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世界卓球2021ヒューストン 前日本男子NT監督 倉嶋洋介に聞いた見どころ【日本男子編】

11月23日から始まる世界卓球2021ヒューストンを目前に、前日本男子NT(ナショナルチーム)監督の倉嶋洋介氏(木下グループ総監督)に今大会の見どころを聞いた。ここでは、日本男子と男子ダブルス、混合ダブルスの展望を紹介する。



メダル獲得が大いに期待できる張本智和
丹羽孝希は狙い球を絞れるかが鍵

 日本男子では、張本智和(木下グループ)に大きな期待を寄せています。優勝候補の筆頭は樊振東(中国)ですが、張本は王楚欽(中国)、林昀儒(中華台北)と並んで樊振東に次ぐ有力候補でしょう。張本は第2シードをもらえると思うので、ぜひ1979年世界卓球選手権平壌大会男子シングルスで小野誠治さんが金メダルを獲得して以来のメダルを、日本男子にもたらしてほしいと思います。
 最近の張本は、サービス力やバックハンド、フォアハンドのパワーなど、トータルの力は備わってきました。しかし、彼が試合で負けるパターンとして危惧されるのは、「プレーが単調になってしまう」ことです。
 サービスが縦回転系ばかりになってしまったり、バックハンドのコースが偏ってしまったり単調なプレーが多くなってくると、張本はそれでしか勝負できなくなるので自分のペースがつかみにくくなる。そして、そういうときは戦術を変える勇気がない表れなので、得てして精神的にも弱い状態に陥っています。
 この課題を踏まえ、張本には、ぜひ自信と勇気を持ってプレーしてほしいと思います。本人も自覚していることだと思いますが、とはいえ、試合の中で思い切って戦術を変えることは簡単なことではありません。張本に限ったことではありませんが、「こっちのサービスの方が効くよな」「いやいや、やっぱりバックハンドのコースはミドルだ」など、あれこれ悩み出すとどんどん深みにはまってしまうものです。
 ですから、試合の序盤などの緊張しない場面で、相手に伏線を見せながらベースになる戦術をつかむような戦い方ができると、張本はかなり良い形になるでしょう。そのためには、あまり前のめりにならず、ある程度気持ちの余裕を持って試合に臨むことが大切です。そうして、効く戦術とそのための伏線を見つけ、勇気を持って実行することが、張本がメダルを獲得するための大きな鍵になると思います。
 現状、張本がメダルを取る可能性は高いと思います。そこに、挙げた課題のクリアがプラスされれば、より100パーセントに近づくでしょう。
 1つ心配なのは、体のキレ、試合感です。東京オリンピック後、卓球以外の忙しさもあり、Tリーグの試合は数試合こなしましたが、これまでのような十分過ぎるほどの練習量はこなせていません。また、海外選手との対戦も東京オリンピック後ありません。これまでのビッグゲーム前の調整とは違う状態ですので、そこをどう乗り越えていくかも注目したいです。

「張本には、東京五輪団体戦の良い流れのまま臨んでほしい」と倉嶋氏(写真提供=ITTF)

 続いて、丹羽孝希(スヴェンソンホールディングス)に触れます。
 彼はつかみどころがない選手ですが、時折ものすごいカウンターを連発するとか、強烈なカット性ブロックが入るとか、とんでもないゾーンに入ることがあります。
 私が監督時代は、丹羽をそのゾーンへ導く方法を自分なりに持っていました。
 それは、「相手のボールを絞る」ことです。対戦相手によって、「ここに送ったら必ずこちらに打ってくる」というパターンを緻密に考え、提案し、それが当たると丹羽は勢いに乗ります。
 例えば、2017年の世界卓球選手権デュッセルドルフ大会でオフチャロフ(ドイツ)に勝った試合では「オフチャロフはフォアハンドを必ず(丹羽の)バックに打ってくる。それをバックハンドでブロックしようとしても吹き飛ばされるので、回り込んでフォアハンドでカウンターしていこう」とアドバイスしたら、その読みが当たり、ものすごいプレーを連発しました。
 このように、丹羽は狙い球を絞り、それを狙い打てるととんでもないプレーをし始めます。反対にボールを絞れないとどこを待っていいのか分からないのでスーパーショットが打てず、プレーも乗ってきません。したがって、丹羽が勝ち上がるためには、狙い球を絞れるかどうかが大きな鍵になってくるでしょう。
 丹羽は東京オリンピック出場組としては誰よりも早く精力的に始動したので、モチベーションはかなりあると思います。これまで、2大会連続で世界卓球ベスト8なので、今大会でその壁を超えようと狙っているでしょうし、ぜひ超えてほしいですね。

