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「作戦あれこれ」第71回 異質ラバー作戦⑦ 攻撃力のあるカットマンと対戦した場合

 アンチカットマンには4つのタイプがある。先月号で①ラケットを反転させないアンチカット型と、②のサービスと台上のボールのときのみラケットを反転させる型の選手に対する戦法を述べたので、今回は第3のタイプである②の型プラス反撃する戦法と、第3の型プラスドライブに対してもラケットを反転させる第4の型に対する戦法を述べることにする。
 しかし、第3、第4の反撃をするアンチカットマンと対戦するときも、先月号で述べた「反撃をしないアンチカットマンに対する戦法」が基本的な戦法となるので、そのことは絶対に忘れてはならない。もちろん心構えもシャドープレーを中心としたウォーミングアップのやり方もだ。したがってアンチカットマンが苦手な選手は、先月号のアンチカットマンと対するときの精神面、技術面、戦術面を自分の卓球ノートに書き移しておくと役立つと思う。

 昨年も攻撃力のあるアンチカットマンが大活躍

 サービスのときからラケットを反転させて3球目スマッシュ攻撃や、台上のボールを猛烈に変化をつけて次をスマッシュ攻撃するアンチカットマンは実に多い。昨年のインターハイ男子シングルスで2位になった荒木(東京、実践商)、3位の野尻(埼玉、熊谷商)、同じく3位の小宮(神奈川、相工大附)のインターハイベスト4のうちの3名までもがこのタイプだ。女子も団体優勝した柳川高校(福岡)の主力選手は3人ともこのタイプであった。全国中学大会でも女子シングルスベスト4全員が、男子も団体戦で、変化カットから反撃するアンチカットマンが大活躍した。
 このため、現代は攻撃力のあるアンチカットマンに強くなければ上位進出できない時代になっているといえる。
 したがって今回の「攻撃するアンチカットマンに対する戦術」はアンチカットマンと対戦した場合の中でも、もっとも重要だ。私はこの記事を書く前に、実際に「攻撃してくるアンチカットマン」すなわち、レベルの高いアンチカットマンと対戦してみようと、関東学生リーグで活躍している駒沢大学へ練習に行った。そして、実際に試合をする中で「攻撃力のあるアンチカットマンに対する戦術」を確かめてみた。いろいろ参考になり得ることの多い練習だった。

 猛烈に動くことが大切

 このとき私は駒沢大学主将の佐伯選手(北見柏陽高出身)以下、全員とゲームをしたが、両面裏ソフトのカットマンとやるときと、攻撃力のあるアンチカットマンとやるときとでは、当然のことながら戦い方に大きな違いがあることに気づいて、大変に勉強になった。
 中でもとくに勉強になったのは足の使い方だ。ロングマンとやるときは、サービスからの3球目攻撃や、レシーブからの4球目攻撃など短いラリーで決まることが多い。あるいは、コートの中央での両ハンド攻撃や、前陣でのショートによる連続攻撃など足の動きが少なくてすむラリー展開で得点することも可能だ。前進回転のボールは角度さえよければ入るからだ。
 ところが、アンチカットマンとやるときは、そういうわけにはいかない。とくに攻撃力、守備力ともあるアンチカットマンと対戦した時は。なぜならば、このようなタイプに対して3球目攻撃や4球目攻撃だけで得点したり、足を止めて両ハンド攻撃で得点するというのは非常にむずかしい。
 甘いボールを返すとすかさずスマッシュで逆襲されるため、スマッシュでも強ドライブでもできる体勢からドライブやフォアハンドの連打でゆさぶらなければならない。
 また、アンチカットマンは両面裏ソフトや、イボ高のカットマンと比べると打球点が高いことが多く、返球が早く返ってくる。その速い返球にまけないほど速いフットワークが必要だ。
 したがって、相手はカットマンだからといって足の動きをおろそかにするととんでもないことになる。アンチカットマンに弱い選手には、打球後にカカトをべったりつけて足の動きを止めてしまう選手が多いが、このような構えでは素早いスタートを切ることができず、いつまでたってもアンチカットマンに強くなれない。攻撃力のあるアンチカットマンに勝つには、打球後、相手のからだの動きをよく見ながら、もっとも速く動くことのできる姿勢で構え"つま先をこきざみに動かしながら待つ""足の動きを止めない"ということが、まず一番大切なことだと私は思う。

 威力のないカットをする選手にはドライブからのスマッシュで崩せ

 攻撃するアンチカットマンといっても、その中には、カットに威力のある選手とカットに威力のない選手の2つのタイプがある。そしてタイプによって戦術は変わる。
 攻めやすいタイプから述べると、攻撃はロングマンのようにうまいがカットには威力のないタイプ。攻撃選手の方がカットより威力のあるドライブを持っている場合は、ストップを使わず「ドライブからスマッシュ」の力攻めでやるのがよい。この単純な攻め方が一番勝ちやすい。
 たとえば、一昨年のヨーロッパ選手権男子単決勝のヒルトン(イングランド)対ドボラチェク(チェコ)の試合がそのよい例だ。ヒルトンは攻撃が抜群にうまいがカットには威力がない選手だ。そのため威力のあるドライブを持つ長身のドボラチェクが勝つのではないかと思われた。だがドボラチェクは弱気になってストップやツッツキを多くしたために、そのボールを逆にわかりにくいツッツキや、裏ソフトとアンチの両面を使って打つ攻撃で攻められ、変化にひっかかってストレート負けした。ところが最近の試合では、ヒルトンのスタイルにみんなが慣れたため、威力のないカットを連続ドライブで攻められ、ヒルトンは成績を落としている。このようにヒルトンのようなタイプには、ドライブからのスマッシュで攻めきってしまおう。

