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「作戦あれこれ」第179回 夏に気をつけること

 本格的な暑さの夏がいよいよやってくる。
 日本の夏は高温、多湿。大きく伸びるチャンスであると同時に体調を崩して失敗するケースも多い。この夏をどう乗り切るかが選手にとって大きな課題である。
 今回の「作戦あれこれ」は、暑さ対策を中心に、うまい夏の過ごし方を考えてみたい。
 ジュースを飲み過ぎた失敗談
 1988年8月に北京国際招待大会が行なわれた。
 昨年のアジア競技大会が行なわれた会場でもある北京工人体育館は大変な暑さ。人の熱気も加わって、座っているだけで汗が出てくる。そんな中で男子団体の準決勝が行なわれた。
 準決勝の日本の相手は朝鮮。ドライブの打ち合いが得意な強豪だった。
 この試合に出場した筆者は19歳。好調だった。若さと持ち前の腕っ節の強さで、ブンブン、ドライブをかけまくり、朝鮮から3勝を上げた。
 ところが、好事魔多し。暑くて体が動き調子が良い。その上、気合いが入っていた。そのため筆者は、かつてないほど動きまくり、試合後は全身の筋肉が痛みを感じるほど疲れた。
 暑さと疲れと喉の渇き...。空腹も手伝った筆者は1本350cc入りの炭酸入りの中国製ジュースを、立て続けに3本飲み干してしまった。
 アッという間に胃の調子がおかしくなった。
 甘い炭酸で腹が一杯になり、大食漢の筆者が夕食が食べられない。果物とジュース以外は喉を通らない。
 夜になり、冷房のない暑い部屋で寝ようとしたが、筋肉がほてり、顔や首筋から汗がダラダラ出る。眠れない。
 翌日は睡眠不足でさらに体調が悪い。全くの食欲不振。猛暑に負けて、その後の試合は散々な成績で終わってしまった。
 どのように水分をとるか
 暑い夏のコンディション作りは著者の例をあげるまでもなく難しい。正しい知識と暑さに負けないセルフコントロール(自己規制)が必要になる。
 大失敗の後、筆者は水分の取り方を意識的にコントロールするようになった。
 練習中や試合場での水分摂取は控え目に、そして食欲を落とさぬように、不足分の水分はスープや野菜、果物など食事中の水分から摂るように心がけた。
 また食べ過ぎによる消化不良を避けるため、腹八分目を守る。寝るときに汗をかくと眠れなくなるので寝る前には水分を摂り過ぎない...といった点も注意した。
 筆者のような失敗を避けるためには水分の摂り過ぎに注意することが大切である。しかしその反面、次のような水分不足からの熱中症(高温環境下での障害)にも十分警戒が必要である。
 水分不足による熱中症に注意
 暑くて蒸し蒸しする室内での練習、炎天下でのトレーニングが多い夏の練習は、常に熱疲労(高温下の運動による脱水からくる疲労。ひどい場合は失神する)、熱射病(異常な体温上昇により起こる、中枢神経障害)などを引き起こす危険性をはらんでいる。
 こうした熱中症は、体から水分が不足したときに起こりやすい。水分が不足すると、対応調節の機能がうまく働かなくなるからである。
 日本の夏は熱中症の起こりやすい環境にある。暑い中で水分を摂らずに練習を続けると脱水症状を起こし熱中症になる。特に30度を越える真夏日は十二分な注意が必要。体のできていない新人に、炎天下での無理な長距離ランニングをさせ、死亡させた例がスポーツ界には幾つもある。
 夏の練習で、正しいやり方で体力、精神力を鍛えることは必要。馴れ合いの練習では強くなれない。しかし、その反面、意味のない根性論を持ち出して、先輩風を吹かせたしごきをしてはいけない。正しいやり方で体力、精神力を鍛えることと、しごきとは別のものである。
 飲み過ぎも飲まなさ過ぎも注意
 人間の体は、特別暑くなくて汗をかかないときでも、1日に800ccの水分が皮膚から蒸発し、横になって寝ているだけでも最低1.3ℓの水分補給が1日で必要という。その分の水分補給をしないと、寝ていても脱水症状になる。
 まして夏の練習では、当然、十分な水分補給が必要である。トレーニングの専門家の研究によると、人間の体は体重の3%の水分が失われると運動能力が低下し、体温調整能力も損なわれるという。
 3%というと体重60㎏の選手で1.8㎏。実業団クラスの夏の練習では2~5㎏程度の水分補給(必要な量は個人差がある)が練習中に必要になる。
