その道をストイックに究めようとする者を「求道者(ぐどうしゃ)」という。40歳を越えてなお、ペンホルダーのフォア面のみを使い、シェークハンドの先鋭たちに抗う小西海偉(東京アート)を言い当てる言葉ではないだろうか。
この特別企画では、ペンドラ(ペンドライブ型)というプレースタイルを究めようとする求道者・小西の卓球観と技に迫る。
前回は、ペンドラの生命線であるフォアハンドドライブを紹介した。今回は、小西の多彩なショートテクニックにスポットを当てよう。
※本文の技術解説は右利きプレーヤーをモデルにしています
ショートが良ければ、どんどん自分のペースになる
--若い頃と今とではプレーが違うと思います。どのあたりが変わりましたか
意識しているのは、「無理しない」こと。例えば、水谷隼(木下グループ)みたいな感じでしょうか。フォアハンドで攻められないときに、バックでうまくつなぐとか、そのあたりの隼のプレーは勉強になります。
特に、40歳になって「うまさを出していかないといけない」と思っています。今の卓球はみんな速いので、20代の頃のように思い切り攻めるだけのプレーでは難しい。体もしんどいし、結局最後は勝てません。1、2試合はいいけど、3試合目あたりになると体がついてこない。
そう考えると、もっとうまい卓球に変えないといけません。
--「うまい卓球」とは具体的にどのようなプレーですか
若い頃と1番違うのは、「相手が嫌がるところを探すようになった」ことです。昔は、とにかく「自分のペースでプレーしたい」ばかりを考えていましたが、今はそれが難しくなっています。相手は自分の弱いところを攻めようとしているので、まずは相手の弱いところを探すように意識しています。
その次に、どうすれば自分がフォアハンドドライブを打てるのか。
試合では、いつもこの2つを考えています。
--「うまい卓球」の一環として、最近の小西選手はショートを多く使う印象ですが
そうですね。理想はオールフォアですが、今はなかなか思うようにできません。対戦相手は自分の卓球をしっかり研究していますから。
それに、自分の場合はバック(ショート)の調子が上がれば、そこからプレーの流れが変わるんです。どんどん自分のペースになる。ショートをうまく使えば、相手は嫌がってこちらのフォア側を攻めてくるので、自分に優位な展開になります。
若い頃と違ってオールフォアで勝つのは難しいので、今はこのような戦い方に変えています。
--ショートの種類も多彩ですね
最近では、特にカットスピン(カット性ショート)が効きます。前期日本リーグでも愛工大の木造勇人や、協和キリンの平野友樹にたくさん使って、かなりやりにくそうな顔をしていました。
普通のショートでは相手の打ち放題になってしまうので、ショートに変化をつけていかないといけません。
年齢を重ねる中でいろいろなショートを覚え、それらを効果的に使えるようになったという小西。この多彩なショートが、小西の長きにわたる現役生活を支える鍵だ。
ここからは、小西がショートの技術的なポイントについて話してくれる。
紹介してくれるのは、「基本のショート」「カット性ショート」「プッシュ性ショート」「ナックル(無回転)性ショート」「伸ばすショート」の5種類だ。
【基本のショート】
コンパクトなスイングを心掛ける
--ショートの基本的なポイントについて教えてください
まず、ラケットを体の真ん中あたりに軽く引きます。自分の場合は、そこからあまりラケットを引きません。ちょっと引いてから、すぐにラケットを前に動かしてショートします。そうして、スイングをコンパクトにしないと、伸びてきたボールに対して詰まりやすくなってしまうからです。
--指にはどのように力を入れていますか
フォアハンドと異なり、人さし指に力を入れます。親指は特に意識していません。
また、後ろの指(中指・薬指・小指)はフォアハンドを打つときと大きく変えないよう意識しています。そうすると、ショートとフォアハンドの切り替えを素早く行うことができるからです。
ロングボールに対する基本のショート
【カット性ショート】
斜め下へスイングしてボールの左をこする
--続いて、カット性ショートのポイントを教えてください
