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「作戦あれこれ」第30回 インパクトの瞬間までボールを見よう

 「インパクトの瞬間までボールをしっかり見て打つこと。これは卓球のあらゆる打法で最も基本となることだ」私は長い間卓球生活を続けてきているが、現役時代も現在も最も気をつけていることである。またこのことは、ほとんどの人が認識していることでもある。だが実際にはどうか。この基本をどんなときにも忠実に守っている人は以外に少ない。つい先日の、日本の高校、一般のトップクラスが集まる世界選手権候補合宿のリーグ戦を観戦しても、今年の夏、中学生から社会人の4つの全国大会を見ても、全体的に感じたことはどの大会も「ボールをしっかり見ていないな。ボールから目を離すのが早すぎるな」という印象を強く受けた。
 たとえば、フォア側へ飛びついて攻撃するとき、打球点の30センチぐらい前で目が離れてしまう人(とくに女子に多かった)、スマッシュや速いドライブを打つときにやはり打球点の20~30センチぐらいで目が離れてしまう人(とくに男子に多かった)、またバックハンドも同じように目が離れてしまう人などである。そしてそのような人は、ラケットの端に当てることや、空振りや、タイミングを狂わせてのミスが多かった。
 私も現役時代、ボールをよく見ていなかったときは同じようなミスが多かった。また、ボールの見方と成績は比例していたように思う。では、はじめにボールをよく見るとどのようなプラスがあるか述べてみよう。

 安定性と球威が増す

 私はボールをよく見るようになって次のような効果があった。
 ①飛んでくるボールの性質(方向、スピード、回転)を最後まで正確に見ているので、インパクトのタイミングも正確になるし、ボールがラケットの真芯(ましん)に当たる率が高い→凡ミスが少なくなる→早く打ったりゆっくり打ったりすることがなくなりフォームを崩すということもなくなる→ボールをよくみることによってフォアハンドのときは左肩、バックハンドのときは右肩がよく入り、腰の回転がスムーズになり安定性と球威が増す→調子がよくなる。自信が出てくる...といったような良い循環作用が生まれる。
 たとえば、先日行なわれた世界選手権候補合宿で、中学チャンピオンの斉藤選手が、高校生から4勝を上げる大活躍をしたが、その原動力となったのは打つ瞬間まで実にボールをよく見る目であった。高校の永福選手、No.3の岡部選手は、中学生に負けまいと変化サービスを出して積極的に攻めようとした。だが、インパクトの瞬間までボールをしっかり見る斉藤選手は、逆に鋭く払って攻撃していた。また打ち合いになっても、ボールをよく見る斉藤選手は、逆にドライブでかけ返し互角以上に戦い、インターハイチャンピオンの永福選手(埼玉・熊谷商)、ロング戦に強い岡部(東京・実戦商)等を破り、高校生のトップクラスと4勝4敗で星を分けた。また、変化カットの田中選手にも勝ちどのタイプにも安定した強さを見せた。ボールをよく見る大屋選手(日本楽器)のドライブの安定性はやはり他の選手より群を抜き全日本社会人で初優勝した。

 ボールを見なければ凡ミスが多くなる、威力が落ちる

 では、反対にボールを見ないとどうなるか。次のようになりやすい。
 やはり飛んでくるボールの性質を最後まで見ていないので、インパクトのタイミングが狂うし、ボールがラケットのシンの中心に当たる率が低い→凡ミスが多くなる→スイングがおくれて手先で調節したり、早く打ちすぎたりしてフォームをくずしやすい→からだのためがなく球威がつかない、コントロールも悪くなる→調子が悪くなる。自信をなくす...といったような悪循環が生まれてくる。
 たとえば、私が高校3年のときである。ボールをあまり見て打たなかったために、相手のサービスの変化にひっかかり、レシーブミスやラケットの端に当てたり空振りをしたり、またドライブの球威が落ちたために自信のあったロング戦で打ち負け、インターハイも全日本ジュニアも昨年より下回り、悔いが残る1年間となった。
 候補合宿の2部リーグの8位に終わった福田選手(京都・東山)もしっかりボールを見なかったために凡ミスが多く不本意な成績に終わった。また、1部リーグの中には早く目を離しすぎるために身体が早く開きすぎてオーバーミスを繰り返している選手もいた。

 気持ちがうわずっているとき

 では、どのようなときにボールを見ないか。次のようなときが多かった。
 1.気持ちがうわずっているとき
 ㋑あがっているとき
 ㋺気負いすぎているとき
 ㋩冷静さに欠けているとき
 ㋥試合する気持ちが真剣でないとき
 たとえば、私は名古屋で日中対抗や全日本選手権大会があったとき、地元であることからなんとか地元で勝ちたい、負けられないと気負い、いつもの大会より冷静さに欠け、ボールを十分に見られなくなり、名古屋の大会では'70年のアジア選手権大会で4冠王を獲得した以外、全日本でも2度敗れ日中対抗においてもいつも完敗に近かった。もっと冷静にやるべきであったと反省している。
 2.練習不足のとき
 ㋑ボールの速さに動作やカンがついていかない
 ㋺心にあせりがあり、落ちついた気持ちでボールを最後まで見られない
 ㋩集中力がない。粘りがない
 ㋥また練習では、良い基本の習慣をとりもどすためにチェックすることが多すぎて、ボールをよく見ることまで気が回らない
 私は大学4年の夏、夏バテから練習量を落としたことがあるがそのときはやはり、ボールの速さに動作やカンがついていかなかった。心に焦りがあり落ち着いた気持ちでボールを最後まで見られず、いつも勝っている後輩にドライブを逆にドライブで打ち返されて負けたことがある。その他にも集中力の不足、粘り不足からボールを最後まで見られないことも原因であったが、そのために威力がなかったことを今でもはっきりと覚えている。
 ㋥の場合と初心者で㋑の場合は、仕方のないことなのだから焦らずに少しでも正確にボールを見て、1ミリでも余計にボールを目で追う努力をすれば、しりあがりに調子が出てよくなるはずである。
 3.調子がよすぎるとき
 ㋑心におごりができ、丁寧に打とうとする気持ちが欠けてくる
 4.他の人の試合を気にしながらやっているとき
 ㋑気持ちが集中できなくなる
 たとえば、高校3年生の国体県予選のときだったが、自分のやっている相手には絶対に勝てる自信からとなりでやっている後輩の試合に心を奪われたために、気持ちが集中できなくなりゲームオールに持ち込まれて負けてしまったことがある。もう1つは、'67年初出場の世界選手権の団体戦決勝のとき1回目に出て勝ったあと自信を持ち過ぎて、やはり絶対に勝てるという気持ちから試合前に打つときの注意を怠ったために、丁寧に打とうとする気持ちを忘れ4番で金昌虎選手(朝鮮)に負け苦い経験をしたことがあるが、やはり調子が良すぎるときも他の人の試合を気にしながらやることは禁物である。

