1. 卓球レポート Top
  2. その他
  3. 卓球レポートアーカイブ
  4. 「作戦あれこれ」長谷川信彦
  5. 「作戦あれこれ」第50回 間の取り方

「作戦あれこれ」第50回 間の取り方

 試合のとき、ラリーが終わってから次のラリーが始まるまでの"間の取り方"は、非常に大事だ。また、サービスを出すときの間の取り方も非常に大事だ。この間の取り方の上手、下手によって勝てそうな試合を落としてしまったり、負けそうな試合をひっくり返したりすることがよくある。また、あるときは相手の調子を完全に狂わし、思わぬ大勝ちをすることができてびっくりすることもある。
 私は現役時代この"間の取り方"がうまい、とよくいわれたがどのようにやってきたかを述べよう。

 連続得点されたとき必ず休む

 私が間の取り方で気をつけた最初のことは「2本連続得点されたら必ず休む」ということだ。
 私は、幸運にも高校1年生のとき全日本選手権ジュニアの部の愛知県代表になり、東京の台東体育館であった全日本選手権に出場した。このとき、自分の卓球が全国大会でどの程度通じるかを知るために必死に戦ったが、青森の村上選手のうまいストレート攻撃と粘りに1回戦で敗れた。私は、1ゲームも奪うことができず大変にくやしかった。また、全国大会で勝つことのむずかしさを知った。
 そしてこのとき私は「ヨーシ、来年の全国高校選手権では必ずベスト16位以内のランキングに入るぞ」というはっきりとした大きな目標を持った。このあとから私は、ランキング入りするには、サービスとレシーブをよくしなければいけないこと、フットワークをよくして凡ミスの少ないプレイをしなければならないと思い、学校に帰った日から毎日のように1時間以上猛烈なフットワーク練習をはじめた。そして、試合や練習のやり方を教えてほしいと思い東京にいる長男のところへ自分の考え方を手紙に書いていろいろとアドバイスをしてもらった。
 私の長男は高校3年生のときと大学1年生のときに国民体育大会で愛知県代表になったり、会社のチームのレギュラーでよくいろんな大会に出場していた。また、昭和31年の東京世界選手権大会や数々の一流選手の試合を見たりしているので私より何倍もくわしかったからだ。
 数回の手紙の中に次のような返事が来た。
 「手紙を読むと、試合のときサービスとレシーブのことばかり考えているようだが、間の取り方というのを考えてやったことがあるかな?点を取られても取られてもどんどん試合を進めていくと相手のペースにはまって勝てないよ。12月にあった全日本選手権大会の1回戦で村上選手に負けた試合を見てもそうだった。やはり試合のとき、2本連続得点されたら必ず少し休むことが大事だ。そうするときっといいプレイができるよ」
 私は兄の手紙を、なるほどそうでなければいけないと、うなずきながら読んだ。
 その手紙をもらった2週間後ぐらいに愛知県で毎年行なわれている学年別選手権大会があった。この大会は各学年ごとに行なわれる大会で、試合のとき私は2本連続得点されたら必ず休むということをさっそく実行した。すると自分のペースで得意の足を使った試合をすることができ、1年生の部でベスト4に入る成績をおさめることができた。この試合で2本連続してポイントを失ったときは休みを入れることの大切さをつくづく知り、このあとの大会も常に心して戦った。中でも特に印象深いのは、その年の6月にあったインターハイの愛知県予選である。
 私は、試合が心配で大会の前日は眠れないほど緊張した。が、試合は順調に勝ち進み、ついに6回戦の代表決定戦まで勝ち進んだ。相手は、愛知県で実力が3位といわれていた速攻の大柄な3年生の渡辺選手(享栄商)だった。私は試合前は勝っても負けても必ず接戦になるものと思って苦戦を覚悟した。
 しかし試合で、私は2本連続ポイントされたときに必ず休んでうまく間を取ることに気をつけた。すると、落ち着いた攻撃をすることができ、渡辺選手に調子をつけさせなかった。反対に私のほうはふだんの練習の力を全部出すことができて2ゲームとも15本ぐらいで楽に勝つことができ、念願の初のインターハイ愛知県代表の切符を手にすることができた。この後の大会でも、連続得点されたときは必ず間を取って各種の大会で優勝や準優勝を何度も勝ちとることができた。

