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「作戦あれこれ」第172回 相手の目を見る

 相手を見ずにサービスを出す選手

 大会である選手がサービスを出した。変化の分かりづらいショートサービス。いいサービスである。ところが、このサービスは台上で2バウンドしてしまった。レシーバーがレシーブの構えに入っていないのにサービスを出してしまったのである。当然、判定はレット。サービスを出した選手は、また別のサービスを考えなくてはならないはめに陥ってしまった。
 こういったことが、かなりレベルの高い選手同士の試合でもまま見られる。
 これはいったいどういうことなのか?と考えてみると、①、それまでの試合の流れから、次の作戦とそのためのサービスを考える ②、卓球台について、相手の目を見て、相手の対応を読む ③、相手との間合いを計ってサービスを出す...というサービスの基本動作のうち、②~③の部分を省略し、自分のペースだけでサービスを出しているからに外(ほか)ならない。これではサービス自体の威力はあっても、相手の状況を考えて、そのサービスの威力を十二分に生かしきってだしているとは到底思えない。

 宮本武蔵の本に学ぶ

 長谷川語録に「相手の目を見る」の言葉がある。
 このことについては、以前にも触れたことがある。相手の目を見て、臆(おく)することなく、驕(おご)ることなく、正々堂々とプレーする。これは非常に大切なことである。スポーツマンらしい試合態度でみんながプレーすることはスポーツとしての卓球競技の価値を高める。技術一辺倒に陥りがちな最近のプレー傾向をみるにつれ、再びここで「相手の目を見て戦う」ことの大切さを考えてみたい。
 筆者が「相手の目を見て戦う」ことの大切さをはっきり意識し長谷型語録としてノートに書き留めるようになったきっかけは、大学1年の時に「宮本武蔵」の本を読んでからである。
 ご存知のように宮本武蔵は日本一の剣豪と称された人物だが、彼が自分の弟子にまず一番最初に教えたのが「相手の目を見て戦え」であったという。
 プレーヤーとしての頂点を目指していた筆者は、それまでの試合の経験から「相手の目を見て戦う」ことの大切さを感じていただけに、武蔵のこの言葉に強く共鳴した。

 相手の目から次のプレーが読める

 筆者はその後「相手の目を見る」ことを常に心がけた。
 相手の目を見て試合を運ぶと ①、相手の次のプレーを予測できる、 ②、精神的に気遅れせず、対等にプレーできる...ようになるのが大きい。
 中でも、相手が次にどんなプレーをしようとしているかを、相手の目を見て予測できると、試合で大変に有利になる。
 人間には感情がある。そしてクセがある。従って、相手の目、全体の動作を良く見ていると、相手が信号を出しているのが分かる。相手の目の色、無意識の動作から、相手がどんな心境で次に何をしてくるかが読めるのである。
 では、どんな目の色、どんな動作の時に相手はどんな作戦をたててくるのだろうか。具体例をいくつかあげてみよう。

 強気な目には先手をとれ

 こちらが相手の目を見ると、相手がにらみ返してくる時は、相手も気力充実。積極的に強気な攻めをしてくることが多い。
 そんな相手に対し、こちらがサービスを持っているからといって、甘いロングサービスを出したりすると、パワードライブやスマッシュで狙い打たれる。攻めよう、攻めようとする相手に対しては、相手が無理に攻めようとすればミスするようなサービスを出し、こちらが先手をとって相手を守勢に負い込むようにすることである。
 そこで、ショートサービスを出す時は、相手が強く払いやすいアップ系のサービスはさけ、強く下に切れたサービスを出す。攻めようとした相手が、やむなくツッツけば、思い切って3球目強ドライブで狙う。攻めようとしている相手、守りが弱くなりがちなので、こちらが思いきった攻めをすれば得点に結びつくことが多い。もし強ドライブできない場合は、ストレートにドライブしたり、強い回転のループをかけ、相手の攻めミスを誘うようにする。
 また、こちらをにらみつけてくるような相手がサービスを持った時は、思いきった3球目攻撃を狙ってくることが多い。ロングサービスや、良く切れたカットサービスから3球目ドライブや強打で攻めてくる。
 そこで、こちらもその得意の攻撃を防ぐため、レシーブから先手をとるようにする。ロングサービスを読んでストレートに攻める。切れたショートサービスであってもフォアへ鋭く払ってしまう...等々。そういう展開で先手をとっていけば、強気な相手の作戦はカラ回りし目の色も変わってくることだろう。

