卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズは、隙のないオールラウンドプレーで一世を風靡した張怡寧(中国)の名勝負を紹介している。
最終回は、郭躍(中国)との2009年世界卓球選手権(以下、世界卓球)横浜大会女子シングルス決勝をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
「このままではだめだ。必死に食らいつくのだ」
決意の絶対女王が、逆転で飾った有終の美を見逃すな!
女子シングルス準決勝で、劉詩雯との「これぞ世界卓球」というべきハイレベルな打撃戦を制し、2度目の世界卓球制覇に王手をかけた張怡寧は、決勝で郭躍と対峙した。
郭躍は、前回2007年世界卓球ザグレブ大会女子シングルスを、中国卓球史上最年少記録の18歳という若さで制した期待の逸材だ。サウスポーから繰り出す超高速の両ハンド攻撃が郭躍の持ち味で、当たり出したら手が付けられない強さがある。
張怡寧にとって郭躍は、前回ザグレブ大会女子シングルス準決勝でよもやのストレート負けを喫し、世界卓球連覇を阻まれた因縁の相手だ。
是が非でもリベンジして世界卓球2度目の優勝を果たしつつ、自身が最強であることを証明したい張怡寧だったが、決勝が始まると、郭躍の切れ味鋭い速攻に押され、2ゲームを立て続けに落としてしまう。
さすがの張怡寧といえども、決勝の大舞台で前回優勝の郭躍を相手に、2ゲームのビハインドは厳しいのではないか。
横浜アリーナに詰め掛けた観衆の多くがザグレブ大会の再現を予感する中、張怡寧の内面は、これまで通り一切揺らいでいなかった。
「強い者同士がぶつかる試合では、少しでも集中力を切らした方がつぶされます。ベンチに下がって汗をふいている時、私は自分自身に問いかけました。『これからの2ゲームをどう戦うのか』と。
最初の2ゲームは、まったく自分らしさが出せませんでした。(中略)このままではだめだ。歯を食いしばってがんばり、必死に食らいついていくのだ。私はそう決めました(卓球レポート2009年12月号より抜粋)」
苦しい立ち上がりではあったが、挽回することだけに集中したと後に振り返った張怡寧は、第3ゲームから郭躍の速さとコース取りに対応し始め、じわりじわりと追い上げていく。
この後、張怡寧には「オリンピックや世界卓球より勝つのが難しい」と言われる2009年中国運動大会女子シングルスで優勝するというトピックスはあるが、国際的なビッグゲームへの出場は、この横浜大会が最後になる。
毅然とした揺るぎない心と、その心で研ぎ上げた技で一世を風靡した絶対女王の有終の美を見届けてほしい。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)