宇田幸矢は調子の波をピークに合わせたい
森薗政崇は前で勝負できるかがポイント

 宇田幸矢(明治大)は、チキータやフォアハンドの威力がものすごいので、大物食いできる可能性の高い選手です。
 宇田はコロナ禍の前はずっと調子が良かったのですが、コロナ禍になって腰をけがして思うように練習できない期間がありました。ヒューストンの日本代表選考合宿では1位を獲得しましたが、まだ調子の波があるので、ピークをうまく世界卓球に合わせてほしいですね。
 鍵は、「世界のトップと対戦したときに得意のチキータやフォアハンドをどう発揮するか」です。相手は必ず宇田にチキータやフォアハンドを十分に打たせないようにプレーしてくるので、その中でどう得意技術を繰り出していくのかが求められます。
 対策されながらも宇田が自分の良さをしっかり発揮できれば、トーナメントを勝ち上がっていく可能性は高いでしょうし、その方策を今大会で見つけてほしいと思います。

代表選考合宿1位の宇田。爆発力に期待したい

 2大会連続で男子シングルス出場を勝ち取った森薗政崇(BOBSON)の良さは、貪欲(どんよく)なところです。
 森薗は、林昀儒(中華台北)のサービスが良いと思ったらまねしたり、伊藤美誠(スターツ)のサービスが良いと思ったら取り入れてみたりと、自分が良いと見込んだものを取り入れるのにためらいがありません。その姿勢が素晴らしいと思います。
 一般に、森薗くらいの年齢になるとプレーや思考が固まってしまうものですが、彼は新しいものを素直に取り込む貪欲さを持っており、そうだからこそ、今なお若手に交じって世界卓球の代表になれるのだと思います。「卓球のプロとして自分ができるところまで強くなってやろう」という気持ちがひしひしと伝わってくる選手です。
 森薗は最近ブロックがうまくなってきているので、今回の世界卓球ではそれを生かしたいところです。パワーがある選手ではないので、いかに前で速いタイミングでコースを突くことができるかがトーナメントを勝ち上がるキーポイントになるでしょう。

世界のトップに躍り出る資質を備えた戸上隼輔
世界ランキング上位者の連破に期待

 日本男子で、私が張本の次に注目しているのが、戸上隼輔(明治大)です。
 これまでは粗い卓球という印象でしたが、最近は相手のボールに合わせるプレーもうまくなってきました。いけるボールは変わらずいく、無理そうなボールはしっかりつなぐというプレーのメリハリがついてきています。1球1球のボールの質が高く、速さに加えて決定力もあるので世界のトップに躍り出る資質は十分に備えている選手です。今大会でも、格上の選手を連破してベスト8以上に勝ち上がる可能性は大いにあるでしょう。
 本来であれば、戸上は世界ランキングを50位くらいの位置で今回の世界卓球を迎えたかったところですが、大会がなかったので上げることはできませんでした。しかし、客観的に見て戸上は20位くらいの力はあると思います(2021年11月19日現在、戸上の世界ランキングは99位)。アジア選手権で戸上のプレーを見た他国の選手や関係者も、彼のボールの質の高さにざわついていましたから、今大会で戸上と当たるランキング上位の選手は怖いと思いますよ。
 ただし、自分で力がついていることを実感していても、ある程度ランキングが高ければ自信を持って戦えるのですが、ランキングが低いと「実際の力はどれくらいだろう」と不安になって、本来の力を発揮するのが難しいものです。しかし、戸上にはこの大会で一気に自信をつけて、パリオリンピックへ躍り出るような選手になってほしいですし、そのポテンシャルが彼には十分あると思います。

