いつかは全日本卓球の舞台で日本女子の頂点に立つことは多くの卓球ファンが疑っていなかったであろう張本美和(木下グループ)の女子シングルス初優勝が、4冠(ジュニア女子、女子シングルス、混合ダブルス、女子ダブルス優勝)という大記録を伴って実現することを予想していた者がどれだけいただろうか?
その目覚ましい成長を証明した今回の全日本卓球に、張本はどれほどの思いをかけて臨んだのか、そして、どのような思いでプレーしたのか。今回のロングインタビューでは余すことなく話を聞くことができた。
インタビュー前編(全3回)では、昨年一年間と、今大会のジュニア女子、女子シングルス準決勝までを振り返ってもらった。
「これが卓球ラストの試合」と思うくらい
一試合にかける気持ちを強く持った
--今回の全日本の話をうかがう前に、2025年は張本選手にとってどのような年でしたか?
張本美和(以下、張本) 一言で言うと、「良くも悪くも」という感じの1年だったと思います。世界ランキングは6〜7位にずっといられたことはすごく良かったんですけど、目標はトップ5に入ることだったので、そこまでの殻は破れず、そこはちょっと悔しい部分がありました。去年は本当に安定していただけというか、(殻を破る)きっかけになる試合などあまりなかったので「普通の1年」だったと思います。
--殻を破れなかった原因は何だったと思いますか?
張本 試合の中で、気持ちがあまり入っていなかったかなというのがあります。もちろん全部の試合がそういうわけではありませんが、試合数が多い分、一試合一試合に重みを持って試合できなかったので、自分の限界を知ることもできなかったですし、自分の最高のプレーが毎試合できていたかというとそういうわけでもなかった。自分のいいところも悪いところも全部を出し切れたわけではないので、負けたらただ悔しい、練習は頑張っているけど、みたいな感じで、試合に対する姿勢だったり、プレーの内容的にはもどかしいというか、足りないところがあると思っていました。
--試合数の調整は難しかったのでしょうか?
張本 自分が行かなくてもいい試合にも結構行ってたりしたのもあるので、そこはあまり言い訳にできませんが、たくさん試合したことによって、ランキングも安定してきたという部分もあります。その分一試合一大会ずつにかける思いは強くなかったかなというのが反省点です。
また、ずっと試合をしていて、体力やコンディションの調整ばかりしていたので、自分のプレーや技術の強化に当てる時間があまりありませんでした。今年はまだ2月ですけど、去年の自分だったら行っていた大会にも行かないで練習したりして、調整をしています。
--昨年は多くの大会に積極的に出場したのはなぜですか?
張本 2028年のロサンゼルスオリンピックのシングルスに出たいという気持ちが強かったので、常にランキングは上位にいないといけないという思いがありました。試合に出て負けても後悔しないけど、自分が出ない試合に他の選手が出て、ランキングを抜かされてしまったらちょっと後悔すると思って、その1つの理由だけで試合に出ていたというところがあります。
自分自身を見つめるとか、何かに挑戦するという意味を持って試合に出ていなかったので、今年はそこを大事にしていきたいですし、そこができなかったから殻を破れなかったんだと思います。
--その経験は今年以降に生かしていけそうですね。
張本 そうですね。今年は1月のカタールの大会(WTTチャンピオンズ ドーハ)から始まりましたが、本当に一試合一試合、ちょっと言いすぎかもしれませんが、「これが卓球ラストの試合」と思うぐらい一試合にかける気持ちを強く持っていて、それによって今まで見つからなかった課題が見つかったと同時に、さらにその上で悔しいという思いが去年よりも強くなりました。
去年も負けた時は悔しいことは悔しかったんですが、「次々!」という気持ちでした。今年は全てを出して試合をしているので、負けた時には「それでも勝てないか」という悔しさに変わってきたので、それもいいことだと思いますし、そういう意識のおかげで全日本選手権大会で優勝することができたので、これからもこのような姿勢で試合できたらいいなと思います。
--全日本選手権大会でも一試合にかける強い気持ちを持ってプレーできたのですね。
張本 世界ランキングも今のところは日本人の中では一番上なので、「優勝しなきゃ」とまではいきませんが、「ランキングは一番なのに優勝したことがない」というのがあって、女子シングルスの優勝は自分の中でやっぱり欲しい記録というか、欲しい成績でした。
一般での優勝は本当に小さい頃から夢見ていたので、本当にこうして優勝できてうれしいですし、この大会に向けて、去年だったら行っていたかもしれない大会にも行かないで、しっかり練習をして、全日本に全てをかけようという気持ちで挑めたので、それも結果にもつながったのがうれしいです。
竹谷選手との対戦は決勝でもおかしくないと思っていた
--ジュニア女子は3連覇していて、4連覇がかなり期待されていたと思います。プレッシャーはありませんでしたか?
