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「マリオの指導アプローチ」 第4回 サービス

 サービスは戦術の一部
―ゲームはサービスから始まり、サービスが試合を決めるともいわれますね。
マリオ 得点パターンというものは、サービスに大きく依存しています。多くの選手は他の選手のサービスを単純にまねするというミスを犯しますが、それは大切な前提を忘れているからです。それは、サービスは「始まり」であると同時に「終わり」でもあるということです。つまり、サービスは選手の戦い方、得点パターンにマッチしていなくてはならないのです。
 例を挙げましょう。バックハンドからの展開が得意な選手の99.9パーセントが、バックサイドからのフォアハンドサービスを使っています。しかし、これでは必ずしもバックハンドを使う展開にはなりません。ですから、バックハンドサービスを使うことも含めて、得意なバックハンドを使える展開にすることを考えなければならないのです。
 サービスは戦術に正確にマッチしているべきです。戦術と関連なく、1つの技術として練習するだけでは不十分です。戦術的に見れば、サービスは全体の中の1コマなのです。
―選手がプレーに合った「正しい」サービスを見つけるために、コーチはどのような役割を果たすことができますか?
マリオ 大きな役割を果たすことができます。サービスは、つくり上げていくものなのです。1歩1歩、選手が自分の得点パターンをつくり上げるのに伴って、サービスを開発していくのです。コーチはアドバイザーとして選手から頼られます。ですから、コーチは常に考えなければなりません。この選手の強いところはどこか、どのようなサービスならその強さを生かせるのか...?
 実際は非常に単純なことです。サービスを出せば、レシーブが戻ってきます。そのレシーブをどこに戻って来させるかを、サービスでコントロールするのです。
―信頼できるコーチがいない選手はどうすればいいでしょう?
マリオ 自分自身でプレーの分析をしなければなりません。自分の強いところはどこか、弱点は何かを分析するのです。
 例を挙げましょう。もし下回転のボールにうまくドライブをかけられないのであれば、下回転サービスを出すのはばかげています。下回転サービスを出せば、レシーブも下回転になることが多いからです。また、短くレシーブされるとうまく対応できないのであれば、短いサービスを出すのは避け、せいぜいハーフロング(1バウンドで台から出るか出ないかの長さの)サービスにするべきです。ハーフロングサービスが短く返球されることは非常にまれです。
 コーチがいない選手でもこのような知識を獲得していけば、レベルアップすることができます。
 トップ選手をまねするときに知っておくべきこと
―「サービスをまねする」という点に話を戻しましょう。コーチのいない選手が、映像あるいは試合会場でトップ選手の華麗なサービスを見れば、それをまねようとするでしょう。そのときに頭に入れておかなければならないことは何でしょうか?
マリオ まず忘れてはならないのは、「トップ選手は彼らの戦い方、得点パターンにマッチするサービスを持っている」ということです。彼らは、それぞれのサービスに対してどのようなレシーブが返ってくるかを熟知しています。
 もちろん、サービスを改善しようと思うなら、トップ選手のサービスを研究しなくてはなりません。しかし、トスをどう上げるか、いつボールを打つか、そのとき手首をどう使うか...というような技術的な側面からだけサービスを見るのでは不十分です。
 常に「なぜこの場面であのサービスを使ったのだろうか」「何をやりたかったのだろうか」と問いかけながら見なくてはならないのです。こうしていれば、自分がサービスを出すときにそのまま使える戦術的感覚というものが身につきます。
―トップ選手は1週間にどれくらいのサービス練習をするものなのですか?
マリオ 一般的に答えるのはちょっと難しいですね。ある選手は箱いっぱいにボールを入れて、他の練習の前後にサービス練習をしたり、レシーバーがいなくても1人で練習したりします。1人での練習は好まず、必ずパートナーがレシーブする状態で練習する選手もいます。これは、主に集中力の問題だと思います。
 ただ、はっきりしているのは、パートナーがいようがいまいが、「有利なパターンをつくることができる優れたサービス」を習得するのは、本当に時間がかかるということです。例えば、サービスが2週間くらいで良くなるなどと考えてはいけません。選手のプレーの進歩に伴ってサービスのレベルも少しずつ進歩するという、長い、長いプロセスなのです。
―あなたの意見では、誰のサービスがナンバーワンですか?
マリオ 世界のエリートに属している選手のサービスは、どれも素晴らしいものです。このクラスの選手たちは無謀なことはしません。安全なサービスを出します。安全なサービスとは「完ぺきな場所にきちんと予定通りの回転で出されたサービス」ということです。もちろん、彼らは決定的瞬間に相手をびっくりさせるような種類のサービスを1つや2つは持っています。
 あえて、サービスの芸術家を1人だけ挙げるとなれば、ワルドナー(スウェーデン)だと思います。彼のサービスは魔法のようです。ですから、誰もまねができません。
―中国選手について質問です。なぜこれまで中国選手のサービスは脅威だと恐れられてきて、今も恐れられているのでしょうか?
マリオ 様々な要因がありすぎて簡単には答えられません。1つはっきりしているのは、中国選手は卓球を始めてからずっと、サービスの上達に非常に時間をかけているということです。それは、ヨーロッパ選手よりはるかに多いのです。
 しかし、ヨーロッパ選手が中国選手のサービスに対して、レシーブでオーバーミスするかネットミスするかしかないという時代は、過去のものになりました。レシーブでミスをするというのは、トップ選手ではもうほとんど見られません。逆に、だからこそ最初の1球(サービス)がますます重要になってきているのです。
―最近はバックハンドサービスがほとんど見られず、フォアハンドサービスが主流です。バックハンドサービスは必要でないのでしょうか?
マリオ これは選手個人の問題です。良いバックハンドサービスを持っているなら、それを使わないのはばかげています。バックハンドサービスを出せば5球のうち3球はバック側に返ってきます。これに対して先手を取っていけるのなら、バックハンドサービスをある割合で使うべきです。サムソノフ(ベラルーシ)やプリモラッツ(クロアチア)、クレアンガ(ギリシャ)がそのようなプレーをします。主要なサービスはもちろんフォアハンドサービスですが、バックハンドサービスも十分に威力があります。
―強力なサービスをつくり上げるための秘けつはありませんか?
マリオ 正しい瞬間に的確なサービスを出すということは、感覚や心理学というものと密接にかかわります。選手は、「正しい瞬間に正しいことをやる」ということを自分自身で学ばなければなりません。会得するには時間がかかります。練習でも試合でも、自分で考えたことを自由に試してみなくてはなりません。
 試合で「選手に影響力を与えたい」「自分の思い描くように試合させたい」と思っているコーチは、長い目で見れば、大きなミスを犯しています。このようなコーチは、選手が創造性を発揮する機会を妨げ、自信を持つことや自分で決断する勇気を持つことを奪っているのです。

マリオ・アミズィッチ
1954年10月31日生。元クロアチア(旧ユーゴスラビア)代表選手。
24歳でプロコーチとなり、プリモラッツ(クロアチア)を発掘して世界レベルの選手に育てた。1986年にドイツ・ブンデスリーガのボルシア・デュッセルドルフのコーチに就任し、ロスコフ(ドイツ)やサムソノフ(ベラルーシ)などを育て上げた。2000年より日本卓球協会ナショナルチームコーチとしてジュニア選手などの育成に取り組み、現在は坂本竜介、村森実(ともに青森大学)、岸川聖也(仙台育英高校)、水谷隼(青森山田中学)らの指導に当たっている。


(2005年5月号掲載)


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