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「作戦あれこれ」第13回 大事な大事な基本姿勢

 先日、昭和50年度の団体日本一を決める全日本総合団体選手権大会が、佐賀駅から列車とバスで約1時間半かかるまわりは山に囲まれたお茶と温泉で知られている小さな町、嬉野町の体育館で1月17~18日の2日間にいわたって行なわれた。
 この大会は全日本実業団選手権と全日本大学対抗でベスト8に勝ち残ったチームと、インターハイで1位、2位のチーム、それにクラブも参加して文字どおり日本一のチームを決める大会であった。その結果、男子は近大が日本楽器をストレートで破り初優勝、女子は富士短大が専大を接戦で破り2連勝を飾った。
 しかし、迫力のある好試合を期待していたが凡ミスの多いプレイや、動き、ボールにスピードのあるプレイが見られず好試合がほとんどといってよいほどなかったのは残念だった。中でも特に強く感じたのは先に攻められたときの守りの弱さ。強打されるとすぐミスをしてしまう。もし入っても威力のない棒球で2発と受け止められない。
 もう1つ強く感じたのは攻めの早さがないことである。とくにドライブマンに打球点を落として回転に頼りすぎている選手が多く、まだまだ試合の大切なことをよく知らないでいるな、ということを感じた。今回はこの2つのことについて述べてみたいと思う。


 守りの強かったことが好成績につながった長谷川

 なぜ守りから攻めのプレイが弱いか。守りはいらないだろうか。そんなことは絶対にないと思う。力が同じくらいであればいつも先手を取れるとは限らない。いかに先手を多く取るか、また同じような攻撃力であれば守備力が試合の大きな鍵を握っている。だから守りを強くすることは非常に大切なことだと思う。事実私の卓球は守りが強かったおかげでどれほど助かっているかわからない。相手に強く打たれてもいつでも受け止められるという大きな自信から常に心に余裕があって思い切って攻撃することができた。レシーブから積極的に攻撃できたのもその裏づけがあったからだった。しかしもし私に守りからの攻めがなかったらいくらパワードライブを持っていたとしても相手を圧倒する鋭いサービス力、3球目攻撃、速いフットワークがなく、また落ちついた攻撃ができずに世界選手権はもちろん、アジアや日本のタイトルも取れない選手で終わっていただろう。

 相手との距離をうまくとろう、基本姿勢をしっかり正しく構えよう

 では技術的に守りをよくするために何が大切だろうか。それは私の体験を含めて言えば相手との距離を正確にとることと、基本姿勢をしっかりとった構えではないかと思う。たとえば相手がショートでストップしてくるのに中陣で待っていてはうまく打ち返せないのと同じように、相手がスマッシュ態勢に入ったら同じ位置では返すことはむずかしい。台からやや離れるとかして打たれるコースが少しでもわかる位置、スマッシュが少しでも取りやすい位置をとること。この前後の動きのない人は守備がうまくできないし、守りからの攻撃ができない。もちろん前陣攻撃型の人がドライブマンやカットマンと同じように台から遠くへ離れるのはよくない。できるだけショートができる位置をとる、というように守るときも自分の戦型の特徴に合わせて動くことが大切だと思う。
 それともう一つ大事なことはもどりを早くして基本姿勢を正しくとって構えることが守りをよくする大切なことだと思う。もちろん台に寄せられたときに速攻で強く打たれたときは基本姿勢をとらずいきなり手を出した方が良いときもある。
 しかしそれ以外の余裕のあるときは、脇をしめ、アゴを引き、前傾姿勢を保ち、そして豪球がきても押されないように足をやや広めに開いてつま先立ちで足、腰、腹筋に力を入れてしっかり構えることが大切である。またコツでもあると思う。つまりスピードのあるボールをとるときにはボールのところまでできるだけ早く動くことと、安定した下半身が大切だからである。
 たとえば常に動いて打つ卓球競技と似ているボクシングの試合を見ても、世界チャンピオンのボクサーの構えは脇をしめ、常にヒザをくの字型に曲げ、つま先立ち、前傾姿勢を保ち、アゴを引き、いつでも前後左右へ飛び出せるよい構えをとっている。しかし弱いなと思うボクサーの構えを見ていると脇が甘かったり、もどりがおそかったり、距離の取り方の下手な人が多い。剣道の試合を見ていても実によく似ている。ということは、動きながら打つスポーツはみんな同じことがいえるようである。