 相手に恐怖心をもたせるような休み方をせよ

 しかし、この間の取り方はただたんに休めばいいというものではない。もし、おかしな間の取り方をすれば逆に相手に自信をつけさせたり次の戦法を読まれてますます連続ポイントされる。
 同じ間を取るのでも、相手に恐怖心をもたせたり、相手に何を考えているか読まれないような休み方をしなければならない。だから連続ポイントされたショックから放心状態のままで休んだり、喜怒哀楽を顔にあらわしたまま休むのはよくない。
 私は、汗が出ているときはすばやくタオルで顔や腕をふき、そのあと相手の動きをチラッと見たのちにコートや自分の足もとを見ながら次の手を考えた。汗がコートや床に落ちているようなときはすばやくコートの汗を手でふきながら、また床の汗は靴でふきながら間を取りその間に次の手を考え、そしてこれから構えに入ろうかなという直前にほんの少しだがジッと立ってはっきりと手を決めてからサービス・レシーブの構えに入った。これが相手に恐怖心をいだかせて良かったように思う。
 ところが、3本目も4本目も連続得点された場合はどうか。結論からいうと3本連続ポイントされたときは、それほど長く間を取ることはしなかった。だがもう1本取られて4本連続となったときは、再び長目の間を取った。なぜならば、3本連続ミスしたときは1本前に間を取っているので気持ちが比較的落ち着いているし体力の消耗度もそれほどない。だからどこが悪いのかすぐに判断ができるので、できるだけ間を短くして相手に同じ手でくるなと思わせたほうが良い場合が多いからである。しかし、4本連続ポイントされた場合は違う。大事な試合ではときどきしかなかったが、これはもう完全といってよいぐらい戦法を読まれているか、こちらが打つボールにタイミングがあってしまっているか、調子がどこか狂っているか、または自分の作戦が狂っているか、であるので少し長目に間を取ってじっくり反省し、絶対に5本目を押さえる努力をした。とくに試合ではサービス・レシーブの1本目と5本目を押さえると次の攻撃がリラックスしてできるので、サービス・レシーブがかわってから連続4本取られたときは、何としてでも押さえるようにした。また、3本連続ミスしたときでも中盤、終盤の大事な場面では少し長い間合いをとって慎重に考えてからプレイしたりもした。

 連続ポイントしているときは間合いを短くしろ

 逆に連続ポイントして好調のときはどうしたかというと、間合いをあけずに相手より早くサービス・レシーブの構えをとり、相手に考える余裕を与えないようにした。それでいて相手の状態を見て、逆コースを攻められるように考えてプレイした。
 たとえば、1本前にフォア前のサービスから3球目ドライブ攻撃で得点したとき、そのときの相手の選手の技術と性格から次にバックに長い変化サービスが効くと思ったら、相手がレシーブの構えをとった直後に素早くバックへ長い変化サービスを出したり、フォアへの長いドライブ性ロングサービスが効くと思ったら素早くフォアへ長いドライブ性ロングサービスを出して積極的に3球目攻撃を仕掛けた。
 こうしていっきに離すようにした。が、このときに注意しなければいけないことは、あまり調子づきすぎないことだ。勢いに乗ることは大事だが、あまり調子づきすぎるとプレイが雑になって小手先で打ったりヤマを張りすぎて逆をつかれることがよくあるからだ。そして中には、そのために急にリズムやフォームを崩して逆転される場合があるので、いくら好調であっても常に慎重にやることも忘れてはならない。
 たとえば、相手のレシーブが8割がバック側に返ってくると思っていてもフォア側には2割のヤマを張ってたとえフォアへレシーブされても攻撃ができるようにする。間を短くしても、このような考え方をしてやれば相手につけいるスキを与えずどんどん離すことができるものである。
 また、選手の中にはいい形で連続ポイントしているのにもかかわらず何の意味もなく休む人がいるがこれは絶対に損。相手に考える余裕を与えたり、作戦の誤りを気づかせたり、フォームの欠点を気づかせたり...してしまう場合があるからである。もちろん、目に汗が入ったときや相手のスマッシュの凡ミスでやっと得点したとき、ロビングがエッジに入ったりして負けたと同然のラリーで勝ったときは反省するために休みを入れるほうがいい場合もあるが、自分が積極的に攻めていい形で得点しているときは、間を短くしてどんどん試合を進めていく方がよい。