 弱気の相手にはミスせずに攻める

 こちらが相手の目を見た時、視線をさけようと下を向いてしまうのは弱気な時である。
 そんな時の相手は、無理な作戦はとってこない。ミスせぬように大事につなぎ、チャンスボールだけ攻めてくる。
 そんな相手には、相手が下を向いて弱気だからといって、レシーブからかさにかかって攻めようとすると足をすくわれる。
 相手は変わったサービスを出すことは少ない。こちらにレシーブから攻められないように、小さく低いサービスを切って出し、ていねいに、凡ミスしないように攻めてくる。従ってこちらが無理に攻めようとすると思わぬ失点が出る。相手の攻めはそれほど怖くないのだから、こちらもあわてず、球質を良く見て攻める。攻めながらのミスが出ないように注意する。
 弱気な相手がレシーブの時は切ったサービスを小さく出せばまず軽打かツッツキで安全に返してくる。またスピードロングサービスを出すと、ショートやドライブでつないでくるケースが多い。これは絶好の3球目攻撃チャンスである。相手のレシーブを読み、ボールを良く見て思い切って攻める。チャンスボールは相手がしのげないように全力で攻める。そして、難しいボールは、コースをついてチャンスをつくり、次を狙う。これが鉄則である。

 落ちつきのない目は奇襲を狙っている

 相手の目を見た時に、目は落ち着きがなくキョロキョロし、顔は平静さを保とうとしているような場合がある。こんな時は相手が意表をつく作戦を狙っているケースが多い。
 フォアハンドサービスが得意な相手がこういった目つきをした時は、まずフォアへのロングサービスに注意する。あるいは逆モーションでフォア前にサービスを出し、3球目を思いきって狙ってくることもある。
 こんな時は、こちらも普段と変わらないような表情でレシーブにつき、心の中ではストレートのロングサービスに備える。そうすればフォアへロングサービスがきた時に「待ってました」とばかりに反応して、ストレートに強攻することができる。
 フォア前に逆をついてサービスを出された時も、狙っていてクロスに払うのが理想である。この時も、普段と変わらない動作で、心の中でフォア前サービスを狙っておくのである。
 目に落ちつきのない相手がサービスをもった時は、とにかくこちらの意表をつくような逆モーションサービスやロングサービスやこちらの一番強いところに出してくるサービスなどが多くなる。相手の目の色を見ていれば、何げない動作で相手の意表をつくサービスを逆に意表をつくレシーブで逆用し、相手に「何をやっても通じない」と思わせることができるのである。

 目の色はもちろん一挙手一投足を見る

 相手の目を見ることで相手の次の作戦はかなり読める。ところが百戦錬磨の選手が相手となると、目の色だけではなかなか相手の心理が読めない。目の色を見ると、いかにもやる気がなさそうで弱気に見えるのに、鋭くスキのない攻撃をしてきたりする。
 こんな相手に対しては、目だけでなく、顔の表情、体の動き等、一挙手一投足を見のがさないようにしなくてはならない。そうすれば、目や表情はやる気がなさそうであっても、体の動きからやる気十分であることが読めたり、逆モーションサービスを出す時は、一瞬、表情が固くなる...などの相手のクセが読めたりする。
 試合の出足から、相手の目の色はもちろん、そういったすべての反応を注意深く見ていると、ゲームが進むにつれて相手の手の内が見え、相手のプレーを読んで自分のペースで試合が運べるようになってくる。

 お互いの精神面を高めるために目を見る

 相手の心理を読む以外の相手の目を見る効果は、自分の精神面を高めることにある。
 武蔵が弟子に「相手の目を見ろ」と言ったことを知り、筆者は「卓球は剣の道と同じだ。相手から目をそらせたほうが負けだ」と強く感じた。
 しかし、卓球はスポーツであり果たし合いではない。相手をにらんで威圧するような試合ぶりは感心したものではない。むきになってにらんでいるようでは「冷静さがない。何も考えていない」と相手に逆に心理状態を見抜かれてしまう。
 自分の精神を高め「相手と共にベストを尽して戦う」という目的で相手の目を見る。そのためには、相手を尊敬し、冷静に相手の心理を読むように相手の目を見ることである。
 そうすれば、相手に不快感や敵対意識を持たせず、自分の集中力も乱れない。
 臆することなく、お互いがベストを尽し最高のプレーをするために、相手の目を見てプレーしよう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1990年12月号に掲載されたものです。

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