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「作戦あれこれ」第155回 相手の気持ちになって戦おう

相手の気持ちになって戦おう

 D君のいるN高校にも1年生の新入部員が入り、今日は初の新人戦である。
 3年生になったD君は、先輩として、卓球を始めてまだ日の浅い右ペンドライブ型A君の応援に回った。相手はシェーク攻撃型I君。A君よりちょっと強そうだが、試合はやってみないと分からない。
 試合開始。お互いに立ち上がり攻撃にミスが多く、1ゲーム目中盤まではいい勝負だったが、その後、I君のフォアサービスをA君が相手のバックへツッツくところを狙い打たれ、結局0-2で敗れた。
 「もう少し考えてやればいいのになあ」
 ベンチでの声援、アドバイスのかいなく敗れた後輩の試合ぶりに、D君は不満足であった。

 負けて勝ちを知る

 誰でも初めから強かったわけではない。
 D君の不満はもっともだが、一流になった選手でも最初のうちはイヤというほど失敗をし、負けている。そういった経験を通し、少しずつ強くなっていくのである。
 卓球は頭で考えたことを、実戦を通じ体で覚えていくスポーツである。
 試合に強くなるには、試合の経験を積むしかない。大会に出場したり、練習試合に出かけていく。それによって、大会の雰囲気に慣れたり、試合のやり方を覚える。そのことを積み重ねていくことで、試合で勝てる選手に成長していくのである。
 その意味で、A君は良いスタートを切ったといえる。
 卓球を始めて間もないA君であれば、先輩D君のメガネにかなうプレーぶりではなかったとしても当然である。問題は今後試合経験を生かし、それをバネにして飛躍できるかどうか、なのである。

 徐々に大選手に

 高校へ入って初めての大会。試合経験の浅いA君は、試合の雰囲気に飲まれ、ドキドキしてとても作戦を考えるどころの騒ぎではなかったろう。実際、試合展開も「思いきっていこう」と強打すればミス、大事にいけば狙い打たれる...のくり返しだった。
 初めての試合は誰でもそんなものである。地に足のつかなかった選手が、徐々に大選手になっていくのである。
 あまり完璧にうまくやろうと考えず、まず「試合は練習の7~8割の力がでれば十分。相手に教えてもらうつもりで、自分のできることをしっかりやろう」と考える。そして、会場や卓球台の様子(卓球台のネットの高さや台の傾斜、床の状況...などが意識せずつかめるようになればかなりのもの)、そして相手の様子などをながめて見る。実はここに、今後「正しく作戦をたて、強くなっていく」秘訣がある。

 相手の立場に立つ

 その秘訣とは「相手の気持ちになってプレーを考える」ことである。
 A君のレベルでは、とても、相手と自分の技術を正しく分析し、試合の流れ、お互いの調子...等によってベストの作戦を立てていくことはできない。しかし、試合で「次にどんなプレーをしようか」と迷った時、「自分が相手の立場だったらどんなプレーをされたらイヤだろうか」を考えることはできる。普段の生活では、相手のイヤがる逆をしてあげることが正しいが、卓球の試合はスポーツであるから、お互いがフェアに、相手のイヤがるプレーを考えることが正しい。これが作戦である。
 このことは、初心者から一流プレーヤーまで、作戦をたてる上での基本である。戦型によって多少は違うが、大ざっぱにいって、自分が相手の立場にたってやりやすいことは相手もやりやすく、やりにくいことは相手もやりにくい。特に初心者同士の場合は、技術的な幅が狭いため、ひとつの作戦がズーッとききやすい。
 試合でいざ「作戦をたてよう」としても、なかなかうまくいかないものだが、実戦で「相手の立場にたつ」クセをつけると、意外と作戦がたてやすい。
 それでは、A君の試合を振り返り「相手の立場に立つ」作戦の基本的な立て方を考えてみよう。

