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【特別インタビュー】橋津文彦
 「野田学園メモリアルチャレンジマッチを終えて」(前編)

 2020年10月3日、野田学園高校(山口)にて、現役高校生とそうそうたるOBの面々との対抗戦「野田学園メモリアルチャレンジマッチ」が実現した。
 新型コロナウイルスが猛威を振るっていた6月初旬、野田学園高校卓球部の橋津文彦監督は「こんな時代だからこそ、生徒たちも私も想像力をフルに働かせたい」という思いを卓球レポートに寄稿してくれたが、このイベントは、まさに橋津監督をはじめ野田学園卓球部の想像力が形を成したものだった。
 イベントを終え、開催までの経緯や試合中に去来した思いなど、橋津監督の胸の内を詳しく聞いた。
 前編と後編の2回に分けて紹介する。

正解がないならば、思い付く限りの準備をして開催しよう。そう腹をくくった

--イベントを思い立ったきっかけは何ですか?
 卓球レポートへ書かせていただいた特別寄稿で触れていますが、OBたちとのオンライン懇親会です。
 インターハイ中止の知らせを受けた4月26日直後、中止で落ち込んでいた私を気遣ってのことだと思いますが、友樹(平野友樹/協和キリン)が音頭を取ってOBたちとのオンライン懇親会を開催してくれました。
 その懇親会には、平野のほか、協和キリンで活躍した小野竜也、聖也(岸川聖也/ファースト)、真晴(吉村真晴/愛知ダイハツ)、大夢(有延大夢/リコー)らが参加し、その席上で、「高校生たちがあまりにもかわいそうだから、僕らOBでチームを組んで高校生たちと対抗戦しましょう」と誰からともなく提案がありました。それが、きっかけです。

--具体的に動き始めたのはいつですか?
 対抗戦の話が持ち上がり、実現のイメージはずっと描いていたのですが、コロナ禍が続く中、おいそれと開催できるものではありません。そのため、しばらくは保留でした。
 しかし、コロナによって世の中のあらゆる活動が、さじ加減が分からず、その場その場の状況や雰囲気で気持ちの針がどうとでも振れる状態が続いていましたよね。そうした状況に悶々としていましたが、正解がないのであれば、開催するタイミングをしっかり計り、万全の準備をして実行しよう。そう腹をくくったのが、およそ3週間前です。

--開催までにはかなりのご苦労があったと思います。
 もう、しんどかったですね、本当に。
 まず、OBたちは大人ですが、こちらは未成年の高校生なので(感染予防に関して)同じ感覚ではできないから、OBたちに、事前の行動履歴やPCR検査の結果の申告など、条件を細かく提示するところからスタートしました。
 そこから、いろいろな人に相談しながら、当日の検温、試合の進め方などさまざまな点を詰めていき、思いつく限りの準備は全て行いました。
 大変なことばかりでしたが、今回のイベントは友樹が中心となり、教え子たちにかなり背中を押されて開催にこぎ着けることができました。

--開催を疑問視する声もあったと思いますが。
 もちろんありました。その代表が妻(笑)。「なぜあなたがやるの?」「やらないといけない理由があるの?」と。もちろん、私のことを気遣ってくれた上での反対であることは重々承知です。それは反対しますよね、何もしなければ感染のリスクにさらされることはなく、批判や非難はされませんから。
 ただ、私たち高校側ばかりクローズアップされがちですが、OBたちも「高校生のために」と言いつつ、彼らだって全ての試合がなくなっています。そうした状況を見ると、何もしないでじっとしているという選択肢は私にはありませんでした。
 もちろん、妻以外にも反対や疑問視する声はありましたが、最後は私の考えにご理解いただき、駆け足でしたが、開催の日を迎えることができました。

--会場の確保も簡単ではなかったと思います。
 当初は、野田学園の第二体育館(卓球部専用の練習場)でひっそり開催し、真晴のYouTubeチャンネルだけで公開する予定でしたが、OBたちが「担任だった先生に見てもらいたい」「お世話になったあの人に来てほしい」とそれぞれ言い始めて(笑)。キリがないので、だったらいっそのこと大体育館で開催してしまおうと。難しい状況の中、開催を認めていただいた野田学園には感謝しきりです。
 また、隼輔(戸上隼輔/明治大)のスポンサーをしてくださっているマルキュウ(山口県を中心に展開しているスーパーマーケット)には参加したOBたちに記念品を贈呈していただき、バタフライにはフェンスやタオルボックスなど会場の設備品をご提供いただきました。参加したOBたちが所属している琉球アスティーダの早川社長は、選手たちのPCR検査費用の負担を申し出てくださいました。
 このほかにも多くの方々にご支援いただき、イベントを実現することができました。この場を借りて、あらためて御礼申し上げさせてください。

