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「作戦あれこれ」第173回 世界のトップを目指すには

 1991年日本の卓球は!?

いよいよ1991年。21世紀まであとちょうど10年。2001年からが21世紀という計算でいくと、1991年からが本当の1990年代突入ということになる。
 90年代の卓球、そして21世紀の卓球はどんなふうになるのだろうか?白いユニフォーム、カラフルな競技場、リッチなスポーツとして卓球は新しく生まれ変わることだろう。21世紀中には、世界の中の誰かが、宇宙空間(ロケットの中)で卓球を初めてプレーした人として名を残すことだろう。
 そんな新春を想いつつ、ではチャンピオンスポーツとしての今後のプレーはどのようになっていくのだろう、と考えた。
 11月に観戦したワールドカップ、ジャパンオープンでの世界のトッププレーヤー、とりわけスウェーデン勢のプレー内容はすばらしかった。前陣での速い攻めと守り、中陣でのドライブ戦の強さ、後陣でのロビング+カットでの粘り...。あのオールラウンドなプレーは1990年代といわず、おそらく21世紀に入った時点でも通用するレベルだろう。反面、日本選手は、ワールドカップで、斎藤(日産自動車)、松下浩二(協和発酵)がベスト8、ジャパンオープンで渋谷(川鉄千葉)、星野(太神三井銀)がベスト8、星野が団体戦で中国から2勝を上げた活躍が光る程度で、世界との差は大きいと言わざるをえない。

 後追いではチャンプになれない

 ワールドカップ、ジャパンオープンではスウェーデンのシェーク両ハンドドライブが勝ったため「卓球はシェークの両ハンドドライブでなくてはダメだ」と感じる向きが多いだろう。実際、両面裏ソフトによるオールラウンドプレーは、現在のルール下において、勝ちやすい要素をたくさんもっている。
 しかし、同じ11月に、同じスウェーデンのトップが参加したワールドダブルスではペンドライブ型の劉南奎・金擇洙(韓国)がスウェーデン、ヨーロッパ勢を破って優勝。その後のワールドサーキット(チャンピオン大会)でも、カットのリグンサンがスウェーデン勢を連破して世界一の王座についている。
 ワールドカップ、ジャパンオープンのスウェーデンの勝利を見て「シェークの両面ドライブしかない」と感じるのは自然な心理である。しかし、かつてループドライブが出現した時には、「もうこれでカットは絶対に勝てない」と言い出す人がいた。また中国の表ソフト速攻が勝ち続けた時には「今後は表ソフト速攻でなくては勝てない」と言い出す人がいた。しかし現実はどうであろうか?
 たしかに用具の発展と共に、一枚ラバーで戦うよりも、一般的には表ソフトで戦うよりも裏ソフトのほうが勝ちやすいという傾向はある。合理的な、そしてそういう歴史の伝統のあるヨーロッパでは90%以上が裏ソフトになっている。
 しかし、勝ちやすい、勝ちづらいといったことはそれだけがすべてではない。かつて中国の表ソフトが勝ち続けた時、中国のある指導者は「今は表ソフトのショートが勝ちやすい。しかし、これは相手との関連が深いことだから、状況が変わった時は中国も対応しなくてはならない」と述べている。この柔軟な考え方が必要である。
 中国が勝ったら表ソフト速攻のマネを、スウェーデンが勝ったらスウェーデン卓球のマネをという後追いの発想ではチャンピオンになれない。「日本と外国では社会のシステムが違う」というのは別の問題で、技術面で言えば「今のチャンピオンに勝つにはどんなプレーが必要か」を追求することである。その過程において、できること、できないことが社会体制上でてくるのはやむをえない。

 個性をいかすそれが大切

 卓球は個性のスポーツである。個人個人にとって、どんな戦型を目指すか、どんなプレーを目指すかは非常に重要であるが、各人の個性があるため「こういった戦型でなくてはならない」といは言えない。その時代にあった勝つための要素は追求しなくてはならないが、自分の個性にあえばリグンサンのようにカットで2度も3度も世界トップの大会で優勝できるし、劉南奎のようにペンでもオリンピックで金メダルをとれる。自分の個性を生かせば、ペンでも、シェークでも、速攻でも、カットでも、ドライブでも、チャンピオンになる道は開かれているのである。