 フォアサービスのレシーブ

 A君は負けただけあり、敗因は山ほどある。が、技術面での敗因は、D君が指定していたように、I君のフォアサービスに対してのレシーブが悪かったことである。
 A君が試合前にやるべきことは、相手のラケットを見せてもらい「相手はフォア裏ソフト、バック表ソフトの攻撃型か。自分もドライブ型。これはお互いドライブを先にかけたほうが有利になるな」ぐらいの大まかな作戦がたてられれば、A君のレベルとしては合格である。もちろん、事前にI君の試合を見ておけば、台についてプレーすること、ハーフボレ―はうまいこと、フォア前のレシーブはへたなこと...などが分かったことだろう。
 さて、試合が始まった。シェークながら、手首を鋭く使って切ってくるI君の斜め下回転サービスにA君は苦しんだ。両者右きき。A君のバックへくるI君のサービスをA君がI君のバックへツッツくと、ラリーではあまり回り込まないI君が思いきって回り込み、クロス、ストレートにドライブ攻撃してくる。これがとれない。やむなく、フォアへツッツいたらストレートに打ち抜かれた。
 そこでI君は回り込んで先にドライブしようとしたが、バック側に曲がってくるためうまく打てず、回ろうとしている様子をI君に見抜かれフォアへロングサービスを出された。そのため、よけい回り込みが怖くなった。といってプッシュ、バックハンドでは切れていてレシーブできず、ストップも大きくなってドライブされたため、結局、最後までツッツキレシーブになってしまった。

 回り込んで攻めるべきだった

 全くどうしようもない。打つ手がない。
 A君はそう思った。しかし、ここでA君がI君の立場になってプレーを考えたとしたらどうだったろうか。
 A君がフォアサービスを自分に出したとする。はたしてどうレシーブされたらA君は一番困るだろうか。
 「そりゃ打たれてしまうことだ。あっ、ドライブされても困るな。すると3球目でドライブできなくなる。ましてストレートやバックサイドを狙われたらどうしようもないな」とA君は思う。
 おそらくI君も同じだったのだろう。そこでA君のフォアへロングサービスを出した。すぐに回り込みをやめたA君だが、ここでもう一度A君にI君の立場になってもらおう。
 「自分がフォアへロングサービスを出した時、一番ありがたいのはノータッチで抜けて、次からまたバック側をツッツいてくれてドライブできることだな。...なんだ、ぼくのやったことじゃないか。...とすると、どうされたらいやなんだろう。フォアへロングサービスを出した時一番イヤなのは狙い打たれることだ。それにフォアへのロングサービスはそう続けてはだせない。打たれるのもイヤだし、無理するとミスも出るから...。それにせっかくフォアへロングサービスを出したのに、次球また回り込まれて払われたり、ドライブされるとイヤだな。だからと言って、逆をついてフォアへロングサービスを出しても、やっと飛びつきながらでもドライブに変化をつけられると意外に攻めきれないなあ...」
 どうやら、A君。一番いいレシーブのやり方が分かったようである。相手の立場にたってみると、フォアへのロングサービスは狙い打つこと(もちろん難球はつなぐ)、そして8割はバックへくるのだから、5本のうち1本は初めから捨てて、4本回り込んで攻めたほうが有利になる、ということが分かる。

 苦しい展開でも乗りきれる

 でも、とA君は考える。「ぼくはフォアへのロングサービスを強く攻めるのが苦手だし、必ず回り込むと分かれば相手は続けてフォアへロングサービスを出してくるかもしれない。やっぱりツッツキになるなあ」
 そんな時でも、相手の立場にたって考える習慣をつければもう少し展開は違ってきたことだろう。
 「相手がどうやってツッツいてきたらありがたいかって?そりゃ、入れるだけの切れないツッツキがバックへくれば狙い打ちさ。でも、フォアへきたって、コースが読めて切れないツッツキならどおってことない。ストレートに思いきってドライブできる。...ああ、そうか、うまくドライブできないのは、フォアへツッツくような感じからバックサイドを切ってツッツかれたり、フォアへ逆モーションでツッツかれることなんだな。コースが分からなければドライブできない。そうだ、横回転ショートも混ぜればよかった...」
 A君もだいぶ作戦のたてかたがわかってきたようである。

 今回はレシーブのほんの一例をあげたにすぎないが、試合で苦しい展開になった時、「相手の立場にたつ」クセを身につければ作戦の展開がずいぶん変わってくる。
 もし、相手の立場に立って良い作戦を見つけても技術的にできないなら、それは飛躍のチャンス。学校へ帰ってから、じっくりその練習をすればよいのである。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1989年5月号に掲載されたものです。

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