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わたしの練習58渋谷五郎 カットからの反撃

 “カットは壁なり”。これは私が高校時代に、郷里青森の大先輩たちにたたきこまれた言葉である。現在の選手はこの言葉をどう受けとるかわからないが、当時の私にとっては非常につらい言葉であった。そのため打ちたい気持ちを極力押さえてカットに専念したが、こういう方法の良否は別として、私の場合はそれでよかったと思っている。そしてまた高校、大学を通じて村上君(現NHK)とダブルスを組んだが、高校時代はダブルスの場合、私がオールロングでプレーしたため、攻撃力を身につけるという点で非常によかった。そのように、私の高校時代の卓球はシングルスのときはカットのみ、ダブルスのときはオールロングと、全く別々なプレーをしていた。攻撃と守備をかみ合わせたプレーはできなかったが、その下地はつくられていたわけである。
 大学に入ってから、途中の過程は省略するが、とにかく壁のカットをバックにした強力な攻撃力のある卓球を目標にした。カットマンにとっては、だれでもが望む理想であり、到達できそうもない終点であるが、私はまっすぐ進むことを決心したのである。いきさつはこのくらいにして、具体的にどういうふうな反撃の練習をしたか、簡単に述べることにする。

 ◇反撃のチャンス

 カットマンにとって非常に重要ではあるが、むずかしいことである。ただばくぜんとカットしていたのでは反撃できるボールはなかなかこない。また、来るようだったら反撃しなくても簡単に勝てるような相手であろう。チャンスをつくる方法としていろいろ考えられる。1.カットを変化させてつくる 2.コースを変えてつくる 3.1と2をミックスしてつくる 4.相手の虚をついて軽く打つ方法でつくる 5.精神的なかけひきでつくる、などである。
 私のカットは変化の少ないカットではあるが、打球点が高いため(コートに接近しているから)、スピードがあった。そのスピードを利用して、相手が普通に打ってきた場合はコースをかえて、相手のからだを動かしてチャンスをつくり、ゆるい打球に対してはコースと変化球をまぜて返してつくる、といった方法をとった。またゆるいボールに対して変化をつける場合は、意識して台の下へボールを落として相手にわからないようにした。しかしこれらもカットの基本がしっかりしていなければ効果のないことであり、私としてはまず自分の思うところへ送球する、また強く打たれて反射的な返球でも、いいコースに入っていくようなカットを身につける必要があった。練習方法としては平凡なやりかたであるが、コーナーにチョークで範囲をしるし、そこに返すようにしてコントロールをつける方法を続けた。
 試合では途中にいろいろ波がある。また1ゲームのなかでも自分の調子、相手の調子の波がある。ゲームを成功させるためには、その波にうまく乗ることである。そして更に一歩進んで自分でその波をつくれるようになったら一流である。そのようになるためにはゲームを冷静に総合的に判断する力がないとできないが、常日ごろからよく考えて練習することにより、早く身につくものである。反撃のチャンスもいつどのようにしてつかむか(ゲームの流れのなかで)、またどのような状態の際に反撃したら一番効果的かを考えて、ふだんから頭にたたみこんでおくことである。

 ◇反撃の練習

 反撃でまず注意することは切りかえを早く行うことであった。反撃するにはカットから攻撃へ十分態勢を移すことが必要で、それがおそかったらやはり打つタイミングがくるってミスを生じる。私は攻撃には自分なりに自信を持っていたが、連続して打つこともできる攻撃力を身につける練習には特に気をつけた。連続して打つにはフォア・バック両方とも自由自在に打てなければならず、練習のときに相手にフォア・バックと交互に打ってもらい、私は両ハンドで打つというやりかたをした。私は腰を利用して打つほうなので、この練習方法の狙いは、フォア・バックと両ハンドのスムーズな切りかえ、腰を主体にした態勢の移行を目的としたものであった。基本練習をする日には、必ずこの練習を約10分間続けた。
 次に、反撃するからには絶対自信を持って打ちたかったので、ここに来たボールなら絶対ポイントできるのだというようなコースをつくることが必要だった。その打球のポイントをつかむために、練習相手に自分の最も好きな場所に軽く打ってもらい、強打する練習をした。慣れるにしたがって低いボールも出してもらって、低いボールでも好きなコースならスマッシュできるようになるよう心がけた。この練習方法は、1日おきくらいに約5分続けた。これはスマッシュの型をつくるためにもよい方法だと思っており、すすめたいと思っている。

 ◇反撃して返球されたボールの処理

 反撃して返球された場合、連続して攻撃すべきか、すぐまたカットにもどるべきか、瞬間的に判断しなければならない。それには自分の攻撃力、相手の状態をよく見きわめてポイントできると判断したならば打っていくべきであり、無理だなと思ったらすぐカットにもどるべきである。対等に打ち合ってロングマンにカットマンが打ち勝てるはずがない。1本打ったらとかく勢いに乗って打ちたがるが、絶対惰性(だせい)で打ってはいけない。カットにもどる場合注意しなければいけないことは、カットが浮かないようにすることである。カットしているときと違って、ボールの足が長いから、押さえがききにくいことを知らなければならない。また相手にショートで止められた場合、逆にボールの足が短くバウンドも止まり気味なので、自分の力でカットボールを送ってやらなければならない。このように反撃して返されたボールをカットする場合、その返球に応じていろいろな角度で、それに応じた力の入れぐあいでカットしなければならないので、よく練習しなければならない。

 ◇ストップの処理

 ストップをかけられた場合、余裕がなかったら、どこでも構わず返すことだけで必死であろう。余裕があったらそれを利用することを考えるのが普通である。しかし上手になると時間的に余裕がなくても、ストップを利用してポイントに結びつけようとする。私はストップを返すだけなら相手に安心感を持たせるだけだ、という考えから、ストップを飛び込んでスマッシュする練習をずいぶんした。
 シェークは角度があるので、バウンドがそんなに低くなければ打てるので、コツさえ会得したら、しめたものである。最初はコートにくっついて、相手にネットぎわにボールを出してもらい緩(ゆる)く打つ練習から、少しずつ後ろから前に出て打つ練習をした。それで少々のストップなら打てる自信がついた。そうなると、かえってストップをかけられるのを待つようになった。それだけストップに対する処理の幅が広くなったわけである。
 次に大切なことは、相手はなぜストップをかけているかをよく見きわめることである。カットが打てなくてかけているのか、カット打ちはできるがその戦法の一つとしてまぜているのか、等を見ぬき、それに対処しなければならない。ストップでゆさぶられると苦しいが、返しかたによってロングマンにも非常にむずかしいボールとなることを知るべきである。
 私の経験からカットマンにすすめたいのは相手の状態をよく観察するくせを身につけてもらいたい、ということである。

しぶたに ごろう 八幡製鉄勤務。明大出。
一枚ラバー、シェークのカットマン。
昭和34年度全日本選手権者


(1968年7月号掲載)
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