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「作戦あれこれ」第152回 打球の威力が勝敗を決める

 オリンピック決勝をテレビ観戦した高校生のI君。東京で行なわれた全日本選手権は会場に足を運んで見た。オリンピックの劉南奎、金_澤、全日本の斎藤、小野選手らのプレーに感動しながらも、どうも釈然としない。
 「斎藤さん、小野さんは確かに強いけど、どうしてほかの選手に簡単に勝っちゃうのかなー?男子のランク決定ぐらいの試合のほうがパワードライブをバックのロビングで何本もしのいだり、そこからカウンタースマッシュをしたり、すごかった。そういえば、オリンピックも全日本も決勝は女子のほうがハーフボレ--対ショートで何本もラリーが続いたり、スマッシュをショートではね返したり、いろんな技術があった。小野さんや斎藤さんのようにサービスの後ドライブするのはぼくもできるけど、バックハンドを何本も振ったり、下がって何本もロビングするのはボクにはできない。何で小野さんたちのラリーはそうならないんだろう。ぼくには県の決勝戦のほうが上手に見えたけどなー?
 それにぼくが強い選手に劉南奎のようなサービスを出してもどんどん払われちゃうのに、もっと強いはずのオリンピック出場選手が劉のサービスに対しては払えない。ツッツキだって劉のマネをしてツッツいてもボクのはみんな一発で抜かれちゃう。劉のは打たれない。金_澤のショートにしたって、チャンピオンの劉がドライブするのがやっとのように見えるのに、ボクがドライブをショートで止めるとみんな打たれちゃう。あーあ、分かんないなー!?」
 なるほど、I君にはちょっと難しいかもしれない。

 斎藤、小野選手の打球

 たしかに、全日本決勝の斎藤--小野戦もI君の試合もラリーの数だけ見るとそう変わらないかも知れない。粘るのが得意な選手の対戦であったなら、I君の見た県大会の決勝のほうがラリーは続いたことだろう。
 しかし、その内容は全く違う。もし、斎藤選手と県のチャンピオンが対戦しても、県のチャンピオンは1ゲームも取れない。I君であれば数本とるのがやっとだろう。実力的には全く問題にならないのである。
 ではなぜ同じように見えるか?
 そこに球威の違いがある。
 一口にドライブ、ショート、ツッツキ...といっても一流選手とI君の打球では全く威力が違う。ボールのスピード、回転量、コースの分かりづらさ...などが全く違うのである。もし斎藤選手の相手が、同じドライブ型でも小野選手でなくI君であったら、斉藤選手はおそらくノーミスでI君のドライブを処理するであろう。続けるつもりなら、I君のドライブであれば、斉藤選手は前陣のショートででも、中陣のバックロングや後陣のロビングででも何本でも続けられる。そういうプレーをすることも可能だろう。ところが相手が小野選手であればそうはいかない。いかに斎藤選手のしのぎがうまくなったといっても、小野選手のパワードライブや弾丸スマッシュをしのぎきることは難しい。打たれると打ち抜かれる危険性が強いので、多少のミスは覚悟で先手争いにでるのである。

 同じドライブと言っても

 このように、一流同士の試合になってくると打球の威力が勝敗に大きくかかわってくる。
 分かりやすいようにいくつか例をあげてみよう。
 たとえば、バックへきたツッツキを劉南奎とI君がドライブをかけたとしよう。劉南奎のパワードライブであれば、スピードもあり、打点も高く、打球直前まで巻き込むドライブなのか、流すドライブなのか、ループがくるのか分からない。たとえ全日本選手権に出場するクラスの選手でもほとんどがノータッチであろう。
 ところが高校生のI君のドライブであれば、全日本クラスの選手はほとんどミスしない。たとえ出足はミスしても、I君のフォームのクセを徐々に覚え、スピードも回転も少ないドライブをフォアへ確実に回してくる。I君はバックからドライブをかけた後、あわててフォアへ走り、ドライブで粘るのがやっとだろう。球威がないため、その後のラリーもドライブで粘るのがやっと。ショートで左右にゆさぶられてしまう。
 ところが、すさまじい振りの速さを持つ劉のドライブは、ループや中陣ドライブになっても威力が落ちない。
 I君のループであれば狙い打ちさえできる相手も、劉の前ではパワードライブを恐れ、ループされても止めるのが精一杯。球威に押されて入れるだけのショートになり次をやすやすと決められる。しかも劉が相手では甘いコースにもっていくわけにはいかない。無理にコースをついたり、プッシュしたりして、相手はミスを連発する。中陣からのドライブでも、劉のパワードライブは猛烈な回転量とスマッシュに近いスピードがあるから、相手は止めるのが精一杯。甘くなったところを高い打点のパワードライブで仕留められてしまう。

