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「作戦あれこれ」第32回 相手の動きの見方

 「試合のとき、相手の動きをよく見ることが大切である」とういことを前号で述べたが、今回はどのようにして相手の動きを見るかについて述べよう。
 私は相手の動きを見る見方はレベルによって4段階あると思う。
 1段階は、打ったあとすぐに相手の動きを見る。
 2段階は、打つときボールと相手の動きを同時に見る。
 3段階は、相手が何をやろうとしているのか読んで相手の動きを見分ける。
 4段階は、相当なレベルに達した者でなければできないが、膚で相手の動きを見分ける。
...の4段階である。
 ではまず、一段階の打ったあとすぐに相手の動きを見ることから話をしていこう。

 振り切ったあと、すぐに相手の動きを見る

 最近の中、高校生の試合を見ると、技術的にコントロールがないこともあると思うが、振り切ったあともボールばかり見ている選手が多い。もちろん、卓球をやりはじめたばかりの初心者は、相手の動きまで見る余裕がないので仕方がない。が、見る余裕のあるレベルに達しているのに、ボールの行方ばかり見ている人が多いが、それは試合する上において大きなマイナスである。
 なぜかというと、相手の打法が打つ直前しか見えない。直前しか見えないために、相手の腕の動き、下半身の動き、手首の動きがはっきりと見えない。すると、相手がどのようなボールで打ち返してくるのかがしっかりと把握できないからである。また、相手の打ち返すボールが把握できないと、目から脳、脳から筋肉まで伝わる時間が遅くなり、動き遅れたり、振り遅れたりする。または、リズミカルな攻撃ができなくなる。うまい相手と対戦した場合、スキのある構えを見破られて攻め込まれる...などマイナス面が著しく多い。
 ではどうすれば相手の動きを見定めることができるか。まず第1に頭に入れておかなければならないことは、相手はボールと反対の方向に動くことはなく、ボールが飛ぶ方向に動く。相手の動きを見ることによってボールも見ていられる、ということ。第2には、相手の動きを正確に見定めるには、足の動き、打つときの足の構え、腰、腕の動き、手首などからだ全体の動きはもちろんのことであるが、その他に目の動き、顔の表情までとらえることが重要である。中でもとくに、顔の表情、目の動きは、そのときにやろうとすることが現われるものであるだけに、相手が打つ前に顔の表情と目の動きを見ることが大事である。それに、からだ全体の動きからも同じことが読みとれるので、全体の動きも見逃してはならないこと。第3に、自分で振り切ったあとの飛行中のボールは、あとからしまったと思ってどう手足を動かしてみても、もうどうにもならないので相手の動きに集中した方がよい。
 このように振り切ったあとはボールを追うのではなく、相手のからだ全体の動き、目の動き、顔の表情からどのようなボールを打ち返してくるかをできるだけ早く予測して、次のプレイに備えることが、よいプレイをするコツであると考える。
 たとえば、私を例にとると、私は、守りが強かったといわれるがそれは重いラケットを使用していたことや、守りもしやすいフォームをしていたこともあるが、振り切ったあとすぐに相手の全体の動き、目、顔の表情、そしてインパクトのときの相手の手首の動きを穴があくほど集中して見ていたからだと思う。それに、相手のバックスイングによって、スマッシュだと判断したときは一歩離れて構える。ドライブと判断したときは、体の位置、ラケットの角度に十分に気をつけるというプレイをしてきたからだと思う。サービスから3球目のドライブ攻撃のときも同じ注意を怠らなかった。
 バーミンガムでは、活躍した河野選手も高島選手も、相手の動きを穴のあくほど集中して見ていたからこそ、カルカッタで負けたヨニエル(ハンガリー、'75年世界チャンピオン)同僚のゲルゲリーのパワードライブを、河野はショートで、高島はカットで返すことができ雪辱を果たすことができた。相手の動きをよく見てプレイしたことが日本の団体2位、河野選手はシングルス優勝の大きな原動力となったと思う。
 この打ったあとすぐに相手の動きを見ることは、2年、3年たった人でも常に意識してやればできるものである。ボールだけを追わずに相手の動きをも同時によく見よう。

