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「作戦あれこれ」第154回 フォアハンドの基本を見直す

 基本を学ぼう

 平成元年も、もう4月。中学校、高校では下級生が上級生となり、新入生を迎える季節となった。
 新入生には球拾いだけ、の学校はもう少なくなったことと思うが、大事な卓球を初めて始める季節に、ショート、フォアハンド...の基本を正しく教える指導者のいる学校が少ないことは日本の卓球の将来のため、残念なことである。
 各都道府県には、幾人かの熱心で有能な指導者の先生方がおられる。そういう学校で教えてもらうチャンスを得られた選手は幸運だが、そうでない選手はいかに才能があっても自己流のクセがつきやすく、後で大回りすることになりやすい。特にフォアハンドの打ち方は、体の使い方が大きく、その後の応用範囲も広いため、初めに正しい打ち方を覚えることが極めて大切である。
 本来、こういった技術的な指導は、選手各人の体格や特性が違うため紙面で一様に述べることは無理がある。①直接指導する ②ビデオで指導する ③連続写真で指導する...の次に文章での指導があるのであって、断片的な写真を載せた程度では誤解を招くこともあり、真意が伝わらないケースもままある。しかし、そのことを承知した上であっても、各地を指導で回ってみて、あまりに多くの若い選手たちが基本的な体の使い方を知らず「このままではすぐ壁に当たってしまうな」と感じさせられることが多すぎる。そこで今回の「作戦あれこれ」では、上級生となる中学生~高校生の読者が新入生を指導するに当たり、また自分たち自身が復習する意味も含めて、基本的なフォアハンド(ロングを中心に、強打を含む)について紹介したい。前途したように、文章では必ず言い足りないことや表現力の不足がある。指導者の方や、ビデオ、連続写真の一流選手の体の使い方を良く見て、足りない部分を補って理解してもらえればありがたい。

 まずクセのないグリップに

 さて、ペン、シェークを問わず、新入生が技術を覚える時にまず基本となるのが"グリップ"である。グリップによってその人のフォーム、技術がすべて決まってくるといっても過言ではない。
 紙面の都合もあり、細かい点については"グリップ紹介"等を参考にしてもらいたいが、大切なのは、フォアもバックもやりやすい、クセのないグリップから始めてほしいということである。現代卓球においては、バック系技術や台上処理のやりにくいクセのあるグリップでは通用しない。初めてラケットを握る時は、自然に柔らかく握れるグリップがよい。
 グリップの削りも、ちょうど手に合う大きさのラケットを買い、ペンホルダーであれば、人指し指が当たる部分はやや深く、親指のあたるところは少し削るだけにする。練習もフォアハンドならフォアハンド、バックハンドならバックハンドばかりやっていると、その打法だけがやりやすいグリップに、つい削りすぎになるので、最初からフォア、ショート、バックロング...等、オールラウンドな練習で確認するように心がけたほうがよい。

 基本的な構え方

 標準的なグリップでラケットを握ったら、次は台につく位置と構えである。
 ニュートラル(ラリー中の基本姿勢)については、次の打球が速いか遅いか、カットかドライブか、また打球する選手の体格、プレー内容はどうかによって分かれ、それこそ千差万別である。ここでは160~170㎝の身長の選手が基本打法としてのフォアハンドロング(乱打)を前陣で続ける場合を考えてみよう。
 フォアクロスで続ける場合であれば、台から50~80㎝程度離れ、左足をほんの少し前(右きき。以下同じ)に出す。前傾姿勢は100m走のスタンディングスタートのような気持ちで構えると、どこへも速く動ける。
 ラケットハンドとフリーハンドは、小さく前へならえをする感じで、前傾姿勢に対し、約90度。脇は力を抜き自然に下におろす感じで、無理して体につけない。
 この姿勢でボールを体の斜め前(横より少し前)で打てるように細かく足を動かし、ボールを待つ(もちろんこれはある程度上達した選手でないと難しい)。

