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「作戦あれこれ」第161回 ただしフォームで多球練習

 練習密度を濃くする

 強くなるためには多球練習は良い練習方法である。
 特に長い練習時間を確保することの難しい選手にとっては欠くことのできない練習とさえいえる。
 多球練習は、ボールをトレーナー(かご)などに数多く入れておき、連続的にたくさんのボールを使って打球する練習である。そのため「球拾いの時間が省略できる」「(相手のミスがないため)連続打球を必ず行なうことができる」等のメリットがある。
 多球練習を世界で最も多く活用している国は中国である。球を送る人のレベルも高い。そのため激しい動作が連続して続き、短時間で密度の高い練習が可能になる。中国選手が1日4~5時間の打球練習といっても、その密度はサーキットトレーニング的な激しく密度の濃い練習なのである。「中国選手の練習時間は長くない」と感じている人は、その練習密度、練習方法を研究する必要性がある。中国と同じ時間練習しても、練習のほとんどが球拾いで終わっているのでは、とても同じレベルに到達することはできない。

 弊害もある多球練習

 国内各地を回ると、指導者の方々もよく多球練習を研究され、中国顔負けの練習をしているチームもある。しかし、全体としてみると、その練習内容について心配になる点がある。どんなによい練習でも、やり方によっては逆にマイナスになる場合もあるのである。
 指導者のついていないチームの練習で多く見かけるのは「ただ単に球を多く打てばよい」といった内容の多球練習である。次々と、間に合わないくらい連続してボールを送る。選手はやむなくフォームを崩す。疲れた選手に数多くボールを送る。選手はいいかげんなフォームで打つ。こういった多球練習をしてはいけない。
 トップクラスの基本的な打法が安定している選手であれば、時には実戦よりピッチの早い多球練習を行なうこともある。しかし、それはあくまで、正しい基本動作ができるようになってからの話である。
 近代卓球には速さが必要である。また実戦では全く同じフォームで打球することはない。打ちながらいろいろ基本的なフォームのことを考えていたのでは、動作も大きくなり間に合わなくなる。実戦は応用問題。相手打球や状況に合わせてバラエティーに富んだ様々な打法で応じなければ、勝つことはできない。
 ところが一流プレーヤーの試合を観客席から見ると、流れるようなフォームで、打球動作が一定し、実に安定して見える。フォームや重心移動が崩れるのは、本当に時間的に間に合わなかったり、逆をとられて押し込まれる時だけである。このように、状況に合わせて色々な打ち方をしながら、遠くから見ると常に一定のフォームで打っているように見えるのは、基本練習が十分であり、フォームが固まっているからである。ここが大切なポイントである。

 基本を守る大切さ

 筆者は各地で講習会を行なう際「基本を大切に」と強調する。これは「実戦で応用性のある打法をするためには基本的な正しい打ち方をまず固めておきなさい」という意味がある。講習会では様々な選手が参加し、一人一人個別にアドバイスするわけにはいかないので、全体にとって最も効果的なアドバイスをということになると、どうしても基本打法の大切さを強調することになる。
 基本打法がしっかりしていると、多球練習などによってフォームを合理化したり、スピードアップすることによって確実に強くなれる。それを初めからスピードばかり強調してしまうと、スピードには早く慣れるが基本的な動作がおろそかになり、重心移動等で後で苦労することになる。中国のように優秀な指導者がいつもついているチームは初心者の段階から多球練習等によるスピードアップを行なうことが可能だが、日本のほとんどのチームはそういう状況にない。そこで基本打法の重要性を強調する。
 フォームの指導についても、用具も体格も違う選手たちを短時間に100名以上指導することは厳密にいえば不可能である。指導者の方がマンツーマンで一人一人指導することが理想である。ところが現実問題としては自己流の強くなることが極めて難しいフォームの選手があまりにも多いから、一応の目安として一般的なフォームを指導することになる。賢明な指導者の方々にはそのあたりのことも察して理解していただいているものと思うが選手の皆さんにも、一般的な素振りの標準を、各人に合わせて調整することを誌面を通じてお願いしたい。

