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「卓球は血と魂だ」 第二章 三 道場十五戒⑤

三 道場十五戒

真に満足できる試合は、一生に何回もできない

 その昔「一度全日本選手権をとったら卓球をやめる」と云った選手がいた。奮闘努力、遂に彼は全日本をとった。しかし、彼は卓球をやめなかった。彼が云ったことはこうだ。「たしかに全日本をとった。でも、その試合は満足できるものではなかった」というのである。

 これに類する言動をした選手を、私は男子、女子とも知っているし、その気持も実によくわかる。私自身、国際試合の経験はないし、念願の全日本シングルス制覇はできなかった人間だから大きなことは言えない。しかし一応は選手生活二十年以上やってきた選手であるが、真に満足できた試合は一回しかない。

 その一回は昭和二十一年十一月の全日本選手権男子単決勝の藤井則和選手との一戦だった。日本卓球界を三十年以上知っている人は誰でも、日本卓球史上最強の選手は藤井選手と言う。その頃の藤井選手は油の乗りきった時代で、調子の出た時の彼の豪快なフォアハンド、バックハンドの威力にまともに互角にわたり合える選手はいなかった、と云ってもよい。

 その決勝戦でも、まさにそういう状態であった。カット主戦オールラウンドの私が彼に勝つとすれば、カット主戦ではダメだと思っていた。第一セット、私はよく切ったカットを打ちまくられて十本しかとれなかった。カットを三本やる間に、彼が打ちあぐむ球を送り、左右からのストレート攻撃で相手を混乱させ、攻勢に入り、彼のバックを攻め落とすことが唯一の勝利への道と考えたが、攻めに入る前に押し下げられ、打ち抜かれたのだ。

 第二セット、私はレシーブから一気に攻撃に出た。両ハンドストレートを中心に思いきった攻勢をとった。これが成功して五-〇と私がリード、続いて捨身の攻勢をつづけ、五ポイントリードのまま十五-十まで進み、私は一本もカットしなかった。しかしまともな打合いでは勝てないので、私はショートをまぜて彼を振り廻したのだが、不思議によく入った。

 しかし彼の豪打はやまず、好調な私のショートと両ハンド攻撃にも彼は崩れず、追い込んだはずの両コーナーから彼の必死の強打が入ってきた。藤井選手は長身でリーチも長い。その上、ボディワークが実によく、逆をとられてもなかなか凡失を出さない。私の必死のスマッシュもなかなか決らず、激しいラリーが長くつづいた。

 そして遂に十九-十九に追い込まれ、最後の二ポイントも激しいラリーで私は敗れた。私はこの一戦で身体がガタガタになったような気がした。捨身の攻勢とショート攪乱戦術が好調で、藤井選手も大苦戦に陥入ったはずだ。事実、この一戦を見られた城戸尚夫氏(元国際卓連会長代理)や池田政三氏(マ元師杯大会の功労者)ほか、多くの指導者が絶讃して下さった。

 私は敗れたけれども満足だった。藤井選手が絶好調でなければ勝てたはずだ。ともかく私自身としては、それ以上の試合はできない、という試合をやることができたのである。こういうのが真に満足できた試合と云えるのだろう、と私は思うのである。

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