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「作戦あれこれ」第166回 自信と勇気を持って戦う

 自信のないプレーは観客席からはよく分かる

 試合は精神面からの影響が大きい。同じ選手の同じ技術、体力が、気持ちの持ち方により、120%発揮されることも、20~30%しか発揮されないこともありうる。
 精神面をコントロールすることが努力を勝利に結びつける鍵だと感じた筆者は「長谷川語録」をノートに書きとめた。その第三が「自信と勇気を持って戦う」である。

 試合の会場で「自信をもっていけ―」の応援席からの声をよく耳にする。自信を持て、といわれた選手は、アッ、オレは自信がないように映(うつ)るんだな、と再確認させられるだけで、どうやったら自信を持ってプレーできるのかは分かるはずもないから、応援としては無責任な応援の部類に入ると言わざるを得ないが、思わずそういいたくなるような選手が多いことは事実である。
 試合で、自信を持っていけ、と言いたくなるような選手の症状としては、
①、無理なプレーをする
②、作戦に一貫性がない
③、チャンスボールをミスする
④、決断が悪く、振りが遅い
⑤、入れよう、入れようとする
⑥、動作に落ちつきがない
...等々がある。
 普段、練習場でそのプレーを見ている者からすれば、「ホントはもっと強いのに、何やってんだろ?」ということになる。しかし、当の選手にすればまずそんな症状であることに気づかない。試合場で、自信がないからこんなミスをしてるんだな、と分かる選手はまれで、分かる選手であればこんな状態が長くは続かない。多くの選手は「試合になると会場の雰囲気も違うし、相手のボールも違う。やっぱり練習のようにはいかないなあ」と変に納得してしまう。これでは自信をなくすばかりである。こういう状態の時に「自信を持ってやれ―」と声を枯らしても、その声援は右の耳から左の耳に素通りするだけである。

 勇気がないのはもったいないばかり

 「自信を持ってやる」にややニュアンスの近い言葉に「勇気をもってやる」がある。
 こちらのほうは試合会場で、「勇気を持ってやれ―」の声がかかることはさすがに少ないが、声援が飛んでも不思議のない状況がある。それは―
①、打つべき時に打たない
②、サービスが全部小さくなる
③、レシーブが相手のバックにばかり集まる
④、守ってばかりいる
⑤、表情の闘争心がない
―などである。
 勇気がないと相手の顔がまともに見られない。従って相手の表情から、次に相手が何をやってくるか、読みとることができない。せっかく練習をつみ、せっかく試合に臨みながら、自分のベストをつくさず、萎縮(いしゅく)した勇気のないプレーをするとは、何とももったいないことである。

 試合に勝つには自信と勇気が必要

 試合は自信と勇気を持ってプレーすべきである。
 自信がないと無理なプレーをする。自分がどうやっても21-3で勝ってしまう相手に対しては、自信のないプレーをする選手はいない。まずつなぐべきボールはキチッとつなぐだろうし、チャンスボールだけ打つからスマッシュもミスせず何をやっても入るプレーぶりになる。自信に満ちあふれている。
 ところが、相手の力が未知数であり、自分より強そうだな、と思っている矢先に、試合の立ち上がりで目にも止まらぬスマッシュを打たれたりすると、とたんに自信を失ってしまうことになる。
 すると普段の練習では、ツッツキやショートをまぜ、難しいボールは大事にコースをついてつないでいる選手が、あわてて打とう、打とうとし始める。卓球で、その選手がベストのプレーをする攻守のバランスはだいたい決まっている。部内の試合で、いつも対戦しているライバルにどうにかして勝とうとする時の攻守のバランスがそれに近い。それを試合会場で、相手に普段のやり方では通用しないのではないか、と錯覚して、無理なプレーを連続すると自滅してしまう。「自信をもってやれ―」「自分の卓球をしろ―」と声がかかるのはこんな時である。
 また、勇気がないと、打つべき時に打たなくなる。バックへくると分かっていながらすぐショートしてしまう。相手がつないできたボールを打たずにつないでしまう...。
 スマッシュを打って入れる自信がないからつなぐのだ、と言えるが、練習ではスマッシュするボールを、試合になるとスマッシュできなくなるのは、自信というより、勇気があるかないかの問題だろう。もちろん、調子が悪く打ってみたが入らないからこの試合は勇気を持ってつなぐ、というケースもあるが、絶対のチャンスボールであれば、たとえ試合は負けても、打つ、という勇気が必要であろう。
 試合になると、いつも練習とはうって変わって打てなくなるという選手は、打つべきボールは勇気をもって打つことを肝に銘じなくてはならない。