 両目でボールと相手の動きを見る

 相手の動きを見る策、2段階は、コントロールがよくならないとできないが、両目でボールと相手の動きを同時に見ることである。正確にいえば、ボールの動きを両目で追いながら、左目では相手の動きを見る。打つ直前にも同じように、左目で相手の動きを見る。
 その第1条件としては、目をできるだけ大きく見開いて視角を大きくする。第2条件としては、フットワークが悪ければボールを追うことだけに集中しなければならず相手を見る余裕ができないので、フットワークをよくすることである。第3条件としては、コントロールをよくすることである。この3つのことができるようになると、打つ前に、また打つ直前に相手の動きを左目余裕のあるときは両目で見られるようになり、チャンスボールは一発で打ち抜け、攻められたときは打たれないコースに打ち返すことができ、大きく伸びるものである。しかし、3つの条件がそろわなければ打つ前に相手の動きを見る余裕はできない。
 たとえば、私の悪い例からあげると次のようである。私は高校1年生のとき、厳しい練習から一時期やる気を失ったことがある。そのために、自主性がなく目の開きが自然に小さくなっていたと思う。それにコントロールがなかったことから、ボールを打つことだけしか集中できず、当然相手の逆をつくコースなどつけず、もっとも成績が悪かったときである。
 相手の動きが見えはじめたのは高校2年生の春頃である。本格的に卓球をやり始めて6年3カ月がたったときである。高校1年の12月、初めて全国大会に出場した全日本ジュニアで青森の選手に1回戦で敗れたあと「全国大会で勝ち進むには、球威とコントロールがなければならない。それには、フットワークを多くやることだ」と、心底フットワークの必要性を痛感し、自主的にフットワークの練習をしはじめてから3ヶ月ぐらいがすぎたときである。またこのとき私は、フットワークの練習を1日に1時間から1時間半ぐらいやっているときに次のように思った。「速い動きを身につけるには、相手の動きを少しでも早く見ることだ。それには、目を大きく開いて動くことだ」ということに気がついた。そして、そのように練習をし、徐々にコントロールと動きがよくなるにつれて、打つ前に相手の動きが見えるようになり始めた。6ヶ月が過ぎたときには、打つ直前に相手がはっきりと見えるほどになった。
 そして、6月下旬に行なわれたインターハイの県予選のときである。現在でもはっきり覚えているが、代表決定戦で苦手の表ソフトの攻撃選手と対戦。実力は5分5分か、4分6分で不利だった。だがサービスから3球目攻撃のときも、レシーブのときも、ラリーのときも自分でも信じられないぐらい、打つ直前に相手の動きがよく見え、相手がバックに回り込もうとしたときはフォアに打ち返す。フォアへ動こうとしたときはバックへ打ち返す。足がコートの中央で止まって守りの態勢で待っているときには、相手のミスが多かったフォア、ミドルに攻める。というように相手の逆へ逆へと攻めて得点し、思っていたより簡単に勝つことができ、2ヵ月後のインターハイの3位につながった。卓球をやりはじめて初めてバックストレートのドライブがノータッチで何本も決まっただけに、また相手の動きが鮮明に見えただけにいまだに深く印象に残っている試合である。
 しかし、まだコントロールのない人が、打つ前に左目でボールを見ようとすると相手の動きにとらわれてボールを見ることがおろそかになったり、フォアハンドを打つときは左肩が、バックハンドを打つときは右肩が入らなくなり、コントロールや球威が落ちることがあるので十分に気をつけなければならない。
 このことに注意して、目を大きく開いて打つ、フットワークをよくする、コントロールをよくするための練習をみっちりやろう。

