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「作戦あれこれ」第10回 同じ相手に連勝するには新手が必要

同じ相手に連勝するには新手が必要 ...対河野戦から...

 私が河野選手に初めて負けたのは、大学4年の全日本大学対抗(インカレ)で大阪市立中央体育館で行なわれたときだった。それまで大学1年の大学対抗で初めて対戦して以来、全日本学生、全日本、アジア選手権、世界選手権と大会があるたびに当たり13連勝をしていた。しかしこのとき2-1で初めて負けた。そのときの河野選手の試合ぶりについて述べよう。
 試合は、河野選手がX、Y、ZのY、私がA、B、CのBに出たので2番の初戦でぶつかった(このときの試合方式は世界選手権と同じスエスリングカップ方式)。私は13連勝していたものの大半は大接戦。また河野選手のピッチの速いペースにはまると7、8本はすぐに取られてしまい21本取るまでは気を抜けなく、調子の出ない初戦でやるのはイヤな感じだった。


 ドライブとロビングで先取

 しかし第1ゲームは、固さのとれない河野選手のフォアを得意のドライブで攻め、打ち合いに持ち込み、攻められたときやつなぎのボールのときに手首を利かしてボールを伸ばしてスマッシュミスを誘い14本で先取した。河野選手は今までの試合からまともに打ち合うと不利とみて、頂点を思い切って打つレシーブとコートで2バウンドするように小さくストップをしようとしたが、固さが取れずミスが多かった。スマッシュのミスも多かった。
 そして1ゲームが終わったとき、ドライブでフォアをうまくゆさぶっておいてバックを攻めるラリーと、攻められたときはあわてず、中陣、後陣で両ハンドのドライブとロビングでがっちり守り、チャンスボールを思い切って攻めていけば勝てると思った。河野選手は監督、コーチのアドバイスを細かく受け気持ちの整理がしっかりできたのか非常にすっきりした顔をしてコートに歩いてきた。いつもの顔つきとちょっと違い、何かいつもと違うことをやってくるのではないかとイヤな予感がした。しかしくっついていけば河野選手は後半くずれるから大丈夫と自信を持ちなおして第2ゲームを開始した。

 台上のボールで攻められる

 しかし私の考えは甘かった。サービスを持ったとき、1ゲーム目に利いたネットぎわに小さく出して相手がツッツキか軽く打ってきたのをドライブで攻めて有利な打ち合いに持って行こうとした。しかし2バウンドするレシーブを一番苦手なバックに返され、打てない私はツッツキをバックに返して5球目攻撃に変更し、今度こそはドライブ攻撃にと構えた。しかしそれを見抜いていた河野選手は、そのボールを今度はフォア前に落とした。あわてて大きく前に動いたためにバックに返したボールが浮き、コートの中央でショートで守るのが精いっぱい。そのときの一番の弱点はフォア寄りのミドル。河野選手ほどの強豪になると見逃すはずがなく、強打でつかれ次を左右に決められてしまった。そのストップもふつうの人がやるストップとちがって、いったん強打する構えからストップに入るのでどうしてもスタートがおくれる。この作戦でかなり得点をされた。
 それと前回までの河野選手はバックハンドサービスが多かった。フォアハンドサービスの場合はサイド回転で鋭く切って出すサービスと、逆モーションのロングサービスが多かった。しかしそのようなサービスは慣れられて不利であると思ったのだろう。今まで使ったことのないフォアハンドの(バックサイドから)ほとんど変化がないといってよいくらいの横回転サービスをバック側に出してきた。私が小さく止めると逆に攻められてしまう。対河野戦に利いていたいつものバックのツッツキでフォアへ深く入れるレシーブで返球した。(私の表ソフトラバー使用者に対する基本的な攻め方でもある。そして相手にドライブもしくは軽くコースをついてくるのをドライブをかけて攻める作戦である)しかしいつもはサービスが切れているから変化をつけてレシーブできたが、切れてないのでこちらも変化がつけにくい。それをクロスにスマッシュと、私がさがる気配を見せたときはストップと、前後に激しくゆさぶられてやっと返したのをバックサイドを切る強打で打たれて弱点のバックを攻め切られた。
 それから河野選手はいつもの打ち合いと内容がちがっていた。それまでは打ち合いになると早く決めようとして無理だと思うボールを強引に打ちよく自滅していた。しかしこのときは無理なボールはよいコースをついてつなぎ、チャンスボールは思い切ってたたくというラリーの基本をよく守って攻めてきた。たとえば私が十分な態勢でドライブをかけたときは前陣で守備態勢を取ってショート、または角度打法でコースをつきこちらが軽くつないだのを強打。もし連続して攻められたときは、もう一度守備の態勢に戻りコースをついてチャンスボールをスマッシュというように、非常に粘り強いプレーをしていた。そのために十分な態勢でストレートに打ったのを逆に打たれたりチャンスボールを確実に打たれた。凡ミスが少なく私にとってはラリーになっても苦しい戦いとなり逆にこちらが焦ってミスが多くでた。この攻め方はラリーの基本といえるようだ。