 カットに威力のある選手や守備範囲の広い選手には、頭脳的なストップを使おう

 では、自分のドライブより相手のカットのほうが威力があったり、ドライブからスマッシュの単純な戦法では打ち崩せないほど守備力のある選手と対戦した場合は、どのように攻めるのがよいか。
 このような相手に力攻めすると先にミスが出やすく得策ではない。ところがキャリアの少ない選手は、がむしゃらに力攻めをして自滅する。ツッツキやストップをうまく使えば勝てるときでも、自分のドライブに溺れたり「アンチには力攻めしかない」とか「ツッツキやストップを使うと変化がわからない」と考えてしまい、力攻めして自滅への道をつっぱしってしまう。
 ドライブからスマッシュだけでは打ち崩せない相手と対戦した場合には、ツッツキやストップが必要だ。しかし、そのツッツキやストップの使い方は実にむずかしい。相手にツッツキやストップを読まれてしまった場合は、アンチと裏ソフトで自由自在に変化をつけられて不利になる。そのため、ツッツキやストップをする場合は、相手の読みをはずすことが絶対に必要だ。
 たとえば、ドライブに変化をつけながら粘っていて、高く浮いてきたチャンスボールを狙って、いかにもスマッシュするような体勢からストップをする。相手は「スマッシュされる」と思っているため、一瞬コートから離れ前に出るスタートが遅れる。そのため、ラケットを反転させて変化をつける余裕がない。あわてて前に出てあてるだけのナックルボールになる。そこをスマッシュ、もしくはドライブで相手の一番いやがるコース(ミドルや両サイドを切るよう)に攻めるのだ。

 アンチカットマンがサービスのときは攻撃選手と思ってレシーブせよ

 次にレシーブ。先月号で「レシーブは払え」と述べたが、攻撃力のあるアンチカットマンと対戦したときは、特に相手が攻撃選手と思って「積極的に払ってレシーブする」ことが大切だ。
 相手は裏ソフト面でもアンチ面でも好きなように変化サービスを出せるので、その利点を生かそうと積極的に3球目攻撃をしかけてくる。このときに、相手に読めるようなレシーブばかりすると相手のペースになる。自由に3球目攻撃を浴びて、不利なラリー展開になる。
 消極的なレシーブをする選手は「相手はカットマンだ」と考えてレシーブする選手に多い。昔のカット選手と対戦したときはそれでよかったが、近代的なアンチカットマンには通じない。相手がカットマンと思っては、いつまでたってもミスが出る。
 ところが「相手がサービスを持ったときは攻撃選手」と思えば積極的なレシーブができやすい。アンチカットマンは攻撃がうまいとはいってもロングマンほどは得意ではないので、ツッツキに対しては強くても読みをはずして払われた場合はカットに戻る。またツッツキでも変化をつけてレシーブすれば3球目ドライブの威力がなくなる。このボールはスマッシュやプッシュショートで狙える。また、このような気持ちで臨むと戻りが早くなってその後のラリーでもよく動けるようになる。動きが早くなることから変化がよく見えるようになる。
 現在消極的なレシーブをしている選手は、レシーブのときはもちろん、ラリーになったときも攻撃選手と対戦している気持ちで臨もう。

 サービスは相手の心理を読んでその逆をつけ

 相手が攻撃力のあるアンチカットマンの場合、相手をカットに追い込もうとドライブロングサービスばかりだしているとレシーブから狙われる。そこでサービスを持ったときは、ドライブ性ロングサービスとショートサービスで相手を激しくゆさぶることが大切だ。
 このとき注意することは、コースが単調にならないようにすることだ。コースが単調になると払われたり、ドライブや強打を浴びる。レシーブ攻撃されないようによく考えてサービスを出すことが必要だ。
 たとえば、ドライブロングサービスで相手をいきなりカットにおい込みたいとする。そのときは相手の気持ちを考え、クロスにくるのを待っていそうなときはミドルまたはフォア側に出して相手をカットに追い込む。また、カットに変化をつけようとさがってドライブロングサービスを待っているときは、フォア前かミドル前に素早く出して3球目攻撃をする。このようによく考えてサービスから積極的に攻めることだ。

 ドライブに対してもラケットを反転させるタイプにはインパクトの瞬間を集中して見よ

 ドライブに対してもラケットを反転させてくるタイプには、インパクトの瞬間を集中して見ることが大切だ。そして、裏ソフトで打球したかアンチで打球したかを目と耳でしっかり確かめる。それでも分からないときは飛んでくるボールのマークを見て打つことだ。
 注意することは、このときのカットマンの狙いは、相手のドライブミスやスマッシュミスを誘うことと、ツッツかせてそれを高ければスマッシュ、低ければラケットを反転させるツッツキで変化をつけて攻めることだ。そのため、その対策としては怖がってすぐにツッツかないことが大切になる。むしろラケットを反転させたと思ったら、逆サイドにループドライブで攻めたりするとカットマンの読みがはずれてカットがポコンと浮いてくることが多い。その浮いたボールをどちらの面でカットしたかしっかり見きわめてスマッシュする。「反転してカットしてきたらチャンス」くらいに思う気持ちが大切。
 アンチカットマンと対戦したときは、今まで述べたように、①しっかり動くこと ②相手はカットによる攻撃型だと思うこと ③ストップをするときはフェイント(相手の読みをはずす)をかけること ④サービス、レシーブから積極的に攻めること ⑤ラバーの変化を怖がらないこと―を頭に入れ、これにプラスして先月号のアンチカットマンに対する基本的戦術を守ってプレーすれば、アンチカットマンは怖くない。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1982年1月号に掲載されたものです。
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