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「作戦あれこれ」第169回 威力のあるボールで攻める

 作戦ノートには技術面も書こう!!

 精神的にベストコンディションで試合に臨むために書きためた『長谷川語録』だが、技術面でのチェック(確認)もその中に入っている。その代表的なものが「一球一球威力のあるボールでコースを考えて攻める」である。

 試合前にノートを読み返す時こういった技術面でのチェックポイントも入っていると、自分の技術を十分に発揮しやすい。プレーにムラがなくなり、全体としてレベルアップすることができる。作戦ノートには、精神面のみでなく大切なことは何でも書きとめておいたほうが有利である。

 すこしでも打球に威力を出す

 一球一球、可能な限り威力のあるボールで連続して攻めることは大事な卓球の基本である。できる限りスピードのある攻撃球を打つ。できる限り回転のかかったドライブをかける。そうすれば、得点力があがり、一段上のプレーが可能になる。
 ドライブマンの筆者は「すべてのボールを、高い打点で、スピードと回転を最高にして、コースをついて打とう」といつも心がけるようにしていた。同じ「フォアストレートのドライブ」といっても、スピードと回転の量によって、プレーの内容が全く違ってくる。同じように打っているように見えても、一流選手のボールは威力が違う。ここが大切な点である。
 ところが、指導で全国を回ってみると、このことに気づいていない選手が非常に多い。コースが悪かったり、ミスをした時は反省するが、打球に威力がない時のチェックが甘い。本当は「威力のないボールはミスも同然」ぐらいの気構えが必要なのだが、相手のコートにミスせず入ればそれでOK、といった感じの選手が多い。これでは強い相手には絶対に勝てないし、なかなか強くなれない。ドライブマン、速攻型、カット型をとわず、どんな戦型の選手でも「今、打ったボールは、もっと威力を出せなかったか!?」と反省し、常に威力あるボールを打てるように心がけることが強くなる秘訣(ひけつ)である。

 速いスイングで打球する

 「威力」の要素には色々なものがある。
 ここでいう「威力」とは、回転とスピードの絶対値が高いボールのことで、ドライブマンであればスピードと回転のある強ドライブ、速攻型であればタイミングが早く、スピードのある強打、カット型であれば猛烈に切れた、低くて深いカット...などのことである。
 相手が台から離れている時は強打よりもストップ、相手が打ち気にはやっている時は高めの切れないカット...などが威力あるボールになることもあるがこういった威力は相対的なもので状況によって変わってしまう。普段の心がけとしては「スピード、回転の絶対値の高いボール」を連続して打つように心がけるのがよい。ミスの出ない範囲で、より威力のあるボール、すなわち、より速いスイングで打球するように心がけることである。
 選手が伸び悩む原因のひとつに、こういったスイングの速さを追求することを忘れることがある。打球の安定性やコースワークを研究することは大切だがそれだけではある一定の壁を破れない。どんな打法であってもスイングの遅い打法は、基本的に威力のない打法なのである。

 効果的なコースを考える

 速いスイングで、できれば速い打点で打球することが威力あるボールを打つ基本的な条件だが、その時にコースと打法を考えなくてはいけない。
 筆者は「一球一球、威力あるボールでコースを考えて攻める」と心がけた。単にボールにスピードと回転があるだけでは不十分である。守りのしっかりした選手にはボールの威力を逆用されてしまう。世界選手権に出場するクラスの選手はほぼ全員守りがしっかりしているから、コースを考えずに攻めたらまず勝てない。同じ威力のボールであっても、相手の待っている所に打つのとそうでないのとでは大違いである。
 実戦では「一球一球威力のあるボールで攻める」といっても難しいボールまですべてパワードライブや強打で攻めるわけにはいかないから、回転を主としたループ性のドライブや、ロング、ショート等でコースをつく場面が出てくる。そんな時に相手にどのコースに打つか分からせない打法とコースワークが必要である。
 得点を狙うにしても、相手の攻撃を防ぐにしても、一球一球効果的なコースを考えることが大切である。その時にどのコースをついたら効果的かの判断の材料としては、①相手の戦型 ②相手の現在の心境(読み) ③相手のフットワークのスピード...等が重要な要素となる。
 たとえば、フォアを警戒しているペンのドライブマンが中陣にいる時は、バック、バックとつけばよいし、相手が回り込んで攻めよう攻めようとしている時は、相手のフォアをつくコースやストレートコースがきく。またフットワークの悪い選手は相手が大きく動くようなコースをつく。試合の流れや相手の心理状況により、コースを考えていくのである。

