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「作戦あれこれ」第170回 先手必勝

 長谷川語録の一項に、「先手必勝」の言葉がある。

 全日本ジュニア一回戦敗退


 技術が一流でも、作戦が二流だと試合に勝てない。その逆に技術が二流でも作戦が一流なら自分より強い相手に勝つこともできる。
 筆者が、このことを痛感したのは、高校1年の全日本ジュニア1回戦で、青森県代表の村上選手に負けた時である。村上選手のうまい作戦と攻撃の前に、筆者はほとんど先手が取れず、完全な作戦負けだった。
「技術だけでなく、うまい戦い方ができるようにならなくては全国大会で勝てない」
 筆者は、作戦の大切さと先手を取ることの大切さをしみじみ思い知らされた。
 高校1年の時の筆者の卓球は、フォアハンドドライブ主戦で、ボールに威力はあったが、サービス、レシーブや台上ボールの処理が甘く、攻めさせてくれる選手には強いが、村上選手のようにうまいプレーをする選手には、先手を取ることができない大味(おおあじ)な卓球であった。
 また、守りがある程度できたため、相手のレベルが低いうちは、レシーブや台上処理はとりあえず入れておき、守って得点することもできた。しかし、村上選手のように先手を取ることがうまく、その後の攻撃ミスのない人には、まったく打つ手がなくなってしまったのである。
「攻撃対攻撃では先手必勝。レベルが上がれば上がるほど先に攻めなくては勝てない」
 そう考えた当時の筆者はサービス、レシーブを中心に先手を取るための練習に全力を注いだ。
 その内容は
1、レシーブから先手を取れるよう、威力のあるボールで攻めていく
2、厳しいサービスを出して先手を取り、威力のある三球目攻撃をする
3、レシーブで、ツッツかざるをえなくなった場合には、鋭く切ってツッツく
4、レシーブでショートを使う場合は、押しを加えてコースをつく
...といったものであった。
 当初はレシーブの時のミスも増えたが、先手を取ることを意識した練習を続けた結果、レシーブや四球目攻撃での得点が目に見えて増え、より攻撃的なプレーをすることができるようになった。8カ月後のインターハイでは、シングルスで準決勝まで勝ち進むことができた。

 相手の読みをはずし先手を取る

 攻撃対攻撃の試合では『先手必勝』である。
 現役時代の筆者は、相手の強ドライブやスマッシュを中後陣のドライブやロビングでしのぎ、相手を揺さぶって反撃に移るオールラウンドプレーが得意だった。中国の速攻選手やドライブマン相手には、作戦的に、守り7割のプレーをすることさえもあった。
 しかし、そんな筆者でも、初めから弱気になって守りのプレーをしようとした時は、得点力が下がり、プレー内容が悪かった。「先手必勝」を心がけ、サービス、レシーブから得意のフォアドライブに結びつけ、攻めきれない時だけしのぐようにした時のほうが、はるかに内容が良かった。
 というのは、こちらが先手を取るようにすると、相手は「先に攻めなくては!」と焦り、こちらがしのいだ時に打ちミスが出る。ところが、こちらが初めから守ろうとすると、相手はその様子を見て、じっくり攻めてくるので打ちミスが出ない。逆に、こちらは守りぐせがついていて、打とうとした時に攻撃ミスが出る。「相手より先に積極的に攻める。先手必勝」これが攻撃対攻撃の試合の基本である。
 しかし、『先手必勝』というのは、なんでもかんでも打って攻めていく、ということではない。無理にオールスマッシュしようとすれば自滅になるし、ドライブしよう、とすれば台上ボールを攻められなくなる。積極的な攻撃精神を持ち、相手の読みをはずして、相手より先に可能な限り威力のあるボールで攻めるようにする。これが『先手必勝』なのである。
 その意味でストップにしてもツッツキにしても威力のあるボールでよいコースをつけば、十分その役割を果たすことができる。そして、その後、ドライブやスマッシュに結びつけて、とどめを刺していくのである。

