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「作戦あれこれ」第157回 ラリー戦で強くなるには?

 ラリー戦の重要性が増す

 ドルトムントの世界選手権を観戦した河原智氏(本誌「シェーク攻撃型プレー」執筆者)が、「現在、世界で勝つには、ラリー戦に強くなければならない」と語ったが、私も全く同感。ラリー戦になってから得点できなければ、とても世界では勝ち抜けない。
 このことは別に今始まったことではない。10年前も、20年前も同じであった。とはいえ、サービスからの速攻技術が向上し、弾む接着剤によるパワードライブが猛威をふるうようになった現代において、ドルトムントの世界選手権では、さらにその速攻、パワードライブをしのぐ守りの技術と、中~後陣でのラリー戦の粘り強さがでてきたということなのである。
 かつて「サービスからの速攻では中国。ラリーになれば日本のもの」と言われた日本だが、ドルトムントではラリー戦になった時もヨーロッパを上回ることはできず力を出しきったにもかかわらず男女とも6位に終わった。ラリー戦での安定性、威力でヨーロッパが上だったのである。

 つなぐ打球練習をする

 ラリー戦に強くなるにはどうしたらよいのだろうか?
 ドルトムントで考えたのは、体力と基本打法の安定性をさらに高めなくてはならないということである。
 体力強化についてはまた別の機会に譲るとして「基本打法の安定性を高める」ためにはどうしたらよいのだろうか?
 まず第一は何といっても実際の打球練習によって打法の安定性を高めることである。フォアハンドロングの基本打法については、本誌4月号の「作戦あれこれ」で詳しく述べたのでここでは省略するが、フォアロング、バックロングにとどまらず、ショート、ドライブ、ロビング、その他すべての打法について、実戦の気持ちで、正しく基本練習を繰り返すことがラリー戦で強くなるための王道である。
 ラリー戦に強くなるためにはラリーを続けられなくてはならない。基本練習で2~3本でミスしてしまうようでは実戦でラリーになるはずがない。威力のある打球を1球目から打ち続けることも大切であるが、レベルに合わせ、ある程度の威力のボールで続けられる練習をすることも大切である。何でも強く打てばいいというのでは実戦では強く打つと不利なボールでも強く打ってしまったり、フォームが悪くても気づかずにそのままになってしまうこともおこる。強打のフォーム、コントロールは強打をすることによってしか得られない。同時に、ラリー戦でつなぐための中打のコントロールとフォームは中打の練習によってマスターすることができる。
 さて、ラリーが続くようになるための打球練習法は幾つかあるが、初心者がラリー戦に強くなるための練習方法としては
①.10本ノーミスで続ける練習を1コースでする
②.①の練習の中に強打(10本目)を混ぜ、また続ける
③.前後、左右に動いて続ける練習をする
④.③の練習の中に強打(10本目)を混ぜ、また続ける
⑤.③~④の練習相手をしてコースの打ち分けを覚える
⑥.相手の強打、強ドライブを返す練習をする
...といった順でやると、スムーズにラリー戦に強くなっていける。

 素振りにはマイナス面がある

 さて、安定した打法を身につけるには、実際に打球練習をするほかに、素振りによる方法がある。
 「練習はしたいがなかなか卓球台につけない」「勉強との両立でなかなか練習時間がとれない」といった中~高生の選手から、「毎日500回は素振りをして、さらに振りの速さ、安定性を高めオリンピックを目指す」といった大学~社会人の選手まで、素振りの効用は大きい。受験生の気分転換にももってこいだろう。
 ただし、素振りにはプラス面と同時に、大きなマイナス面がある。「なぜ素振りをするか」を理解し、正しいフォームで素振りをすればプラス、その逆に、正しいフォームかどうかのチェックをせず、自己流の悪いフォームで素振りをするならマイナス。悪いクセをつけるような素振りであればやらないほうがよほどましである。
 素振りをたくさんやって成功した人の例を見ると「イメージと実際のフォームを同じにする努力」を必ずしている。どういうことかというと、ほとんどの人が自分でイメージを描いて素振りしても、実際のフォームを見るとイメージとは大きくかけ離れている。ということは、素振りをする人のほとんどが、悪いフォームを身につけるためのマイナスの素振りをしていることになる。素振りをする時に気をつけなくてはならない重要なポイントがそこにある。
 それに対し、成功した人たちは、必ず鏡に自分のフォームを映し、自分のイメージと実際の体、ラケットの動きが同じになるように努力している。身近にいる強い選手やビデオ、連続写真で見た一流選手の正しい体の使い方を参考にして自分のスイングをチェックしながら素振りを繰り返している。「基本姿勢はいいか」「足の構えはいいか」「ひざの使い方はどうか」「バックスイングのとり方は」「体の軸はズレていないか」「振り終った後の次球への戻りは速いか」...など、一つひとつ鏡でチェックしていけば、一流選手なみの美しいフォームを作ることができる。

