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全日本卓球史上初の4冠達成! 
張本美和インタビュー(後編)

 いつかは全日本卓球の舞台で日本女子の頂点に立つことは多くの卓球ファンが疑っていなかったであろう張本美和(木下グループ)の女子シングルス初優勝が、4冠(ジュニア女子、女子シングルス、混合ダブルス、女子ダブルス優勝)という大記録を伴って実現することを予想していた者がどれだけいただろうか?
 その目覚ましい成長を証明した今回の全日本卓球に、張本はどれほどの思いをかけて臨んだのか、そして、どのような思いでプレーしたのか。今回のロングインタビューでは余すことなく話を聞くことができた。
 インタビュー後編(全3回)では、混合ダブルス、女子ダブルスの戦いぶりを振り返ってもらうとともに、自身の卓球、そして、これからの目標について聞いた。
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混合ダブルスは決勝の最後の2本を見てほしい

--シングルスが終わって、ダブルスまではどのように過ごしましたか?

張本美和(以下、張本) 優勝の余韻に浸りたかったんですけど、1日休んでもうダブルスの練習で、余韻に浸る時間があまりなかったので、いい意味で、すぐ切り替えられました。優勝して、その日と次の日まではちょっと「優勝したわ〜」みたいな感じでしたが、27日の練習の時には優勝したことは置いておいて、「もうダブルスだ!」と気持ちを切り替えられました。

--ペアでの練習はどれくらいしていましたか?

張本 女子ダブルスは1回だけで、混合ダブルスはやっていなくて、会場に行って試合の前が初めてでした。松島選手(松島輝空/木下グループ)とは試合前に練習しただけだったので、一試合目はすごく緊張しました。緊張というか、大丈夫かなと思っていました。

--混合ダブルスの初戦となった2回戦の佐藤卓斗/直江杏(法政大/筑波大)戦はベストとは言えない立ち上がりだったと思いますが、振り返ってみていかがですか?

張本 組み合わせを見た時に、男子の佐藤選手はインカレや大学生の試合結果で結構見ている選手で、強い選手だと分かっていましたが、やってみたら実際にすごくうまい選手で、パートナーのこともよく考えて試合してましたし、3対1で勝つことはできましたが、点数も競りましたし、すごく強い相手でした。

--シングルスのチャンピオン同士のペアになりましたが、松島選手とのペアリングはいかがでしたか?

張本 たぶん松島選手はシングルスに比べて、ダブルスはやりにくいと思います。私がいるので、プレーが制限されて自分がやりたいことをやれないし、きっとやりにくいだろうなと思っていますが、得点してくれるのは松島選手なので、自分は基本的に松島選手に合わせることを意識していています。なので、私はもうとにかくミスせず、コースをしっかり突いてチャンスを作れるように心掛けています。
  一試合目はまだ自分がチャンスを作れていなかったり、ミスをしてしまったりというのがあったせいで、松島選手がなかなか調子が上げられなかったかなと思うので、とにかく勝ち切れてよかったです。「次の試合からは自分がもっとしっかりしなきゃ」と思っていました。

--3回戦、4回戦はストレート勝ちでしたが、小林広夢/出澤杏佳(ファースト/レゾナック)との準々決勝は2対0から追い付かれる苦しい展開になりました。

張本 点数的に見ると、苦しい試合でした。でも、やっている時はそんなに苦しいとか、負けそうとかは考えていなくて、取ったゲームも取られたゲームも、お互いのペアがすごいいいプレーをしていて、そんなに力の差はない感じだったので、それまでで一番「試合をしている感じ」があって、あまり点数を気にしていませんでした。
 2対2になって我に返ってハッとして、5ゲーム目がラストだったので、特に集中して試合をしていました。でも、正直、「追いつかれてやばい」という感覚はなくて、自分たちも良いプレーをした中で2ゲームを取られたので、引き続きこのプレーできるようにという考え方でした。

--見事に流れを引き戻しましたが、どのような連係を心掛けていたのですか?

