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「作戦あれこれ」第176回 打ち合いに強くなる秘訣

 打ち合いの強さがスウェーデンの強さ

 世界選手権千葉大会ももう目前。優勝のゆくえは予断を許さないが、男子はやはりスウェーデン勢が優勝候補の筆頭である。
 スウェーデン勢が、過去20年以上にわたって世界で勝ち続けてきた中国を破った要因は色々とあるが、何といっても打ち合いになった時に中国以上の力があることが大きい。スウェーデンはじめ、アジアの韓国、朝鮮などが、サービス、レシーブ力は中国とほぼ互角、そしてラリーに持ち込めば中国以上、というオールラウンドな力をつけてきたため、中国の絶対性が崩れた。中国の中からも、現代の卓球を考え「今後、表ソフトのプレーは難しい。打ち合いでオールラウンドなプレーがしやすい裏ソフトのほうが上」という指導理論が打ち出された。また、女子の世界チャンピオンは連続して中国から出ているが、ここ4年間は中陣両ハンドドライブによる打ち合いを得意とする、シェーク両ハンドオールラウンド型の何智麗と喬紅がチャンピオンとなっている。打ち合いに強い選手が世界のトップを占めているのが現状である。

 小手先の技術では勝ち抜けない

 用具やサービスの出し方が制限され、しかもビデオ等による研究が発達した現代では、サービス+3球目や、レシーブ+4球目だけで一方の選手が圧倒的に有利になることは極めて少なくなってきた。いきおいラリー戦になる。アペルグレンやワルドナー(スウェーデン)、グルッバ(ポーランド)らのように、守りとラリー戦に強く、それでいていつでも速攻をかけられる選手が活躍する時代になってきたのである。
 ペンの選手においても、劉南奎や金擇洙(韓国)、キムソンヒ(朝鮮)らはサービス+3球目パワードライブを武器に、レシーブ、バック系技術等のレベルも高いが、根底には「打ち合いになればヨーロッパには負けない」自信とラリー戦の強さがある。そういった選手が活躍しているのである。
 卓球は小手先のテクニックだけでは強くなれない。スポーツの原点である、より強く、より速く、より正確に、を心がけ努力する、打ち合いに強い選手が勝ち上っていくのである。

 打ち合いになったら絶対に負けない

 打ち合いに強くなることは非常に大切なことである。
 筆者はシェーク両面裏ソフトのドライブ型で、中陣での両ハンド(フォアドライブ、バックロング)を主体に、前陣での強ドライブによる速攻と後陣でのロビング、カット混じえて戦うタイプのプレーヤーであった。そのため、打ち合いを重視していた。
 どの戦型であってもそうだが、とりわけ裏ソフトのドライブ型は「打ち合いになったら絶対に負けない」ラリー戦の強さがほしい。
 そこで、裏ソフトのドライブ型を中心に、筆者の体験を基に、「どうしたら打ち合いに強くなれるか」を考えてみたい。もちろん、他の戦型の選手にとっても共通している、参考になることが多いことと思う。