 ストレートをつくことが大切

 コースのつき方として、試合では一般的にいってどんなコースが効果的かを考えてみよう。
 まず決定球の場合は、パワードライブにしても、スマッシュにしても、常にストレートに勝負球を打てるようにしておくことが大切である。ストレートは距離が短く、相手にすぐ届く。また、相手としてはストレートは待ちづらいため「ここ一本」で得点に結びつきやすい。ただし、その前提として、バックスイングの時に体をしっかりひねって、どのコースにも打てる体勢からストレートに決定球を打つこと。相手にコースを読まれないフォームであることが必要である。変化サービスを相手にツッツかせ、高い打点から3球目をストレートに逆モーション的なフォームで決定球を打てれば理想的である。台から下がった時や、威力のないボールでストレートをつくと、逆にクロスに狙い打ちされる危険性があるので注意しよう。
 フォア主戦のドライブマンの場合、ツッツキレシーブがバックへきた時は、思い切ってバックへ回り込み、クロスへ打つ体勢から体を思い切り回して、バックストレートにスピードドライブを打つ練習を十分にやる。低く切れたツッツキをスピードあるドライブで狙えるようになれば、甘いツッツキは目にも止まらぬドライブでストレートに打てるようになる。この時の注意点としては絶対に高い打点をとらえることである。
 次に、バックのツッツキでこちらのフォアをつかれた時は、これもストレートに強いドライブで狙い打ちする。やはり打球点は一番高いところ。スピードあるドライブ一発で抜き去ることが理想だが、相手ツッツキがよく切れている場合などは、できるだけ回転をかけて相手のオーバーミスを狙う。また相手のショートを浮かせて次球を狙う。右利きであれば左足を前に踏み込みながら、どのコースでも打てる体勢を作り、逆モーション的にフォアストレートに強ドライブすることが効くコツである。

 はじめにミドルへ打っておく

 威力あるボールでコースをつく時のもうひとつの基本は相手のフォアミドル攻めである。特に相手が両ハンドで全面を待っている時に効く。ただし、このコースはボールに威力がないとフォアハンドで狙い打ちされる恐れがある。相手のツッツキが甘くて狙い打ちができる時などにこのコースを使うと効果的である。試合の前半でこのコースを相手が警戒しだすと、両サイドへの集中力が薄れ、相手がガタガタに崩れることが多い。試合の前半で決定球を打てるチャンスがきたら、一度はミドルに威力のあるボールを打っておくことである。
 両ハンドで3球目を待つ相手に対するレシーブコース、両ハンドのラリー戦が得意な相手に対するショートでのつなぎコースにも、フォアミドル攻めは非常に効果的である。

 どんな打球でも威力があるほうがよい

 「一球一球威力のあるボールでコースをついて攻める」ことは試合の基本であり、本当に大切なことである。これは今まであげた強ドライブや強打に限らず、サービス、レシーブから、ツッツキ、ショート、つなぎのボールにいたるまで、すべての打球についてあてはまることである。
 サービスであれば「もっと回転をかけられないか?もっと回転を見分けづらくできないか?」。レシーブであれば「もっとコースを分かりづらくできないか?もっと強く払えないか?」。ツッツキであれば「もっと切れないか?もっとタイミング早く、速いボールでコースをつけないか?」。ショートであれば「もうすこしプッシュできないか?横回転やストップ性は使えなかったか?」等々。
 このように、あらゆる打法で「今、打ったボールは、もっと威力のあるボールで、もっとよいコースをつけなかったか?」を考え、一球一球の打球の威力を高める努力をすることが大切。そして、その一球が威力のあるボールであったら、それで満足するのでなく、さらに威力あるボールで連続して攻め、得点に結びつけてしまうことである。
 威力あるボールを打とうと心がける選手は必ず強くなれる。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1990年8月号に掲載されたものです。
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