張本 やっぱり自分の方が出澤選手のボールに慣れているので、出澤選手のボールを自分が取るゲームは、絶対取らなきゃという意識でやっていました。松島選手には、試合前に「こういうボールもあるから気をつけてね」というのを言いましたが、実際に試合をしてみると、シングルスとは全く違って、私がイメージしていたプレーはあまりなかったので、松島選手もそれほどやりにくくはなかったんじゃないかと思います。
 でも、やっぱり小林選手がすごく強くて、ダブルスがうまい選手なので、出澤選手からできるだけ得点するしかないと思って、私はとにかく出澤選手のボールを打つときはリスクを負ってでも得点したいという気持ちで狙って、小林選手のボールを取るときは全部耐える、「一本でも返せたらもういい」という感覚でやっていました。
 自分はそういう意識でやっていましたが、松島選手が何を考えていたかは分からないです(笑)

--準決勝は吉村和弘/長﨑美柚(ケアリッツアンドパートナーズ/木下アビエル神奈川)の強豪ペアでした。スコアはストレートでしたが、どのような内容の試合でしたか?

張本 このゲームは特にもう松島選手の劇場だったかなって。松島選手の劇が始まったという試合だったので、私は特に何もしてないです。和弘選手が木下マイスター東京で、松島選手と練習していたというのもあって、和弘選手が打ったボールを松島選手が待っていたという感じでした。

--決勝は坪井勇磨/赤江夏星(クローバー歯科カスピッズ/日本生命)ペアが勝ち上がってきました。

張本 決勝は最後の私の2球がすごかったので、ぜひ見ていただきたいです(笑)
 最後の2点が自分のプレーで入ってすごくうれしかったんですよ。9-9だからちょっと行くか迷ったんですけど、なんかもう体が動いていました。
 赤江選手、坪井選手は何度か練習していただいたことがあって、合宿では赤江選手はすごく安定していて、両ハンドがうまい選手で、ラリーになる準備をして挑んだので、そういう準備が良かったのと、2人ともすごいきれいで癖がない選手でした。

--3つ目のタイトルを決めて、心境はいかがでしたか?

張本 うれしかったです。特にその最後の2本は、私のすごいいいプレーで終わったので、あの2本がこの試合の最後というのもあって、みんなの印象に残るだろうなと思って、すごくうれしかったです。混合ダブルスは、基本、松島選手が得点するので、最後の2点は本当に珍しかったですね。
 全日本卓球2023では松島選手と組ませていただいて、ベスト16で負けてしまったのと、 最近は海外の大会でも優勝したことなかったので、久しぶりの優勝でうれしかったです。

決勝の最後の2球は張本美和ファン必見のプレー!

4冠よりも女子ダブルスの優勝がうれしかった

--女子ダブルスは神奈川県予選からの出場でした。

張本 そうですね。長﨑選手(長﨑美柚/木下アビエル神奈川)と神奈川県予選から出ました。 
 女子ダブルスは去年と一昨年は出てないですけど、出れるなら出たいというのは常にあって、ダブルスが好きというのもありますし、オリンピックの種目にも決まっているので、特に今年からはもっと出なきゃという思いもありました。
 今年は他の大会とかぶっていなかったので、「これはもう出るしかないね」という感じで、出ないという選択肢がなかったので予選から出ました。

--3回戦で赤江夏星/竹谷美涼(日本生命/香ヶ丘リベルテ高)という強豪ペアと対戦でしたが、この試合を振り返っていかがでしたか?

張本 強かったですね。相手は右右なのに連続度というか、すごく攻撃の連係が速かったので、3対1でしたが、特に負けた1ゲームは自分が攻められて、大変強かったです。
 4回戦、5回戦はやったことのない相手だったので、とにかく自分たちがやれるものでやろうと話して、試合の中で調整しながら無事勝てました。

--準々決勝は塩見真希/山﨑唯愛(サンリツ)という変則的なペアとの対戦でした。

張本 私の中ではいいイメージがなくて、特に山﨑選手は去年の全日本でシングルスで対戦しましたが、スマッシュがうまくて左利きで今まで対戦したことがないタイプの選手でしたし、塩見選手もフォア表でバックハンドがすごくうまいですし、自分の中では結構嫌だなというのがあったので、その前の実業団の2ペアとは違うだろうなと思っていました。
 やはり1ゲーム目はすごく競りましたし、2ゲーム目はパターンが変わってうまくいきましたが、3ゲーム目はまた競って、そこは長﨑選手と一緒に頑張れたのでよかったです。