 打ち合いに強くなるチェックポイント

 ラリー戦での打ち合いには、前陣でのプッシュやハーフボレ―から、後陣でのロビングやカットにいたるまで色々な技術があるが、ここでは中陣でのドライブ(ロング、強打)戦を考えてみたい。
 中陣(時には後陣)からドライブ、強打で正確にコースをついて相手コートに入れるのは、そうやさしい技術ではない。そのため、重心移動はじめ、基本を守った正しい体の使い方をしているかどうか、が問題になる。
 ページの関係で、正しい体の使い方の基本については詳しく説明できないが、チェックポイントをいくつかあげてみたい。その他の点については、連続写真やビデオで一流選手の体の使い方を良く見て、勉強しよう。
①しっかり動く
 しかり動くためには事前にある程度の予測が必要。相手の打球をある程度読んでおき相手が打ったら、自分がドライブ(強打)で攻めやすい位置まで素早く動く。この動きが不十分だとしっかりスイングして威力のあるボールを打つことができない。相手のドライブは深かったり、浅かったり、右へ沈んだり、左に伸びたり多種多様である。特に浅いループ性ボールに対してはしっかり前に踏み込もう
②威力あるボールを打つ
 打ち合いに強くなるコツは、相手の予測していないコースへ威力あるボールを打つこと。そして相手の打球の威力が落ちたところを連続して攻め込めるように練習することである。そのためには、バックスイングで体をしっかりひねってコースを読まれないようにし、スイングを速くして、インパクトの時に手首を効かせて打球すること。曲がるドライブやスマッシュが打てるようになれば打ち合いの強さは相当なものになろう
③ボールを最後まで見る
 最後まで、とは、ラケットに当たる瞬間までの意味。レシーブの時はボールを良く見る選手でも、ラリー戦になって大きく動くと、ボールから目が離れる。そのため空振りしたり、ラケットのはしに当ててしまったりする。ボールを最後まで見るようにすると、ドライブの曲がり方が良く見え、動かないでフルスイングして空振りするようなことが少なくなる
④順足で打つ
 順足とは、右利きならフォアハンドを打つ時は、左足前、バックハンドを打つ時は右足前で打つこと。基本は後ろにある足から前にある足に必ず重心移動しながら打つことである。前陣では時間の関係で、特にバックハンドは逆足で打つことも多いが、ある程度ハードヒットが必要な中後陣では感心しない。また順足で構えると前後の打球幅が広がり、ふところが広くなる。これはボールの伸びが打球に大きく関係する中後陣においては大切なことである
⑤ボールを引きつけて打つ
 この意味は、自分の最適打球点までボールを引きつけ、前へ踏み込みながら、腰の回転運動を使って鋭く打つこと。打球ポイントが体の前すぎたり、後ろすぎたり、バラバラだと中後陣からボールコントロールすることは難しい。ドライブマンだけでなく、カットマンにとってもカットを安定させるための大切なコツである
⑥ムチャ打ちしない
 しっかり動いて、引きつけて打つ時は、全力で振りきっても打球後のバランスも崩れず威力あるボールがだせる。しかし回転がかかっていて前に沈んでしまうボールや体から逃げていってしまうドライブに対して、ボールもろくに見ずにフルスイングしたのでは自滅してしまう。打ち合いになったら打ち勝つことが大事だが、ミスしないことも大事。難しいボールに対しては回転に変化をつけてしっかりつなぐ。それが緩急の変化になる。相手がつないできた時は、変化を良く見て、前へ踏み込んでたたいていこう

 自信をもって打ち合いをしよう

 このように、ラリー戦は基本対基本の技術的な戦い、コース(ストレート、クロス)、回転、スピードの変化により相手の読みをはずす作戦的な戦い、になる。と同時に、それを支える精神面も大切である。
 ドライブマンであれば、打ち合いに自信を持ち「打ち合いにして勝つ。ラリー戦では絶対に負けない」気持ちが、何より大切である。「ラリー戦になって負けたらどうしよう」「ラリー戦になったら勝てない」という気持ちでは入るボールも入らなくなってしまう。
 打ち合いにして勝とうと思っていればプレーに余裕がでる。例えば台上の難しいボールに対しては「バックへ切ってツッツき、ドライブさせてそれをフォアへショートで回し、そこから打ち合いに持っていけばよい」と思っていると、打球後のもどりは早くなるし、チャンスボールは積極的に前に出て打てるようになる。気持ちが自分を強くするのである。

 練習方法と用具トレーニング

 筆者の試合の中で記憶に残るラリー戦はといと、全日本初優勝の時の木村興治さん(前年度チャンピオン)との試合、世界選手権団体初優勝の時の朴信一(朝鮮)戦、第2回アジア選手権決勝の郗恩庭(中国)戦などだが、こういった試合は、時に激しいラリーが20本以上続き、息もたえだえになった。
 打ち合いに強くなるためには打ち合いの練習をどれだけやっているか、それと体力である。
 練習としては、①ショートでオールに回してもらう ②強打対強打 ③ドライブ対ドライブ ④強打対ドライブ ⑤強打対強打のフットワーク ⑥サービス、レシーブの展開の後、フォアクロスの打ち合い ⑦中陣でのしのぎ ⑧ロビング...などをやると打ち合いに自信がつく。
 また用具も打ち合いの強さに関係が深い。特に用具の重さは自分の体格を考え、振り切れる範囲内である程度重くしたほうがよい。
 打ち合いに強くなると卓球が楽しくなる。打ち合いの練習、トレーニングをしっかりやろう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1991年4月号に掲載されたものです。
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