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「作戦あれこれ」第96回 自分にあったレシーブの心構え

 今年の1~3月号に続き、今回は「レシーブに臨む心」その4を考えてみたい。
 レシーブの技術や基本をマスターすることは大切だ。しかし、指導書や人から聞いて学んだ基本的な技術だけでは、真に自分にあったレシーブにならずうまくいかないことが多い。各人が自分の性格を考え、自分にあった一番力を出せる方法を常に追求する必要がある。固くなるタイプなら、どうやればリラックスできるか。闘志のない選手ならどうやって気迫を燃やさせるか...等々。しかし、そのすべてをレポート誌上で紹介することは難しい。そこで今回は、私が現役時代に心がけていた"長谷川流"の独自のレシーブの心構えを述べ、皆さんが各人にあった心構えをつくる参考にしてほしいと思う。

 相手の目を見る

 私が自分流のレシーブ、としてまず心がけたことは、「相手の目を見る」ことであった。なぜか?というと①相手を威圧して精神的に有利に戦う ②相手の集中力、気力がどのくらいかをはかり、常にそれ以上の集中力、気力で戦うようにする ③サービスから3球目攻撃を正確に読み、4球目以後有利なラリー展開に持ち込む...ためであった。「目は心の窓」といわれる。相手の目を見ることが勝負には不可欠なことだ、と考えたからである。
 だから、私はレシーブの構えに入る前に必ず相手の目をしっかり見た。それも相手が先に視線をそらすまで必ずみるようにした。目対目のにらみ合いで負けたら、気合負けするし、先に目をそらすと相手の心理状態が読めなかったからだ。
 私の観察によると、相手が私の目をグッとにらみ返してくるときは、3球目をドライブや強打で思い切り強く攻めてくることが多かった。すぐに視線をそらすときは、プレーも弱気か、確率を考えないムチャな攻めをしてくることが多かった。また、こちらの目を全然見ない選手は闘志が低く、ボールに威力がなかったり、こちらの困るような攻め方をしてこないのでしのぎやすかった。また、表ソフト速攻型に多かったが、こちらの目をちらっと見たあと、顔の表情を厳しくし自分自身に激しく気合いを入れてくるときは、思い切った強打やストップで大胆に攻めてくるので十分警戒した。
 このように相手の目を見ると、あらかじめ相手の3球目攻撃の予測ができ、台からの位置や4球目攻撃のタイミングが非常にとりやすかった。

 相手の目を見て闘志を燃やす

 しかし、私があいての目を見た最大の理由は、相手の目を見て闘志、気迫をはかり、それ以上の闘志を燃やすためであった。
私は試合で勝つには「相手より常に闘志と集中力が高くなければならない」と考えていた。その闘志、集中力が相手にどれだけあるかを見るには、目をじっと見ればはっきり分かるものである。まるで野獣のように眼光鋭く、食ってかかってくるほど厳しい表情のときは、最高の闘志、集中力をもち、間違いなくこちらの動作から次のプレーを読んでいるときである。反対にふだん生活しているときと変わらない表情でトロンとした目のときは、闘志も集中力も非常に低いときである。
 だから私は、相手の目、顔の変化をよく見て、それ以上の闘志、集中力で常に臨むようにした。こうすれば勝負はなかばこちらのものである。こういうときはレシーブから積極的に攻めて、相手の3球目攻撃を封じることができた。得意のドライブやバックハンドスマッシュに結びつけられた。これが安定した成績を残せた源動力だったと思う。もし、技術だけに頼り、私が相手の目を見ないで試合をしていたとしたら、不安定な波のある成績に終わっていたことだろう。

 心が悪いと勝てない

 しかし、いくら相手の目を見て闘志を燃やしても、勝敗にこだわりすぎたり、相手の目を見ることを過信しすぎて相手をナメて油断したのでは効果がない。自分に自信をもち自然に相手の目を見て威圧することと、わざと相手を威圧するように脅すこととは違う。弱い犬のようにカッコだけで相手をにらんで威圧しても、かえって集中力を欠いたり、固くなったりして、相手の心理状態や作戦を読めないばかりでなく、逆に相手にこちらの心を読まれてしまうからである。
 私を例にとると「相手を尊敬し、教えてもらう気持ちでプレーする」という謙虚な心で相手の目を見たときは、相手の心理状態がよく読めた。そのため、そのことを常に頭に入れてやった。また「好きな卓球で試合に出場できることは大変な幸せだ」という感謝の気持ちをもって相手の目を見たときは、ものすごくやる気が出て闘志、集中力が高くなり、冷静な良いプレーができた。
 初出場で初優勝した'67年ストックホルム世界選手権大会のときは、心からこのような気持ちでプレーすることができ団体、シングルス、ミックスの3種目に優勝する大きな原動力となった。

 常に堂々とした態度をとる

 「相手の目を見る」ほかに、私が独自のコツとして気をつけたことは「常に堂々とした態度をとる」ことだった。レシーブのときは「自信をもってレシーブする」と以前述べたが、これとはちょっと違う。苦しいときも自信があるような態度をとる、ということだ。
 なぜなら、苦しいとき、そのまま苦しい態度をとってしまうと相手に「チャンスだ」とつけこまれる。また自分自身もますます自信がなくなってくる。そこで私は、いくら苦しいときでも、勝っているときと同じ強気の姿勢を崩さず常に堂々とした態度をとるようにした。身長165センチと小柄だったこともあり、意識してそう心がけた。そのため、試合場で威張って見えたこともあるかと思う。しかし、これは大柄な選手に対して、初めから気遅れしないためにわざとそうしたのである。このため、苦しいときにも連取されることが少なく「接戦に強い」と言われるようになったのだと思う。
 試合のとき弱気な態度を見せると大変に損である。苦しいときも自信に満ちた態度を崩さないことが非常に大切である。

 5本のうち2本取ればよい気持ちで臨む

 また、私は「レシーブは5本のうち2本とればいい」という気持ちでプレーするようにした。
 なぜなら、5本全部とろうと欲ばると固くなったり、入れるだけのレシーブになったりして、かえって得点ができなくなるからである。これは5本のうち4本、いや3本と思っても半分以上得点しようと安全策をとりやすく、うまくいかなかった。
 ところが、大学1年の夏ごろ「5本のうち2本とればいい」と考えたところ「1~2本はミスしてもいい」という気持ちから思い切って払えるようになり、レシーブががぜんよくなった。そして逆に4本、5本と得点できることが多くなって試合に強くなった。それ以来、私はレシーブのとき「5本のうち2本とればいい」と必ず自分に言い聞かせるようにした。
 もっとユニークな考え方を持っていたのは、私と同時代のストップの名手鍵本選手(早大卒)。鍵本選手は「サービスをもったときは私が取る番ですよ。レシーブのときはあなたが得点する番ですよ」という考え方でやっていた。これはサービスのときによほど自信がないと考えられない発想である。が、鍵本選手はこの考え方で、得意のストップレシーブを余裕をもって決め、そこから4球目攻撃に結びつけて'67年世界大会団体決勝で強豪朝鮮から2勝する大活躍をした。これも鍵本流のレシーブ哲学があったからだと思う。
 個性あるレシーブをするには、このように自分の性格、自分のプレーにあった独特の考えや、哲学がなければむずかしい。そして、そのためにはしっかりした練習、トレーニングをしていなければ相手の目を見据(みす)えることはできないし、考えた通りのレシーブができない。しっかりレシーブ練習をやろう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1984年5月号に掲載されたものです。

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