことは、ただサイドを切るとかコーナーをつくだけでは、真にいいコースをついたとはいえないということである。相手のフットワークの速さと、ボールの速さを計算してつく。相手の読みの逆をつく。相手の意表をつくコースのつき方などをしてこそ、本当にコースのつき方がうまい選手といえる。だから相手が完全にバランスを崩した態勢の場合は、確実に真ん中へ返してもいいのである。
 しかし、関東学生リーグ戦を見ていて、コースのつき方の悪さは回転と威力に頼った打ち方からきているだけでなく、主戦武器の基本技術がしっかりしていないこと、フットワークが悪いこと、あるいは練習のときに真剣にコースをつく練習をやっていないこと、などからきているのだと思う。
 私も、高1のときは全然考えてやっていなかったが、コースを考えた練習をし始めてから強くなった。大学1年で全日本優勝をするまでどのような練習をしたか、参考になるかと思うので紹介しよう。

 動きの速さに比例してコースのつき方がよくなる

 高1のときノーコンといわれるほどコントロールが悪かった。そのノーコンから脱皮する努力が始まったのは高1の全日本ジュニアに出場して1回戦で負けてからである。私はこのときこう思った。『試合に強くなるには、コントロールがなければ勝てない。ぎりぎりのコースへ打てるようにならなければ勝てない。そのためには、フットワークをよくしなければいけない』その後、それまで嫌いだった苦しいフットワーク練習を自分から進んでやるようになった。
 主にショートで実戦と同じように大きく動かしてもらい、フォアハンドで何本も続けるようにして、がむしゃらに動きまくった。しかもコントロールをよくするために、同じ場所に返すようにした。高2のインターハイでは、必ず16位以内に入るんだという目標を持っていたから、体力の限界に挑戦してヘトヘトになるまで平均1日に1時間15分ぐらいやっただろうか。それを毎日のようにやったおかげで、高2の5月ごろは自分でも見違えるほどフットワークにスピードがついて、打球にスピードとコントロールがついた。また動きが早くなったことからレシーブも、3球目攻撃もロング戦もスピードがついてすべての技術が伸びた。それと、サービスから3球目攻撃の練習やレシーブ練習、ゲーム練習のときに、クロスに打つときはできるだけサイドを切るようにしてねらう。ストレートに打つときはコーナーをねらって打つように意識して練習を繰り返した。
 そして、初出場をかけた6月のインターハイ県予選は、今でも強く印象に残っている。代表決定戦で、長谷川は危ないといわれていた表ソフトの前陣速攻を得意とする渡辺選手(享栄商)と対戦した。相手が私のバックのコーナーをついたあと、バックに回り込んで攻めようとしたところを逆の方向のバックストレートのコーナーぎりぎりについて鮮やかに決めた得点。私のフォアをついてクロスで待っているときに、フォアストレートに攻めて相手の逆をうまくついた得点。あるいは攻められたときに中陣、後陣から回転のかかった重いロビングでサイドを切る返し方をして相手のスマッシュミスを誘った積極的な守備での得点など、今までにない会心の試合で勝てたし、インターハイに出られるし、本当にうれしかった。そして京都インターハイではシングルス3位、全日本ジュニアでは準々決勝進出という、自分でも信じられないほどの好成績を収めることができた。この原動力となったのは、やはりフットワークを猛烈にやって動きにスピードをつけたこととコースを考えてやったことで、この2つの練習は非常に大切なようである。
 しかし、高3のときは追われる立場にかわり、負けることを恐れた気持ちからミスをこわがったために、明らかに返球コースがサイドラインから大きくはずれる甘いコースしかつけず、それを攻められてインターハイ・全日本ジュニアともベスト16止まりの結果に終わってしまった。
 しかし、私は早い機会で、強い相手と対戦したときコースのつき方が悪いと勝てないと身を持って体験できたことは、その後の選手生活にものすごく大きく役立ち、幸運であった。

 独特の"ボール落とし練習"でコースを磨く

 勝負どころでねらったコースへ打てなければ勝てないと反省した私は、ゲーム練習だけでなく基本練習からコースをつく練習をしなければと考え、もう一度フォアロング、ショート、その他の技術もできる限りコースをつくように始めた。
 ときには、コーナーとコーナーから30センチぐらい手前のサイドラインの横にチョークで直径15センチぐらいの円をかいて、正確なフォームでどれぐらいコントロールがあるか、フォアロングやショートやレシーブをテストしてみた。
 そしてフォームが安定し、コントロールがよくなるにつれて直径3.8センチしかないボールをねらう練習方法に工夫していった。それは割れたボールや踏みつぶしたボールをクロスに打つ場合はサイドを深く切る位置におく、ストレートに打つ場合はコーナーぎりぎりの位置、小さいサービスやストップレシーブをする場合はコートで2バウンド以上する位置に置いて、ドライブやスマッシュ、レシーブや3球目でねらう練習である。この練習法はまだ技術の安定していない中・高校生がいきなりやるのは賛成しない。正確なフォームで打てるようになってからやった方が良い練習になる。そして私はコースを鋭くつく練習をしていくうちにいろいろな効果を知った。その主なものを上げると...。
 ①相手を大きく動かしたり、相手の逆をつくことによって、相手の打球はスピードがなく、次の攻撃を考える余裕ができ攻撃ミスが少なくなる。と同時にコースが読みやすく攻撃しやすくなる。
 ②コースを鋭くつくことによって、球威が増し、ドライブやスマッシュの得点が大幅にアップする。
 ③攻められたとき、ねらったコースをつくことによって、相手の打つコースが読みやすくなって、守備と守備からの攻撃がやりやすくなる。
 ④コースをつき、相手を大きくゆさぶることによって相手の攻撃ミスを誘い、試合で疲れにくくなる。つまり相手の攻撃を最小限にすることができるだけでなく、自分が打った打球は最大限に生かせるという攻守両面が大きく強化された。そのために、ノータッチで打ち抜かれることは極端に少なくなったようである。
 そして同じ年の12月にあった全日本選手権大会で、木村選手と決勝戦が始まる前、このように考えた。木村選手に対して「甘いコースのドライブはショートで振り回されてバックをつぶされてまったく勝ち目はない。ショートでゆさぶってきたときは、ショートの弱点である左右のストレートへ深く攻める。あるいは、フォアミドルかサイドを切って攻め相手をコートから離す。そして打ち合いになったら大きくゆさぶる。バックハンドはストレートへ打ち返してゆさぶる。そして得意のドライブに持ち込む。攻められて台から離れたときは深いロビングで守る」。試合に臨む心構えも立てた。「尊敬する木村選手と全日本の決勝で試合できることは非常に幸せだ。それにはベストを尽すことだ。冷静にやろう。」などを強く思って試合場に向かった。
 そして試合は、ぶっつけサービスを持っていてサービス権が回ってきたときは有利な戦いができたこともあったが、打撃戦となったとき試合前に考えたギリギリのコースをつく作戦と、無心で戦った精神が一体となって、幸運にも3対1で勝ち、大学1年で全日本初優勝を飾ることができた。
 だが、もし高3のときのようにミスをこわがった消極的なプレイで甘いコースをついていたら、ドライブの威力には自信をもっていたものの、3、4回戦で負けていたと思う。
 このようなことから「自分の球威におぼれたり、強さにおぼれたりして、僕は、私はコースが甘くてもいいんだという考え方では、強い選手と対戦したときに勝ち抜けない」と思う。

 私は試合後、
 「試合は、相手を考え一球一球コースを考えて攻める」と新しくノートに書いた。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1976年7月号に掲載されたものです。

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