 単一の素振りをしすぎない

 イメージどおりのスイングが素振りでできるようになれば、初心者の選手は素振りを多くやったほうがよい。卓球部員が一列に並び、下を向いたまま、手だけで、イチッ、ニッ...と数だけこなしているような素振りとは大違いである。
 しかし、中級者以上の素振りの場合は、もうひとつ注意すべき点がある。それは「単一のことをやりすぎない」ことである。
 これは練習熱心でまじめな選手ほど陥りやすいワナである。フォアクロスの素振りを1000回やる。次の日も次の日も毎日やる。するとフォームは固定され、柔軟性がなくなってくる。実戦でフォアストレートに打てなくなる。浅いボール、深いボールに対する対応力がなくなってくる...。これも弱くなるための素振りの一例である。
 これを解消するためには、実際にボールを打っている気持ちでストレートの素振りもする。同じ感じのバックスイングから、フォア、ミドル、バック...と打ち分ける素振りの練習をする。ある程度基本的な素振りが身についてきたら、実戦を想定し、色々なボールを色々な打法(強打、中打、ドライブ、流し打ち、等)で色々なコースに打ち分ける素振りをする。同じフォームから、素直な打法と相手の逆をつく打法の両方の素振りができるようになれば一つの打法で一つのコースしか打てなくなる弊害はなくなってくる。基本に忠実に、フォアもバックも、大小のフォームを使い分け、基本に忠実にバラエティーに富んだ素振りができるようになれば、プラスになる素振りといえるだろう。

 素振りサーキット・トレーニング

 基本練習も素振りも、実戦を想定して行なえばたくさんやったほうがよい。ゲーム練習と平行して、フォームを確認しながら行なうことが大切なのである。
 筆者は現役時代素振りを多くやった。体力トレーニングの意味を含め、フォア・バックの強打、ドライブ、左右へのフットワーク、切り替え、スマッシュ、ロビング、ロビング打ち...など、各10~20回を1セットに3セットずつ、サーキットトレーニングのようにやるようにした。そのため、試合前の調整等は実際に打球しなくてもでき、楽だった。初心者の選手にとっては少し数が多すぎるが、自分のおかれた状況に合わせ、工夫してやることがよいと思う。ドライブマン、速攻、カット...と、戦型によってやる内容が違うのはもちろんである。
 その時に筆者が注意点として作戦ノートに書き込んだのは、①実際にボールを打っているつもりで振る ②相手のどんなボールを、自分はどんな打法で、相手のどのコースに打つかを想定してやる ③重心移動、足の動き、スイング、フリーハンド...を正確にやる ④基本を守りつつ、正確に素早く振る ⑤1球1球声を出して振る(そうすると自然に正しい呼吸法が身につく) ⑥試合と同じ緊張感、集中力でやる ⑦疲れてきてからが強くなる。最後まで正確にやる ⑧フットワークは大きく素早く動く...といったことであった。
 熱意があり、練習環境に恵まれない選手にとって素振りは強くなるための大きな武器である。将来、世界的なプレーヤーとダイナミックなラリー戦を演じることを夢みて、トレーニング練習に打ち込もう。チャンピオンも初めから強かったわけではない。一つひとつ基本を正しく積み上げた人がチャンピオンになったのである。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1989年8月号に掲載されたものです。

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