 サービス強化で先手を取る

 それではサービス、レシーブから、どのように先手を取っていくか、その具体的な方法を考えてみよう。
 サービスからの作戦としては、まず相手にどんなサービスを出すか読ませないことである。
 これはサービスの回転を読ませないことでも、コース、スピードを読ませないことでも良い。相手がレシーブミスしたり、やっと入れてくるだけのレシーブになるように、サービスを磨くことである。
 例えば全日本学生選手権に四連覇した楊玉華(東北福祉大。現・太陽神戸三井銀行)のように、相手のバック前へ出すフォアハンド下回転サービスの巧みな変化だけで、相手にどんなサービスがいくか、その変化を読ませない方法もある。
 また、中国女子チャンピオンの鄧亜萍のように、フォーム、コース、スピードを次々に変え、連続して相手の意表を突いて、相手に変化を読ませない方法もある。
 どういった作戦を取るにしても、サービスが良ければ、一番確実に先手を取ることができる。サービス練習だけは一人でもできるから、中・高生であれば休み時間を使ってもできるし、家に帰って畳の上ででもできる。カットサービスにしろスピードロングサービスにしろ、全力でスイングして狙ったところにボールがコントロールできるようになれば、まずは合格である。
 自分の得意な三球目攻撃に結びつけるためのサービス練習は、いくらやってもやり過ぎということはない。ただし、新しいサービスを練習したときは、必ずそのサービスから三球目を打つ練習をしておくこと。新しいサービスに回転がかかっていて、威力があればあるほどサービスの回転がレシーブに残っていて打ちづらい。サービスだけの練習ではなく、そのサービスからどのように先手を取って攻めていくかの練習を必ずやろう。

 サービスコースを工夫する

 一般的にいって、サービスで先手を取って攻めるためには、コースを良く考えて出す必要性がある。同じサービスでも出すコースによって威力が変わる。相手の弱点を見つけてサービスを集めたり、相手の予想するコースをはずして出すことがサービスで先手を取るコツである。
 頭に入れておくと得なのは、相手が苦手なコースから最も遠いコースがやはり相手の苦手なコースになると言うこと。つまり通常はバックへの大きいサービスに対して強い選手でも、弱点がフォア前であると、実戦ではフォア前を警戒するためにバック深くへのサービスに対するレシーブが甘くなる。同様に、バック前レシーブが苦手な選手はフォアへのスピードロングサービスに対して弱くなるものである。
 サービスを出す側としては、相手のレシーブが不安になるコースを早く見つけ、サービスに変化をつけて先手を取る。そして、相手の意識がそのコースに集まったら、機を見て相手の弱点から一番遠いコースを突く、というのが、一般的なうまい作戦である。

 得意のレシーブで先手をとる

 レシーブの時に先手を取るためには、なにより先手を取ろうとする積極的な意思が必要である。ミスを恐れて「とにかく入れておこう」というプレーが一番いけない。試合の出足は多少ミスが出ても、払ったり、ストップして相手の攻撃を防ぐレシーブをする必要がある。
 レシーブには幾通りもの種類があるが、先手を取るための積極的なレシーブとしては、
 ロングサービスに対しての、
1.スマッシュ 2.強ドライブ 3.ループ 4.(フォア、バックの)強打 5.プッシュ
 ショートサービスに対する、
1.台上強打 2.流し軽打 3.ストップ 4.切ったツッツキ 5.台上ドライブ...などがある。
 レシーブの理想は、これらのレシーブをすべてマスターし、状況によって使い分けることだが、まず初めは得意のレシーブを作るようにしよう。そしてそれを主体に徐々にレシーブの種類を増やすようにする。得意のレシーブからの先手を取るパターンがあれば、自信を持ってレシーブすることができる。
 実戦で筆者が先手を取るためにした工夫は、試合の前半では自分が苦手なコースを待ち、積極的に狙っていったことである。
 筆者に対して相手はバック前にサービスを出してくることが多かったので、フォアで狙って回り込み、ストレート、クロスに積極的に払って攻めるようにした。苦手のコースであっても読んでいれば攻めることができる。逆をつかれても、得意のコースにきたボールはなんとかレシーブすることができる。
 バック前へのサービスが効かないと思い、試合の後半、相手がサービスコースを変えてくることもあった。
 最近のプレーの傾向を見るとストップや逆を突く軽打はうまいが、ショートサービスを強く払って攻めるプレーが、少なくなっている。いつの時代になってもレシーブで先手を取るためには強く払うレシーブはかかせない。『先手必勝』。甘いサービスはレシーブから強気で払っていけるように練習しよう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1990年9月号に掲載されたものです。

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