張本 ジュニアに関しては期間中に同じ質問されたら「そんなことはないです」とずっと言っていましたが、やっぱりプレッシャーを感じることはありました。連覇をしていたので、ありがたいことに期待していただくこともあって、その分プレッシャーも感じていましたが、試合中はそんなことは考えずに、とにかく一試合ずつ頑張るという気持ちでやりました。
正直、(ジュニア女子には)出なくてもいいんじゃないかという気持ちもありましたが、たくさん強い選手がいる中で、こうしてまた優勝することには意味があると思ったので、優勝できてうれしいですし、試合をしてまた新たな発見もあったので、出てすごくよかったと思っています。
--ジュニア女子には出ない選択肢もあったというのは意外でした。
張本 今年はそこまで悩まなかったんですけど、去年は出なくていいんじゃないかという気持ちがありました。今年はラスト1年で、シングルスとダブルスの分離開催ということもあったので、そこまで体力面での心配はなく、自分が出たいか出たくないかだけで決めました。
やっぱりジュニアの部では最高学年になりましたし、同じ学年で強い選手がたくさんいるので、そこで優勝できたら、自分の中でやり切ったという気持ちになれるのかなと思いました。
--実際に組み合わせが出て、警戒した選手はいましたか?
張本 竹谷選手(竹谷美涼/香ヶ丘リベルテ高)が一番ですね。私の出場が3回戦からだったんですけど、4回戦で当たる組み合わせを見て「これは決勝でもおかしくないくらいだな」と思いました。海外でも成績を残されていますし、組み合わせが出る前は決勝で当たることもあると思っていたほどすごく強い選手だったので。
全日本が始まる前の練習の時は、一般の部のことよりも(ジュニアで当たることが予想される)竹谷選手のことばかり考えていましたね。
--具体的に対策練習もしましたか?
張本 すごくパワフルなプレースタイルの選手なので、その対応の練習と、サービスの種類もたくさんあるので、その対策をしました。フォアもバックもすごいパワーのある選手なので、強く振られた時でもしっかり対応して、自分が反撃できるような練習を心掛けました。
--3対0で勝利しましたが、その成果が出た結果ということでしょうか?
張本 そうですね。本当に全日本の2試合目でこんなレベルが高いのかと思ったので、気合を入れて試合しました。
竹谷選手に勝った後は、正直、終わったから言えることですが、自分が油断せずにしっかり準備してやれば、ゲームを落としても大丈夫だと思っていて、決勝までは大丈夫かなという自信はありました。
--決勝は小塩悠菜選手(JOCエリートアカデミー/星槎)で、これまで何度も対戦していますね。今大会のジュニア女子では初めてゲームを落とした試合になりました。
張本 竹谷選手と小塩選手と髙森選手(髙森愛央/四天王寺高)は同じ学年ですが、自分の中では同学年の強い選手と対戦する時に緊張します。特に小塩選手はずっと一緒に試合したり、Tリーグでも試合したりとか、これまで一番対戦してきた選手だったので、私のこともよく知っているし、私も小塩選手のことを知っている中での試合で、ちょっと他の試合に比べて緊張しました。
2ゲーム目を落としましたが、内容は悪くないし、ゲームの序盤でリードして挽回されてしまって、自分の焦りが出てしまっただけだったので、3ゲーム目でまたしっかりゼロから落ち着いてやれば大丈夫だと思って、切り替えて頑張りました。
--危なげない優勝でしたが、一つ目のタイトル決めてどんな心境でしたか?
張本 ほっとしましたね。やっぱりラストの1年で負けて終わりたくはなかったので、勝ってジュニアの部を卒業できてうれしいですし、石川さん(石川佳純)と同じ4連覇の記録に並んだので、すごく光栄です。
--そうした記録は自分の中ではどれくらい重要視していますか?
張本 私は全然気にしたことはなくて、それこそお兄ちゃん(張本智和/トヨタ自動車)がホカバ(全日本卓球選手権大会ホープス・カブ・バンビの部)で6連覇していますが、自分は3回しか優勝してないし、連覇もない。
ですから、小さい時からそういうのはあまり気にしたことがないですね。本当にこの全日本4冠が、たぶん自分が取った初めての誰も持っていない記録なのでうれしいのですが、基本的には何歳で何に優勝とかは気にしたことはないですね。
ちょくちょく階段を上るじゃないですけど、お兄ちゃんと比べると私はたぶん遅いというか、一歩ずつ一歩ずつという感じなので、そんなに記録が欲しいとかはないです。
横井選手との準決勝は「もう負けた」と一番強く思った試合でした
--女子シングルスの話も聞かせてください。組み合わせを見てどのように感じましたか?