 球威で展開が変わる

 球威の差はドライブだけに限らず、サービス、ツッツキ、ショートなどにもいえる。
 たとえば、I君がカット性サービスを出したとする。切れ味が悪く、変化もわかりやすいサービスは簡単に払われたりストップされてしまう。ところが猛烈に切れた劉のサービスは、威力があり簡単には払えない。ストップしようとしても回転量が多くてプッと飛んでいってしまう。まるで展開が違ってくる。
 レシーブの時のツッツキにしてもそうである。劉のツッツキはよく切れている。しかもコースが読みづらい。パワーのない選手であれば、たとえフォアにツッツかれたとしても持ち上げるのが精一杯。やっと持ち上げたドライブを劉に狙い打ちされる。
 ところが、同じツッツキレシーブといってもI君のは入れるのが精一杯。しかも切れていない。相手はタイミングがとりやすく、全力ドライブで切れていないツッツキを狙い打ちできる。後ろから前への水平スイングで打てるため一発で決まってしまう。
 I君が不思議がっていたドライブに対するショートも同様である。
 I君のショートは角度を合わせて入れるだけ。球質が一定でスピードがない。相手選手はたとえゆさぶられても、練習どおりの動きで次球を狙い打ちできる。
 ところが、劉や金_澤のショートはそうでない。ドライブに対し、プッと押しを加え、低く、深く、コースをついて、時にはサイドを切ってゆさぶる。相手は狙い打ちどころか球威に押され、つなぐのがやっとになる。しかもコースが分かりづらい。金_澤にいたっては、強ドライブを引きぎみに小さく落としたり、ナックル性にしたり、左右へ曲がる回転を入れたり、プッシュで押したり...と多彩である。さしもの劉南奎であっても簡単には狙い打てなかったわけである。

 球威はどの戦型も大切

 このように、打球の威力は勝敗に大きな影響を与える。
 ところが、指導で各地を回ってみると意外とこのことに気がついている選手が少ない。試合では上手にサービスを出し、バックハンドを振り、ドライブをかけるのだが、肝心の球威に頭がいっていない。そのため小じんまりしたプレーヤーになってしまっている。
 このことは、ドライブマンだけにあてはまることではない。カットマンでも、速攻型でも同様である。
 カットマンを例にとると、入れるだけのカットをする選手と、一球一球猛烈に切れ、しかも変化が分かりづらい選手のカットは威力が違う。遠くからでは分からないが、世界選手権に出るような選手のカットは、重く、変化が激しく、粘るのが容易ではない。多少守備力があっても、入れてくるだけの単調なカットマンであればじっくり粘ってスマッシュできる。ところが、一本一本のカットに変化がある、粘るのに気をつかう、大事に粘ると狙い打ちしてくる、攻撃に威力がある、というカットマンだと容易には勝てない。
 表ソフトの速攻選手もスマッシュ、プッシュなどにスピードがあるのとないのとでは大違いである。同じ展開になっても、スマッシュで打ち抜けるのと抜けないのでは雲泥の差がある。
 このように、どの戦型の選手にとっても、打球の威力は極めて大切なのである。

 球威をつけよう!

 さて、それでは打球に威力をつけるにはどうしたらよいだろうか?
 用具が同じであれば、振りが速ければ速いほど打球に威力がでる。振りを速くするには、体力をつけることと合理的なスイングをすることが肝心である。
 体力をつけるためのトレーニングについては、新年号から始まった松本雅徳先生の「トレーニングの実戦」がよい参考になるが、正しい筋を鍛える体力トレーニングをしっかり行なうことである。
 合理的なスイングについては、連続写真の一流選手の打法やビデオを参考に練習してほしい。また、用具についても、自分の打球に威力を増す用具を選ぶことが勝敗に関係してくる。
 I君、劉南奎のパワーを目標に、がんばろう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1989年2月号に掲載されたものです。

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