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「作戦あれこれ」第174回 ウォーミングアップ

 冬の大会での不本意な敗戦

 冬は寒い。
 朝一番の大会会場で震えながら出番を待っている。
 突然、自分の名前がマイクで呼ばれる。
 あわててフロアに出る。
 コートにつく。
 手がかじかんで、ラケットがしっかり握れない。
 数本乱打すると、たちまち、「ラブ・オール」の声。
 体は冷えたままである。
 サービスのトスもうまく上がらない。
 全く調子がでない。
 こんなはずじゃないのに...。
 と思っているうちにゲームセット。
 不本意な試合。
 不本意な敗戦。
 何のために練習を続けてきたのか分からない...。

 ...こんな思いをした読者はいないだろうか?中高生や家庭婦人の大会ではよく見かけられる光景である。
 そういう筆者も、中高生の時は試合前にどんなウォーミングアップをしたらよいか分からなかった。似たような経験をしたこともあるし、その逆にウォーミングアップをしすぎて失敗したこともある。
 ウォーミングアップは大切である。とりわけ、この冬の間の大会では重要性が高い。
 長谷型語録に筆者は、「試合前、必ず入念にシャドープレーをしてからコートに出る」と心得を書いた。
 今回は冬の大会におけるウォーミングアップについて考えてみよう。

 ひと汗かいて試合に臨む

 冒頭の例をあげるまでもなく試合に与えるウォーミングアップの影響は大きい。同じレベルの選手同士の試合なら、直前のウォーミングアップ、コンディション作りのうまいへたで試合がきまると言っても過言ではない。もしウォーミングアップをしなければ、7対3の実力差があっても、強い選手が思わぬ取りこぼしをする可能性がある。
 こういったことは、頭では誰もがある程度分かっている。ところが実際に大会で行なわれているウォーミングアップを見ると行動が伴っていない。
 冒頭の例ほどではないにしろ一流に近い選手であっても、試合の直前にオシャベリしていたり、形ばかりのゆっくりとした素振りをするだけで、汗もかかずにコートについてしまう選手が目立つ。これでは少なくとも1ゲーム目の中盤までは体の動きが不十分で、調子がでない。ハンデをあげて試合をしているようなものである。
 ウォーミングアップで大切なのは、体が暖まるぐらい本気で動いて、心と体がリラックスした状態でコートにつけるようにすることである。普段、練習場で十分に練習をやり込んで汗をかくと、ラケットに当たれば何でも入るような状態になる。あの感じにもっていければ理想的である。
 過去、世界選手権を三回連続してとった荘則棟(中国)は、必ずひと汗かいた状態で試合に臨むので有名だった。荘則棟に限らず、世界チャンピオンになったような選手は十分なウォーミングアップをして試合に臨むのが常である。
 ウォーミングアップは、体を暖め、リラックスした状態で試合に臨めるようにすることが目的である。一流選手はシャドープレーを含めた十分なウォーミングアップをするのが常識だが、中高生の大会で、タイムテーブルが不整備なためにウォーミングアップに時間がかけられない時は、ゆっくりした素振りをくり返すより、ダッシュなどで一汗かいた状態にしておくほうがよい。