イベントは、野田学園高校の大体育館で行われた

 新型コロナウイルスの猛威は落ち着きを見せ始めているとはいえ、感染リスクはもとより、世論も考慮しなければならないコロナ禍の中、スポーツイベントを開催することがどれほど難しいことか。それは、開口一番「しんどかった」と思わず漏らした橋津監督の表情が物語っていた。
 開催を疑問視する声も聞かれる中、OBたちに背中を押され、高校生の無念を晴らそうと奔走した橋津監督の労が実り、「野田学園メモリアルチャレンジマッチ」は開幕を迎えた。

OBチームは、昨年卒業の戸上隼輔が先陣を切った

ゼッケンをつけているシーンを見ただけでジーンとした

--高校生のベンチに入りましたが、試合内容はいかがでしたか?
 完敗です。試合前に卓球レポートのツイッターで大口をたたいてしまったので、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。もう少しできると思ったのですが。
 3ゲームだから思い切って勢いに乗れば崩せるんじゃないかと思っていましたが、テクニック的にはそれほど差はなくても、(OBたちは)1本多く返してきたりボールの回転量が多かったり、プレーの質が高くて甘くありませんでした。

--OBたちのプレーはいかがでしたか?
 大夢のサービスが出なかったのは誤算でした(笑)。(有延と2番で対戦した徳田には)「大夢のサービスは台から出てくるから狙っていけ」とアドバイスしたんですが、大夢がサービスをきっちり短く出してきて(笑)。
 それは冗談として、実戦の感覚はありませんでしたが、久しぶりの試合でOBたちも楽しかったのではないでしょうか。「高校生のため」と言いつつ、あいつらが一番楽しんでいましたよね、間違いなく(笑)。

--橋津監督にとっても久しぶりの試合だったと思いますが。
 私にとっては、隼輔の全日本(2020年1月)以来の試合でした。本来であれば、春の高校選抜、インターハイ、全中、国体などの全国大会と、それにつながる県予選やブロック大会が開催されているはずでした。私に限ったことではありませんが、3月からびっしり書き込まれていた手帳の大会を一つずつ消していくむなしい作業が続き、今年の予定は真っ白になってしまいました。白くなる予定とは対照的に、気持ちは黒く沈みがちな日々が続きました。
 そうした日常を過ごす中、本当に久しぶりの試合だったので、高校生たちがゼッケンをつけているのを見ただけで、ジーンとしてしまいました。このまま野田学園のゼッケンをつける機会がなく高校生活を終えるのかと思っていましたから。
 今回のメモリアルチャレンジマッチで、3年生は一つの区切りをつけて、高校3年間を完結させることができたと思います。
 また、OBは後輩のために真剣に試合してくれただけでなく、会場の設営も積極的に手伝ってくれました。そうした姿を見て、「人のために動くことの大切さ」を改めて強く感じました。それを、高校生たちも学んでくれたと思います。

久しぶりの試合で、橋津監督のアドバイスにも熱が入る

試合を終え、OBと関係者に謝意を述べる主将の内田柊平

 OBと在校生の対抗戦ということで、ややリラックスした内容になるのかと思いきや、いざ試合が始まると、緊迫感に満ちた真剣勝負が続き、拙い予想はいい意味で裏切られた。
 このようなイベントを報じる側としては、とかく何らかの意味を見いだしたくなりがちだが、真剣勝負が行われていたコートにいたのは、「夢を奪われたかわいそうな高校生」や「後輩のために一肌脱いだ男気あふれるOB」といった感傷的な演者ではなく、得点することに夢中になっている卓球選手だった。
「後輩たちだけでなく僕自身も含め、僕らが今まで普通に試合ができたことが当たり前ではなくて、卓球ができることに本当に感謝しながらプレーしました」という吉村和弘(東京アート)の言葉が耳に残っているが、この率直なコメントは、このイベントに関わった全員が、本気で卓球の試合ができる日を待ち望んでいたことを示すものだろう。
 後編では、イベントを終えた感想や今後について尋ねた橋津監督へのインタビューを紹介する。

<イベントの様子はこちら>
野田学園メモリアルチャレンジマッチ 歴代最強OBチームが母校に集結
【LIVE配信】野田学園メモリアルチャレンジマッチ(アーカイブ)
【スコア付き】戸上隼輔 対 松田歩真(野田学園メモリアルチャレンジマッチ 1番)
【スコア付き】有延大夢 対 徳田幹太(野田学園メモリアルチャレンジマッチ 2番)
【スコア付き】吉村真晴 対 飯村悠太(野田学園メモリアルチャレンジマッチ 3番)
【スコア付き】平野友樹 対 加藤翔(野田学園メモリアルチャレンジマッチ 4番)
【スコア付き】吉村和弘 対 内田柊平(野田学園メモリアルチャレンジマッチ 5番)

(まとめ=卓球レポート)

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