 相手より早くサービス・レシーブの構えをとる

 間合いの取り方でもう1つ大事なことがある。いくらラリーとラリーのあいだの間の取り方がうまくても、サービス、レシーブのときの間の取り方が下手ではなかなか連続得点されるのを防いだり連続得点を狙うことはできないものである。そこで私は連続得点したときは「間合いを短くせよ」というところでも少しふれたように相手より早くサービス・レシーブの構えをとるようにした。
 しかし、相手もおなじように早く構えようとしたときはなかなか呼吸が合わない場合がある。そんなときは相手と呼吸を合わせて構えに入ったが、入る途中で相手の動作より早くして相手より早く構えた。これは大変良かった。たとえばサービスのとき、相手のレシーブより早く構え相手がレシーブの構えをとった直後に素早く出すと相手は次のことを考えて返す余裕がなくなり直感的にレシーブをする。または、動くのが遅くなったり打つときに呼吸が合わなかったりして相手は消極的なレシーブをする。そこで3球目攻撃が非常にやりやすくなり、ラリーの主導権が握りやすかった。また、相手が早いタイミングのサービスにヤマを張っているようなときは少し間を取ってから素早く出すなど、サービス側の思い通りのペースで試合ができ有利なラリー展開で試合を進められた。
 レシーブのとき早く構えると、相手のサービスの動きをよく見ることができるので打球点のところまで早くいけ、打つときに余裕ができてスマッシュを打てたり、逆モーションでコースをついたり、またはフェイントをかけることができる。相手の3球目攻撃を封じることができて、レシーブのときでも有利なラリー展開にもっていけることが多かった。このような間の取り方は、河野満選手('77年世界No.1)、伊藤繁雄選手('69年世界No.1)、梁戈亮、李景光(中国)、ベンクソン(スウェーデン、'71年世界No.1)、同じくヨハンソン('73年世界2位)などがうまかった。

 疲れているときは、少し間を長くする

 その他で気をつけたことを述べてみる。
 ・体力が十分なときは、間を短くする
 ・体力がないときは、間を少し長目にする
 ・長いラリーで息が切れたときは、呼吸を整えるために間を少し長目にとる
 ・長いラリーでも相手が疲れて自分は疲れていないときは間を短くする
 ・相手のペースでやるのではなく自分のペースでやれるように間合いをとる
 しかし、間合いは相手が勢いに乗るのをはずしたり、気持ちや作戦の立て直しに使うための時間であって、ボールを拾いにいってコートに戻ってからせいぜい5~6秒ぐらいの間である。よく疲れていないのに30秒とか、ひどい人になると1分間以上も休む選手がいるが、ルール違反であるし、これではいやがらせでやっていると思われても仕方がない。このような人は、自分のリズムを狂わせてかえって勝てないし、将来大物の選手にはとてもなれない。5~6秒ぐらいの間で考えをまとめてできるだけ早くコートに向かうようにしよう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1979年10月号に掲載されたものです。

Recommendおすすめ記事

■その他の新着記事

■その他のカテゴリ一覧

Rankingランキング

■その他の人気記事