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「作戦あれこれ」第89回 攻撃対攻撃で勝つコツ③ 相手のサービスを読むコツ

 相手サービスからの3球目攻撃を封じるためには、レシーブ技術だけでは十分でない。技術にプラスして、①相手がどんなサービスを出してくるか(伸びるロングサービスか、切れたカットサービスか、等) ②どんなレシーブを待っているか(フォアにヤマをはっているか、ツッツキにヤマをはっているか) ③どんな3球目を狙っているか(ツッツかせてドライブか、払わせてプッシュか)...の3つの読みができて、はじめて相手の読みをはずし3球目攻撃を封じることができる。
 たとえば、相手のサービスに対する読みが悪いと、スタートが遅れて攻撃的なレシーブができず、当然4球目攻撃もうまくできない。①番の読みはよくても、②番、③番の読みが悪いと、自分ではうまくレシーブしたつもりが、相手に読まれていて強烈な3球目攻撃を浴びてしまう。
 つまり良いレシーブをするには、技術+相手のサービス+3球目に対する読みが非常に大事だ。それで今回はその読みについて考えてみよう。

 ラリー後の相手の動作を見逃すな

 相手のサービスと3球目攻撃をできるかぎり正確に読むには、相手の目、気合いの入り具合はじめ、ラリー後の相手の動作を絶対に見逃さないことだ。そして、相手の動作と試合の流れから相手の心理状態を読み、1本前と同じ戦法でくるのか、変えてくるのか、それともまったく違うサービスから意表をつこうとしているのか、を読む。同時に、相手は思い切って攻めようとしているのか、それとも守ろうとしているのかも読む。この読みが鋭い選手ほど試合に強い選手だ。

 自信に満ちているときは同じサービス

 実戦の例を上げてみよう。
 たとえば、同じぐらいの力のペンドライブマンとシェークドライブマンが対戦したとする。試合は第1ゲームの15オール。ここでサービスをもったペンの選手が、フォア前の下切れサービスからの3球目回り込みドライブ攻撃で得点。シェークの選手は固くなって、ツッツキで返すのが精一杯だった。一方、3球目攻撃を成功させたペンの選手は生き生きとした声で「ヨシ!ヨシ!」と気合いを入れながらボールを拾いに行った。コートに戻ってくるときの顔の表情も自信に満ちあふれていた。
 さて、あなたがレシーバーだったら、次にどんなサービスを予測するか。
 このように競(せ)っている場面でサービスが完全に効いている時、サービスを持った選手は同じ作戦で得点できる、と考えている。そのためボールを拾いにいくときも戻ってくるときも顔の表情は自信に満ちあふれているのだ。したがって、次も同じサービスから攻めてくることが多い。だからレシーバーは同じサービスを予測して、フォアへ払ったり、ストップレシーブする、などの対策を練ることだ。

 頭をひねったり、思案顔はサービス変更

 例2。さて第1ゲームはシェークの選手が逆転勝ちした第2ゲーム中盤。カウントは13対15でシェーク選手がリード。このとき、ペンのドライブマンがバック前に変化サービスを出した。それをシェークのドライブマンがバックハンドで鋭く払ったがわずかにオーバーミスをした。ボールを拾いにいったペンのドライブマンは首をひねりながらボールを拾い、戻ってくるときは下を向きながら何やら一生懸命考えている様だった。さて次の1本。あなたなら相手のサービスをどう読むだろうか。
 1ゲームを失って2ゲーム目も13-15と負けている。となると、ペンの選手にとってこのポイントは絶対に落とせない場面だ。どうしても慎重になる。首をひねったり、下を向いて一生懸命考えていたのは「今のサービスは得点したものの危なかった。次も同じサービスを出したら打たれる。サービスを変えよう」と考えているときで、次は同じモーションからフォア前やミドル前に違う変化サービスを出してくることが多い。
 サーバーがドライブロングサービスやナックルロングサービスの得意な選手ならば、それまでの試合からどちらのサービスが効くか考え、おそらく効くほうのロングサービスで攻めてくるだろう。したがってこの場面では、もしナックル性のサービスで得点されていたら、気持ちの7割はそのサービスを予想し、読んだ逆のサービス(ドライブ性ロングサービスや他のサービス)もなんとか返せるように構えることが大切だ。

