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「作戦あれこれ」第146回 夏の大会と練習のチェックポイント

 夏は卓球の季節

 "夏"がやってきた。
 夏は1年のうちで最も卓球が伸びる季節である。夏に猛練習を積み一流になった選手は数多い。
 また、夏は大会が多く行なわれる。今年も、インターハイはじめ、たくさんのドラマが生まれることだろう。
 このように、夏は"卓球の季節"であるが、その過ごし方は意外と難しい。ダラダラ過ごすと、せっかくの夏がアッという間に終わってしまう。
 そこで今回の「作戦あれこれ」では、暑さに負けない「夏の練習のチェックポイント」と「夏の大会でベストを出すコツ」について考えてみよう。

 強化課題をしぼる

 夏は練習時間が増える。夏休みのある学生選手はもちろん、一般の選手にとってもウォーミングアップの時間が少なくてすむため長い時間台につける。このチャンスを逃がす手はない。
 夏の練習で、まず注意することは「強化する課題を一つに絞る」ことである。
 練習時間が増えると、ついあれもこれもと考えがちだが、そうするとどれも身につかなくなる。ドライブならドライブ、レシーブならレシーブにしぼり、基本練習以外は一つの課題練習に絞るべきである。そして、長所を伸ばす、または弱点を徹底して直す。そうしたやり方のほうが、結局は早く強くなることができる。

 正しい体の使い方を覚える

 ひとつの技術をマスターする時に大切なのは、入ったかどうか、にはあまりこだわらず正しい体の使い方で打てたかどうか、をチェックすることである。
 たまたま入っても、体の使い方が悪ければ、トータルではミスが出やすい。その逆に、そのボールは入らなくても正しい体の使い方で打っていれば、だんだん入るようになる。将来性がある。1本にこだわらず、大きい目標を目指して練習に取り組もう。

 休憩時間を十分とる

 夏は体力の消耗が激しい。疲れるとついダラダラとした練習になりがちであるが、ダラダラとした練習ならやらないほうがましである。やるからには試合と同じ気持ちで、集中した練習をしなくては意味がない。
 そのためには、せっかく練習時間が長くとれるのだから、休憩時間も長くとることである。そして休む時は、体育館の入口や窓を全部あけ、涼しいフレッシュな空気を入れる。そして一番涼しい場所に座って休む。
 長い時間、台についていればいいのではない。集中して全力を尽して練習してこそ強くなれるのである。休息も練習のうち。休むときはしっかり休み、台についたら集中してやる。余裕のある人は、休みながら次の練習のチェックポイントを考えておくとよい。

 感謝の気持ちで台にむかう

 集中して台に向かうためには、精神的に充実していることが肝心である。「暑いなー。しんどいなー」といった精神状態では、いくら休憩しても練習に打ち込むことはできない。
 「自分は夏が好きだ」「動きたくても病気で動けない人もいるのに、自分は好きな卓球に打ち込めて幸せだ」と感謝の気持ちをもって台にむかえば、汗をかくことが好きになる。汗をかき、充実した練習時間を過すことが好きになる。こうなれば暑さも何のその、グッと強くなれることは間違いない。

 練習を組み合わせて行なう

 夏は、強化課題練習と、基本練習、ゲーム練習をうまく組み合わせて練習するようにする。
 朝一番や涼しい時など自分の調子のいい時に集中して強化課題練習に取り組む。そして、少し疲れ、筋肉がほぐれてきた時は、フォアロング、ショート、ツッツキ、切り替え、フットワーク、等、続ける練習や球威を高める練習などの基本練習をやる。また、気持ちを切り替える意味も含めゲーム練習をやる。このような形で練習していけば効果的に練習できる。

