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世界卓球2021ヒューストン 前日本男子NT監督 倉嶋洋介に聞いた見どころ【世界の強豪編】

11月23日から始まる世界卓球2021ヒューストンを目前に、前日本男子NT(ナショナルチーム)監督の倉嶋洋介氏(木下グループ総監督)に今大会の見どころを聞いた。ここでは、日本のライバルとなる世界の強豪たちについての分析を紹介する。

若い選手の成長を妨げる出場制限に疑問
ただし、開催の早めのアナウンスは評価

 これまでの世界卓球には出場制限がありませんでしたが、今回は「世界ランキングが256位に達しない選手には出場資格が与えられない」ということで、日本から「この選手を出場させる」となっても、その選手が256位に達しない場合は出場を認められません。このレギュレーションは、若い選手たちの成長を妨げると私は考えます。
 例えば、ヒューストンの日本代表選考合宿では、篠塚大登(愛工大名電高)が6位と健闘しました。しかし、篠塚の世界ランキングは256位にあと5つ足りなかったので、仮に代表選考合宿で3位以内に入り、代表権を勝ち取っていたとしてもヒューストン大会への参加は認められませんでした。もちろん、篠塚にとって代表選考合宿6位という結果はパリオリンピックへつながるので、参加は無意味ではありませんでしたが、世界卓球への参加をランキングで振り落とす方式には大きな疑問を感じます。
 今はコロナ禍で国際大会がほとんど行われないので、選手たちはランキングを上げようと頑張っても上げようがありません。そうした状況の中、ランキングで振り落とすのは好ましくない。現状では、世界ランキングの高い選手しか主だった国際大会に参加できず、しかも若い選手やランキングの低い選手は、ランキングを上げる機会が与えられない。これでは矛盾しているし、夢がありません。特に、若い選手たちはかわいそうです。
 世界卓球への参加資格は、これまで通り、各国に出場枠と選手選考の裁量権を委ねられた方が、卓球界のためには良いと個人的には思います。
 
 出場資格には疑問が残りますが、今回の世界卓球はかなり前から開催をアナウンスしていたので、その点は良かったと思います。WTTなどは「1カ月後に開催する」と急にアナウンスしてくることもありましたから。
 コロナ禍で入国や出国、隔離の制限等は各国で大きく異なるし、国によって不公平感が出てしまうのはある程度仕方のないことだと思います。であるからこそ、試合への準備だけでなく、参加(アメリカへ入国)するための準備も十分にできるよう、開催を早めにアナウンスしたことは評価できる点だと思います。

世代交代に不安を残す中国だが、優勝候補の筆頭は樊振東
張本智和、王楚欽、林昀儒も大いにチャンスあり

 それでは、男子シングルスの展望について私見を述べていきましょう。
 今回は、馬龍、許昕(ともに中国)が出場しないということで、中国が大きな節目を迎える大会になると見ています。
 馬龍と許昕はもう10何年にわたって中国の看板を背負ってきましたが、過去の中国の歴史を振り返っても、これほど長い期間、一握りの選手が代表であり続けたことはあまり例がありません。馬龍と許昕の二人は中国の栄光に大きく貢献しましたが、その一方で、はからずも若手の台頭を阻んできました。やはり、トップの顔ぶれが変わらないと若手は育ちません。今回、中国から男子シングルスにエントリーしている若手の王楚欽などは、ジュニア時代からすごい能力を持った選手だと見ていましたが、馬龍や許昕が代表のトップに君臨していたため経験をさせてもらっていません。中国にとって、世代交代が遅れた代償がどう影響するのか。その答えが出る大会になるでしょう。
 そして、馬龍と許昕という中国の柱が参加しないことによって、日本を筆頭に多くの国にチャンスが生まれる大会になると思います。

 世代交代に不安が残る中国ですが、優勝候補の筆頭はというと、やはり樊振東(中国)です。近年の世界卓球では中国の同士打ち以外では負けていませんから、男子シングルスのトーナメントは樊振東を中心に回っていくでしょう。
 樊振東に次ぐ優勝候補として、張本智和(木下グループ)、王楚欽(中国)、林昀儒(中華台北)の3人を挙げたいと思います。

ブダペスト大会ではよもやのベスト16に終わった樊振東。必勝を期してくるだろう

 張本については日本男子編で述べるとして、まず王楚欽についてお話しします。
 サウスポーの王楚欽の強さは、全てがうまいこと。フォアハンドも強いし、ブロックもうまい。フットワークも良くて、カウンターのタイミングの取り方や距離感なども非常に優れた選手です。サービスもレシーブもうまいのでプレーに隙がありません。すぐにカッとなってプレー態度が悪くなってしまうメンタル面が唯一の隙ですが、そこが落ち着いたら相当強いと思います。サービスが非常に効くなどのレアなパターンにならないと崩せるイメージがわかない選手です。
 
 林昀儒については、ここに来て「壁を乗り越えた」という感じがします。
 林昀儒のように若くしてランキングを駆け上がっていく選手というのは、対策されて自分のプレーがよく分からなくなり、停滞したりちょっと落ちたりする傾向が往々にしてあるものです。一時期の林昀儒もそうでしたが、東京オリンピックでは素晴らしいプレーを見せました。
 林昀儒に対しては、サービスを出すコースがありません。短ければどこでもチキータするし、ロングサービスやハーフロングサービスに対して狙い打つ技術も抜群です。サービスも抜群にうまいし、ラリー戦も強くなっているので、今大会では間違いなく優勝候補の一人です。

