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「作戦あれこれ」第59回 試合前のベストの練習④

試合当日の練習と健康管理

 ベストの試合をするには、大会前の練習、健康管理が大事だが試合当日のすごし方も大切だ。もし、当日に安心して気をゆるめるようなことがあったら、これまで練習してきたことが水の泡になってしまう。
 しかし、意外と心の甘えや意志の弱さから試合当日に体調を崩す人が多いのが現状だ。
 そこで今回は、試合の当日ととくに気をつける練習、健康管理を述べて、ベストの練習のしめくくりとする。

 試合当日の朝、からだ全体を激しく動かせ!

 試合当日の過し方は、チームによって朝早く学校で練習したり、試合会場に朝早く集まって練習したり、または遠いチームなら旅館に泊まりどこか近くで練習してから会場へいくなどいろいろあると思う。
 しかしどのチーム、どの選手にも必要なことは、試合の前に一度激しい運動をしてからだ全体の筋肉、関節を十分に動かしておくことだ。試合中のどんな激しい動きにも耐えられる内臓の働きにしておくことが重要だ。その運動は、私が朝食前に走った八分(ぶ)程度のランニングやシャドープレイでもいい。'65年のリュブリアナ(ユーゴ)世界選手権の団体戦の決勝で、中国の張燮林のカットを初めて打ち倒し、世界チャンピオンの荘則棟をも倒して2勝を上げたバックハンドの名手高橋選手が大会期間中続けたサーキット・トレーニング(膝曲げ屈伸、腕立て伏せ、腹筋、バーピー、つま先立ちの5種目を回数を決めて全力でやる)でもいい。または、'69年世界チャンピオンの伊藤選手がミュンヘン世界大会のときの朝の練習でやった、左右動や前後動のフットワークや連続スマッシュでもいい。何しろ自分から進んで汗を流すことだ。
 そうすることによって人間誰しも「ヨーシ、必ずがんばるぞ」と闘争心、苦しいときは我慢する心(忍耐心)ができあがり、充実した一日が過せるようになる。
 こうなれば、もうしめたもので健康管理と試合前のウォーミングアップさえ間違えなければ自分のプレイができる。
 私は試合の朝、食事をする前に必ず15~20分のランニングと40メートルのダッシュを7~8本、激しく動くシャドープレイを休みを入れながら7~8分やってアンダーシャツ一枚に汗びっしょりかいたが、トレーニングをやったことによって心・技・体がすごく充実し1回戦からいいプレイができることが多かった。またこのおかげで、何の技術が調子悪いか早く見つけることができ、一戦ごとに調子を高めることができたし、試合時間が短くて済み次の対戦相手の研究を十分にすることもできて大いにプラスになった。
 しかし、練習やトレーニングをやるときイヤイヤやったのでは闘志も忍耐心も身につかない。また、試合当日の朝、十分なウォーミングアップができるように日頃からやり込んでおかなければならないことを忘れてはいけない。

 朝食をしっかり食べよう

 試合の当日、次に大切なのは朝食の取り方だと思う。朝食がほんのわずかしか食べられない人は、試合の後半になるとスタミナがなくなり自分のプレイができなくなってしまう。中でも闘志が薄れ、球威もフットワークのスピードも落ちるし疲れから頭の回転が鈍るために自分より弱い相手に負けることさえ出てくる。
 反対に朝食をしっかり食べる人は食べない人とは全く逆だ。スタミナがあるために、徐々に調子をつけ後半になるにしたがって強い。またこのような人は、少々のことでは動じないたくましい精神力を持っていて勝負強い。
 しかし、好き嫌いのある選手は神経質すぎる人が多くちょっとしたことで動揺し"ここ1本"というときとか、団体戦で"この1点"という大事なときに消極的になり勝てない。見た目も見るからに弱々しく、相手に自信をつけさせて損してしまう。
 私は現役時代、試合で動きまくることを考えてご飯は茶わんに2~3杯、出されたおかずは残さずきれいに食べた。時には人が食べ残したおかずまできれいに食べ、みんなから「人間掃除機みたいだ」といわれたほどよく食べた。だから人一倍元気があったし、最後までボールのスピードがあったように思う。
 もし、試合のことが気になって食べられないようであれば「勝負は時の運だ」とか「一生懸命やって負けたなら仕方がない」と思って気持ちをラクにさせるとよく食べられるようになるものだ。
 腹が減っては戦(いくさ)ができぬ。朝食はしっかり食べよう。しかし、すぐに試合が始まるときは別。すばやく動けるよう少しだけにしておこう。

 練習は実戦的な練習をやろう

 次に、朝の練習のときだ。大会会場では練習する人が大勢いてワンサイドでしか練習できないと思うが、このときの練習の仕方もとても大事だ。
 しかしこの時の練習内容も、会場でやる練習の前にトレーニングをやった人、学校で練習をやった人、全然やらなかった人とでかなり練習内容が異なる。
 学校ではフットワークや、サービス、レシーブを十分にやった人は、サービス、レシーブと軽く打ち合いながらコートの弾み具合を見る程度でいいと思う。
 だが、ランニングとシャドープレイを中心にトレーニングをした人は、それだけでは足りない。1コースの中で左右の動き、前後の動きのフットワークやサービス、レシーブからの打ち合いをやったほうがいい。
 何にもしてない人は、トレーニング中心にやった人の練習プラス練習が終わってからシャドープレイや軽くランニングをした方がいい。もちろん練習後のトレーニングは会場での練習度合いにもよって増減しなければならないが、中、高校生があまりにもからだが軽く感じる程度の試合前の運動量では自分のプレイができないことのほうが多い。
 だが27歳以上の社会人やママさん選手は別で、やや軽く感じるぐらいがよくあまりやりすぎないように気をつけなければならない。

