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「作戦あれこれ」第73回 異質ラバー作戦⑧ 片面表ソフトシェーク型と対戦した場合Ⅱ

 心、技、体、智を充実させることが大事

 フォア面裏ソフト、バック面表ソフトの異質シェーク前陣攻守型と対戦したときには、技術面もさることながらまず精神面が非常に大切だ。それは、このタイプが①攻めが早い ②フォア面の打球と、バック面の打球とでは、回転、スピードそれにコートについてからのバウンドの仕方が大きく違う ③粘り強いタイプが多い...
...など攻撃選手の中でもやりにくい戦型であるからだ。
 そのため、このようなやりにくいタイプを打ち負かすには、闘志、集中力、冷静さ、判断力、決断力、勇気などの心の充実と素早い足の動き、鋭い振り、もどりの早さ、素早い切りかえ等の充実、それとどんなに激しく動いても息切れをしない体力の充実の3つが絶対に必要になる。このうち一つでも欠けたら、回転の変化、スピードの変化にひっかかってミスが続出する。常に心、技、体を充実させて臨むことが大切である。

 対バック面表ソフトのシェーク攻守型の素振り、シャドープレーを正確に行なう

 それには、試合前にダッシュ、素振りやシャドープレーをするとよい。そしてこのときに、対バック面表ソフトのシェーク前陣攻守型用のシャドープレーと素振りを行なうことだ。対バック面表ソフトのシェーク攻撃のシャドープレーとは、対戦相手を想定し、フォア面裏ソフト、バック面表ソフトのどちらのラバーで返してきたかをはっきり想像し、それに対して正確な素振りを行なうことである。ただばくぜんと腕を振っているだけでは絶対にいけない。試合のとき、かえって判断が悪くなりかねない。
 その上手なシャドープレーには次のような方法がある。
 ①バック前のショートサービスから、表ソフトのツッツキレシーブを想定し回り込んで3球目ドライブ攻撃。サービスから素早く戻って3球目攻撃に移るとき「表ソフトのツッツキは、ナックル気味で切れていない、ボールはバウンドしてから沈むような感じになるので、前に小きざみに動いてラケットをかぶせ気味にして振り抜く」ことに注意して素振りする
 ②フォア面のショートサービスから、裏ソフトのツッツキを想定し回り込んで3球目ドライブ攻撃。サービスから素早く戻って3球目に移るとき「裏ソフトのツッツキは深いコースに少し切れてくるので、右足をステップバックして、ラケットはやや上向きにして振り切る」
...などと、こまかいところまで注意してシャドープレーする。とくに表ソフトのツッツキやサービスは裏ソフトにくらべて切れていない。また、ハーフボレ―やショートはバウンドしてから伸びてこないので注意して、足をしっかり運び思い切って振ることだ。
 このようなシャドープレーの練習をすると、実際の試合で判断力が大変によくなるし、足の動き、振りの速さなど勝つために必要な動きの速さが身につく。対バック面表ソフトのシェーク攻撃の素振りとシャドープレーは、体力に合わせて時間のゆるすかぎりしっかりやってほしい。
 もちろんこれは、次にこのタイプの選手とやるとわかっている場合であるが、トーナメントでいきなりこのタイプと対戦した場合でも、普段の練習でこういった素振りの練習をしておくと、試合前の数分間のシャドープレーで調子を出すことができる。