 夏の練習で練習中に1度も水分補給しないと、ほとんどすべての選手が体重の3%を越える水分を失い、危険、ということである。
 したがって、大量に汗をかく夏の練習では、できるだけ速やかに適切な量の水分補給を行なうことが望ましい。練習の合間の休憩時間には必要な水分を摂るべきである。全く休憩時間の入らないような練習プログラムは感心できない。
 問題はその摂り方である。
 飲み過ぎも、飲まなさ過ぎもいけない。
 昼の練習中にあまり水を我慢すると、夜になってものどの渇きを感じ、筆者の失敗例のようにジュースをガブガブ飲んでしまったりする。
 練習中は休憩の回数を多くし、水分を摂る。レモン、ほんのわずかの塩分(0.2~0.45%程度の塩水がよい)が準備できれば理想的。麦茶も良い。
 気をつけるのは、必要な水分はよいが、同じ水分だからといって、清涼飲料水やアイスクリーム等を摂り過ぎないこと。水分の摂り過ぎは食欲を減退させる。特に糖分の多いものを飲むと食べられなくなる。
 食事の前は飲むのを我慢して食事で水分を摂る。自分の内臓を大切にする。
 また夜寝る前に清涼飲料水やアイスクリーム等を飲んだり食べたりしない。不摂生はダメ。炎天下のしごきの代わりに精神力を鍛えるのはこんな時なのである。
 目標をもって課題に取り組む
水分補給以外の夏の練習の注意点を考えてみると
1 目標、課題を持つ
2 計画的に練習する
3 疲労を蓄積させない
4 練習時間を短く区切る
5 短時間に集中してやる
6 気分が悪くなったら休む
7 濡れたユニフォームは着替える。そのままで休まない
8 練習場の換気をする
...等が挙げられる。
 まず、なんといっても大切なのが「この夏、自分はなにをするか」の目標、課題を持つことである。
 「クラブで一番強くなる」「毎朝6時に起きてランニング。勉強と練習を5時間ずつする」といった目標や、「夏の間にロングサービスをマスターする」「毎日30分、フットワーク練習する」といった課題を持つ。そういった目標や課題があると、ではどうやって実行に移すか、健康管理はどうやるか、といった前向きの姿勢がでてくる。
 次に大切なのが、疲労を蓄積させないことである。
 短時間の合宿中だけの練習ならいざ知らず、計画的に夏の間に上達しようというのなら、1日の練習をヘトヘトになるまでやってはいけない。夏の暑さのなかでヘトヘトになるまでやると翌日になっても疲れが残り、結局マイナスになる。
 夏はウォーミングアップの時間が少なくてもすぐ調子がでて練習効果が高い。休憩を上手に取り、水分を補給したり、窓を開けてリフレッシュな空気を入れたりして気分転換し、卓球台に着くときはいつも課題を持って張り切った気持ちで台に向かうことが大切。短時間で効果的な練習をするよう心掛けることである。
 体力トレーニングも夏は普段より少なめにして体力を温存させ、その分練習に集中させるのが賢いやり方である。特に日中の日射しの強い時間帯に外で激しいトレーニングすることは避けよう。熱中症の恐れも強く、体力の消耗が著しい。その後、打球練習しても、疲労で、集中した練習は不可能だろう。
 トレーニングをするなら、練習に影響しない早朝や、日射しが弱まり、気温も下がってくる夕方や夜がいい。
 暑さに負けず夏を乗り切ろう
チームでトレーニングや練習をする時に注意する必要があるのは、体力のない選手や新人選手には無理のないメニューを作ってやることである。
 選手の体力、健康状態には個人差がある。全員が同じトレーニング・メニューを同じようにやることは避けよう。体力に応じたプログラム作りやグループ分けをすることで、体力のない新人選手に無理のない体力作りをさせてあげよう。
 また、暑さに対する抵抗力は慣れによって異なる。しばらく練習を休んで練習を再開する場合には、暑さに慣れる期間が必要。徐々に運動の量や強度を増やすようにしよう。
 ...このほかにも、睡眠を十分取るようにするなど、夏に気をつけることは色々考えられる。要は、根性論だけでなく、いかにしたら効果的に練習できるかをキチンと考えて練習に取り組むことである。
 顧問の先生やコーチ、仲間と共に色々考え、この夏を効果的に活用しよう。


筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1991年8月号に掲載されたものです。

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