--準決勝の大藤沙月/横井咲桜(ミキハウス)との一戦は一番の難関だったと思います。

張本 強かったです。大藤選手と横井選手がペアで、私が木原選手(木原美悠/トップおとめピンポンズ名古屋)や違う選手と組ませていただいたときにやったことありますが、はまったときはもう本当に何をしても勝てないですし、とにかく2人の回るスピードが左と右より速いんじゃないかというぐらい速くて、その上、質も高い。
 自分が大藤選手と組ませていただくことが何回か最近あったので、それで大藤選手の強いところも分かっていたので、そういうのもあって試合で生かすことができました。でも、長﨑選手とは久しぶりのペアでもありましたし、いくらその前に何試合かしたとはいえ、急に大藤選手/横井選手との試合だったので、そこは戦術・技術というよりは、気合で行こうと自分は思ってました。
 私たちが左右のペアなのでその点は多少有利かもしれませんが、ペアを組んでからの期間は相手の方が長かったし、勝てないだろうなという感じでした。でも、本当に長﨑選手のプレーがすごく良くて、レシーブで左利きの長﨑選手のボールがすごかったので、本当に助けられました。 長﨑選手はコース取りがうまくて、バックもミドルもフォアも全部得点していたので、私は助けられたと思っています。

--決勝の対戦相手は平野美宇/木原美悠(木下グループ/トップおとめピンポンズ名古屋)でした。ダブルスのタイトルこそありませんが、実力者同士のペアでした。

張本 平野選手はいつも一緒に練習してますし、木原選手も去年までは同じチームで一緒に練習していたので、4人全員が4人のことをわかってるので、どう行こうか自分の中で悩みましたが、あまり考えすぎたら逆に良くないかなと思ったので、とりあえず最初は「自分たちらしく考えすぎずにやろう」という感じで入って、相手が右右のペアということもあって、それがうまくいっていたので、自分たちのプレーを出すことができて良い試合になったと思います。

--4つ目のタイトルを取った瞬間の心境はいかがでしたか?

張本 「4冠やった!」というよりは、本当にダブルスが優勝できてうれしいという方が大きかったです。
 長﨑選手とは全日本までは全然組んだことがなかったし、 個人個人の実力を見たら、優勝もできると思われていたかもしれませんが、自分の中ではあまり時間がないのがちょっと不安でした。勝った瞬間はもう本当に優勝できてよかったという気持ちでうれしかったです。

--4冠はいつから意識し始めましたか?

張本 考えたことはもちろんありますけど、一般(女子シングルス)で優勝するのが自分の中で一番難しいと思っていたので、それこそ長﨑選手もいましたし、すぐにその考えはなくなりました。
 シングルスで優勝してからは、チャンスがあるかもしれないと思うようになりました。混合ダブルスも女子ダブルスもパートナーがすごく強いので、自分さえしっかりプレーすれば、いい成績が出せるチャンスはあると思っていました。

女子ダブルス優勝で史上初となる全日本個人種目4冠を決めた

悔いなく、全力で

--大記録を達成して、来年以降の全日本での目標はありますか?

張本 来年はもうジュニアがなくなり、より一般の方に時間を使えると思うので、一般で連覇することが目標です。やはり全日本で優勝するということは、優勝した今でも大切だと思っています。
 全日本は自分の中ですごく大きい大会なので、ダブルスも組んでくださる方がいればぜひやりたいですし、一般はやっぱり優勝したいという気持ちですね。1年後にまた強くなって戻ってきたいと思っています。

--インタビューの冒頭で、世界ランキングが国内で一番高いので、全日本でも優勝したかったと言っていましたが、全日本を取ったことで、日本のエースだという自覚は生じてきましたか?

