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「作戦あれこれ」第147回 調子の悪いときの戦い方

 夏の大会が終わった。しかし、今年の夏の大会はD君にとって最悪の大会だった。
 全国大会の予選もかねた県大会。団体戦準々決勝のラストでD君は全く調子がでないうち、以前勝ったことのあるI君に負け、D君の高校は県ベスト8で終わった。
 次の週に行なわれた個人戦でもD君は全くの不調。練習の半分の力も出せず、2回戦で早々と敗退した。試合前の練習の時から調子が上がらなかったが、試合では全く自分のプレーができず、一人でミスを重ねての敗退だった。
 すっかり自信を失ってしまったD君。一時は卓球をやめようとさえ思いつめた。が、そこはがんばり屋のD君。「ここで負けたら終わりだ。夏の大会だけがすべてじゃない。秋、冬の大会で雪辱してやる」と負けん気を発揮した。さすがD君、である。

 誰にでも調子の悪い時はある

 D君のように「試合で全く調子がでない」経験は、選手であれば誰にでも一度や二度はある。オリンピックに出場するような選手にしてもそうである。
 しかし、そういった一流選手は、長い間の経験から、「自分が全く調子が出ない時はどう戦ったら良いか」を知っている。そのため、苦戦を乗り切ることができ、自分より弱い選手にはなかなか負けない。
 調子のいい時は誰でもいい試合ができる。勝てる。しかし、強くなるためには、調子の悪い時でもどうにかして自分の卓球をやり、調子を徐々に上向きにしていくコツをマスターしていく必要がある。
 今回は、その「調子が悪い時の戦い方」について考えてみよう。

 不調を気にしない

 選手は試合で練習場ほどの力を出せないのがふつうである。
 多くの選手は、試合を前にすると調子を落とし悩む。大会の大きさに比例して緊張度が増し、調子が上がらなければ悩みは大きくなる。筆者にしても、泣きたくなるほど調子の悪い日もあった。
 試合前にもし調子が落ちても心配することはない。試合前に絶好調になり、大会期間中にさらに調子を上げて優勝するなどという人はまずいない。調子が悪くても、一生懸命がんばるうちに、いつの間にか調子が上がり勝ち抜いていく、というのが通常のパターンである。
 大きな大会が近づくと、責任感の強い、まじめな選手ほど「勝ちたい。負けられない」と考えすぎて調子を崩しやすい。ちょっと調子が悪いと必要以上に意識しすぎて自信をなくす。そしてさらに調子を落としてしまう。
 「自分が練習していることを試合で試す。練習の8割の力が出せれば十分だ。相手に教えてもらおう」と積極的な気持ちを持とう。試合は1回限りではない。十分な準備をつみ、試合に臨めばそれで十分。もしうまくいかないところがあったら次までにまた練習すればいい。

 急に変わったことをしない

 試合前数日の練習で気をつけなくてはいけないのは、試合を意識するあまり急激に練習をやりすぎないことである。
 中学生、高校生で毎日猛練習を積んでいる選手であれば、長時間練習しても若さで乗り切れる可能性もあるがそれでも普段より練習量を多くするのはよくない。疲れが大会当日にピークになるようでは、気持ちはあっても腕の振りが鈍くなり、足も十分には動かない。やればやるほど調子を崩す。
 サービス、レシーブやゲーム練習等、試合を想定した実戦的な練習を普段より多くし、練習量自体は普段より少なめにして大会を迎えるほうが望ましい。
 また、技術面では、全く新しい打法を練習したり、グリップをいじったりしないほうがよい。
 数日では、新しい打法を試合で使えるようにはできない。むしろ今まで使っていた技術の調子を崩す可能性のほうが大きい。新しい打法の練習は試合後にやろう。
 グリップについては、筆者も経験があるのだが、いじり出すときりがない。変にけずれば、ラケット角度が今までと変わってしまう。グリップが変わると打法も変わり、調子を崩す。少々調子が悪くても、グリップをいじるのはやめたほうがいい。