 強気の表情は同じサービス

 例3。今度は正確が大変強気なドライブマンで、ショートサービスとドライブロングサービスを上手に使い分ける選手とドライブマンより少し力が落ちると思われる表ソフト速攻型が対戦したとしよう。
 さて試合のスタートでドライブマンはバッククロスに思い切りドライブロングサービスを出し3球目攻撃をしようとした。しかし、それを読まれてクロスにレシーブスマッシュを浴びた。このとき、ドライブマンは少し笑顔を見せながら堂々とした態度でボールを拾いに行った。コートに戻ってくるときは人を食ったような表情だ。さてあなたなら次にどんなサービスを読むか。
 試合はまだ始まったばかりで2~3本取られてもさほど影響がない。こんなとき、このように強気で自信家の選手は人一倍負けず嫌いなため、自分の得意のボールを逆にスマッシュで決められたりすると「オーッ、俺のエースサービスをよく打ったな!ヨシ、今度こそは3球目攻撃を決めてやるぞ!」と負けず嫌いが顔をのぞかせる。そして、相手の読みの逆をつこうと、もう1本同じサービスで攻めてくることが多い。そのボールを相手としてはもう1本狙い打つのだ。
 ただしこのときは、同じボールで攻めると相手が待ちうけているので、さらにスピード、回転を増すとか、逆モーションを使うとか、コースを変えて攻めることだ。この連続レシーブ攻撃が決まっても、まだ相手の態度が同じようだったら、もう1本同じサービスを出してくるので、何本でもレシーブ攻撃してしまう。
 このような自信家タイプと対戦したときに、逃げると相手は強気でどんどん攻めてくるので、相手を調子にのせないように、こちらも負けないで強気に攻めていくのが倒すコツだ。そうすると相手の強気の姿勢が弱まり、攻撃のリズムも崩れてくるものだ。
 しかし、このような作戦は、いくら自信家の選手といえども余裕のあるときしか使ってこないことが多いので、いくらボールを拾いに行くときの態度が自信に満ちているからといって同じサービスとばかりは限らない。

 いつもと違う表情は意表をつくサービス

 例4。逆モーションサービスを持っている選手が、大事な場面になったときに感情を押し殺しているときがある。あるいは、コートに戻ってくるときにいつもとまったく違う表情だったり、下を向いたり、横を向いたりしてソワソワしているときがある。さて次はどんなサービスを出そうとしているのだろうか。
 このような表情や動作のときは、相手の意表をつくサービスを出そうとしていることが多い。「レシーブ側に分からないように」と思い過ぎるために、逆に普段と表情が変ってしまうのだ。そのようなときはいつもと違うコース、思いきったサービスを予測するのがよい。中には、こういったときに必ず顔色が青く見える選手や、サービスの間合いが短くなる選手もいる。こういった相手の動作を見逃さず、早く特徴をつかむようにすることが大切だ。
 私は河野選手('77年世界チャンピオン、青森商高教員)と現役時代によく試合をしたが、河野選手はバック側から大小のフォアハンド横回転サービスと虚をつく逆モーションのドライブロングサービス(バックストレート)が非常にうまかった。このサービスはよく回転がかかっているうえ、コースが非常にわかりずらく、ほとんどの選手がこのサービスで先手を取られて得点されていた。私もずいぶん苦しめられた。
 しかし、私にはロングサービスに対する一発のドライブレシーブがあった。そのため、河野選手は甘いロングサービスを出すわけにはいかず、ストレートに逆モーションドライブロングサービスを使うときにものすごく慎重になった。そして、ドライブロングサービスを使うと決心したときは「読まれないように」と思う余り顔の表情が他のサービスを出すときより無表情になった。そしてこの表情になったときは、10中8、9、ストレートにドライブロングサービスを出してきた。私はこれを読んで素早く飛びついて河野選手の待ちの逆をつくストレートに得意のドライブ攻撃をして、何度も難を乗り切った。もし、ラリー後に河野選手の動作を見ていなかったらこのサービスを読めず、分が悪くなっていただろう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1983年9月号に掲載されたものです。
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