張本 今も、きっとこれからも自分がエースだと思う気持ちはないだろうと思っています。逆に、そういう気持ちを持ってくださいと言われても、たぶん持てないだろうなっていうのがあります。
 もちろん優勝したり、ランキングが1番目というのはありますけれど、ランキングなんていつ変わるかわからないですし、全日本も一生に1回の大会ではなくて1年ごとに試合があるので。
 あとは、なんで自分がエースだと感じないかというと、いろいろな選手と試合をして、みんなすごく強いので、勝てていることに自分でもびっくりというか、勝ててうれしいとは思いますが、圧倒的な差で勝てているわけではないので、圧倒的な差で全員に勝って優勝したら、エースと思えるかもしれないですけど、今はそう思える材料がないですね。
 成績だけを見たら、エースだと言われるかもしれないけれど、試合をしている自分からすると、そうは思えないですね。

--女子シングルスの優勝で世界卓球の代表に決まりました。今年の世界卓球2026ロンドンでの目標、どのようなプレーをしたいですか?

張本 2年前の世界卓球(世界卓球2024釜山)では、特に決勝の中国戦で先輩方がつないでくれた5番で負けて銀メダルだったので、やっぱり次はチームに貢献したい、迷惑をかけたくないという気持ちが強いので、リベンジできる機会として、頑張りたいなと思います。
 全日本で優勝して、そのまま代表に決まったのがすごくうれしくて、去年、選考基準が出てからずっと「全日本で優勝できたら一番いいだろうな」というのはあったので、実際それができて良かったですし、団体戦は2度目なので、起用していただいたら勝てるように頑張ります。

--今年の目標はありますか?

張本 もともと全日本選手権大会優勝を目標にしていて、それが達成できたので、それ以外の目標を全く考えていませんでしたが、世界ランキングトップ5以内に入りたいというのは去年からずっとあるので、それは引き続き目標にしています。そのために 海外の大会もそうですけど、練習も頑張りたいですし、Tリーグもあるので2連覇を目指して頑張りたいです。
 他に個人戦の目標はもう特にありませんが、強いて言うなら、WTTチャンピオンズ以上の大会で優勝したことはないので、チャンピオンズ以上の大会で1回くらい優勝したいという目標もあります。 

--この先の長期的な目標もお聞かせください。

張本 やっぱりロサンゼルスオリンピックのシングルスに出てメダルを取りたいというのが、長い目標ですね。何色のメダルかはまだ明確にはないですし、シングルスで出られるかどうかも分かりませんが、シングルスにまずは出たいという気持ちで、これからどんな試合も頑張りたいです。
 全日本の時にも掲げていた「悔いなく全力で」という言葉をこれからも自分の卓球人生の目標に、どんな大会でも、卓球を引退しても、悔いなく、全力でやるというのを目標に、これから生きていきます。 (了)

 インタビュー後に、今回の取材に帯同してくれた張本宇さんに、女子シングルスの決勝で、張本選手が第6ゲームを10-6から落とした後のベンチでなんと声をかけたのかを聞いた。
「私もよく覚えていないんですよね。大したことは言っていないと思います。戦術の話はしていないですね」と笑いながら、「そういえば」と続けた。
「コートに送り出す時にいつもハイタッチをするのですが、普段は触れる程度なんですよ。でも、その時は美和がぎゅうっと私の手を強く握ってきたんです。その手に美和の自信を感じたんですよ」

 張本美和は、強く握った父の手を離すと、静かな足取りでコートに戻り、再び卓球台の上のラケットを握った。
 そして、無心でサービスを出し、全力のフォアハンドドライブで3球目攻撃を決めた。
 無心は確信に変わり、文字通り目の覚めるような、迷いのないプレーで初の栄冠を手に入れた。そのプレーを彼女は「いつもの自分が戻ってきた」と振り返る。6日間に及ぶトーナメントの決勝の最終ゲームで、張本美和は初めていつもの自分に戻ってきたのだ。
 全日本4冠という前人未到の偉業は、「いつもの張本美和」が上り始めた階段の一段目に過ぎないのかもしれない。

↓動画はこちら

(取材=卓球レポート、文=佐藤孝弘)

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