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【特別インタビュー】橋津文彦
 「野田学園メモリアルチャレンジマッチを終えて」(後編)

 2020年10月3日、野田学園高校(山口)にて、現役高校生とそうそうたるOBの面々との対抗戦「野田学園メモリアルチャレンジマッチ」が実現した。
 前編では、イベント開催までの経緯や試合の感想について、野田学園高校卓球部の橋津文彦監督にインタビューした。
 後編では、イベントを終えた感想や今後についてのインタビューを紹介する。

卓球をもっと盛り上げたいという野心が芽生えた

--イベント中は、目が赤かったようですが。
 試合中はベンチでずっと泣いていました(笑)。開催までしんどかったことや高校生たちの姿が胸に迫ってきたことはもちろんですが、昔のことを思い出してしまって。
 仙台育英から野田学園へ転校してきたのが、2008年の9月1日なのですが、その時に友樹(平野友樹/協和キリン)と大夢(有延大夢/リコー)、真晴(吉村真晴/愛知ダイハツ)の3人がいたなあとか、真晴がリオオリンピック男子団体で銀メダルを取った時は(今回のイベント会場の)大体育室をパブリックビューイングにして全校生徒で応援したなあとか、昔のことがいろいろ浮かんできて。
 また、転校当時に支えてくださった方々も会場に来られていて、そうした方々の姿とこれまでが重なって......。少し歳をとってきましたね。

--イベントを終えて、率直な感想をお聞かせください。
 ほっとしたと同時に、トライしてよかったと思います。高校生のために開催できて本当によかったとOBたちに感謝しています。
 6月に卓球レポートに掲載していただいた私の特別寄稿で「想像力が必要になる」と書かせていただきましたが、今回のイベント実現について、ずっと想像していました。想像、つまりイメージが一つ実現して、ほっとしています。
 ほっとしていると同時に、野心も芽生えました。

--野心とは具体的に教えていただけますか?
 野心というか使命感というか。うまく言えませんが、今回イベントを開催して、先頭を走っていかないといけないなと感じました。
 もちろん、今回参加してくれたOBたちの力や存在はすごく大きいのですが、OBたちに負けず、私自身も卓球をもっと盛り上げたいという感覚が強く芽生えました。

OBたちを取りまとめた平野友樹。試合でもさすがの安定感を見せた

--具体的に、盛り上げるプランは浮かんでいますか?
 一例ですが、地方発信です。コロナ禍でこれだけ人の移動が制限されている中で、山口でこうしたイベントができたということは、一つのモデルケースになったと思うんです。
 私は、仙台育英から野田学園に移動してきて、青森山田の故・吉田安夫監督を目標にし、その存在を発奮材料にしてきました。吉田監督が本州の端の青森であれだけのことができるんだから、自分も同じ本州の端の山口でやれるはずだと言い聞かせて頑張ってきました。
 そうしたところ、コロナ禍で思うように身動きが取れない状況になり、山口という地方でイベントを開催するに至って、図らずも「卓球のwithコロナ」の一つの形を示すことができたのかなと思っています。
 今回のイベントは一例ですが、地方に限らず、卓球をもっともっと盛り上げたいし、ひょっとしたら私にはその力があるんじゃないか、私にしかできないことがあるんじゃないか。おごりに聞こえるかもしれませんが、イベントをやり終えて、そんなふうに強く思いました。
 聞こえのいいこと言ってしまいましたが、実際は、自分で勝手に始めて、自身にプレッシャーをかけて、悪戦苦闘していただけなんですけどね(笑)。

「盛り上げる力があるなんて、大きなこと言い過ぎましたね」と橋津監督は頭をかくが、謙遜するには当たらない。あれほどスター性のあるOBたちを育て上げ、なおかつ慕われる指導者はそうはいない。橋津監督の、決して威圧することなく、肩ひじ張らないたたずまいには、選手たちを引き寄せる何かがあるのだろう。
 重しとなる橋津監督のごく自然な存在感もさることながら、今回の取材であらためて気づかされたのは、OBたちの仲のよさだ。
 参加したOBでは平野友樹が最年長で戸上隼輔(明治大)が最年少だったが、イベントを通して、彼らの中で上下関係を強く感じることはなかった。

チームを必要以上に厳しくしつけてしまうと、選手の性格が見えなくなる

--OBたちは仲がいいですが、理由が思い当たれば教えてください。
 いや、全然分からない(笑)。ただ、上下関係は少ないですよね、運動部にとってはよくないことかもしれませんが(笑)。
 私は選手たちをビシッと厳しくしつけることができないんですよ。ビシッとしている他校のチームを見ると統率が取れていてすごいなあと思い、自分もできることならそうしたいのですが、自分はしないというか、できない。