 やらなくてもやりすぎてもまずい

 ウォーミングアップの方法は体力、その場の状況によって千差万別である。やらないのはもちろん論外だが、やりすぎもまた問題がある。
 朝一番の試合の前は十二分にウォーミングアップすることである。そしてトーナメントが進み、調子が出てきたら量を少なめにする。暖かい時より寒い時のほうが体を暖めるためのウォーミングアップの量は多めになる。大会で勝ち進もうと思ったら、十二分にウォーミングアップしてもバテない体力を身につけることが不可欠である。
 高校時代に筆者は「試合直前までなるべく多く練習する。練習をやり込んで負けるのは仕方がない」と考えていた。そのため、一回戦から絶好調でプレーできたこともある反面、高校一年の時の全日本ジュニアのように、練習をやりすぎて疲れてしまい、肝心の試合の時に動きがにぶくなり敗れたことが何回かあった。
 ところが選手生活を続けるうちに、会場の都合で試合前に台について十分な練習ができず、体操、柔軟体操とシャドープレーだけで試合しなくてはならなくなった。大学一年の秋の東日本学生選手権の時である。不安であった。ところが不思議なことに調子がいい。台についての練習はできなくても、ウォーミングアップだけでいい結果がでた。シャドープレーでいいイメージづくりをすることで、台について練習するより、いい効果があげられたのである。
 それでそれ以後は、無理に台について猛練習して疲れるようなことは避け、ウォーミングアップでベストのコンディションづくりをするようになった。
 ウォーミングアップで疲れて試合に負けては何にもならない。冬の大会で、試合と試合の間隔が長い時はウォーミングアップを多めにするが、短い時は少なめにして試合に余力を残すようなコンディショニングが望ましい。
 スウェーデンのプロ選手たちが、会場でそれほど多くウォーミングアップをせず、時にはトランプなどをしてリラックスしているのは、その辺の呼吸をよく心得ているからにほかならない。大事な試合をいきなりやるような時は、彼らは十分ウォーミングアップをしてベストのコンディションにもっていく。疲れないほうが得策と感じた時はリラックスする。中高生がそのマネをしていつもリラックスしていたのでは全く調子のでないうちに負けてしまったりする。

 短時間に、激しく汗をかくように

 レベル、体力によってウォーミングアップのやり方は違って当然である。
 体力には自信があるが調子のでるのが遅かったり、緊張しやすいタイプの選手は多めにやればよいし、調子はすぐでるが、体力に自信のない選手は少なめにするほうがよい。
 小中学生や家庭婦人の選手はそれほど多くやる必要がないが、参考までに、筆者が現役時代にタイムテーブルのはっきりした大会で行なっていたウォーミングアップをあげてみよう。時間は全部で20分程度である。
①、体操と柔軟体操
②、スマッシュ、強ドライブの素振り
③、両ハンド強打の素振り
④、相手の強打を前陣で止める素振りとイメージトレーニング
⑤、レシーブ強打のシャドープレー
⑥、レシーブから4~6球目のシャドープレー
⑦、サービスから3~5球目のシャドープレー
⑧、飛びつき、ショートから回り込みのシャドープレー
⑨、相手のプレーを想定してのシャドープレー
⑩、ヤマ場で使う得意な戦法のシャドープレー
⑪、フットワークのシャドープレー
...そのほか、ダッシュ、モモ上げ、ツイスト(上体を回す)
...などのトレーニングも行なった。ひとつの種目にかける時間は短い。良いイメージをつくり、良い体の動きができればよい。短時間に激しく、汗を十分かくように行なった。
 このように、トーナメントの初戦や団体戦の時には20分ほどかけてみっちりウォーミングアップを行なう。長く時間をかけて、あまり汗のでないようなウォーミングアップは行なわない。全力でベストのウォーミングアップを行なうと、試合に対して「やれる!」という自信がついてくるものである。

 最高のプレーをするイメージをつける

 ウォーミングアップでシャドープレーする時、その効果を高めるために筆者は次のようなことを心がけていた。
①、心を込め、自分が最高と思う体の使い方でスイング
②、いらない力を抜き、鋭く速く振るクセをつける
③、手だけでなく、正確に足を動かすようにする
④、試合と全く同じ気迫でシャドープレーする

 ウォーミングアップの基本は体をしっかり動かして暖めることだが、シャドープレーをやる時にそれだけではもったいない。短時間のうちにいいイメージをつくり、精神面をも高めることである。
 試合で出足が悪いと最後までズルズルといってしまう。出足で安全にゆるいドライブをするクセをつけると、肝心の時にスマッシュしようとしてもできなくなってしまう。これはスタートが悪いからである。
 シャドープレーで速いスイングをして、チャンスボールは足を動かして高い打点でスマッシュしていくイメージトレーニングをしておく。すると試合の出足からそういったプレーができるようになる。良いクセもつけられるのである。
 冬の大会はウォーミングアップをしっかりやる選手にとっては強い選手を破るチャンスでもある。寒い時の試合はチャンスと考え、ウォーミングアップをしっかりやろう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1991年2月号に掲載されたものです。

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