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「マリオの指導アプローチ」 第8回 自分を信じ、自分のプレーをやり遂げる

 こぶしと声によって闘志をコントロールする
―卓球の試合では、得点したときにこぶしを突き上げたり、「ヨー」「サー」などと声を出したりします。これは必要なことなのでしょうか。必要だとすれば、どのようなときにどのくらいの頻度で必要なのでしょうか?
マリオ 多くの選手がこういう動作を無意識に行っています。そして、あるタイプの選手にはこうしたことが必要なのです。また、選手のタイプにかかわらず、こぶしを突き出してファイトを見せることが絶対に必要な状況というものもあります。
 私はデュッセルドルフ(ドイツのチーム)にいたとき、ヨーロッパカップでシャルロワ(フランスのチーム)と対戦しました。アウェイの6千人の観客の前で試合をしたのです。このときは、会場の大音響に対抗してこぶしを突き上げ、大きな声を上げて戦わなければ、まったく勝つチャンスはなかったでしょう。
 ですから、通常はこぶしを突き上げるようなことをしない選手でも、そのポーズの使い方を知っておく必要があります。観戦していると、その試合が重要であればあるほど、選手の「こぶし」と「ヨー」が多くなることに気がつきます。自然とそうせざるをえなくなってくるのです。
 一方で、選手がこういう動作を過剰に使っているとすれば、それはその選手の弱さが現れていると考えて良いと思います。自分の怖さや緊張などを隠すためにやっているのですが、逆効果になっているのです。
―先ほど、あるタイプの選手にはこぶしを突き上げたり、声を出したりすることが必要とおっしゃいましたが、それはどのようなタイプの選手でしょうか?
マリオ 技のひらめきなどではなく、粘り強さと運動量で勝負していくようなタイプの選手は、ファイティングスピリットに火をつけるために必要です。こういうタイプの選手は、繰り返しこぶしを突き上げ、声を出し、相手にファイティングスピリットを見せる頻度が多い傾向があります。
 そうは言っても、これは強調しておきたいのですが、一般的なやり方というものはありません。こぶしを突き上げたり、声を出したりすることが必要なときもあれば、そうでないときもあるのです。
 ある場合には、こぶしを突き出すことで相手にプレッシャーをかけることができます。しかし、別な場合には相手のファイティングスピリットを呼び覚まし、寝た子を起こすように強くしてしまう場合もあるのです。
―コーチにとっては、選手にどうアドバイスするかが難しいですね。
マリオ そうです。コーチが選手にむやみと「ファイティングスピリットを見せつけろ」と言っているのを何度聞いたかしれません。しかし、コーチがそう言い切るためには、その選手を本当によく知っている必要があります。それでもときとして間違ってしまうのです。
 恐怖心をコントロールする
―少し話題を変え、試合前の「恐怖心」についてうかがいたいと思います。「恐怖心」というものはある意味で、試合に対する緊張と集中、楽観と心配、楽しさと恐れ...これらの中間的な心の状態といってよいと思います。ある有名な俳優は「50年も演じていても毎回演技する前は『怖い』し、そういうものだと思っている」と言っていました。どれくらいの「恐怖心」なら許せるものでしょうか?
マリオ これは、どのくらいの経験を積んでいるかということに深く関係します。トップ選手でも、重要な試合になればなるほど「恐怖心」はひどくなります。
 極端な例ですが、ブンデスリーガに何年もいて、ドイツタイトルも獲得したことがあるような選手が、世界選手権大会の準決勝に出ることになったと考えてください。このとき、彼の「恐怖心」はブンデスリーガの試合のときよりもはるかに大きいでしょう。それでも、以前に似たような状況で戦った経験がありますから、恐れ方が違ってきます。
 別の言い方をすれば、高いレベルに行けば行くほど、試合の前に感じる緊張とプレッシャーをどうやって解放すればよいかという技術を習得していくことになるのです。
―選手のプレッシャーについて語られましたが、プロ選手には大きすぎるプレッシャーというものはないのでしょうか?
マリオ プロ選手にももちろんプレッシャーはあります。しかし、彼らにとってプレッシャーは普通のことなのです。彼らはプレッシャーをどうすればよいかがわかっています。それができなければ、プロとしてのレベルを維持していけないはずです。
 選手はそれぞれ自分独自のやり方でプレッシャーを処理しています。それを理解し、考慮するのがコーチの腕前です。試合前に余裕がなくなりすぎないように、選手からプレッシャーを取り除かなければなりませんが、完全にプレッシャーを取り去ってはなりません。試合で闘志が燃えるように、少しプレッシャーを残しておくことが大切なのです。この加減が本当に難しいのです。
 動くことによって緊張をコントロールする
―選手が緊張して「しびれたような状態」や「手が動かなくなってしまうような状態」になってしまったら、コーチには何ができますか?
マリオ 大変難しい質問です。手の施しようがない選手もいれば、コーチがうまく元気づけることができる選手もいます。どのようなときでも1番大切なことは、「動くこと」です。選手は緊張してくると、硬直してほとんど動けなくなってしまいます。ラリーとラリーの間で動かなくなってしまうのです。
―「動くこと」とはどういうことでしょう。サービスやレシーブの前に、小刻みに足踏みをするようなことが必要ということですか?
マリオ その通りです。ラリーとラリーの間に意識して動くことで、硬くなっている体をほぐし、動きのリズムを取り戻すことができます。動かないままでいると、だんだん足が重くなってきて、試合についていけなくなってしまいます。
―練習において、試合のプレッシャーや緊張という状況を擬似的につくり出すことはできますか。心理学的トレーニングによって可能になると説く本もあるようですが。
マリオ 本当の試合でのプレッシャーを人工的につくり出すことは、決してできません。練習でできることというのは、試合と似たような状況をつくり出し、選手に慣れてもらうようにすることです。それは対戦相手の戦型や、用具の材質の場合もあります。また、卓球台やボール、その他の設備、試合の行われる時間の場合もあります。また、ビデオによる解析をすることもできます。
 もちろん、こういう準備をすることには別の危険性があるということを自覚する必要があります。対戦相手をビデオやストロークのシミュレーションで細かく解析して準備したのに、試合で突然相手にまったく違ったサービスを出されたらどうするでしょう...?
 ですから、1番大切なのは自分の力に自信を持つこと、自分を信じ、自分のプレーをやり遂げることです。
―心理的戦術という点で優れている選手を挙げるとしたら誰ですか?
マリオ そうですね、ミカエル・アペルグレン選手(スウェーデン)とヨルグ・ロスコフ選手(ドイツ)に一日の長があるように思います。もっと若手の世代では、まだ際立った選手がいないように思います。あと2~3年、経験を積まなければならないのかもしれませんね。

(2005年9月号掲載)


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