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「作戦あれこれ」第60回 相手の目を見よ!

 試合のとき
 ・試合の前に額から汗がにじみ出てくるぐらいウォーミングアップをやり、体を温めてからコートに出る
 ・相手を尊敬してやる
 ・闘志を出す
 ・自分の試合だけに集中してやる
 ・一球一球コースを考えて攻める
 ・勝敗にこだわらないで思い切ってやる
...などのことは、これまでの卓球レポートの中で何度も書かれているので、守っている人は多い。
 しかし、最近の試合を見ていると、とても大切なことをおろそかにしているように思う。それは何かというと、相手の目をじっくり見る選手が少なくなったことである。

 とくにサービス、レシーブのとき

 これは、主にサービス、レシーブのときであるが、下を向いたまま横を向いたままサービス、レシーブの構えに入り相手をチラッとしか見ない。中には天井に何か書いてあるかのように、上をジーッと見つめてから構える変わった選手もいる。もちろん、このようにして最高のサービス、レシーブができるのであれば問題ない。が、このような選手にかぎってサービス、レシーブが悪いのである。

 ふつうの選手の2~3倍サービス、レシーブが悪い

 どのぐらい悪いか比較すると、2~3倍というところである。その後のラリーについても同じである。
 これは当然なことである。なぜならば、言うまでもなく人間には2つの目しかなく
下を向いていたり、横を向いていたりしていたのでは相手がどのようなサービス、レシーブをしようとしているのかまったくわからないからである。そのために、当然相手がどのようなサービスからの3球目攻撃、レシーブからの4球目攻撃をしようとしているのかわからず、先手をとられるためにラリーになってからも弱い。
 その他、試合のときには相手の構えた位置やラケットの高さ、腰の高さ、左足の位置、それに闘志や集中力の度合いで、相手の長所や短所を読み、戦法を変えなければならないがそれもまったくわからない。
 そのために、相手を見ない選手ほど効くと思ったショートサービスをいきなり攻撃される。カットマンのバック側にドライブ性のロングサービスを出して攻めようと思ったのが、いきなりフォアへショートでレシーブされてノータッチをしてしまう。または、よくあることだが相手を見た瞬間にサービスを出されてレシーブができない。しかし、これはルール違反でも何でもなく、相手の動きをしっかり見ていない方が悪い。また、相手にすっかり呑まれてしまうなど、下や横を見て構える選手はいいところが一つもない。
 これでは、いくら猛練習をして技術を磨いても、試合で成果を出すことができない。試合の基本は「敵を知り己を知れば百戦危うからず」(蓀子の兵法書)にあるように、相手がどのような闘志や集中力を持ちどのような戦法を考えているのか。それに対し自分の技術からして、どのような戦法や心構えで立ち向かえば勝てるのかを十分に考えてプレイすることである。
 それには「目は口ほどに物を言う」ということわざがあるように、相手の目をしっかり見てからプレイすることである。
 では、このときの見方についての注意点を述べよう。

 目を大きく開いて相手の目を鋭く見よ

 まず大事なことは、ふだん友達と話をしているときのようなやさしい目ではいけない。相手の戦法だけでなく、相手の心理状態や心の奥の動きまで読むことが大事なので、目をできるだけ大きく開いて相手の目を中心に顔の表情をグッと鋭く見ることである。
 私は、相手の額のシワや、眉間のシワ、口の動き鼻の動きまではっきりと見えたがそれぐらい見えるくらいでなければいけないと思う。もし、それが見えないようでは、あがっているか見方が足りないと思う。相手と自分の距離は3メートル弱、ということを考えてみれば見えるはずである。

 まっすぐ見よ

 このときの見方だが、横目で見るのではなく、まっすぐ見ることが大事である。なぜならば、横目でははっきり見ることができないがまっすぐ見れば横目で見るよりも何倍もはっきりと見えるからである。また、相手に与える印象も違うからである。
 このような選手はよくない。下を向いていて、ちょっとまっすぐ見てはすぐに下を向くことを繰り返す選手である。こういったタイプは落ち着きのない選手に多いが、ほんのわずかな時間では相手の心理状態を読むことができないし、自分自身集中できない。逆に相手に「気の弱い選手だな」と完全に呑まれて余裕を与えてしまう。つまり、相手を見るときはまっすぐ堂々として見ることが大切である。
 しかし、サービスの構えに入ったときは別である。バックハンドサービスや投げ上げサービスを出すときはまっすぐ見ると不自然な構えになるので横目で見るようになる。フォアハンドサービスを出す場合は、まっすぐ見た方がいろいろなコースに出しやすい。レシーブのときも同じでまっすぐ見て構えた方がレシーブしやすい。

