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「作戦あれこれ」第177回 3球目、5球目を考えてサービスを出す

 強い選手ほど先を読んで戦う

 将棋や碁では強い人ほど先を読む。
 何も考えずに、いきあたりばったりで手を進めるのがヘボ将棋。強くなってくると「自分がこうすると、相手はこうくる。そうしたら自分は...」と数手先を読む。上級者になると十手以上先を読むようになる。
「備えあれば憂いなし」である。将棋ほどではないにしろ、スポーツも読みが大切。強い人ほど先を読む。特に卓球のような知的なスポーツは読み・作戦が非常に大切である。
 試合で、それほどすごいボールがないのにいつも勝ち上がる選手がいる。それに対して、豪快なボールがあるのに、なぜか早い回で取りこぼしてしまう選手がいる。これは前者が相手のプレーを読み、ミスなく強打に結びつけるのに対し、後者が力まかせのプレーで凡ミスを多発させるためであることが多い。パワーがある選手が先を読んだプレーができれば、さらに勝ち進めるに違いない。

 ベテラン選手のうまい攻めに学ぶ

 試合会場で若い選手たちのプレーを見ていると「この選手は何を考えてサービスを出しているのだろう」と歯がゆく感じることがままある。
 カットサービスが大きくなってレシーブからドライブで攻められてしまう。せっかくいいサービスを出しながら、甘いレシーブに対して3球目を攻めない。相手がイヤがっている効いているパターンがあるのに違うことをやって自滅する...。
 こういったプレーを目にすることが実に多い。サービスを出す前に何も考えずに出し、相手がレシーブしてからどうしようか考える。そんな感じである。これではとてもうまい攻めはできない。
 実は筆者も、高校1年まではこれに近いプレーヤーであった。フォアのループドライブ一辺倒のプレーヤーだったこと、試合経験が不足していたことなどから、サービスを出した後の3球目、5球目の展開など何も考えずにプレーしていた。
 そんな筆者が3球目、5球目を考えてやることの大切さに気がついたのは高校2年の春の大阪遠征の時だった。
 今でも覚えているが、その遠征の最終戦で筆者は大阪ベテラン会の破部さんと対戦。ボールの威力には自信があり、「こんなおじさんには負けない」と思っていたところ、破部さんの実に頭のいいサービスからの3球目、5球目攻撃の前に、手も足も出ずに負けた。昇り坂であった筆者は、楽に勝てると思っていた試合に完敗し、大変ショックだった。
 しかし、同時に「本当の試合のやり方とはこういうものだ」と破部さんに教えてもらった思いだった。ああいうふうにやらなくてはいけない。単調な力攻め一辺倒だった筆者は、破部さんのサービスを持った時の多彩な攻めを参考にし、その後、サービスを持った時は「3球目、5球目をどのように攻めるか」考えてからプレーするようになってきた。
 自分でも思いもよらなかったインターハイシングルス3位入賞の好成績を収めたのは、その年の夏のことだった。

 試合の流れを考え良いサービスを出す

 サービスを持った時、一番大切なのは、まず良いサービスを出すことである。
 良いサービスとは技術的にはそのサービスだけで得点を狙えるような威力があること。回転、スピード、コース、そして相手をかく乱させるモーション、タイミング等の変化が、あればあるほどよい。甘いサービスを出すと、相手によいレシーブをされ、その後の3球目、5球目の展開が変わってしまう。だから、技術的にいいサービスを出すことは極めて大切である。
 しかし、毎日必ずサービス練習をし、狙ったところに狙ったとおりのサービスが出せるレベルの選手であれば、技術的に良いサービスを出すのは当然のこと。そう難しくはない。
 このレベルでの良いサービスというのは、試合の流れを大局的に見て、どういう3球目、5球目のパターンで攻めるか考え、そのパターンにもっていきやすいサービスを出すことである。
 つまり試合中盤の時点で「相手はフォア前の小さく切れたサービスが苦手で、バックへツッツいてくる。それをフォアへドライブすれば、勝負どころでまず得点できる」と読んだとする。そうしたら、その時点では、ロングサービスを多く使ってみる。そしてフォア前サービスを出した後は、フォアへ払ってきたら狙い打ちし、バックへツッツいてきたら、ツッツキでコースをつく。3球目ドライブするにしてもバックへ多く攻めておく。そうすると、本当に点が必要な時に得点できる。このようにして試合を組みたてるためにサービスを出すのである。
 もちろんこれはひとつの例で、実際は試合の流れの中で次々に変更してプレーしていく。手の内を知りつくした相手なら事前に序盤、中盤、終盤の作戦を立てておくこともできるが、初めて対戦する相手であれば、試合の流れを記憶していって、サービスを出す度に考えながらプレーすることになる。
 サービスを出す前に、そのサービスを出した後の展開を3種類ぐらいイメージしておき、サービスおよびその後の展開の注意点を頭に入れてからサービスを出すようにするのである。