 スピードのある変化攻撃に負けないよう自己暗示をかける

 また、試合の前にはさらに心のウォーミングアップもやったほうがよい。
 それは、ウォーミングアップというより、自己暗示をかけることである。これが上手な選手と下手な選手では試合でのプレーぶりがずいぶん違う。弱い選手ほど悪い自己暗示をかけて萎縮し、練習よりさらに悪いプレーをしてしまうことが多い。
 私が、積極的な攻撃をするためにかけた自己暗示は次のようなものだ。それは・強気で攻める ・自信を持って打つ ・冷静にやる ・相手以上の集中力、気力で戦う ・相手にぶつかっていく...。
 また戦略として基本的なことでの自己暗示は、・変化をしっかり見分ける ・ボールをしっかり見る ・しっかり動く ・ボールをしっかり引きつけて打つ ・一球一球コースを考えて打つ ・そうすれば勝てると信じる...といったことであったが、こういったことを自分に言い聞かせることで、闘志、気力、集中力、冷静さがつき、いいプレーをすることができた。
 しかし、人それぞれ性格が違う。したがって試合の心構えも違ってくるものだ。今までの試合を反省して自分なりの「自己暗示ノート」をつくることだ。

 表ソフトシェーク前陣型はフォアを攻めるのが基本

 バック面表ソフトのシェーク攻撃型と対戦したときの戦術は、積極的にフォアを攻めることが基本だ。と私は思う。それは、次の理由からである。
 ①このタイプの選手は、一般的に前陣攻撃は得意だが、中~後陣にさがるとフォアハンドのフォームが比較的小さいことや、バック側が表ソフトであることから弱い。そのために、ぜがひでも両ハンドの前陣攻守に徹しようとする。そうすると、足の構えが平行足に近くなるためにフォアへの動きが悪くなり、フォアからの攻撃が弱くなる。
 ②バック面は角度が瞬時に出て、よいハーフボレ―がくるがフォア側はあわせるショートになりやすい
 ③バック側で処理するときは、よい体勢のため両足とも動かしやすいが、フォア側は左足前の打ちやすい形になりずらい
 ④バック側で止められたときのボールはナックル性のショートで打ちにくいが、フォア側で止められたボールは深く平凡な球質なので攻めやすい
...などからである。

 1本調子で打つな、タイミングをはずせ

 しかし、このフォア攻めのときに注意しなければならないことがある。それは相手に読まれるとスマッシュを浴びたり、早いタイミングで打ち返されるのでタイミングと読みをはずすように攻めることである。
 たとえば、ドライブで攻めるときはボールをしっかりためてコースを読めなくして打ったり、バックに打つモーションから逆モーションでフォアへ攻める。あるいは、打球点を早くしたり引きつけて打つ。スピードのあるドライブを打つと見せかけておいて、スピードを抜いたドライブで攻める。このようにして相手のタイミングをはずすことだ。
 しかもその時にフォアコースぎりぎりを狙うとより効果的だ。それは右利き対右利きの場合、相手が手打ちになってミスする確率が高くなるからだ。相手が左利きの場合はフォアへシュートするようなドライブが打てると非常に有利だ。
 しかし、有効なフォア攻めではあるがコースが甘いとチャンスボールになることがあるので十分に気をつけよう。そのために、ときどきはバックへの攻撃もうまく混ぜる必要がある。そうすることによって、よりフォア攻めが効く。しかし、シェーク攻撃型のバック面は、瞬時にラケットの角度が出るため逆をついたつもりで浴びせたドライブでも返ってくると思っていなくてはいけない。そうでないと、ショートで逆にノータッチをされてしまう。したがってフォア側へ攻めるときと同じような工夫をして相手のタイミングをはずすことだ。

 右脇腹を狙え

 またこのタイプには、シェークハンドの一番の泣きどころである右脇腹を狙うことも重要だ。このコースに速いドライブやスマッシュを打たれると、前についているため一流選手であってもなかなか返すことができない。特に、相手が完全に両サイドを警戒しているときや、台に寄せたあとコートから離れようとするときに浴びせると効果的だ。中でもフォア前にサービスを出したあとの3球目ドライブが効く。
 フォア面裏ソフト、バック面表ソフトの異質のシェーク前陣攻守型に対する作戦や攻め方はいろいろあるが、今回述べたことが軸になる。
 次回はその練習方法について述べたい。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1982年3月号に掲載されたものです。
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