 己を知り、相手を知り心で相手の動きを見分ける

 心で相手の動きを見分ける、というと大変にむずかしく思えるかもしれないが、ある程度のキャリアを積んだ人であればそれほど難しくない。心というより読みといった方が分かりやすいかもしれない。このことは、正確な相手の動きを知ることに非常に重要なことである。
 それをどのように知るかは、まず第1に自分の性格、技術、体格、癖、特徴をよく知ること。同じように相手のことも知る。その中でもとくに必要なのは双方の性格、技術、癖、特徴である。相手がもしショートとバックハンドを振ったあとバックに回り込む癖があれば、相手の動きを見なくてもフォアに返せば簡単に得点できる。フォアへ動いたあと、すぐにバックに回り込む人であれば2本続けてフォアへ返せば、これまた簡単に得点できる。ロビングに対してすぐストップする人であれば、すぐに前に出ていけばスマッシュチャンスになる。また勝負どころになると必ずツッツキレシーブをする人であればドライブやスマッシュで狙える。強気な性格で勝負どころになると必ず払ってくる人には、半歩さがって攻撃する...など、相手の性格、癖、特徴などを知ることによって攻撃がすごく楽になる。すなわち孫子の兵法にある「己を知り、敵を知れば百戦危うからず」につながり、相手が自分より弱い場合は負けることがない。たとえ強くても戦い方次第によっては勝つチャンスがある。
 私は、試合前に自分の分析をし、相手の分析をも必ずやって臨んだ。また、試合をやりながらもラリー中にも相手の心の動きを読んでプレイしたが、相手の動きを見るだけでなく、心の動きを読んでプレイしたことが更に逆をつくことができ、大きく役立った。
 たとえば、'66年の全日本選手権では負けたが、伊藤選手は勝負どころになるとバックに回り込もうとする癖があり、その後の戦いに大いに役立った。河野選手は、フォアに連続して攻められると弱いところがあり、やはり大いに役立った。また、それだけでなく自信を持って攻めることができるのも大きい。しかしそれには、ミスしたときになぜミスをしたのか、得点したときにはなぜ得点できたのかをよく考えてやらなければ相手の心を早くつかむことができない。一球一球考えながら練習をしよう。

 風、床の響き、音から膚で相手の動きを見分ける

 これは、大変高度な技術と鍛え抜かれた心身の持ち主でなければできないが、膚で相手の動きが見分けられれば、こちらの心の動きはいっさい読まれないことから一番の有効打になる。また、ボールを打つことに集中することができるので、球威、コントロールがよくなり相手にとって脅威になるものである。
 その条件としては、まず心が無心に近い心境、会場が静かである。コートと選手がたえず完全に頭の中に入っていなければならない。その他には、つま先から髪の毛の先、指の先まで神経が行き届いていること、どんな小さな音でも聞き漏らさない集中力も大変重要である。これらのことが1つでも欠けていたらできないと思うが、だからといって膚だけで相手の動きを見分けるのではなく、心の動きや、それまでの試合運びなどが含まれていることはもちろんのことである。
 どのようなときに膚で相手の動きを見分けるかは、相手が速く動こうとすればするほど風が起きる。床からも感じる。または、吐く息などからも相手の動きを知ることもできる。
 私の例を上げれば、グリップに悩む前の社会人1年目からの3年間である。私は、大学3年生のとき、世界、アジア、日本のタイトルを独占していたが、その後ふつうの努力しかせず社会人になるときには無冠になってしまった。だがその後、中国に勝つことを目標に再び初心にかえって練習を始めた。トレーニングもランニングやウェートトレーニングなどを1日に1時間以上やった。そうして迎えた全日本やアジア選手権の試合で、勝ち進むごとに、試合ができることに心底感謝することができたことから準決勝、決勝は常に最高調で迎えることができた。そして、私の弱点であるバックをつかれたときである。ツッツキやショートをバックハンドで返す場合、相手の動きはほとんど見えないが、相手がバックに動くときの動きが、わずかだが動くときの床や音から膚で動きが分かり、バックハンドでバックストレートにときどきノータッチで抜くこともあり個人戦は3年間無敗であった。そのときはもちろん、1コート、2コートしかなく静かであった。しかし、膚で相手の動きを感じられたのは、練習もトレーニングも限界に挑戦してがんばっているときであった。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1977年11月号に掲載されたものです。

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