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「作戦あれこれ」第153回 シェーク攻撃で優勝するには?

 史上初のチャンピオン

 '88年全日本選手権で佐藤利香選手(白鵬女 高2年)が優勝した。
 史上最年少(17歳)の優勝もニュースだが、シェーク攻撃型が全日本を制した点でもビッグニュースである。
 シェーク攻撃型は近年増加を続けており、すでに世界では何智麗(中国)が'87年に女子シングルスのチャンピオンになっている。しかし、男子では'75年のヨニエル(ハンガリー)を最後に13年もシェークのチャンピオンが出ておらず、全日本にいたっては'73年に筆者が6度目の優勝を遂げて以来、シェーク攻撃型のチャンピオンが出ていない。女子シングルスにいたっては長い全日本史上、なんと一人のチャンピオンも出ていなかった。〔カット主戦型を含めても男子は'79年の高島規郎選手、女子は'80年の和田理枝選手以来シェーク選手の全日本一般男女シングルスチャンピオンは出ていない。また、筆者を一本差しのシェーク攻撃型として別に分類すると、オーソドックスなヨーロッパ式グリップのシェーク攻撃型としては、佐藤選手が男女を通じ初の全日本チャンピオンである〕
 そのため「日本のヨーロッパ式シェーク攻撃型は、世界はおろか全日本のチャンピオンにもなれないのではないか」の不安が日本のシェーク攻撃型の中にはあった。
 それを払しょくした意味で佐藤選手の優勝の意義は大きい。

 佐藤選手の勝因

 さて、佐藤選手の優勝を機会に、なぜ佐藤選手が全日本で優勝できたか、そして今後、日本のシェーク攻撃型はどんなプレーを目指していけば日本、世界で優勝するチャンスがあるかを考えてみたい。
 佐藤選手の全日本での勝因を順にあげると、
①.バック系技術の強さ、多彩さ
②.サービス力
③.スマッシュ力
④.攻めの速さ
⑤.打たれ強さ
⑥.レシーブ力
⑦.フットワークの良さ
⑧.試合運びのうまさ
⑨.試合度胸
⑩.闘志
...などであった。そして、これらの点が、実は日本のシェーク攻撃型が世界で活躍するために必要な条件そのままなのである。

 ペン式シェーク攻撃型はダメ

 なぜ今まで日本のシェーク攻撃型が今ひとつ活躍できなかったか。その最も大きな原因は「グリップをシェークに持ち変えただけで、プレー内容はペン攻撃型」の選手があまりにも多かったせいである。
 元来、シェークがペンよりも優れている点はバックハンドの打ちやすさにある。反面、フォア前のボールの処理やフォアミドルのボールの処理はシェークがやりづらい。このことは、自分でやってみれば明らかであろう。
 にもかかわらず、シェークグリップを採用しながらフォアハンド主戦のペンドライブ型と同じプレーを目指すというのは、肝心のバックハンドの強さを殺し、フォア前とフォアミドルのやりづらいフォアハンドで勝負しようというのだから、不利で当然なのである。そのため、フォア前が苦手、バック系技術が苦手、スマッシュが打てない...といった選手が多く出た。これは身近に参考になる選手が少なかったせいもあるが、同じフォア主戦型でも、かつてのヨーロッパチャンピオン・シュルベク(ユーゴ)のような、シェークラケットの重さを生かしたパワードライブが打てればまだチャンスがあった。しかし、そういったレベルまで振りの速さもなかったため、中陣フォアドライブで動き回らざるをえず、苦しくなった。