 自信と勇気があるとラリー展開が変わる

 自信と勇気を持ってプレーできるようになるとプレーの内容が変わる。
 まず、相手に打たせることが怖くなくなると、サービス・レシーブがスムーズになる。
 自信と勇気があれば、試合でもまるで練習の時のように、相手のサービス回転を良く見て、一番レシーブしやすい位置まで踏み込める。「打たれてはいけない」とこわごわレシーブするのと違うから、相手はコースが読めなくなる。
 同様に、打たれるのを怖がってバックにばかり集まっていたツッツキやドライブのレシーブが、フォア、ミドルにも行くようになる。相手はコースが読めなくなり、足が止まる。フォアへのレシーブを狙おうとすると、それまで狙い打っていたバックへのレシーブが打てなくなる。
 サービスを出す時に、勇気と自信があるとラリー展開がガラリと変わる。自信のない動作では相手に読まれていたサービスのコースが読まれなくなる。フォアへのロングサービスを勇気を持って出せるようになる。力が抜けてサービスの回転量が多くなり、コントロールもよくなる。「打てるものなら打ってみろ」と思っているから、ナックル性のロングサービスをフォアへ出したり、横上回転をバック深くへ出したり、少々サービスが大きくなってもショートサービスを十二分に切って出せるようになる。相手はコースが読めなくなって入れるだけのレシーブになる。また相手に打たれても、自信を持っているから3球目のショートで逆コースに動かすことができる...。
 サービス・レシーブ以外でもつなぎと決定打に余裕がでてくる。打たれたら困る、と凡ミスしていたツッツキが「打たれても大丈夫だ!」と自信と勇気を持ったとたんに入るようになる。相手のフォア、バックいっぱいに切れて入るから相手はつなぐのが精一杯になる。
 苦しい場面でつなぐ時も「相手も同じ人間。そう打たれはしない」と思っているから相手のフォアへショート、ロング...でつなぐことができる。相手は逆をつかれたり、バックへの動きがスムーズにいかなくなってミスがでる...。

 自信と勇気を持ってプレーするには!?

 では自信と勇気を持ってプレーするためにはどうしたらよいのだろうか?
 まず試合場では自己暗示をかけることである。「相手を尊敬してベストをつくす。元気を出してやる。同じ人間同士の試合だ。自分は今までやった中で最高のプレーが絶対できるんだ。死ぬわけじゃないんだ。勇気を持ってやろう」...と。
 ウォーミングアップをしながら、「だんだん体が暖まってきた。自信と勇気が沸いてくる」と心の中で何十回でも繰り返す。そして試合中は、サービス・レシーブの前に「自分は強いんだ。勇気を持ってプレーしよう」と繰り返す。そしていいボールが入ったら「ナイスボール」「ナイスコース」と声を出す。「今日は調子がいいぞ、思いきっていこう」と自分を盛り上げる。これはダブルスの時、パートナーに言ってあげたい言葉でもある。
 韓国の女子代表が「ハナッ!(サー、1本)」と声を出すのも、劉南奎が「余の辞書に不可能はない」とか「卓球台についたら皇帝になるしかない」との言葉を好むのも、自信と勇気を持ってプレーすることの大切さを知っているからにほかならない。

 大会会場で自己暗示をかけるには、まじめな選手ほど苦労する。いいかげんな選手だとチョッと練習しただけでも「ウン、オレは強いからな」と思い込めるが、自分を客観的に見てしまう選手は、以前より本当に自分の力が上がっていないと納得できない部分がある。
 そういった選手は「オレはあれだけやったんだ」と思えるくらい、練習、トレーニングをつみ、日常生活を律し、卓球に打ち込むことが必要。練習量を毎日10分増やすことでも、勉強との両立をはかることでもよい。それが試合場での勇気と自信につながる。
 努力を勝利に結びつけることのできる「本当の意味での一流になる選手」は、実はこういった選手なのである。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1990年5月号に掲載されたものです。

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