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「作戦あれこれ」第162回 1990年のプレー

21世紀につながる新しい10年

 新しい卓球レポート、いかがでしょうか。
 この卓レポの誕生と同時に、20世紀最後の10年が始まろうとしている。"世紀末"というと(音楽グループのことではないにしろ)世の中が終わってしまいそうなイメージがあるが、実際は20世紀100年を総結集し、21世紀につなげる希望の10年。未来につながる新しいステップの10年である。
 現在、卓球界は初めてのオリンピックを韓国で大成功させ、その後もワールドダブルスを初めとする新しい世界規模の大会を創出、国内でも賞金付き大会、新卓球、日本リーグの充実、らくご卓球...等々活気づいている。
 1990年はさらに飛躍の年としたいものである。

 1980年代は各戦型が優勝

 さて、その1990年代の技術、戦術、プレーはどうなっていくのだろうか?1990年を迎えるにあたり、私見を述べてみたい。
 1980年代は江加良、陳竜燦、戴麗麗らに代表される表ソフト速攻選手が大活躍した。
 とはいうものの、'81年、'83年男子世界チャンピオンはペンドライブ型の郭躍華。女子は'81年がカットの童玲。'83~'85年がペンドライブ型の曹燕華、'87年、'89年が同じシェーク両ハンドドライブ型の何智麗と喬紅。表ソフトが優勝したのは、'85~'87年の男子の江加良のみ(以上の選手はすべて中国)であり、その江も'88年のオリンピック、'89年の世界選手権では敗れ、ペンドライブ型の劉南奎(韓国)、シェークドライブ型のワルドナー(スウェーデン)が優勝している〔オリンピック女子はフォア・裏、バック・表のシェーク攻撃型・陳静(中国)が金メダル〕。

 1990年に活躍するプレーは

 こういった流れから見ると、'90年のプレーは、男子がペンの劉南奎、シェークのワルドナーに代表される裏ソフトのオールラウンドプレーヤー、女子が前陣主体の裏と裏、裏と表のシェークオールラウンドプレーヤーが活躍する公算が高い。
 もっとも、裏ソフトでのオールラウンドプレーといっても、威力のない中後陣ドライブで相手のミスを待つようなプレーはチャンスがなく、打点の早い速攻と、パワフルで多彩なドライブ攻守が要求される。すなわち、速いボール、緩(ゆる)いボールを混ぜた前陣でのパワフルなドライブ攻撃とはじく打法。回転量の多い、少ないに横回転ボールを混ぜるテクニック。相手にコースを読ませない打法、戦術の研究。前陣でのカウンター守備と中・後陣での粘り強いしのぎ...。こういったプレーをドライブ型は要求されることになる。
 単調なフォアハンドドライブしかできない。フォアは強いがバックはまるっきりだめ。中陣のドライブ戦は強いが台上処理で先手がとれない。ショートはうまいが決定打が打てない。こういったプレーは改良していかなくてはならない。

 速攻型も多彩な技術を

 ドライブ型を先に紹介したがこれは「1990年は柔軟なオールラウンドプレーが勝ちやすい」ということであって、表ソフトの前陣攻守型、カット主戦型、異質ラバー反転型にチャンスがないといっているわけではない。
 柔軟な考え方をもち、パワーがあり、相手の複雑なプレーに多彩に対抗できる技術があればどのタイプでも十分に活躍できる。
 表ソフト前陣攻守型の場合もスピードと変化と威力、そして状況に応じた攻守の正しい判断力があれば1990年も十分通用する。前陣で、速攻主体のオールラウンドプレーをすればよいのである。
 表ソフトの速攻型というと、どうもタイミング早く、強打、強打、強打で攻めまくるものと考えがちだが、もともとが表ソフトといえども回転をかけやすく、かつスピードがでるようにとラバーを貼っているのだから、回転とスピードの両方を生かすように考えなくてはいけない。単調な速攻だけでは勝てない。
 表ソフトといえども強打と軽打、自分から速攻していくプレーと相手にやらせて崩すプレー、サービスやドライブ、ツッツキの時の回転量の強弱...などを状況に応じて使い分ける柔軟さがほしい。自分勝手な強打だけでは相手に待たれて利用され、すぐ壁につきあたってしまう。
 相手が上がれば前へ、前へついたら強打、右と思えば左、速攻と思えば遅攻、スピードと思えば回転...といったオールラウンドな攻めが必要。そしてやむなく下がった時はロビング、カットによるしのぎも使いながら、全体として、前陣でのテンポの速いたたみかけるような攻撃になるということなのである。
 また、技術面で、今後表ソフトの速攻型がオールラウンドな強さを世界的に発揮できるかどうかは「バックハンドでの強打が自由自在に打てるかどうか」だと感じている。
 確かに現在のペン速攻型のショートは安定性があり、回転も多彩で、ストップ性、プッシュ性の使い分けもある。しかし、相手に予期させない両ハンドでのオールラウンドプレーとなると、どうしてもバックハンドのスマッシュ、強打は欠かせない。劉南奎のバックスマッシュやヨーロッパ勢のバック強打、バックドライブを上回るようなバックハンド攻撃を身につければ、'90年代の表ソフトのプレーも道が拓(ひら)けてくるだろう。