 小さく止められたボールを先に打つ

 2ゲーム目にネットプレーでかなり得点されて負けた私は、最終ゲームはネット際にとめられたボールを先に攻めてロング戦に持ち込む作戦と、ドライブでゆさぶることと、バックハンドはクロスだけでなくストレートにも打つ、というようにドライブに結びつけて打ち合う作戦をとった。
 しかし大学3年のはじめに世界チャンピオンの王座についてから、何一つ新しい技術を開発しなかった私はやることなすことすべて河野選手に読まれて3ゲーム目も失い初の一敗を喫した。
 たとえばフォア前のボールを強打するときのコースはフォアクロスがほとんどでバックは軽く払うだけ。そのためにフォアで待たれて逆に打ち返された。前に大きく動いていたためにショートで返すのがやっとでそのボールをバック側に先手、先手と攻め切られた。
 バックハンドストレートもそうだ。バック側からスマッシュをうまく打つ人に対してバックハンドのつなぎボールをストレートに持っていくと逆をつき、次のボールをドライブで攻められることが多い。しかしそれも待たれて私の一番イヤなストレートのバックに打たれチャンスがつかめなかった。
 また河野選手はロビングに対しても非常にうまかった。それまではどちらかというとロビング打ちはコースより力まかせで打っていた。そのために私は伸びるロビングで粘り勝って何度も助かった。そして苦しさに耐えた勢いで4、5本連取して劣勢を逆転することが多かった。しかしこの試合では一発、二発スマッシュのあとストップ、そして前に出た私の態勢が崩れたところをスマッシュで決めるという頭脳的な打ち方で決められ、最後まで調子の波に乗れなかった。
 河野選手のサービスのコース配分、ラリーのコース配分も良かった。バック側に何気ない横回転サービスを出しておいて私がバック側を警戒したときに逆モーションサービスでフォアに。バックにサイドを切る攻撃をしておいてときどきフォアストレートに強打。そのように主軸となる作戦をより効果的にし、また河野選手は後半になっても強気の思い切ったプレーはおとろえず押し切られた。

■この一戦に学ぶ

 ★ドライブマンはドライブにこだわりすぎるな。私は1ゲーム目河野選手のボールが1バウンドで出てきたのをバックストレートに決めて先取した。それに味をしめ2ゲーム目もドライブでねらおうとして、コートで2バウンドするストップにとまどい逆に攻められて逆転をされるキッカケになった。ツッツキの下手な人に対してはドライブでねらう用意をしてもいいと思うが、ストップのうまい河野選手に対してはできるだけドライブに頼るのは捨てて、どの態勢にも素早く移れる基本姿勢に戻ってネットプレーに備えるべきであった。
 ★同じ相手に勝ちつづけるには新手がなければ勝てない。私が初めて河野選手に負けた一番の原因は新手がなかったからだ。そのためにサービス、レシーブをうまく攻められ、ドライブも簡単に取られて先手、先手と攻めきられた。河野選手は非常に粘り強く攻め、いつもの"速く攻めよう"という心理的なあせりがなかったことが大きいが、何よりも新しくフォアハンドサービスをバック側に出して3球目スマッシュとストップの組み合わせを開発して勝った。もしそれがなければ今まで通り私が勝っていただろう。サービスでもいい、レシーブでもいい、ショートでもドライブでもいいので新しい技術を開発することは技術に幅が出来て強くなる。それには工夫しながら練習することが大切であると強く感じた。


筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1975年12月号に掲載されたものです。

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