 長く見すぎるな

 相手の目を見る場合、見すぎないことも大切である。よく「相手がジィーッと見てきたので、コンチクショーと思って見返してやった」という気の強い選手がいるが、これは試合の進行の妨げになるばかりか、見ているうちに頭にカーッときたり作戦に迷いが生じたり、サービス、レシーブのタイミングが狂ったりしてかえって不利になる場合が多い。特に若い選手に多いが試合のとき頭にカーッときたら自分を見失い負けである。
 私の例を話そう。私は、サービスの構えに入る前に相手の目を2~3秒間見たのちからだ全体のしぐさを1~2秒間見て、1本前のラリーの反省をしながら次の戦法を2~3とおり固めた。そしてすばやくサービスの構えに入った。この構えに入ってからまた1~2秒見てここで1本の作戦にしぼって相手の動きを見ながらゆっくりバックスイングを引いて、バックスイングを終える直前からすばやくサービスを出した。バックスイングからインパクトまでのとき、ゆっくり出したのでは相手にサービスを読まれてしまう。これが私のサービスの出し方であった。だから、私のサービスの出し方はふつうの選手より遅かった。
 もちろん、いつもゆっくりしたバックスイングの取り方ではなく、ときには早いバックスイングからサーっと出すときもある。つまり、相手にサービスを出すタイミングを読まれないようにするのである。私の経験だとドライブマンでいつもバックスイングを早くとる選手には強い選手はいなかった。やはり、レシーブ側のタイミングをはずすことは非常に大事であるので相手の動きを十分に見て早く出したり、ゆっくり出したりして変化をつけよう。
 しかし、誰でも相手の目を見ることができるのか?

 真剣に練習した選手でなければ見ることができない

こたえはノーである。厳しい練習やトレーニング、ふだんの生活をまじめにやった選手でなければ相手の目を見返すことはできない。なぜならば、相手の目を見返すには勇気と強い意志、闘志がなければできないからである。
 だからといってケンカの強い選手や気の強い選手が見返すことができるか、というとそれだけでは見返せない。「目は口ほどに物を言う」ということわざがあるように、真の勇気、卓越した闘志や意志がなければ視線と視線がガチンとぶつかったとき負けてしまう。
 つまり、一生懸命練習やトレーニングをしなければならない。とくに卓球の命である素振りやフットワークやランニングを真剣にやる必要がある。よくフットワークをするときに少し無理なボールだと思うとバックハンドを使ったりあきらめたりする選手、または走るときに気を抜いて走る選手がいるが、このような選手は卓越した闘志、意志が身につかず相手の目をにらみ返すことができないものである。
 私は世界選手権優勝するまでは猛烈な練習をしたが、優勝して目標を失い一時期練習の量、質ともかなり落ちたことがある。このときは、東海学生リーグや中部日本選手権などで相手の目を見ることができず次々と負けてしまった。本当にトレーニングと練習を一生懸命やることは大切なことである。
 中、高校生の場合だとこれぐらい気をつければよいかもしれないが、レベルの高い試合になるとこれだけではいけない。

 感謝の気持ちと謙虚な心がなければダメ

 闘志の中に素直な心がなければならない。よく少し強くなると相手をナメたり油断をしていい加減な気持ちでやったり、いいところを見せようとしたりするがこれでは集中力が低くなって相手の戦法を十分に読むことができない。勝敗にこだわってもいけない。戦法に迷いがでるからだ。
 では、相手の戦法を正確に読むにはどうしたらよいか。私は、自分が世界選手権初出場したときの団体戦の決勝前夜に木村監督がミーティングで話されたことにつきるのではないかと思う。「世界選手権の団体決勝に出られることは卓球人にとってもっとも幸せなことである。明日の試合は、勝敗にこだわらず今まで積み重ねてきた技術、体力、精神をすべて出そう」と心をこめて話された。
 このとき、鍵本、河野、河原の各選手と私の団体戦メンバーは木村監督の目を見ながら素直に一言一言を深くうなずきながら聞いた。「幸せである」という感謝の心は、大きな試合であろうが小さな試合であろうが試合の心構えの重要な基本である。世界には、卓球をやりたくてもやれない選手がたくさんいることを考えれば、卓球をやれるということはなんと幸せなことだろう。
 それと、私は「相手がいくら弱くても何か自分よりすぐれたものを持っている。それを学ぶんだ」という謙虚な心を持ったとき非常にいいプレイができたが、これもとても大切なことだと思う。よく「自分の物さし(心)が狂っていたら、すべて狂ってしまう」と言うが本当のことだと思う。
 もし、自分の心が素直でないなとか、謙虚でないなとか思ったら、長い距離を走って苦しんでみることである。ランニングというのは、基礎体力や持久力が身につくだけでなく、素直な心や謙虚心など人間に大切なものが身につくものである。
 次回は、他にどのような訓練方法があるか、相手の目を見るときの構え方を述べたい。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1980年11月号に掲載されたものです。

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