 カットマンはプレーの変化を

 カット主戦型プレーヤーは、もともとがカットで守り、ロビングでしのぎ、前へ出てショート、ツッツキでかく乱し、ドライブ、スマッシュで攻める...と文字通りのオールラウンドプレーヤーである。カットマンが少なくなって希少価値がでてきただけに、一発に威力のあるカット主戦オールラウンドプレーヤーは、1990年も活躍できる要素が十分ある。
 しかし、注意しなくてはならないのは、単調になってはいないか、ということ。ほとんどの選手が異質ラバーを使い、自然にカット、ツッツキに変化があるから単調でない、ということにはならない。
 変化というのはもともとが相手の予想を外すことで成立する。相手の予想どおり、では変化になっていない。その意味での変化の少ないカットプレーでは1990年は勝ち抜けない。
 カット用の用具はもともとが攻撃型の用具ほどスピードがでない。したがって、サービス、レシーブやカットの変化でチャンスを作り、決定的な形でのドライブ、スマッシュで得点するという形でないと苦しい。同じ位置から打ち合ってばかりいたのでは劣勢になる。
 その意味で、チャンスを作るためのカットの変化と戦術が重要である。が、現状は十分ではない。試合の前半はリードされても、後半になれば相手を術中にはめてしまう試合運び、相手が強ドライブで粘り切れない分かりづらい変化カット...などに工夫がほしい。
 用具についても、ほとんどの選手がイボ高と裏ソフトを使っているが、希少価値という点では両面裏ソフトや他の用具でのオールラウンドプレーを目指す選手がもう少し出てきてもおかしくない。色々な用具、技術の組み合わせを研究し、新しいカット主戦オールラウンドプレーを生み出す選手が'90年代には出現することだろう。

 全身を使って打てるようにする

 ドライブ型、速攻型、カット型についての1990年のプレーについて私見を述べたが、どの戦型の選手にとってもオールラウンドプレーをする上で基本になることがいくつかある。
 まず心がけてほしいのは、高度なテクニックをいきなりめざすより、基本となる、死角のない(極端に弱いところのない)オールラウンドプレーをマスターするよう心がけること。
 筆者が中学のころは「大きなプレーをするんだ」と一流選手のマネをし、大きなフォームで中後陣のドライブばかりしていたので台上処理や前でのプレーができず、後になって苦労した。こういうのはいけない。
 その逆に、現在多いのが全身を使ってスマッシュできない選手。オールラウンドプレーの基本は「大小のフォームを使い分け、前陣でも中陣でもいろいろな打法を使いこなす」こと。オールラウンドプレーの名手は、必ず「チャンスには全身を使って決定打を打つ」ことができる。
 また、オールラウンドプレーをするためには「動きが速い」「小さく打つ時でも正しく体を使う」「安定したプレーをするためスタンスがある程度広い」などの基本がある。こういった基本を守らないと、打球に威力を出すことが難しく、将来、壁にぶつかる原因になる。
 1990年。自分の戦型にあったオールラウンドプレーの理想を考え、その考えを理論だけでなく体で表現できるようになれば卓球はもっともっと発展することだろう。
 ドライブ型も速攻型もカット型も、それぞれが攻守バランスのとれたすばらしいプレーをする時代が'90年代であってほしい。
 1990年が読者皆さんにとってよい年でありますように。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1990年1月号に掲載されたものです。

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