 多球練習の注意点

 多球練習も、初めは正しい動作を正確に行なうことを目標においたほうがよい。実戦同様のシステム練習やコースを決めないオールの練習は、ある程度のレベルになってから行なうべきだろう。
 日本でも昔から行なわれている多球練習に、ワンサイドのスマッシュ練習がある。これは、パートナーがフォア(またはバック)サイドに連続してボールを浮かしてあげ、選手が連続してスマッシュする練習である。
 この時の注意点としては、①気持ちを込めて ②ボールを良く見て ③正しく体を使って(ビデオや卓球レポートの一流選手の連続写真を参考に) ④実戦のつもりでクロス、ミドル、ストレートに打ち分ける...といった点があげられる。またボールをあげる側は、①早くあげすぎない ②(1単位の)数を多くしすぎない...といった点をチェックしなくてはならない。
 多球練習には確かに気力を鍛えるトレーニング的な要素もあるが、トレーニングとして行なうものは、また別に考えるべきである。技術面を伸ばそうとする時に、速くどんどんボールをあげたのでは手打ちになりフォームを崩す。せいぜい実際のラリーよりわずかに速いぐらいのピッチに抑えるべきである。また一回に行なうボールの数が多すぎると、全力で打つ練習をすることが難しい。疲れないような中途半端な打法になったのでは何のための練習かわからない。がんばる気持ち、がんばらせる気持ちは大切だが、無理な根性論に終わることなく、最も選手のがんばれる、伸びる多球練習を心がけたいもの。ボールの送る側は、自分が打つ時に最もがんばれるペースを考え、一球一球チェックしながら送るぐらいの気持ちでやる。やりすぎないことも大切なのである。

 実戦的な多球練習

 1本打ちの多球練習の次はシステム的な多球練習である。
 中国が行なう多球練習がこれで、ストップ、ツッツキ、ショート、強打...等をまじえ、実戦同様の連続プレーを選手ができるようにボールを送る。選手とすれば何回も連続してベストのプレーをすることができ、上達の速度が速い。どんなにいいボールを打っても次のボールは必ず送られてくるのだからスキのない連続動作をするようになる。飛びつき、回り込み、だけでなく、台上処理やツッツキ打ち、強打に対する守備...など、難しいプレーの習得が効果的に可能になる。
 問題はボールを送る側がかなりの技術を要求されること。中国では左手で台上に手前に引くようにワンバウンドさせ、上昇途中を打球してツッツキ、ショートなどをコースをついて送っているが、初めのうちはこれがなかなか難しい。ボールを送れる指導者のいないチームは、ボール扱いのかなりいい練習になるので、ボール送りも練習のつもりで順番にボール送りをやろう。選手の様子を見ながら実戦と同じスピードでボールを送ってやらないと、練習効果は低くなる。
 自分が試合で多く使うパターンを想定し練習しよう。

 充実した多球練習をしよう

 コースを決めずに行なう多球練習は最終段階である。レベルが高い選手であれば、コースが分からないボールを連続して打つのだから、鋭い反射神経が磨かれる。
練習方法としては、前後左右にボールをあげてもらっての両ハンドの強打、台上処理からのシステム的なオールサイド...などがあるが、ひとつひとつの打法を、気合いをこめてやらないと効果がうすい。フォームが安定していない選手は特に悪いクセがつかないように気をつけよう。また攻撃練習だけでなく、多球練習には守備の練習もある。カットマンに限らず、オールサイドに強打(強ドライブ)してもらいショートでしのぐ、またはストップを払った次のボールを強打してもらってショートでしのぐ...といったシステム練習も良い練習である。

 多球練習で何を強化するのか、目的意識をはっきりもって行なえば多球練習は短時間で充実した練習のできるよい練習である。正しく基本を守り、短時間のうちに素早く連続動作のできるよう心がけ、気合いをこめて多球練習に取り組もう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1989年12月号に掲載されたものです。

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