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張本智和インタビュー 
世界卓球2023ダーバンを振り返る①

 世界卓球2023ダーバンから帰国して10日あまりが過ぎた某日。ダーバンからメダルを持ち帰った張本智和(智和企画)が株式会社タマスに来社した。
 男子シングルスのメダルを惜しくも逃した張本だが、すがすがしい表情からは潔く結果を受け入れているさまが読み取れた。だが、もちろんそれがすべてではないだろう。
 このインタビューでは、世界卓球にどう臨み、どのように戦い、その結果をどのように受け入れ、そして、今何を思うのか。張本智和の今に迫る。
 第1回は、銀メダルを獲得した混合ダブルス、惜しくも1回戦敗退に終わった男子ダブルス、そして、男子シングルス1回戦から4回戦までを振り返ってもらった。
(※このインタビューは2023年6月9日に行われたものです)



10代最後の世界卓球で絶対に3種目でメダルを取りたかった

--昨年の団体戦(世界卓球2022成都)では、中国選手の主力2選手から得点を挙げるという大きな成果を残しました。個人戦は2年ぶりとなりましたが、今大会にはどのような心構えで臨んだのかというところから聞かせてください。

張本智和(以下、張本) 過去3大会(世界卓球2017デュッセルドルフ2019ブダペスト2021ヒューストン)と比べて、一番シングルスのメダルを狙いにいった大会でした。大会前の調整も、モチベーションもしっかりできている自信があったので、10代最後の大会で、絶対に3種目でメダルを取ることを目標に準備していました。

--大会の直前にダブルスのパートナーの篠塚大登選手(愛知工業大学)の出場キャンセルが決まりましたが、心理的な影響はありましたか?

張本 ダブルスにおいての影響はありましたね。
 篠塚とは、大陸予選以来ほぼ初めての世界卓球で、同級生と組むのも僕にとって初めてだったので、世界卓球でプレーできるのを楽しみにしていました。篠塚も去年1年から今年にかけてすごく伸びた勢いのある選手で、メダルの可能性もあると思っていたので、自分も残念ですが、やっぱり本人が一番つらいと思っているでしょうから、しようがないかなというのはありました。

--パートナーの交代についてはどのように受け止めましたか?

張本 (篠塚選手のキャンセルが決まって)まずは、僕がダブルスに出るか出ないかという話になりました。僕は元々3種目の準備をしていて体力的な心配はなかったのと、琉球アスティーダでもチームメートで、ダルブスでも実績がある真晴さん(吉村真晴/TEAM MAHARU)とチャレンジしてみたいと思い、出場を決めました。

--男子ダブルスは、ドローで初戦が林詩棟/林高遠(中国)というアンラッキーな組み合わせになってしまいました。

張本 僕たちは1週間くらい前に決まったペアで、本当に練習も1、2回しかしていませんでしたが、それで中国ペアに2回勝たないとメダルが取れないということが、本当に極限くらい厳しいということは承知していました。
 とりあえず1勝でも多くできるように頑張ろうという話を真晴さんとしていて、1回戦の試合も、初めてのペアにしては悪くない出来でしたが、それにしても相手がちょっと悪かったですね。
 負けはしましたが、むしろ、中国選手のボールを(大会の序盤で)受けることができてよかったなと。世界卓球という舞台でこういう表現がふさわしいかどうか分かりませんが、まず1試合やって、ちょっと会場に慣れることができたのはよかったですね。負けてしまった以上そう捉えるしかないので、ポジティブに、シングルスでぶっつけ本番でやるよりは、ここで1回中国選手とやれたのはよかったかなと思っていました。

--序盤で中国選手と対戦できたことのメリットは実際にありましたか?

張本 ありましたね。後々のミックスダブルスの林詩棟/蒯曼(中国)だったり、シングルスの梁靖崑(中国)戦だったり、中国選手との対戦がありましたが、中国選手にしか出せないボールの質というのがあるので、いい影響はあったと思います。
 特に、林詩棟と混合ダブルスの前に1回やれていたのはよかったですね。ダブルスの林詩棟がどういうプレーをするのかそこで初めて分かったので。

男子ダブルスは1回戦で中国ペアに敗戦

混合ダブルスは自信を得たのと失ったのと半分半分

--早田ひな選手(日本生命)との混合ダブルスは前回2位で、金メダルという目標もかなり現実的だったと思いますが、2位という結果についてはいかがですか?