このショートは、ラケットをボールよりも少し横(フォア側)に構えます。ボールが来る直前だと詰まってしまうので、少し早めに構えてボールときちんと距離を取ります。
そうして準備したら、ラケットを少し斜め下へ動かすようにスイングして、ボールの正面より左をこするように打ちます。このように打球するとボールに横下回転がかかり、相手にとって取りにくいボールになります。
--カット性ショートはどのようなボールに対して使いますか
「このボールが来たら使う」というのは、特に決めていません。いろいろなボールに対してできるようにしておかないと、相手に分かられてしまい、カット性ショートができないようなボールばかり送られてしまいますから。
--使った後はどのような展開になりますか
相手はこちらのバック側にツッツキしてくるかループドライブしてくることが多くなります。相手がツッツキしてきたらフォアハンドドライブで攻めます。ループドライブしてきたら、ショートを使うか、カウンタードライブで狙います。
ドライブに対するカット性ショート
【プッシュ性ショート】
打球の瞬間に後ろの指に力を入れて打球面を安定させる
--次に、プッシュ性ショートについて教えてください
プッシュ性ショートは、それほど難しくありません。自分が意識しているのは、後ろの指(中指の側面)です。打球の瞬間に後ろの指に力を入れて、ラケットがふらふらしないようにします。0.1秒くらいのわずかな間、かなり集中して力を入れています。プッシュ性ショートの場合、このように力を入れないとオーバーミスしやすくなります。
--体の使い方でポイントはありますか
(基本のショートに比べると)右腰の力をもっと使って、後ろから前へ鋭くスイングします。
ロングボールに対するプッシュ性ショート
【ナックル性ショート】
ボールの正面または少し下を押すように打つ
--続いて、ナックル性ショートのポイントを教えてください
基本のショートはボールの正面より少し上を捉えますが、ナックル性ショートの場合は、ボールの正面もしくは少し下を押すイメージで打球します。ラケットを少し引き上げて準備したら、ラケットを斜め下へ押し出すように動かす感じです。そうすると、打球がナックル性になります。
--ナックル性ショートはどのような効果がありますか
このショートにはほんの少し下回転がかかっているので、相手は持ち上げるように返してくることが多くなります。そうすると、相手がオーバーミスしたり、こちらにチャンスが巡ってきたりします。
ナックル性ショートは、両ハンドを振る若い選手たちに特に有効です。
ドライブに対するナックル性ショート
【伸ばすショート】
斜め上にスイングして、少しドライブをかけるように打球
--伸ばすショートについて教えてください
伸ばすショートは、基本のショートやプッシュ性ショートに比べて、打球面をかぶせ、ラケットを低い位置に引いて準備します。その準備から、ラケットを上方向へ動かして、ボールにほんの少しドライブをかけるように打球します。手首をたくさん使うのではなく、ほんの少し手首を使って回転をかけます。
--このショートにはどんな効果がありますか
相手コートにバウンドしてから少し伸びるので、相手のタイミングを狂わせたり、相手の体勢を詰まらせたりできます。
ただし、伸ばすショートはバウンドは伸びるものの素直な上回転なので、慣れられると相手に狙い打たれてしまいます。そのため、使いすぎには注意が必要です。ショートに変化をつけるときは、カット性ショートやナックル性ショートをメインにしつつ、たまに伸ばすショートを使うようにしています。
ドライブに対する伸ばすショート
今回は多彩なショートを紹介してくれた小西だが、「ショートに頼りすぎず、最後はフォアハンドを使うことが大切」と力を込める。ショートを磨きつつも、ショートはあくまでフォアハンドへつなぐ補助であることをわきまえているからこそ、小西はペンドラとして一線級で長く活躍できるのだろう。
次回は、フォアハンドとならび、小西のプレーの華ともいえるロビングにスポットを当てる。
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(取材/まとめ=卓球レポート)