 ボールをよく見る

 次に相手の打球の飛んでくるのを良く見る。
 ボールを良く見ることの大切さは上級者になっても変わりはないが、初心者の場合は「腰を使って打つ」ために絶対に必要な条件である。よく「体を回して打て。腰を使って打て」というが初心者はなかなかこれができない。ところが「両目を結ぶ線を底辺として、二等辺三角形の頂点にボールが常にくるように心がけ、インパクトまでボールを見ろ」と言うと、ボールを見ようとして首を回す。そうすると実際にやってみると分かるが、誰でも首につれて自然に体が回り、自然にバックスイングがとれるようになる。この時、さきほどの前傾姿勢と両腕の位置はそのままにし、体といっしょに回す。これで自然にバックスイングがとれたことになる。
 そしてストレートにも、ミドルにも打てる、実戦と同じ気持ちでクロスに打球する。この気持ちがないとクロスにしか打てない選手になってしまう。

 振り切る目安はひたいの左前

 スイングの方向について一言で言うのは難しい。用具の摩擦係数、弾みによって違うし、その人の身長によっても違う。腰の位置からひたいまで振る、といっても、150㎝の選手と190㎝の選手では全く違う振りになってしまう。また一枚やイボ高の選手であればコントロールをつけるためのドライブ量を確保するため、下から上への速いスイングになるし、最高にひっかかるラバーであれば水平方向のスイングになる。また、弾まない用具であれば大きめのフォームになるし、最近の高弾性高摩擦裏ソフトに弾む接着剤を使ったような用具であれば、ロングを打つだけなら小さめのフォームですんでしまう。
 こういった違いは明らかにあるが、160~170㎝の身長の選手が、通常の表ソフト、裏ソフトを使った場合、一応のめどとして、ひたいの左前まで振り切るとよい。そうするとフィニッシュの時右腕の脇の下は90度くらい開く。また、だいたい両肩の線がネットの白線の位置と同じくらいまで回すようにし、極端に回しすぎない(スマッシュの場合は大きく回す)。
 こういったことが一応の目安である。後は、自分の身長、用具等を考え、各人で調整してもらいたい。

 右足から左足への重心移動

 スイングの時の体の使い方についてもう少し考えてみよう。
 最近気になっているのは、前途したような高性能のすばらしい裏ソフトを使った場合、当てるだけでクロス打ちなら良いボールが入ってしまうため、重心移動や体の使い方がいいかげんになりはしないかという点である。
 正しい体の使い方を覚えないと、連続攻撃やボールコントロール、全力で打った場合の威力...等に欠ける部分がでてくる。高性能ラバーを使う選手は、ほかの選手以上に基本をしっかり守る必要がある。
 さて、スイングの時、意外と守られないのが右足から左足への重心移動である。
 攻める時はどのコースにボールがきても、右足から左足へ、後ろから前へ重心移動しながら打つのがフォアハンドの基本である。これを守るためには、ピッチャーのように左足のももを内側にほんの少し回し、左のかかとを気持ち上げながらバックスイングを引く。そして打球の時は右足でけって打球する(強打、スマッシュになるとこの動作はより大きくなる)。

 パワーを生み出すコツ

 フォアハンドの時、体をうまく使ってより威力あるボールを打つコツとしては、腕より腰、腰より足を先行させ、弓矢がしなるようにパワーを順送りさせて、最終的にスイングの速さを出すことである。肩の力を抜き、ボールを右膝、右腰で打つ感覚が分かってくれば、かなりのレベルである。
 もうひとつ体の回転運動を振りの速さに変えるコツとしては、バックスイングまでは体を小さくまとめ、足、腰の回転が始まってから、腕を大きく振る方法がある。これは物理学でいう「角運動保存の法則」を利用した打ち方だが、スマッシュなどの時に効果がある。
 体で打とう、腕で打とう、とムキになって全身に力を入れるとかえってスイングのスピードがでない。力を抜き、鋭く合理的に体を使うことである。
 そのほかにも、ボールをつかむように動かすフリーハンドの活用法、正しい足の動かし方...はじめ、フォアハンドの打ち方の基本はたくさんある。
 大成の鍵は基本の正しい積み重ねにある。強い選手の打法を参考に、基本に忠実に打つことを心がけて練習に取り組もう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1989年4月号に掲載されたものです。

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