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「作戦あれこれ」第149回 トレーニングをやめたほうが強くなるか!?

 高校2年生のT君は卓球部主将。毎日2時間半の打球練習と30分ほどの合同トレーニングを行なっている。
 まじめなT君は一生懸命練習に取り組んでいるが、大会でなかなか好成績をあげられない。そこで「強くなるにはもっと練習時間が必要だ。でも体育館は7時までしか使えない...。そうだ、卓球の練習は厳しいからトレーニングがわりになる。合同トレーニングをやめて台につく時間をふやせばいい。そうすれば、技術は身につくし、早く強くなれるに違いない」と、トレーニングをやめることを思いついた。
 たしかにトレーニングをやめれば技術練習の時間はふえるし、トレーニングで疲れないので練習にも勉強にも集中して取り組める気もする。
 さて、T君の考えは正しいのだろうか?

 なぜトレーニングが必要か

 ちょっと考えるといかにも良さそうに思えるT君のアイデアだが、それはやはりレベルの低い段階での考えといわざるをえない。オリンピックの出場を目指すような選手はむろんのこと、ジュニアの段階でも、大きな大会で勝ち抜こうと思ったら絶対にトレーニングが必要である。ヨーロッパのナショナルチームの多くは、週に一度は、打球練習を休んでトレーニングにあてる日を作っているくらいである。
 ではなぜそんなにもトレーニングが大切なのか?
 そのことについて今回は考えてみよう。

 トレーニングは一生の宝

 トレーニングの効果としては、体力アップによるボールの威力、フットワーク、持久力の向上...等があるが、最も大切なトレーニングの目的は「健康な体と心をつくる」ことである。
 卓球は素晴らしいスポーツであり、技術練習だけでもかなりの運動能力が得られる。が、自分のベストを目指し、体操や水泳の選手にも負けないスポーツマンらしい体を作るには全面的なトレーニングが必要である。
 打球練習だけでは、一部の筋力は発達しても、バランスよく全身を鍛えることはできない。卓球はバランスが大切なスポーツである。きき腕側だけの発達では、すぐ限界がくる。人が見てびっくりするようなプレーは、スポーツマンらしいバランスのとれた運動能力がなくては不可能である。
 また、苦しいトレーニングを毎日行なうためには、強い意志力が必要になる。苦しくても途中で投げださず、一生懸命にやる精神力、良いことを進んでやる精神力が身につく。スポーツマンらしい丈夫な体、苦しいことにもたえられる強い心...は、卓球の強い弱いに関係なく、一生の宝である。苦しいトレーニングにたえ、がんばった自信は一生の支えになる。
 若い時のトレーニングは、一生の宝なのである。

 筋力アップでパワーがつく

 さて、それでは次に技術面での効果をみてみよう。
 まず初めに考えられるのがボールの威力である。
 たとえば3球目ドライブをかけることを考えてみた場合、あるレベルまでは技術練習ばかりやったほうが早く上達する。ところが、高校生でもトップクラスになってくると、筋力がなく振りの遅いドライブでは、入ってもことごとく返されてしまう。トレーニングをやっている選手は、当初ミスが多くても、時間と共に段々入るようになる。入ればパワーがあるので得点に結びつく。ところがトレーニングをやっていない選手は、この段階で頭打ちである。そうなってからトレーニングをやり始めても遅い。体づくりの土台ができていないからである。
 「体力に応じて技術は伸びる」。やはり打球練習と同時に、筋力アップのトレーニング、何も持たないで速い素振り...等のトレーニングをやり続け、パワフルに打てる土台をつくっておくことである。

 動きが速くなる

 トレーニングの効果として見逃せないのがフットワークの向上である。
 フットワーク練習はトレーニングにもなるくらい厳しい練習で、動き方の基本を身につけ、スムーズに動けるようになるためには台についての練習が効果的である。基本的にはフットワークを良くするにはフットワークの練習をすることである。
 しかし、実戦で、速く動いても体勢を崩さず、動きながら安定した威力あるボールを打つためには、基本となる体づくりができていなければならない。腹筋、背筋、スクワット、ダッシュ...等のトレーニングで、バランスのとれた筋力と瞬発力を身につけることによって、フットワークがよくなり、打球に安定性が増すのである。