東京五輪で素晴らしいプレーを見せた林昀儒。優勝候補だ(写真提供=ITTF)

ヨーロッパ勢では、ボルが強い
フランチスカ、ヨルジッチにも注目

 優勝争いに絡むと見られていたオフチャロフ(ドイツ)が故障で残念ながら棄権になりましたが、ヨーロッパ勢ではボル(ドイツ)が強いですね。
 ドイツとの東京オリンピック男子団体準決勝では、水谷(水谷隼/木下グループ)に対してさすがのプレーを見せました。ボルのボールに対して水谷がアグレッシブに行けばチャンスがあるのですが、(打球点を落として)付き合ってしまうとボルにミスがほとんど出ないので、水谷にとっては難しい試合になってしまいました。
 ボルはカウンタープレーヤーに見られがちですが、それはたまに見せる一面で、ベースは打球点を落としてからの安定性の高い両ハンドです。両ハンドにほとんどミスが出ないので負けにくいし、回転の質が高いので相手がミスを誘われてしまいます。とても特殊な卓球で、今後、ボルのようなスタイルの選手はなかなか出てこないでしょう。
 今大会でもメダルを取ってもおかしくないですし、中国を筆頭に多くの国がボルをマークすると思います。

「メダルを取ってもおかしくない」と倉嶋氏が認めるボル(写真提供=ITTF)

 同じドイツのフランチスカ(ドイツ)にも注目しています。ボルとオフチャロフという二枚看板がいる中で、目立たないですが着実に強くなってきているので、今大会でどこまで勝ち上がるのか興味があります。

 そして、個人的に興味深いのが、ヨルジッチ(スロベニア)です。もともと能力が高い選手ですが、ここに来て才能が開花した感があります。
 東京オリンピックで張本が負けましたが、以前のヨルジッチはもう1メートルくらい下がってプレーしていたので、張本は簡単に勝っていました。しかし、東京オリンピックでのヨルジッチは台の近くで振ってきたので、張本は面食らってしまいました。
 このまま後ろでプレーしていてはだめだと思ってスタイル自体を前に変更したのか、それとも張本対策でたまたまプレー位置を前にしただけなのかは分かりませんが、いずれにしても順調に成長していけば、ヨルジッチはヨーロッパを代表する選手になると思いますし、今大会でも勝ち上がっていける選手だと思います。

東京五輪で張本を倒したヨルジッチ。「能力が高い」と倉嶋氏(写真提供=ITTF)

成長著しいスウェーデンのケルベリ
地元アメリカ期待のジャアはどこまで行けるか

 そのほかでは、ケルベリ(スウェーデン)が面白い存在です。
 以前のケルベリは独特の構えからのサービスを武器にしていましたが、サービスの変化が残った相手のレシーブに対応できなかった感がありました。しかし、その独特なサービスをやめてから強くなりました。今のケルベリがバック前に出す横下回転サービスは猛烈に切れていて、相手はケルベリのバック側にレシーブするしか手がありません。そのレシーブを得意のバックハンドで狙うようになってから、プレーの質が良くなっています。
 今だから言えますが、東京オリンピックの男子団体準々決勝でスウェーデンと当たった時、張本をダブルスに起用しましたが、あのオーダーはダブルスで勝ち点を狙ったというより「張本をケルベリに当てた」というのが正直な理由です。近年のケルベリのプレーの質からして、水谷も丹羽も厳しいだろうという判断で張本を当てました。
 ケルベリは、今やスウェーデンの柱になりつつあるので、どこまで勝ち上がるのか楽しみですね。

「強くなってきている」と倉嶋氏が認めるケルベリ。台風の目になるか(写真提供=ITTF)

 前回大会2位のファルク(スウェーデン)は、異質型の宿命ですが、フォア面に表ソフトラバー、バック面に裏ソフトラバーという希少なスタイルが慣れられてきてしまいましたね。男子のスピードと回転量だと、表ソフトラバーではどうしても狙いにくいコースが生まれてしまうので、そこを狙われると厳しいです。
 ファルクが前回と同じように勝ち上がるためには、新しい何かがないと難しいでしょう。

 韓国も力のある選手がそろっていますが、メダル争いとなるとどうでしょうか。前回3位の安宰賢は思ったよりも伸びていませんし、趙勝敏など力のある若手がいるのですがエントリーされていません。
 世界卓球などの大舞台では爆発力を見せる韓国ですが、選手たちが順調に伸びていない様子を見ると、今大会は厳しい戦いを強いられるのではないでしょうか。

 地元アメリカからは、ジャア(アメリカ)が出場します。オーソドックスなプレーが持ち味の選手で、ブロックがうまく、台上もソツがありません。ジャアは、日本選手をはじめアジア系の選手に対しては分が悪いですが、ストップがうまいので、ヨーロッパ勢に対して強みを発揮できると思います。
 地元の声援をバックにジャアがどこまで勝ち上がるのかも、今大会の見どころの1つになるでしょう。

ジャアは地の利を生かし、勝ち上がれるか(写真提供=ITTF)

(取材/まとめ=卓球レポート)

⇒日本男子編はこちら

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