張本 一般の方はやっぱり長﨑選手(長﨑美柚/木下アビエル神奈川)が一番負けるか勝つか分からない試合でした。もちろん、そこに行くまでも大変ですし、実業団の方だったり、大学生の方がいたので、大変だと思っていましたが、そこを抜けられたとしたら、やっぱり長﨑選手とやるのが一番怖かったですね。
--実際に準々決勝で長﨑選手との対戦が実現しましたが、それまでは順調な勝ち上がりでしたね。
張本 初戦(4回戦)の小畑選手(小畑美月/デンソーポラリス)は、やはり実業団の選手らしい大人のプレーをされている感覚でした。
5回戦の伊藤詩菜選手(愛知工業大)は左利きでバック表の選手ですが、本当に点数以上にすごい自分の中で苦しい試合でした。小さい頃に一度試合をしたことがあるんですけど、その時とはラバーが違いましたし、すごくコース取りがうまくてミスも少なくて、びっくりして、自分の中では大変な試合というか、苦しい試合でした。
それで、次(6回戦)の笹尾さん(笹尾明日香/日本生命)には前回海外の大会で負けていたので、特にプレッシャーはなく、「向かっていくぞ」という気持ちだったので、序盤では伊藤さんの試合が苦しかったですね。
--試合中の戦術転換などはベンチのお父さん(張本宇さん)とコミュニケーションを取りながら決めるのですか?
張本 基本はお父さんに言われたことをやるようにはしていますが、大事なときだったり、迷ってるときに自分の意見とお父さんの意見が違う場合は、だいたい自分の意見を採用しますね。その方が自信を持ってやれるのと、それで負けたら後悔しないかなと思います。
あとは、自分の意見を正解にするために頑張れるというのもあります(笑)
--準々決勝は警戒していた長﨑選手との対戦でした。
張本 長﨑選手はスピード、回転、パワー、どれを取っても勝てない選手なので、だからこそ、やっぱり一番勝つイメージがわかない選手でした。早田選手(早田ひな/日本生命)には負け越しがすごい多いですけど、勝つイメージはなんとなく持っていて、それが今回の結果にもつながったと思います。
でも、長﨑選手はどうやって勝てばいいのか分からない選手というのがあって、一番緊張しますし不安もありますし、この試合がすごい大事になると思っていました。
やってみてやっぱり強いと感じました。結果は4対1でしたけど、それ以上にどのゲームもボールの質が高く、すごく内容は濃かったですし、当たり前ですが1点も気を緩めることはありませんでした。
--次の準決勝は横井咲桜選手(ミキハウス)との対戦でした。この試合も激戦になりましたね。
張本 ちょうど私が長﨑選手と試合をしていた時に、隣で横井選手と芝田選手(芝田沙季/日本ペイントグループ)が試合をしていて、私がまだ1ゲーム目をやっているのに、もう2ゲーム目が終わりそうで、点数を見たら横井選手がリードしていて、すごく強いんだろうなと思いながら気にしていました。
準決勝、決勝はランキングが付けがたいですが、横井選手との準決勝は「もう負けた」と一番強く思った試合でした。本当に強かったです。
自分の癖だったり、いつもだったら得点源にしているところも全部待たれたり、基本、私が打ったところに横井選手が絶対いるという感覚だったので、どこに打てばいいんだろうという感じでした。無理して打ったコースだとミスしてしまうし、いつものコースに打ったら打ち返されるし、本当に勝てる戦術がない試合でした。
--その苦しい試合を勝ち切れた要因は何だったと思いますか?
張本 最後はロングサービスをひたすら出したのが勝因ですね。ロングサービスが効いていなかったら、たぶん勝てていなかったと思いますし、ロングサービスを出さなかったら負けていたと思います。自分としては大胆というか、勇気を持って全部ロングサービスでいったので、良かったところは本当にそこだけです。
--ショートサービスからの展開ではどのように苦しかったのでしょうか?
張本 とにかく台上がうまくて、私に打たせないようにするだけではなく、打たせるときも強く打てないようにツッツキしたり、ストップしたり、フリックもチキータもすごくうまくて、たまにロングサービスを出しても決められるしという感じでした。
最後はロングサービスという決断には至りましたが、基本的に私のサービスには全部慣れていて、全然サービスエースも取れないし、こちらがサービスを出しているのにむしろ不利という感覚でした。
--対策されていると感じましたか?
張本 とても感じました。ここまで対策されたと感じたのは、本当にこの横井選手との試合が初めてだったかもしれません。世界のトップ選手に負けるときは、対策されたというよりもただ相手が自分よりも強かったという感じですが、横井選手は強いだけではなく、「対策されている感」がすごくありました。
「ここはこう打つ、ここはこう打つ」という相手のプレーで、全部自分がミスしていて、分かっていても試合の中でなかなか修正できませんでした。だから、自分がどうやって勝ったか覚えていないくらいです。
(中編に続く)
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(取材=卓球レポート、文=佐藤孝弘)