 体力があると試合で5本は違う

 トレーニングをやる、やらない、の差がはっきりでるのが持久力(スタミナ)である。
 試合当日、トレーニングを毎日やり、体力に自信のある選手は試合前のウォーミングアップを十分にやれる。反面、やっていない選手は、試合数が多い時はウォーミングアップをひかえるようになり、出足が悪くなる。
 試合中、体力のある選手は前傾姿勢が崩れない。小刻みな足の動き、連続強打、打球後の素早い戻り...などを意識して行なうことができる。連続して3試合、4試合やっても崩れにくい。反面、トレーニング不足の選手は、試合が重なると動きが雑になり、ミスが多発する。
 苦しい試合展開の時、体力があればレシーブからオールフォアで動く作戦や、カットマンに対しては粘り倒す作戦が使える。反面、体力がないとミス覚悟の速攻で勝負したり、一発攻めても、次球をショートでつなぎ相手のミスを待つような作戦になってしまう。
 また精神面でも、トレーニングを積んでいる選手は、苦しい場面で気力をふりしぼり「あれだけトレーニングをやったんだ。負けてはならない」と闘志を燃やせる。集中力が落ちず、苦しい状況でも作戦を考えられる。体力のない選手は集中力が落ちてしまう。「がんばろう」と思っても、練習場よりプレッシャーのかかった状況では、体力不足から集中できない。

 トレーニングで故障を防ぐ

 このように、長時間、練習場以上の体力が必要とされる試合場で勝ち抜くためには、練習による体力だけでは十分でない。やはりトレーニングが必要である。
 しかも、T君が高校から社会人、大学へと成長するに従い、レベルも高くなり、練習も厳しさを増す。そんな厳しい練習に耐え、レベルの高い技術を身につけるためにも現在やっているトレーニングは役に立つのである。
 トレーニングによって体を鍛えておかないと、激しい練習についていけず、体を壊してしまう。高い運動能力を身につけると共に、故障をおこさない強い体をつくるためにトレーニングは必要なのである。

 時間を活用し、進んでやる

 さて、このように大切なトレーニングだが、必要な種目や量は選手によって違う。自分の近くに、トレーニングについて詳しい先生でもいれば指導を受けるのが良いが、ほとんどの選手は独力でやらざるをえないだろう。
 ここではスペースの都合で詳しいトレーニング方法の紹介をすることはできないが、大切なのは初めは少ない量からでも自分で計画し、必ず実行すること。(1)ランニング (2)腕立て伏せ (3)腹筋 (4)膝曲げ屈伸 (5)ダッシュ (6)180度転回 (7)素振り...等の、簡単にできる種目を自分の体力に合わせて行ない、レベルが上がってきたら、ウエートトレーニングをはじめ、専門的なトレーニングに取り組んでいくようにする。
 注意点としては、(1)ウォーミングアップを行なう (2)限界に挑戦することも必要だがけっして無理しない (3)ケガに注意する (4)体調の悪い時は休む (5)やる時はきちっと体を動かす...等を守ることである。
 体力、筋力などは急に身につくものではない。毎日コツコツやって初めて成果の上がるものである。T君の目には見えなくても、T君のチームのように毎日30分きっちりトレーニングを続けていれば、必ず成果はあがる。練習量をどうしてもふやしたいなら、休みの日を活用するとか、事情が許すなら3時間は体育館で台につき、その後、外で30分トレーニングをすることだろう。
 読者の多くがそうであるように、勉強があってトレーニングの時間をとれない、というのなら、(1)登校、下校の時、速く歩く (2)カバンを利用して手首を強化する (3)家での勉強の合い間に腕立て伏せ、素振りをする (4)テレビを見る時は腹筋をする...などの方法もある。
 「こうすれば卓球にプラスになる」と思ったらすぐ実行に移すことである。自分から進んでやるとトレーニング効果も高い。昔から、人より強くなった選手は、こういった陰の努力を積み重ねていった選手なのである。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1988年11月号に掲載されたものです。

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