倉嶋氏が期待を寄せる戸上。持ち前の攻撃力で上位進出なるか

【男子ダブルス】
張本/森薗はペアリングの妙を生かしたい
宇田/戸上は崩れそうなときの安定性が鍵

 男子ダブルスは、日本の張本智和/森薗政崇、宇田幸矢/戸上隼輔の2ペアともメダルが期待できるでしょう。
 張本/森薗は、森薗が台から離れて動き回り、張本が前陣で攻めるのでペアリングとしては申し分ありません。
 宇田/戸上はアジア選手権で優勝して自信をつけていると思うので、この世界卓球でメダルをつかみ、さらに自信を深めてほしいですね。ただし、宇田/戸上はどちらもがんがん振っていくタイプなので一抹の不安はあります。特に、お互い得意のチキータが決まらないと総崩れしてしまう傾向があるので、崩れそうなときに安定性を優先するような柔軟さがほしいところです。
 ライバルとしては、やはり樊振東/王楚欽、梁靖崑/林高遠(ともに中国)が優勝候補の筆頭です。日本がより良い色のメダルをつかむためには必ず倒さなければならない相手でしょう。
 ヨーロッパでは、ボルフランチスカ(ドイツ)が強いですね。  もう一つのドイツペア、デュダ/ダン・チウ(ドイツ)もダブルスの強さでは定評があります。中国式ペンドライブ型のダン・チウがペンホルダー特有のフリック(払い)で先手を取ってくるので、仮に日本ペアが当たった場合には苦戦を強いられると思います。

アジア王者として臨む宇田(左)/戸上。メダルの期待がかかる(写真提供=ATTU)

【混合ダブルス】
パリオリンピックへの試金石として重要な種目
中国ペアが強いが、日本ペアにもメダルのチャンス

 混合ダブルスも中国が強いですが、日本はチャンスがないわけではありません。王楚欽/孫穎莎(中国)には水谷隼/伊藤美誠(木下グループ/スターツ)がカタールオープンで勝っていますし、林高遠/王曼昱(中国)は両者ともシングルスでは精神面のもろさを課題にしています。
 日本からは、張本智和/早田ひな(木下グループ/日本生命)、宇田幸矢/芝田沙季(明治大/ミキハウス)が出場しますが、張本/早田は2019年のジャパンオープンで中国ペア(樊振東/丁寧)を倒したことがあるので、その強さは証明済みです。宇田と芝田は未知数ですが、豪打の宇田と安定性の高い芝田の組み合わせは悪くないと思います。
 中国以外で怖いのは、まず東京オリンピックで水谷/伊藤を追い詰めたフランチスカ/P.ゾルヤ(ドイツ)。そして、趙大成/申裕斌(韓国)も、水谷/伊藤がチェコオープンで1度やられているので要警戒のペアです。
 これまで3大会連続で金メダル1個と銀メダル2個という輝かしい実績を残した吉村真晴/石川佳純(愛知ダイハツ/全農)のペアが出ないということで、出場する日本ペアには少なからずプレッシャーがかかると思いますが、ぜひメダルを取ってほしいですね。
 また、混合ダブルスは東京オリンピックからオリンピックの正式種目になりました。そして、現状ではシングルスと同じように混合ダブルスの世界ランキングが国際大会への出場に影響してくるので、日本としてはパリオリンピックへ向けて計画をしっかり立てる必要があります。
 今後、日本はどんなペアリングでパリオリンピックの混合ダブルスへ臨むのか。今回の世界卓球は、その試金石にもなるでしょう。

2019年ジャパンオープン2位の張本(右)/早田。狙うは頂点だ

(取材/まとめ=卓球レポート)

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