 脇の甘い構えではすべてが狂う

 しかし全日本総合団体という大きな大会にもかかわらず、脇があきすぎている人、上体が立ちすぎているためにくるコースがわかっていながら動けなくて片足だけで動いて手打ちになったり、バランスをくずして間に合わなかったりする人、脇が甘いために走るときのようなスピードがなくラケットの端にあてて飛ばす人が多く目についた。このように打つ前の基本姿勢の構えが悪いといくら足の早い選手でもスピードがガクンと落ち、自分の運動能力の半分、あるいは中には4分の1か5分の1しか使っていない人もいる。
 本当ならばたとえラケットを握ってもダッシュをするときと同じ瞬発力とスピードが出るようにならなければ良い構えといえないだろう。もし構えはよくなってもまだ動きにスピードが出ない人はラケットを強く握りすぎていたり、グリップが悪かったり、あるいは腹筋や脚力の弱い人であろう。そういう人は余分な肩の力を抜くとか、筋力を鍛えるトレーニングをつむことが大切である。
 それに常に正しい基本姿勢を身につけるようにすれば、腰がよく切れ、バックスイングがスムーズに取れ、全身を使った良いフォームになり、守備、守備からの攻撃だけでなく、コントロール、威力とも一段とよくなると思う。
 私も経験があるが、段々に上達するとつい横着をして基本姿勢をおろそかにして打ってしまうが、それが不調の原因になったり伸び悩む原因になったりすることが多い。私は試合が18オール、19オールなどと競ったとき、技術面では打ったあと正しい基本姿勢をとるように一番気をつけた。そのことで思い切りのよい動きから思い切りのよい攻撃ができて勝負強いといわれる原因になった。まず正しい基本姿勢をとることはすべてのことにおいてもっとも大切なことだと私は思う。

 "絶対に入れる"という強い気迫を持つ

 それともう1つ大切なことがある。それはスマッシュを受けるときに、もうだめだ、と弱気になる人がいるが、その人は技術以前の問題でビビっていて返すことはできない。
 このような場面では技術より先に何が何でも相手のコートに返すんだ、とか、絶対に入れるんだ、という強い気迫を持つことである。そういう強い気迫を持って毎日の練習に打ち込むことによって、いざというとき試合中に自分でも信じられないボールが入るものである。また絶対に入れるんだという強い信念から、たとえ態勢がくずれても無意識のうちにその態勢の中で最高の打ち方ができる。そしてそのように必死で取ったボールというのは以外と重く反撃のチャンスにつながることが多いものである。
 試合は最後まで絶対に勝つ信念を持ってやる気持ちが大切であると同時に、1本1本にも同じ気持ちを持ってやることが大切である。もちろん、そうした気力の充実は体力トレーニングをはずしては考えられないが...。

 攻めの遅い卓球では大成しない

 それに基本姿勢の悪さからもきていると思うが、ドライブマンの攻めの遅さが多く見受けられた。中でもとくにもっと早く動けば高い打球点をとらえて連続攻撃できるのに、打球点を落としてチャンスを逃していた人が多くいたようだ。その人達に粘り強い守備力があったかというと、それもない。そのために良いドライブを持っているが相手に先手、先手と攻められ活躍しきれずに負けていた。
 しかし今も以前も世界で一流になったドライブマンはどのようなプレイをしているか。威力があるからといってボールを落として攻めの遅いプレイをしているか。私の知っているドライブマンには誰もいない。日本でいえば、歴代のドライブマンの中で一番速い、しかも安定性があったドライブの持主であった木村興治('61世界男子複優勝、'61年、'64年全日本単優勝)選手と実際に対戦したことがあるが、木村選手は常に少しでも高い打球点でのドライブとスマッシュを軸にして早い攻めを常に心がけていたから世界ですばらしい活躍ができたと思う。
 たとえば私が世界チャンピオンになった年の'67年の全日本選手権の準決勝で木村選手に負けた試合がいい例である。このときの両者のドライブは、若い体力、気力のある私の方が威力があったと思うが、大事な場面で木村選手の思い切りのよい3球目攻撃とショートからフォアハンド攻撃の攻めの早い攻撃で、私の弱点のバックを先手、先手と攻められた。昨年の全日本選手権で混合ダブルスで優勝して現在も活躍している伊藤繁雄選手も、ミュンヘンの世界選手権で優勝したときはドライブの前陣速攻といわれるような攻めの早さがあったから勝った。また、カットの高島選手、梁戈亮選手(中国)のプレイを見ても守備から攻撃に転じるときの打球点は高く攻めが早い。ヨーロッパで安定した活躍をしているヨハンソン、ベンクソン(スウェーデン)、オーロスキー(チェコ)、世界選手権3連勝した荘則棟、3回とも決勝を争った李富栄、現在活躍している李振恃、許紹発(中国)選手らもそうである。
 それは相手の態勢をくずしやすくまた先手を取りやすく勝ちやすいからだ。しかし攻めがおそく相手のミスを待つプレイは弱点を攻められて勝つことがむずかしい。
 このようなことからもドライブマンも自分の主戦武器を生かしながら攻めの早いプレイを目指して欲しい。しかしそれには少しでも素早い動きができるよう、正しい基本姿勢をとるように気をつけること。またそれが自然にできるようにならなければ自分の運動能力を最大限に生かした攻めの早いプレイはできないだろう。


筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1976年3月号に掲載されたものです。

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