 バック系技術の強さ

 佐藤選手の全日本の勝因は、戦型によるのではなく、優勝者になるにふさわしい佐藤選手の個人的な長所、特に精神面、作戦面の良さによるところが大きい。しかし、ここでは、これからの日本のシェーク攻撃型の進む方向を考えるひとつの参考に、佐藤選手の技術的な長所にしぼって考えてみたい。
 まず第一にあげられるのがバック系技術の強さと多彩さである。
 今までの多くのシェーク攻撃型が、実戦では一種類のハーフボレ―しか使えなかったのに対し、佐藤選手は、①バックハンドループ ②速いバックドライブ ③ハーフボレ― ④(様子をうかがう)ゆるいバックロング ⑤打点の高いバックスマッシュ...を使い分ける。
 特にバックハンドのドライブは威力もあり、スムーズに使えるという点でもかつての日本選手にはなかった技術である。「日本のシェーク選手にバックドライブは無理」という迷信を、女である佐藤選手が覆(くつがえ)してくれた。
 また、今までの日本のシェーク選手は「速く、速く」と考えるあまりハーフボレ―に余裕がなく凡ミスが多かったが、佐藤選手は「必要な時は速く、難球はつなぐ」の基本がしっかりしている。そのため、横回転のショートやイボ高の下回転ショートに対しては軽打でつなぐ、技術的な幅があった。これはヨーロッパの選手には良く見られるプレーだが、日本のシェーク攻撃型は、裏ソフトであってもそのレベルに達していなかった。佐藤選手は打たれ強さがあるため余裕をもってゆるいハーフボレ―や中陣ロングを使い、機を見て高い打点のバック強打、スマッシュで決めた。

 フォアスマッシュの連打

 ヨーロッパの、そして日本の大多数のシェーク攻撃型になく、佐藤選手にある技術が前陣でのフォアハンドスマッシュ力である。
 自然にラケット角度のでやすいペングリップに比べ、シェークは体を上手に使わないとスマッシュが打ちづらい。そのため、シェーク攻撃型はスマッシュの時に大振りになったり、ラケットの重さを利用し、スピードドライブの変化でスマッシュの代用をする選手が多かった。
 しかし、佐藤選手は体を上手に使い、前陣でコンパクトに威力あるスマッシュを打つ。そして、速いドライブ、ループと混ぜ、効果的な攻めを見せる。素早く、正確に動ける日本選手が、同型のヨーロッパシェーク攻撃型に勝つためには、決定打としてのフォアハンドスマッシュを多用できることが重要であろう。

 サービス・レシーブ

 全日本の決勝戦では佐藤選手のサービスエースが目だった。特に最終ゲーム17-16の山場で星野選手のフォアを襲ったフォアハンドスピードロングサービスはすばらしかった。
 一昔前のシェークハンド選手は、フォアハンドサービスを出すのが苦手で、バックハンドサービスに頼っていた。ところが最近では、フォアサービスを出す時にはグリップを持ち変えて出すのが常識になり、手首の効きやすいペングリップと比べても遜色のないサービスを出す選手がふえてきた。ペンとシェークのサービス力に、かつての差がなくなってきたとすれば、シェークの選手がチャンピオンになる確率が増えてきたといえる。
 佐藤選手はフォアサービスが得意である。手首の使い方がうまく、回転、スピード、コースの変化に富む。
 16センチ以上投げ上げるルールではややフォアサービスが有利に見える。しかし、みんながフォアサービスになれば、再びバックサービスにチャンスが回ってくる。
 また佐藤選手は両ハンドとも払うレシーブとストップレシーブの使い分けがうまい。台上でのフォア・ミドル前はシェークよりペンのほうがやや手首が使いやすいがシェークはバックハンドで攻めやすい。最近はヨーロッパの選手も台上処理がうまい。日本のシェーク攻撃型としては台上の先手争いで負けるわけにはいかない。台上処理、中でも強く払うレシーブを強化したい。

 フットワークの良さ

 「フットワークがいい」。これはヨーロッパの選手が日本選手を評する時によく使う言葉である。両ハンドでも攻められるしフォア主戦でも戦えるとなれば鬼に金棒である。
 フットワークがいい、というのは前陣でフォアハンドで動き回れるという意味だけではない。切り替えの時の足の踏み替えがきっちりできる。そうすると特にフォアハンド時の半身の体勢が作りやすくミスが少ない。前後の細かい動きがきっちりでき凡ミスが少ない。といったことも含まれる。
 フットワークが良ければ、前で、高い打点で、戦える。日本のシェーク攻撃型がヨーロッパ選手に勝つには、速く正確な動作で、ミスなく先手をとって攻めることが基本。その上で、前陣でも、時には中~後陣に下がらされても、粘り強く、気迫を持って戦うことである。
 佐藤選手の優勝が、日本のシェーク攻撃型に与えた自信は大きい。後に続く選手の成長に期待したい。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1989年3月号に掲載されたものです。

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