 勝負どころでの攻めは必ず変えるようにする

 それでは、どのようなことを考えてからサービスを出せばよいか。参考のために、筆者がサービスを出す前に考えていたことを紹介しよう。
 3球目、5球目の展開を考えてからサービスを出すため、対カット、対ドライブ、対速攻、等、対戦相手によってそれぞれ考えることは違う。また同じ相手でも状況によって考えることは違う。そこで、今回は、筆者が最も多く対戦した表ソフト両ハンド前陣攻守の名手・河野満選手(青森商高教員。1977年世界チャンピオン)と対戦した時、山場で考えたことを紹介しよう。
 第1ゲームの山場、得点は19対19.試合はそんな状況である。
 河野選手のような、いつも準決勝、決勝で対戦するような強い選手と対戦する時は、山場での攻め方は必ず変えなくてはならない。サービスを変える。3球目のコースを変える。回転を変える。相手が、次は変える、と読んだ時は同じ作戦ということもありうるが、基本は戦う度に作戦を変えることである。
 さて、それまでの試合の流れから、今回は19オールで、フォア前に強く切った下回転サービスからの攻めが最良と判断したとしよう。この場合に、筆者がサービスを出す前に考える展開は次のようである。

 サービスを出す前に考えること

 山場で、筆者が低く猛烈に切れたサービスをフォア前に出した時、河野選手のレシーブは、①.バック前ストップレシーブ ②.フォアへ強めに払うレシーブ ...のどちらかになるケースが極めて多い。そのふたつのレシーブに絞ってまず3球目、5球目攻撃を考える。
 というのは、河野選手は、フォアへのレシーブ強打や、フォア前ミドル前へのストップ、ストレートへの流し打ち...なども非常にうまい。しかし、例えば、よほど決心してフォア前にヤマをはっているのでなければ、緊張した場面で、守りの強い相手に対し、猛烈に切れた低い下回転サービスをレシーブ強打するのは確率を考えると難しい。同様に、フォア前、ミドル前へのストップも、猛烈にサービスが切れているため、ちょっとでもレシーブがながくなれば3球目一発で狙い打たれる。ストレートへの流し軽打も、ゆるければ回り込んで、もしくはバックハンドスマッシュで狙い打たれるし、強く払おうとすればミスする確率が高い。
 そのように読み進んでいくと通常の河野選手の状況では、前途した①、②のバック前へのストップレシーブが、やや強めに安全なクロスへ払ってくるケースが多いと読むことができる。そして、もしフォア前への下回転サービスと決めた後、河野選手の様子がいつもと違うようなら、サービスを変えたり、待ちを変えたり、タイミングを変えてレシーブミスを誘うようにもっていく。そうして自分のペースにするのである。
 さて、一番可能性が高いのはバック前へのストップレシーブである。
 試合の中盤では切ったツッツキでゆさぶる作戦を使っても、勝負どころでは攻めなくてはいけない。そこで、河野選手がバック前にストップしたくなるような雰囲気で、猛烈に切って下回転を出す。そして、固くなってストップが大きくなればバックストレートにパワードライブ。もし返ってきたら、緊張した場面ではミスのでやすいフォアへ、次球も連続ドライブで攻める。
 次に考えるのは、フォアへやや強く払われた場合である。その時は待ち受けて、打点を落とさず、思いきり回転をかけたスピードドライブでストレートに攻める。このボールを狙い打つことは難しい。河野選手はショートしてくるが、回転を変化させておけば甘くなる可能性が強い。それを次球も思い切って回り込みバックへ威力あるドライブで攻める。バックショートでうまく返してきたらバックハンドでクロスにたたいてロング戦に持ち込む...。
 このように3球目、5球目の展開を考え、集中してサービスをだすのである。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1991年5月号に掲載されたものです。

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