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「作戦あれこれ」第150回 なぜ韓国がオリンピックで勝てたか?

 人口4000万の国が勝った

 ソウルオリンピックで、韓国は男子シングルス・金メダル、銀メダル、女子ダブルス・金メダル、男子ダブルス・銅メダルの4個のメダルを獲得。ハイライトの男子シングルス決勝を韓国勢同士で争ったことを考えると、世界一の成果を残したといっていいだろう。人口わずか4000万の国が人口13億の卓球王国中国に匹敵する成績を収めるとは、全く大したものである。
 なぜ韓国がそのような成果をあげることができたかビデオで見聞したオリンピックから考えてみたい。

 技術内容と研究心が勝利

 韓国の勝因は技術内容と研究心にある。
 たしかに、地の利、ボールと台に対する慣れ、等もあるが、それは補助的なものである。地の利(地元の声援)は確かにプラスにも働いたが、女子の梁や玄のシングルスのようにマイナス要因(プレッシャー)としても働いた。ボールと台についても、他国も事前にとりよせて練習していたし、日本で日本製の台、ボールでやったからといっておいそれと勝てるものではない。軟らかいボールは速攻に有利と一般に言われるが、勝ったのはドライブの劉南奎であった。中国の女子のように、直前にメンバーを大幅に入れ代え(世界チャンピオンの何智麗の代わりに陳静、戴麗麗の代わりに李恩芬が出場)すれば、相手の研究をはずすこともでき有利だが、それとて実力があればこそ。やはり技術内容と研究心が他国を上回って初めて勝てるのである。

 フォアとフットワークの強化

 さて韓国の卓球とは何か?
 それは、ショートを補助技術として使い、フォアハンドで攻撃できるボールはフットワークを使って果敢にフォアハンド攻撃する卓球である。つまり、日本の攻撃型卓球と非常に良く似ている。この基本の考え方は、劉南奎も金琦澤も、女子の梁英子も玄静和も同じである。ショートした後は、すぐ、より威力のあるフォア攻撃ができるように構えるし、レシーブもより多くフォア攻撃が生かせるようにバックサイドによって構え、レシーブも3球目以降も、より多くフォア攻撃しようとする。
 ここまで書くと、それでは日本の卓球も韓国の卓球も全く同じに思えるが、もともとの原点は違う。韓国の卓球はショートのうまさが特長であった。しかし、1966年のアジア競技大会で金忠勇選手が男子シングルスに優勝した当時の韓国は、ショートはうまいがフォアが弱く、金選手が優勝したとはいうものの、日本勢とは少し差があった。フォアクロスの打ち合いにもっていけば日本が勝てたのである。
 そこで、韓国のすぐれた指導陣は、日本を参考にフォアハンドとフットワークを強化、その後、中国やヨーロッパのプレーと指導法を学んで韓国の卓球を作りあげたのである。
 ショートのうまい角型ペンホルダーの裏ソフト攻撃卓球というと、韓国と並んで中国台北があげられる。が、中国台北の選手はショートの攻守は韓国をむしろ上回るものの、フットワークとフォアハンドの安定性の面でやや劣る。そのため、韓国ほど世界的な活躍はしていない。ショートを多用するプレーではヨーロッパの両ハンド攻撃を打ち抜けないからである。
 その点、フットワークとフォアハンドを強化した韓国の卓球は、ヨーロッパの両ハンドドライブをも打ち破った。劉南奎のパワードライブの威力と安定性は世界一。金琦澤のスマッシュ、ツッツキ打ち強打も今回は中国を上回り、二人のフットワークは訓練の質の高さを思わせるすばらしい動きだった。
 自国の伝統のショートの上に、フットワークとフォアハンドを強化、これが韓国を世界一にした技術的な要因である。