--厳しく指導しない理由はなぜですか?
 私には、「選手の性格を変えたらチャンピオンにはなれない」という持論があります。その子が持っている本来の性格を変えてしまったら、いっときは強くなるかもしれませんが、大成することは難しいと思っています。
 この持論を踏まえると、チーム全体がビシッとしていると、選手一人一人の性格が見えないんですよね。勝ち気な子や慎重な子、臆病な子、お調子者な子、真面目な子など、選手にはそれぞれ特性があるはずなのに、必要以上にビシッと厳しくしつけてしまうと、みんな同じに見えてしまう。

--興味深いお考えですね。それでも、監督として選手たちを統率したい欲求はあったと思いますが。
 確かに、チーム全体がビシッとしていれば周囲から見て見栄えや評価はいいと思います。けれど、私は早い段階から自分の支配欲を満たすためだけの指導はしないと決めました。選手を強くしたり、選手の人間性を高めたりする上で、私が格好つける必要はありませんから。
 平たく言えば、周囲への体裁を気にしない指導方針をずっと続けてきているわけですが、このことが、OBたちの仲のよさに間接的につながっているのかもしれませんね。
 私の指導方針が正しいと胸を張って言うことはできません。ですが、OBたちの中には卓球から離れた子もたくさんいますが、みんな社会人としてしっかり頑張っているので、今のところ、この指導方針でそれほど間違っていないのかなと思っています。

OBたちが見せた一体感は、野田学園の強さとチームカラーを象徴していた

「性格を変えたらチャンピオンになれない」とは橋津監督らしい視点だが、実際に卓球レポートの技術取材などで、橋津門下生である吉村真晴の屈託のない明るさや戸上隼輔の超マイペースぶりに接したことを思い起こすと、この独特の言い回しがすっと胸に染み込んでくる。
 独自の指導論によって導いてきたOBたちに背中を押され、奔走の末に「野田学園メモリアルチャレンジマッチ」を実現した橋津監督。その行動力は、次にどこへ向かうのだろうか。

自分の可能性をしっかりデザインし、チャレンジを続けていきたい

--次の目標を教えてください。
 少しずつ始まった目の前の大会に向けて、コロナウイルスを正しく恐れながら、選手一人一人を落ち着いて強化していきたいと考えています。まずは、これから全日本卓球選手権大会の一般の予選があるので、そこに向けて選手たちをしっかり強化します。
 そして、卓球界をもっと盛り上げていくことに取り組んでいきたい。
 ただし、コロナ禍によって社会は大きく変わっていくでしょうし、実際に私自身の人生観も変わりました。それらと折り合いをつけながらですが。

--差し支えなければ、どのように人生観が変わったのか教えてください。
 守らなければならないものが多くなり、慎重になったり弱気になったりした部分が出てきたことを実感しています。それに伴って欲望が小さくなり、ハングリーさも薄れたかもしれません。
 また、今までは、「何でもできる」と本当に思っていたのですが、できないことや分からないこと、ついていけないことが多くなってきたと感じるようにもなってきました。

--気持ちが全体的に落ち込んだということでしょうか?
 うまく言えませんが、そういう一面もあると思います。
 ただし、そうした心境の変化があった中、OBたちの後押しがあったとはいえ、今回のようなイベントを決意し、実行できたことは、私にとってとても意義のあることでした。

--最後に、今後の抱負をお聞かせください。
 大会や移動、人とのコミュニケーションなど、コロナウイルスはいろんなものを奪っていきました。でも、なくなったものを数えても仕方がありません。
 これからは、今まで通りとはいかないと思いますが、できることを探し、数えながら、前を向いて進んでいきたいと思います。そして、自分の可能性をしっかりデザインして、今回のイベントのようなチャレンジを続けて、卓球界を盛り上げていきたいと思います。

橋津が築き上げてきた「ファミリー」が彼のチャレンジを強く後押しする

 全国大会が軒並み中止になった高校生を救済する名目で急遽立ち上がった「野田学園メモリアルチャレンジマッチ」だったが、実際には、高校生だけでなく、橋津監督やOBを初め、関わった全ての人たちが元気付けられるイベントになったのではないだろうか。
 成功も失敗も安易にジャッジできないコロナ禍の中、橋津監督が山口から投じたこの一石は、全国にさまざまなインスピレーションを与えたように思う。
 イベントを終え、「卓球をもっと盛り上げていきたい」と決意を強くした橋津監督の次なるチャレンジを心待ちにしたい。
(了)

<イベントの様子はこちら(YouTube)>
野田学園メモリアルチャレンジマッチ 歴代最強OBチームが母校に集結
【LIVE配信】野田学園メモリアルチャレンジマッチ(アーカイブ)
【スコア付き】戸上隼輔 対 松田歩真(野田学園メモリアルチャレンジマッチ 1番)
【スコア付き】有延大夢 対 徳田幹太(野田学園メモリアルチャレンジマッチ 2番)
【スコア付き】吉村真晴 対 飯村悠太(野田学園メモリアルチャレンジマッチ 3番)
【スコア付き】平野友樹 対 加藤翔(野田学園メモリアルチャレンジマッチ 4番)
【スコア付き】吉村和弘 対 内田柊平(野田学園メモリアルチャレンジマッチ 5番)

(まとめ=卓球レポート)


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