 インパクトまで見ることの大切さを常に心に持つ

 これまでプラス面とマイナス面を述べ、ボールを見ることがいかに大切かということがだいたいわかってもらえたと思いますので、次はどうしたらボールをインパクトまで見られるようになるか。
 次のようなことが必要である。
 1.ボールをインパクトまで見ることの大切さを常に心にとめる。常に意識してやればどんな場合のときもボールを見ることが習慣化してくる
 2.目の動きに関するからだの動かし方を知り、それを実行する
 ㋑目を大きく見ひらく
 ㋺あごを引きながら、ボールをいつも真正面で見るようにする
 ㋩頭の上下動をしない
 3.眼球の動きを速くする
 4.ボールを正確に見るために必要な運動能力を持つようにする
 ①反応を速くする
 ②相手の打球の速さに慣れる訓練を積む。トレーニング―速く動いているものを目だけで追う。目で見てすぐに動作にうつす(例、旗持ち合図、ふたりで向き合って同じ動作をする)
 ③柔軟性を高める(特に首を大きく速く正確に動かせるように)。トレーニングで首の体操をしっかりやる。ボールを想定して速い素振りをやる
 ④バランス(大きく動かされてくずれた態勢になってもボールを正しく見られるようなバランスのよさが必要)
 トレーニング―足腰の強さや粘りを出すための各種のトレーニング、大きな動きの苦しい練習の積み重ね。
 ⑤筋力(正確さだけではなく、ボールの速さにおくれないように速く動かすだけの力が必要)
などである。
 たとえば私は、ボールを正確に見るトレーニングによる訓練は6つぐらいやった。
 ①練習前に首の横振りを早くする。そのときに目を大きく見ひらいて周囲のものも見る。(首、眼球の動きを早くすることに役立った)
 ②素振り、シャドウプレイをするときに必ずボールを打っているときと同じように首をまわして振る
 ③電車に乗ったとき、電信柱を見る
 ④信号が赤から青に変わるとき、素早くスタートを切る
 ⑤発進停止のとき、ぶつからないように周囲を注意しながら走る
などのことは、たえず意識してやった。
 また、ダッシュ、ランニング、足腰を鍛えるウエートトレーニング、180度転回、腹筋、腕立て伏せ、バーピーなどのトレーニングによって身体を鍛えたことも、からだの動きが早くなりバランスを崩しても早く立ち直れるようになった。また、トレーニングのときだけでなく私生活においても事故のないように常に周囲のことに気をつけてやったことも、眼球の動きの強化や反射神経の強化につながったように思う。

 目標を持ってがんばることが大切

 しかし、ボールをよく見て打つことが大切だと分かっていても、カンでも入ることからつい忘れてしまう人が多い。それではいつまでたっても習慣化せず、大事なところで凡ミスが出て勝負強くなれない。そこで、どうしたらボールをしっかり見られるようになるか。やはり何といってもはっきりとし目標を持つことであると思う。
 たとえば私がボールをよく見て打つように自主的に練習をはじめたのは高校1年の終わり頃であるが、やはり「来年のインターハイでは必ずベスト16位に入るぞ」というはっきりとした目標をもってからである。そのときに、インパクトまでボールをしっかり見られるようにならなければベスト16位以内に入れないと思って私はフラフラになってもボールだけはよく見て打つようになった。
 大学1年生のときは、「近い将来必ず全日本を制覇するんだ」という、やはりはっきりとした目標を持ったことから、さらにインパクトの瞬間までボールを見て正確に入れるようにあらゆる練習に取り組んだ。そうしてドライブの安定性では世界1といわれる木村興治選手('61年、'64年全日本No.1)と互角の打ち合いができるほどに成長し、大学1年で思いもよらぬ全日本No.1となることができた。
 それともう1つは、コートの大きさと位置を常に頭の中に入れてプレイしたことである。だからコートを見なくてもボールを打つことに集中することができた原因であると思う。そして現役の後半には、打つ直前に左目で相手の動きをとらえられるようになってコースのつき方が更に正確にできるようになった。
 私は、現在若手が伸び悩んでいるのは1つはボールをよく見ないことも大きな原因になっていると考えている。自分の力を最大限に生かすためにも、どの選手もぜひインパクトの瞬間までしっかりボールを見るクセをつけて欲しい。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1977年11月号に掲載されたものです。

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