 スポーツマンらしく戦う

 試合当日、絶不調の時がある。そんな時、一番大切なのは「自分に負けない精神力」である。
 自分の思い通りにプレーできない時は確かにつらい。しかし、だからといってすぐあきらめたり、捨て鉢なプレーをしては勝てる相手にも勝てない。そんな意気地(いくじ)のないことでは卓球というスポーツをやっている意味がない。スポーツマンとは、どんな状況でも、全力を尽してフェアに戦う人のことをいうのである。
 試合では、練習場どおりの思うようなプレーができなくて当然である。
 練習場では、いつもやっている相手とプレーするためコース、回転、等が読める。そのため、多少スピードがあっても回転がかかっていても、平気である。凡ミスも少ない。ところが、試合では初めての相手のため、どんなボールがくるか予想がつかない。特に立ち上がりはコースも回転も読めない。練習場でやるようには思いきってプレーできなくて当然なのである。
 試合の立ち上がりにミスが出ても「今日は調子が悪い」とか「自分は試合になると入らない」とか、マイナス方向に考える必要性は全くない。そう思ってしまうと、そうなってしまう。
 早く相手のリズムと球質に慣れるように努力しよう。

 気力を出して戦う

 自分の調子を上げるには色々な方法があるが、まず大切なのは自分の気力を盛り上げていくことである。
 大会でなかなか調子がでず、凡ミスが追いような時はしゅんとなりがちだが、そんな時こそ「よし1本」とサービスごとに声を出してみる。よいボールが入った時は「ナイスボール」と自分を励ます。
 体に表わして自分を励ましていると、自然に気持ちまで上向きになる。
 現在アジアNo.1の韓国女子チームは、梁英子にしろ、玄静和にしろ、サービスの構え、レシーブの構えの前に、小さくはっきり、自分に言いきかせるように「ファイティン(ファイト)」「ハナ(1本)」と声を出して自分を励ます。非常にさわやかで、スポーツマンらしい。相手と共にがんばろうといった感じがある。
 このような気合いの入った試合は見ていて気持ちがよい。観客に感動を与える。

 サービス、レシーブが大切

 調子の悪い時ほどサービス、レシーブが大切になる。
 いくら調子が悪くても、サービスは大会前にしっかり練習しておけば、試合でも最高のサービスが出せる。そうすれば相手のレシーブが甘くなり3球目が攻められる。調子を上げていくきっかけになる。
 レシーブも試合前に練習しておくことである。特に普段払うレシーブを多用する選手は、払うレシーブをしっかり練習しておくとよい。調子が悪い時ほど、体が固くなって、つい入れるだけのレシーブになりがちだが、実は調子の悪い時ほど、レシーブからフォアハンドで攻めて先手をとることが大切である。レシーブで先手をとれば、次からの展開がグッと楽になる。
 また、調子の悪い時は、プレーを単純にして自分の主戦武器を多用するのがよい。思いつきで、普段やらないようなプレーをしてもまず成功しない。サービス、レシーブで先手をとり、自分の得意なコースに、得意なボールで攻めるようにする。

 総力戦で戦う

 調子が悪い時は総力戦になる。技術だけでなく、体力も、作戦も総動員しなくては勝てない。
 作戦は、自分がその日入る自信のあるやさしい技術、入るコースを組みたててどうやったら勝てるか、一本一本考えることである。
 攻撃が決ったら「ヨシ」と自分を元気づけ、入る感じを覚える。そして次の作戦をたてる。ミスしたら、原因を分析し「ドンマイ」と自分を元気づける。
 単純な技術で勝つためには動き回ることが必要になりやすい。フォア主戦の選手であれば、体力を総動員してガムシャラに動く。そして、ていねいにプレーする。そうするうちに調子が上がってくる。

 普段の練習が大切

 試合当日の練習は前途したサービス、レシーブからの攻撃のほかにフットワーク練習をするとよい。体の動きがスムーズになり、調子が上がってくるからである。
 また、試合直前にはウォーミングアップを普段の時より十分にやり、汗をかいた状態で試合にむかおう。
 試合で調子の悪い時は、練習場でプレーしているつもりで一本一本大切にプレーするしかない。また、そのためには、練習場で、試合で苦戦した時を想定し、一本一本大切にプレーする練習をしておくことである。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1988年9月号に掲載されたものです。

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