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「作戦あれこれ」第21回 サービスのこころえ(4)

 私は、大学1年のときに全日本初優勝をしてから10年連続ベスト4入りする、という成績を取ることができた。安定した成績を残すことができた中には、これから述べる種類のサービスは、絶対に欠くことができないものであったと考える。これはまた、どのようなタイプの選手も持っていなければ、ほんとうにうまいサービスの持ち主とはいえないのではないだろうか。

 純粋な下回転サービス

 1つは、サイド回転を入れない、ボールの下部を上から下へこする純粋な下回転サービスである。
 なぜ純粋な下回転サービスの方がいいかは次のような理由からである。
 まっすぐの壁に同じ力でサイド回転と純粋な下回転サービスを直接ぶつけてみると分るように、純粋な下回転サービスはまっすぐ下に落ちるが、サイド回転を与えたサービスはポンとよく弾み大きく飛んで弧を描くようにして下回転と比べて遠くへ落ちる。
 つまり、下回転の中に少しでもサイド回転が混じると同じ回転量でも前に飛ぼうとするボールの性質が入り、球質が軽くなる。だが、純粋な下回転は切れば切るほど下に落ちようとするボールの性質で、打球の際に手首に強い力がいりボールがズシリと重い。そのような重いボールを打つときはいい加減な取り方では入らない。手首やからだがよく使える位置までしっかり動き、よく引きつけて手首、膝、足、腰を使って打たなければいいレシーブができない。そのようなことから純粋な下回転サービスを出すことによって、次のような効果が出てくるわけである。
 (1)ボールの性質が重いため、相手の動きが遅れたり、手首の使い方が悪かったり、膝の使い方が悪かったりするとミスが多く出るためにサービスの得点が増す
 (2)下回転サービスを出すことによって、相手に強い力を入れさせるため、横回転や切れないサービスが効く
 (3)相手は前に大きく踏み込まなければならない。すなわち、ショートサービスに対して十分に注意せざるを得ないので、サイドラインいっぱいに深く出すロングサービスが効く。
 (4)ボールの性質が重いために、相手のレシーブにツッツキが多くなり3球目攻撃がやりやすくなる
 (5)サイド回転を入れたサービスを出すと、ときどき回転が残って返ってきてやりにくいときがあるが、下回転サービスはまっすぐ返ってくるので安心して3球目攻撃ができる
 (6)ボールの性質が重いだけに、切れたサービスと切れないサービスの変化が大きく、両方とも効く
 以上のように、純粋な下回転サービスは利点が多い。
 では、もし反対にサイド回転の入ったななめ下回転サービスやななめ上回転のサービスばかりであったらどうなるか。やはり、下回転に比べて球質が軽いために少しぐらい出足が遅れても、わずかな腰の入りとラケットの押しがあれば入りやすく、また似た回転からラケットの角度が狂うことも少ない。下回転サービスがあるとないとでは、相手に与える威圧感もかなりちがってくる。それだけでなく、サイド回転の入ったサービスは球質がやや軽いために(ラケットの角度があえば入りやすい)スピードのあるボールを打たれやすく、レシーブのうまい選手には危ない。だから逆に相手の攻撃を待って攻める作戦をとることもできるが危険も多い。
 その点、下回転サービスは低くコースをねらって出せばそれほど強く打たれる危険性は少ないし、相手が逆にスタートが遅れた場合などはスピードがガクッと落ちるし、相手の動作によってレシーブのコース、打球の仕方が読みやすいために3球目攻撃がやりやすい。
 たとえば、私の試合で強く印象に残っている'69年の全日本準々決勝の対今野戦(早大→旺文社)。試合はショートサービスとロングサービスを6対4の割合ぐらいで使い、中盤まで接戦。ロングサービスを警戒させておいて後半の勝負どころでフォア前に強く切った下回転サービスを出しツッツかせる作戦のためだった。そして試合の後半は下回転サービスで勝負した。思った通りバック側にツッツキがきた。そのレシーブを一番得意のバックストレートのドライブに結びつけて勝ち、3年ぶりに3度目の優勝に返り咲くことができた。
 ロング戦の強さは歴代の日本の中で史上最強といわれる田中利明選手('55年、'57年世界チャンピオン)は、フォア前の下回転サービスから3球目スマッシュが得意であったと聞く。また、実際に試合をする機会に恵まれたことのある中国の偉大なプレイヤー荘則棟選手('61年、'63年、'65年世界チャンピオン)、3回連続決勝を争った2位の李富栄選手なども、純粋な下回転サービスを持ち他のいろいろな変化サービスをより有効に生かし、'60年代の世界最強を誇った。
 このように純粋な下回転サービスは、実にいろいろな効果がある。身につけていない人は早く身につけ、身につけている人はさらに威力をつけてほしい。
タイプ別にいえば、下回転サービスは相手にツッツキレシーブをさせやすいだけに、ドライブマンと前陣速攻型の選手は特に必要なサービスだと思う。