 韓国式フットワーク

 フットワークについては、日本式、中国式、ヨーロッパ式、等、いろいろな動き方がある。
 大まかにいって、中国式、ヨーロッパ式は両ハンドを使う関係で平行足が多く、フォアハンドを打つ場合、前への左足(右きき)の踏み込みが少なく、右足前の逆足で打つこともかなりある。
 対して、日本式のフットワークは、順足(右利きの選手がフォアを打つ時は左足が前)を基本とするため、強打等の安定性はあるが、足の切り替え、送りに時間がかかり、台から離れやすい。一長、一短がある。
 韓国のフットワークを見ると、状況に応じて日本式と中国式のフットワークをうまく使い分ける。
 自分が攻める時は順足が基本。しっかり踏み込んで打つためボールに威力と安定性がある。金琦澤はフォアにきたボールに対し、かつての日本の速攻選手のように左足を前に踏み込んで打球するため、フォアにきたツッツキに対するツッツキ打ち強打の確率が高かった。
 そして、相手が攻めてきた時は、ドライブマンの劉や梁でも一歩動の中国的な平行足を使って前でパッと合わせ、速い攻めに遅れないようにする。前で攻める時も、フォアにきたボールに対し時間がない時は、一歩動の逆足で攻めることもいとわない。そして、中陣でプレーする時は、極力順足で動いて威力と安定性をだす。
 基本と応用を考えたフットワーク法と、異質なものをスムーズに組み合わせて行なえる練習量は、日本も参考にすべきだろう。

 しのぎとバック系技術

フォアハンドとフットワークの良さが光った韓国だがしのぎとバック系技術のうまさも際立った。
 元来、韓国選手はショートがうまい。女子の梁や玄こそハーフボレ―のうまいヨーロッパ勢にバック対バックの戦いを挑んだため、プレッシャーもあり敗れたが、男子の劉や金はフォアハンドを生かすためにうまくショートを使ったため、バック系技術がより生きた。
 特に金琦澤のショートは、前陣で強行してくるクランパ(ハンガリー)には突き刺すようなプッシュでクランパの振り遅れをさそい、下がりぎみになるワルドナー(スウェーデン)らには前へ落とすショートを生かしてフォア強打に結びつけた。クランパのパワー、ワルドナーのテクニックに正しく反応したショート技術と、相手のプレー内容をよく心得た研究心はさすがであった。
 ショートのほかに、劉のバックハンドスマッシュ(バックハンドドライブ、バックハンド逆モーションロング)を筆頭に、梁も金も玄も、ショートだけにとどまらず、必要な時には狙い打ちのできるバックハンド強打をマスターしていた。
 また見逃してならないのが、女子の梁や玄はむろん、男子の劉や金もツッツキをかなり多く活用していた点。特に劉はフォア前のサービスをガツンと切るフォアツッツキを多用、強打と併用してかなり効果をあげていた。
 一般に、男子の場合、ヨーロッパの両ハンドドライブ型に対してツッツキを多用することはまずい。それをかなり意図的に使っていたというのは、よほど訓練をつみドライブ処理に自信があるからできることである。
 劉のツッツキレシーブを見ると、ヨーロッパ勢といえども、平行足でもあり、低く切れたツッツキが浅く・深くきた場合、全部一発で抜くのは難しいことがわかる。スピードのないバックドライブはとられる。ループやゆるいドライブは狙い打たれる。狙って思いきった3球目ドライブをしようとするとストップや強打に対し対応できなくなる。...そんなパターンであった。

 羽ばたけ世界に

 さて、今後の日本はどのように努力したらよいか?
 技術面、その他を一口で言うのは難しいが、基本的な考え方としては、攻撃選手であれば日本の持つ良さであるフットワークとフォアハンドを生かしつつ、バック系技術を多彩に強化していくべきだろう。前陣での技術はもちろん、中陣でのロングや後陣でのしのぎも必要である。攻撃型の選手であれば、そのやり方で世界一になれるとオリンピックのビデオを見て改めて確信した。
 しかし、日本人のもつ特性である敏捷性(びんしょうせい)、勝負感、足腰の強さ...を生かし、フォアハンドを多く使って勝ち抜こうとするためには体力、精神力が何より必要である。いや、スタイルうんぬんではない。カット型であろうと速攻型であろうと技術を支える体力、精神力がまず重要である。レベルの高さがチャンピオンになれるかどうかを決めるのであり、これは戦型に優先する。
 小柄な劉南奎が、全身をバネのように鍛え、フォアで動き回って優勝した。これが何よりの証明である。
 韓国はオリンピックに向け、年間を通じての強化合宿を行ない、トレーニングや、卓球に対する研究をした。しかし、練習時間自体は4~6時間と聞く。これは学生選手が努力によって生み出せない時間ではない。
 「思いきってスポーツに打ち込める時に最大限の努力をする。やるからにはオリンピック優勝を狙ってやる」そんな若武者が、日本のどこかで次回バルセロナ大会を狙っているに違いない。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1988年12月号に掲載されたものです。

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