 スウェーデンは全体のレベルが高い

 さて、それでは現在世界のトップの技術を見てみよう。
〔台上処理〕ストップレシーブとストップの狙い打ち。そこから両ハンド攻撃に結びつける
〔前陣攻守〕相手ドライブを前陣ではね返しチャンスに結びつける。相手ドライブを待ちうけフォア前陣カウンタードライブ
〔バック技術〕極めて多彩。ドライブ、強打、横回転ショート...。現在の日本のショートではバック対バックでつぶされる
〔ラリー戦〕中陣フォアドライブの打ち合いで日本に負けない。ロビング、カットができる

〔サービス〕中国を上回る
〔レシーブ〕多彩で威力がある
〔作戦面〕卓球を良く知っている。アジアの選手のプレーを研究している。かけひきも上手...
このように、スウェーデンのトップは、ほとんどの面で日本選手を上回っている。「バックを強くしろ」「ストップをうまくしろ」と単発的に技術面を改良した程度ではとても勝てない。基本的な卓球に対する取り組み方、前向きな姿勢が必要なのである。
 スウェーデン勢のレベルは高い。しかし、これはシェークだから強いということだけではない。
 たとえばワルドナーはフォアへは巻き込むカーブドライブ、バックへは流すシュートドライブ、相手のループに対しては強い横回転を入れたショート...などのテクニックを見せる。こういった技術はシェークのバックドライブなどとは違い、むしろペンのドライブ選手が生み出すべき技術である。しかし実際にはペンのドライブマンでこういった技術を使える選手はドライブする時の劉南奎ぐらいで、ペンの誰よりもワルドナーのほうがうまい。もしジャパンオープン準決勝で、アペルグレンに対したキムソンヒがこういったテクニックを持っていたらもっと違った展開になっていたことだろう。
 ワルドナーのフォアハンドのドライブやカット打ち、アペルグレンのフットワークとフォアドライブなど、ペンの選手と比較してフォアハンド技術でむしろ上回っている。ペン、シェークの違いより、ヨーロッパ勢のほうが卓球に対する研究が進んでいて、それをシェークの特長を生かして実現させているということなのである。

 ラリー戦でスウェーデンに勝て

 現在のスウェーデン勢に勝つには、彼らの守備を打ち抜くパワーが必要である。パワーがあればうまさにも負けない。たとえバック対バックで押されてもフォアの打ち合いになれば圧倒できるというのなら怖くない。どういう展開にすればよいか研究すれば道が開ける。それが、バック対バックでも勝てず、ようやくフォアに結びつけても勝てないというのではチャンスがない。
 彼らには同レベルの競り合いの中でしか勝てないと考えるべきである。これだけ国際交流が進むと、お互いがビデオ等で研究しあうため、サービス、レシーブや小手先のテクニックだけでは勝てなくなる。卓球の深さや、スポーツマンとしてのレベルの高さが勝敗を分けるようになってくる。彼らに負けないパワーを身につけ、動きの速さ、正確さで彼らを上回ること。基本的な技術レベルの高さを追求し、彼らにラリー戦で勝てるように努力していかない限り金メダルへの道はない。
 現在の日本のトッププレーヤーがスウェーデン選手と今以上に戦うためには、①パワーアップ ②前陣での守り ③レシーブ力...がまず必要である。
 「パワーアップ」の目標は、エースボールのフォアドライブの打ち合いになった時に打ち負けずに、スマッシュまで持っていける気迫と体力。
 「前陣での守り」は、スウェーデン勢の両ハンドドライブを前陣で数本しのぎ、あわてずにフォアドライブ戦に持ち込めること。この練習は威力あるドライブを打てるトレーナーに思い切りドライブをかけてもらって止めるのもよいし、ロボットマシンでスウェーデン勢よりはるかに威力あるドライブを出してもらってしのぐ練習でもよい。
 「レシーブ力」はスウェーデン勢のサービスを研究し、サービス+3球目でアッサリ得点されないこと。研究しておけばたとえ得点されてもガタガタと崩れることにはならないだろう。
 斎藤、小野は11月の大会で、アペルグレンにほぼ互角の試合内容で惜敗した。幕張では十分チャンスがある。期待したい。

 日本には若くて有望な選手が多い。すでに頭角をあらわしている選手もいるが、無名であってもすばらしい才能をもった選手もいる。そういった若い選手達には、あせらず5年後、10年後を見据えて、体作りと基本打法の強化に取り組んでいってもらいたい。
 台上処理にしろ、バック系技術の強化にしろ、たしかに小さい時から何でも取り組んでいくことは大切である。しかし小さいうちから点を取るテクニックと両ハンドの合わせ打ちばかりのプレーでは、将来、大きな壁にぶつかってしまうことだろう。
「努力に比例して成果がある」1991年。日本選手の飛躍を祈りたい。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1991年1月号に掲載されたものです。
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