 夏は体力の勝負

 さて次は、夏の大会でベストのプレーをするにはどうしたらよいかを考えてみよう。
 夏の大会で勝ち抜くには、まず体調を整えることである。暑さと疲れで頭がボーッとなってしまったら、なかなか元には戻らない。十分なプレーはとてもできない。
 体調の整え方には、試合当日のコンディショニングと試合前数日のコンディショニングがある。
 試合前数日のコンディショニングで大切なのは、栄養と睡眠を十分にとり、試合当日に疲れを残さないこと。試合前の2~3日は練習量を少し減らし、その時間を作戦等を考える時間にあてるようにする。ただし、ランニング等のトレーニングは、筆者の場合、普通にやったほうが大会での調子が良かった。各人の年齢、体力に合わせ、トレーニング、練習の量を調整することである。

 食事と水分補給

 栄養については、肉、魚のたんぱく質、野菜、果物のビタミン、ゴマ、小魚のカルシウム...等を意識して摂ることである。
 最近はスポーツドリンクがはやり、こういった飲み物であればいくら飲んでもいいとかんちがいしているような人も見うけられるが、水分の摂りすぎと疲れ、暑さが重なると確実に食欲が落ち、気合いを入れて練習することが難しくなる。水分の摂りすぎの一番まずい点はここにある。
 昔のように、練習中水を一滴も飲まずに脱水症状をおこしたり、無理なトレーニングをしすぎる精神主義は問題あるが、その反動で、ガブ飲みしたり、スポーツマンらしくない生活態度を認めてしまう風潮にも問題がある。
 ベストの状態で試合日を迎えるには、栄養をとり、練習中の水分補給は休憩時間にコップ1杯程度(塩分を0.2~0.45%程度含んでいると体液への吸収が早い)にして、ガブ飲みはさけるようにしよう。

 チャンピオンも眠れない

 十分な睡眠もコンディション作りには欠かせない。
 試合直前になると、緊張して眠れない夜もある。が、そんな時は「自分はそれだけ試合に集中しているんだ。全然試合が気にならないようではいいプレーなんかできっこない。これでいいんだ、大丈夫。少し眠れないくらいのほうがいいプレーができる」と自分に言い聞かせ、目を閉じよう。
 実際、2度世界チャンピオンになった松崎キミ代さんも「試合前夜眠れず、やや寝不足ぐらいの時にいい試合ができた」と言っている。
 床に就き、目を閉じていれば疲れはとれる。もちろんグッスリ眠れれば、それにこしたことはない。

 試合当日の注意

 大会当日は、軽くランニングした後、必ず朝食をとるようにする。
 「朝食は金」と言われるように、1日のスタミナの元が朝食である。タンパク質、カルシウム、ビタミンを摂るよう心がけよう。
 朝食を抜くと、朝のうちは分からなくても、試合が続くとすぐバテる。集中力が続かない。トーナメントで勝ち抜くことができなくなるから気をつけよう。
 また、大会当日の練習は、実戦に近い激しい練習を、短時間行なうようにする。打球感をつかんだら、疲れの残らないように、サッと切り上げよう。
 試合会場には少し早めに行き、涼しい場所をさがしておこう。体育館の外の木陰があれば一番いい。場所の確保をしておこう。
 試合場で練習できるようであったら、台について、会場の雰囲気、打球感、台のはずみ、ボールのはずみ...等を確認しておこう。
 試合前の練習で、自分のことにしか頭がいかず、台のまがりやネットの高さに頭がいかないのでは一流選手とはいえない。いくら練習どおりのフォームで打っても、台が傾いていたり、ネットが高いのではミスが出て当然である。
 一流選手になると用具にも気を使う。ラバー、ボールは温度に敏感で弾みが変るからである。ヨーロッパの一流選手の中には、厚さ、弾みの違うラバーを何枚も用意しておき、会場によって使い分ける選手もいる。クーラーのある体育館とない体育館では、かなり弾みが違うからである。
 また、湿気の多い日には、乾燥剤、乾いた布(タオル)等を用意しておくと、ラバーがすべっての凡ミスが少なくなる。
 こういった点にまで注意がいくようになれば、練習どおりのイメージで試合を行なえるようになる。

 夏は飛躍のチャンス。暑さに負けず、がんばろう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1988年8月号に掲載されたものです。
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