 ドライブ性ロングサービス

 第1バウンドをできるだけ自領コートの手前に落とし、インパクトの際下から上にこすって相手コートに深く出す前進回転のかかったサービスを、ドライブ性ロングサービスという。
 このドライブ性ロングサービスは、良い3球目攻撃をやることに絶対に欠かすことのできない非常に重要なサービスであるが、最近使う人が少なくなってきたように思う。そのために、インターハイ、全日本を見ても相手の逆をついたハッとする3球目攻撃をする人が少なくなってきた。また、勢いに乗る勝ち方をする選手が少なくなってきたことや、スケールが小さく小粒になってきたのは残念なことである。ショートサービスというのは、初めは効いても回転の変化のみでスピ-ドがないために、逆に攻めこまれてしまうことが多いからである。だからそのようなことがないためにドライブ性ロングサービスが必要になってくる。ロングサービスを出すことによっていろいろな効果が現われてくるが、主として次のようなことである。
 (1)相手は、ロングサービスに対しての処理を考えざるを得なくなるために、ショートサービスに対しての注意が半減し、ショートサービスがより有効になる
 (2)その逆にショートサービスに対しても十分注意しなくてはいけないし、ロングサービスとショートサービスをうまく組み合わせることによって両方のサービスが生きる
 (3)相手は両面待ちのため、スタートが遅れることが多くレシーブ攻撃を封じることができやすい
 (4)(3)のことから、相手は3球目をなんとか封じて4球目を攻めようとすることが多く、相手の作戦が分りやすく先手、先手と攻めやすい
 (5)相手が小さいサービスを警戒しているとき、相手のバックまたはミドルに出すとつまり気味になってミス、または平凡なレシーブが多い
 (6)ショートサービスとロングサービスをうまく組み合わせることによって、相手のレシーブの動きを止め、3球目の攻撃チャンスが増し、勢いに乗りやすい
 (7)1つのスピードのあるロングサービスを覚えるとすべてのサービスが生きてくる
 (8)ドライブマンに対してバック攻めがやりやすい。ドライブマンはロングサービスに対してドライブで攻めることが多く、バックからのドライブはショートでフォアへ回し、次をバックに返してバック攻め。フォアからのドライブは次をバックに止めてバックハンドを振らせてそれをフォアで動いてバック攻めというように...。ドライブ性ロングサービスには以上のような利点がある。
 '72年の第1回アジア選手権団体決勝の対梁戈亮戦で、私はフォア側のショートサービス主体に攻めたが梁選手にうまくレシーブを返されて苦戦。そこで3ゲーム目のとき、ドライブ性ロングサービス主体に切りかえたところ、ロングサービスをバックに出して、ロング戦に持ち込んだ方が有利と分り、そのあとはドライブ性ロングサービスを主体にプレイして逆転。ショートサービスが効かないときに、ドライブ性ロングサービスを使って成功した典型的な例であった。
 しかし、ロングサービスを出してもスピードがなかったらカモにされてしまう。スピードがあるロングサービスや変化サービスと同じモーションから威力のあるドライブ性ロングサービスが出せるようにしよう。そのようなサービスを身につければ3球目攻撃がやりやすくなるだけでなく打ち合いに強いスケールの大きい選手に伸びやすい。とくに、中高校生はドライブ性ロングサービスを積極的に使って試合をして欲しい。

 ナックル性サービス

 出し方は、ラケットを上向きにしてそのままの角度を保持しながらひじで前に突き出すようにして打球するサービスで、無回転に近いサービスである。
 中国の荘則棟選手、周蘭蓀選手らがよく使っていたが、踏み込みのたりないドライブやショートで返球しようとするとストンと落ち、ツッツキで返球しようとすると高く浮くような性質を持つサービスである。
 また、荘選手、周選手のナックル性サービスを実際に受けてとくに感じたことは、このサービスは私のコートにくるまではドライブ性ロングサービスと似た感じで飛んでくるので、いつものドライブ性ロングサービスの位置で構える。そのために、ボールを迎えにいくのがおくれてミスが出たり、入っても威力がなく、ずいぶん苦しめられた。
 つい先日、プロ野球日本1を決める巨人対阪急の日本シリーズ第1戦のラジオ放送で、元巨人軍のヘッドコーチであった牧野氏が解説の中で「打者は、直球にヤマをはっていたらカーブやシュートの変化球を打つことがむずかしい。変化球にヤマをかけていたら直球を打つことがむずかしい」と話していたが、卓球のサービス、レシーブ、ラリーになったときと野球も同じなんだなと思った。
 私の場合は、バックストレートに深く出すナックルサービスが出しやすかったので、左利きに対してはよく効いた。
 とくによく弾む高性能ラバーを使っている選手は、ラバーの摩擦だけにたよってドライブをかけるためにナックル性サービスに弱い傾向があり、ナックル性ロングサービスとショートサービスの2種類を持っていたから相手にさらに威圧感を与え、ショートサービスがよく効くようになるだろう。
 わたしは、以上の3種類のサービスを勝負どころでよく使った。が、もちろん3種類のサービスだけではない。

 下回転のロングサービス、ななめ下回転サービスも使った

 戦型によって、またその人の上手、下手によってそれぞれサービスを変えた。たとえばフォア側からの攻撃に威力がない表ソフトの選手には、下回転やななめ下回転のロングサービスで相手に軽打させてドライブでかけ返す。バック側のショートサービスが弱い者と対戦したときは、バックハンドサービスでななめ下回転を出したり、あるときはフォアハンドサービスから出したこともあった。
 しかし、このように相手の弱点を見つけるにはいろいろなサービスを出さなければ見つからないが、見つかったときにすぐ出せるようにふだんからサービスの練習をしておくことが大切である。
 ほんとうにいいサービスを身につければ、即3球目攻撃に結びつけることができやすいので、サービス練習の努力次第では2ヵ月後、3ヵ月後にはかなり強くなることも可能である。また、サービスは立派な技術でサービスと3球目で得点することはちっとも恥ずかしいことではない。現代卓球の先端をいっている人だともいえる。サービスは卓球台がなくても1人で家の畳の上でも出来る。ボールがまっすぐ返ってきたら下回転サービス。もしななめに曲がって返ってきたらサイド回転が入っている、というようにサービスの重要性をもっと認識して、良いサービスからすばらしい3球目攻撃を身につけて欲しいものである。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1976年12月号に掲載されたものです。

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