 中でもとくにフットワークが大事

 しかし、どの選手にもいえることは、試合前の練習のとき自分から進んでフットワークをやるくらいでなければまずベストコンディションに持っていくことはできない。
 私は、26~27歳の現役引退する1、2年前、試合前にフットワークをやるのが辛くなって少ししかやらなかったことがある。そんなときは1度も勝てなかった。が、試合前に自分から進んでフットワークをバリバリやったとき、または最悪のコンディションであったが「やらなければ勝てない」と思ってフットワークをやったときは、ほとんどといってよいぐらい負けていない。フットワークの量に比例して成績があがった。
 このように、フットワークは重要な練習。試合前には必ず進んでフットワークの練習をやろう。

 試合と同じ気持ちで打ち返す

 練習のとき、もう1つ大事なことは試合と同じ気持ちでボールを打ち返すことだ。
 よく練習だからといって、雑なスマッシュを打ち込んだり、ドライブを打ち込んだりする人がいるが、このような人はフォームを乱して調子を崩すし試合の大事なときに同じような打ち方が出てしまい試合に勝てない人といっても過言ではないと思う。
 やはり試合前の練習は、打ち方も精神も試合に直接に結びつきやすい。試合と同じ気持ちになって、自分のフォームで打たなければならない。できることなら、一流プレイヤーがやっているように一球一球吟味しながら、自分で使う自分のフォームを頭とからだにしみこませていくのがいい。
 このようにして練習しておくと、凡ミスが非常に少なくなる。"ここ1本"というときに正確な動きと正確なスイングができ、とても勝負強いプレイヤーになれる。
 また、中、高校生にはまだむずかしいかもしれないが、試合のときも一球一球自分のベストのフォームで打ちながら、良いフォームはからだ全体で覚えておくことが大切だ。間違ったときは、頭の中でベストのフォームのイメージを描きからだ全体の神経に伝達して覚えさせていく。精神面も戦法も同様にチェックする。
 こうして、まったくスキのないように心がけていく。だから一流選手というのは、10本過ぎる頃から攻撃ミスが少なくなり、あっという間に相手を引き離してしまうのだ。
 しかしやはりそれには、練習のときからそう心がけなければならない。これは、高校生でもかなりの上級者でなければできないだろう。ふつうのレベルの中、高校生は常にベストを尽くすようにすればそれで十分だと思う。

 健康管理をしっかりやろう

 あとは健康管理をしっかりやって、できるだけスタミナを消耗させないようにすることだ。
 とくに気をつける必要があるのは、水や炭酸水をとりすぎないこと。食事をうまくとること。いつまでもベラベラしゃべらないこと。体育館をウロウロしないこと。汗をかいてユニフォームはすぐに着替え、からだを冷やさないことなどだ。
 飲み物を飲むときは、からだにいい牛乳や野菜ジュース、温かいお茶、または'67年の世界団体優勝した山中選手(私のメモの筆者)のように、輪切りにしたレモンに砂糖をかけたのを用意したり、レモンを直接かじってビタミンを補給するのも大変にいい。とにかくからだにいい飲み物をとることだ。
 私は、12月の寒い中で行なわれる全日本選手権大会の最終日は、試合が続けて行なわれるために体育館横の駐車場に止めてある兄の乗用車を休憩室がわりにした。大変に便利だった。その中には、試合のとき必要な着替えのユニフォームからおにぎり、野菜入りのおかず、お茶、ハチミツ入り野菜ジュースなどすべて揃えてあった。
 私は、試合が終わるたびにそこで次の対戦相手の作戦を練り、からだを休めた。また、体調に合わせながらおにぎりや野菜やハチミツ入りのジュースを飲んで次の試合に備え、二回の観覧席に上がるのはほとんどなく自分の試合に集中した。
 そして、試合の20分前になると、動き出し体調に合わせてダッシュやシャドープレイでウォーミングアップをやってからコートに向かった。
 このため、現役引退した翌年の全日本の試合を観戦していたとき、NHKの解説者の川原さんが私のところへ来て「全日本のとき、歴代の選手の中で長谷川選手を見つけるのが一番大変だった」と話されたことがある。それはそうだ。私は大会のときほとんど体育館の中にはいなかったのだから。車の中や体育館の横の静かなところで休んでいたのだ。
 こうして健康管理にも十分注意したことが好成績につながったように思う。
 しかし、中学生、高校生は応援などがあって思いどおりにできない面もある。それが普通である。中高生には応援も大切だ。
 だがそれ以外の健康管理や練習の仕方などは気をつければかなり違うものである。最後まで自己に厳しくし、少しでも早く自分にもっともいい調整法をあみだしてほしい。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1980年10月号に掲載されたものです。

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