張本 (2大会連続の2位で)自信を得たのと、逆にまた失ったのと半分半分ですが、連続で2位になるのはなかなか簡単なことじゃないですし、むしろ、そこまでの勝ち上がりも危ない試合は一つもなく、取られたのが準決勝の1ゲームだけだったので、2年前に初めて2位になった時よりも、自信はつきました。
 ただ、やはり、決勝での負け方ですね。負けるのはしようがないですが、ワンチャンスもつくれなかったのは課題だと思っています。
 準決勝の林詩棟/蒯曼戦で、1ゲーム目7-3から逆転されてしまったんですが、僕が林詩棟に対してプレッシャーを感じすぎていて、いいボールを打たなきゃと考えすぎていました。そこでベンチの田㔟さん(田㔟邦史男子ナショナルチーム監督)が、そんなにプレッシャー感じることはないし、早田さんも林詩棟のボールを取れるから大丈夫だと言われました。2ゲーム目以降はまず台に入れること意識して、しっかり手堅いプレーをすれば勝てるからという田㔟さんの言葉通りにうまくいった感じでした。

--張本/早田ペアの強さはどこにあると思いますか?

張本 やっぱり早田さんが、基本的に相手の女子よりも強いし、むしろ、男子選手のボールも難なく返すので、そこが一番の強さですね。林詩棟の強烈なバックハンドもカウンターしますし、女子対女子では孫穎莎以外には絶対に負けないので、その安心感、ミスをしないという安心感はずっと感じています。

早田(左)の強さに張本は全幅の信頼を置いている。それもこのペアの強さの秘けつだ


--決勝では王楚欽/孫穎莎(中国)にストレートで敗れましたが、力の差はどこにあったと思いますか?

張本 基本的に王楚欽のボールは2人とも取れないし、孫穎莎も僕と同じくらいの質のボールを出してくるので、1対1でも勝てないし、2対2でも勝てない。1対2でやって少しマシかなという程度なので、サービス、レシーブ、フォアハンド、バックハンドすべてにおいて相手の方が上だったなと感じます。

--中国は混合ダブルスにも力を入れていると感じましたか?

張本 中国は、決勝のベンチに入っていた肖戦さんが混合ダブルスの担当コーチで、東京オリンピックで許昕/劉詩雯が日本ペアに負けてから、中国は絶対に負けられないというのがあると思うので、結構練習もしていると思います。オリンピック種目になったのは大きいですね。それで、第1回の東京オリンピックで銀メダルだったので、同じ間違いは犯せないんだと思います。
 だからこそ、こっちも混合ダブルスの金メダルは、今までの金メダルよりも価値があると思って戦ってきたので、0対3という結果はやっぱり悔しいですね。

2大会連続の銀メダルも、表彰台の張本に笑顔はなかった

ドローで一番引きたくない梁靖崑を引いてしまった

--それでは、シングルスの話に移りたいと思います。まず、ドローの結果はどのように感じましたか?

張本 (ランキングで5〜8位の中では)準々決勝で当たる相手は、カルデラーノ(ブラジル)が一番よかったし、林高遠(中国)とモーレゴード(スウェーデン)は頑張れば勝てる相手なので、一番引きたくない梁靖崑(中国)を引いてしまったというのが正直なところです。梁靖崑だけは、頑張っても勝てると言えるかどうか分からない相手だったので。
 でも、今までの世界卓球では、そもそもそこまでもいけないことが多かったですからね。1回目(世界卓球2017デュッセルドルフ)の準々決勝の許昕(中国)戦以外はメダルの1歩手前か、何歩も手前で負けているので、梁靖崑は嫌でしたが、ベスト8まで勝ち上がろうというのが目標でした。

--組み合わせを見て、警戒する選手はいましたか?

