卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズでは、5月にカタールのドーハで開催された第58回世界卓球選手権大会個人戦(以下、世界卓球2025ドーハ)で繰り広げられた灼熱の熱闘を厳選して紹介する。
今回は、張本美和(日本)対キム・クムヨン(北朝鮮)の女子シングルス3回戦の名勝負をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
張本がキム・クムヨンにリベンジを挑む
最終ゲーム、決意のバック攻めを見逃すな!
日本女子トップとなる世界ランキング6位で世界卓球2025ドーハの女子シングルスに臨んだ張本美和は、1回戦でベテランのペソツカ(ウクライナ)、2回戦でシェーク異質型のワン・ユアン(ドイツ)に危なげないプレーで勝利すると、3回戦でキム・クムヨン(北朝鮮)と対峙した。
キム・クムヨンは、フォア面に裏ソフトラバー、バック面にツブ高ラバーを貼るシェーク異質型のサウスポーだ。緩急自在でミスのないツブ高ラバーでのバックハンドに加え、フォアハンドの精度も高いキム・クムヨンのプレースタイルは、いったんはまったらそう簡単には抜け出せそうにないほどシステムが確立されている。リ・ジョンシクと組んだ昨夏のパリオリンピック混合ダブルスでは、1回戦で第2シードの張本智和/早田ひなを破り、その勢いで銀メダルを獲得。昨年10月に行われたアジア卓球選手権大会女子シングルスでは並み居る強敵を連破して決勝まで勝ち上がり、その決勝では張本美和を下してアジア女王に輝くなど、キム・クムヨンは近年、大きな存在感を放っている。
張本にとってキム・クムヨンは、リベンジを果たしたい因縁の相手だ。
試合は、「キム選手には前回負けていたので、日本の事前合宿をしている時も監督やコーチであるお父さんからもアドバイスがあって、毎日ツブ高ラバー対策の練習をしました。自分の気持ち的にはもう1回試合をすれば勝てそうだなという自信はありました(張本美和インタビュー)」と一定の手応えをつかんでいた張本が、キム・クムヨンのバックハンドの変化にしっかり対応しつつ、チャンスでワイドに強打を打ち込むプレーでゲームカウント3対1と勝利に王手をかける。
しかし、簡単にリベンジを許すわけにはいかないキム・クムヨンも、レシーブからの積極的なフォアハンド強打や張本のコースを読んでのカウンターなどで第5、第6ゲームを奪い返し、試合はゲームオールにもつれ込む。
ゲームオールに追い付かれてベンチに戻った時の張本は、「『もうダメだ。もう限界だ、もう我慢できない』という感じだった」という。記者席から戦況を見ていても、張本の球威とコース取りに慣れてきたキム・クムヨンを再び引き離すのは難しいと思われた。
しかし、最終ゲームのラブオールの声がかかると「バック対オールのつもりで、1本1本握り締めて試合をした」という張本が、決意のバック攻めでラストスパートをかける。
(文中敬称略。世界ランキングは大会時)
↓動画はこちら
(文/動画=卓球レポート)