張本 アルナ(ナイジェリア)だけは直近で負けていて、3勝1敗で相性はいいんですが、最近のシンガポールスマッシュ2023で0対3で負けたのが頭に残っていたのでちょっと嫌でしたね。
 それ以外は、荘智淵(中華台北)もフレイタス(ポルトガル)も負けたことはありますが、直近では勝てているし、自分が間違いを犯さなければ勝てるというのは分かっていたので、アルナとのベスト8決定戦が要注意かなと思っていました。

--前回(世界卓球2021ヒューストン)は、男子シングルスで1回戦負けという結果でしたが、それはどのように捉えていましたか?

張本 シングルスは(世界卓球2019ブダペストの3回戦で)フレイタスに勝ってから4年間、勝てていなかったので、まずは1勝するところから、徐々に勢いに乗っていくつもりでいたので、初戦を特に大事にしたいと思っていました。

--それでは試合の内容を振り返っていただけますか。1回戦はシンガポールのチュウ・ツェユとの対戦でした。

張本 チュウ選手とは昔1回、T2ダイヤモンドで対戦したことがあって、センスがあってミスが少ない相手で、自分が初戦で緊張感もあったので、1、2ゲームは取られることも覚悟していましたが、いきなりロングサービスが使えたり、レシーブもチキータとストップがバランスよく使えたので、あまり問題ありませんでした。

--1回戦の試合の入り方はどう意識しましたか?

張本 攻めていこうと思っていました。特に、前回(世界卓球2021ヒューストン)のディヤス(ポーランド)戦は、ちょっと置きにいって、手堅くなりすぎて、相手に好きなようにプレーさせてしまったので、自分がやりたいプレーをやるのもそうですが、相手があまり動ききってこないようにロングサービスを出したり、レシーブで先手を取ることを意識して、その通りにプレーできたので、入りとしては100点に近い初戦だったと思います。
 普段のツアーと同じくらいの緊張感で、そんなに自分だけで考えすぎているような状態ではなかったと思います。

男子シングルスの1回戦は「100点に近い初戦だった」と張本


--2回戦のフレイタス戦、3回戦の荘智淵戦もストレート勝ちでした。

張本 2回戦は、中盤で離して、終盤で追い付かれそうになって逃げ切るという流れは、どのゲームも同じでした。
 1ゲーム目だけ、9-10で先にゲームポイントを取られて逆転しました。フレイタスも、次に対戦した荘智淵もそうですが、やりづらさはないけど、簡単に勝てる相手でもないですし、本当に弱点もない。だからといって突出した何かがあるわけでもないので、全部において自分の方が1枚、2枚上手だったという感じです。
 ベスト8までのプランは、ミスを犯さないこと。いつも通りの自分のプレーをすることだけでした。2回戦、3回戦も思い通りのプレーを当たり前のようにやることができたので、それができれば、ここまでやれるんだという自信になりました。

--次の4回戦の相手はアルナでもゴズィー(フランス)でもなく、ボボチカ(イタリア)でした。意外だったのではないでしょうか?


張本 いきなりアルナとゴズィーが負けて、ハンガリーの時(世界卓球2019ブダペスト)と似ている感じがしましたね。あの時も誰も来ると思っていなかった安宰賢(韓国)が来ました。
 今回のボボチカも、このゾーンにいるとは知らなかったくらいのダークホースでしたし、アルナ、ゴズィーじゃないとしても、ロブレス(スペイン)かなと思っていたので。
 誰から見ても僕が圧倒的に有利で、ベスト8はほぼ確実みたいな感じになってしまったので、逆に僕が緊張してしまって、そこまでの3試合を含めて一番緊張しましたね。実力差があることを知っていたからこそ、ここで負けたら成長していないし、中国どうこうという話までもいかないので。
 だから、点数も10-10のジュースが3回もあって、自分の中では実力を発揮できない試合でした。僕は覚えていませんでしたが、ボボチカとは一度2018年のカタールオープンで対戦していて、その時は4対2でした。2ゲーム取られていたのは意外でしたね。強さでは荘智淵の方が上ですが、ボールのクセがあって、緩いボールが多くてやりづらさもあったので、そこは注意してプレーしました。ボボチカの調子もよかったですね。世界卓球は、魔物じゃないですけど、毎回誰かダークホースが出てきますね。ボボチカも本当に乗っていたと思います。

「圧倒的有利」が逆にプレッシャーになったというボボチカ戦だが、張本はストレート勝利で乗り越えた

(まとめ=卓球レポート)

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