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水谷隼、全日本決勝を語る①【第1ゲーム】バックハンドが好調の森薗が先制

 昨年に勝るとも劣らない名勝負になった及川瑞基(木下グループ)対森薗政崇(BOBSON)の2021年全日本卓球男子シングルス決勝。その攻防を、水谷隼(木下グループ)が解説するスペシャル企画が今年も実現した。
 全日本V10を成し遂げた水谷だからこそ見える視点は、読む者を未知の境地へといざなってくれることだろう。
 初回は、試合前の予想と、第1ゲームの攻防について水谷の解説を紹介する。

バックハンドが好調の森薗が先制
対する及川は波に乗れない立ち上がり

森薗のチキータが、勝敗の鍵を握ると予想

 森薗と及川に共通しているのは、「ドイツ・ブンデスリーガでの経験が長い」ということ。そのため、全日本の決勝は二人とも初めてでしたが、両者とも場慣れしているので、どちらかがガチガチに緊張して本来のプレーができなくなることはないと思っていました。

 それぞれのプレースタイルに目を向けると、及川はとにかくバランスが取れている選手です。攻守のバランスが良く、弱点があまりない。派手なプレーはないけれど、堅実なプレーで得点を重ねていくスタイルです。
 一方の森薗は、「得意のチキータができないサービスに対してはレシーブが甘くなりやすい」「バックハンドが守備的になりやすい」など、及川に比べると弱点が見えます。しかし、それらを、打球点の速さや身体能力の高さ、粘り強さなどでカバーして得点を稼いでいく選手です。

 このような両者の特徴を踏まえ、僕が一番の鍵になると思っていたのは、「森薗がチキータできるかどうか」です。森薗のチキータは、されると分かっていても非常に取りにくい。加えて、森薗はチキータやチキータからの展開で点数を取ると、気持ちが乗ってきます。
 そのため、森薗がチキータできた場合は、及川が一気に不利になります。反対に、森薗が思うようにチキータできないサービスを出すことができれば、及川が優勢になると予想を立てていました。


及川 0-1 森薗(及川がショートサービスから3球目攻撃をミスし、森薗が得点)
及川 1-1 森薗(及川がショートサービスからのラリーで得点)
 及川の立ち上がりのサービスですが、僕は2本続けてロングサービスを出してもいいと思っていました。点数を取るためではなく、バック側にロングサービスが来ることを(森薗に)植え付けさせることが目的です。むしろ、ロングサービスをここで2本続けて出していたら、勝負はあっさり決まっていたかも知れません。
 ラブオールから2本連続でロングサービスを出されることは、選手(レシーバー)からすると想定外なんです。森薗の卓球人生の中でも、出足から2本続けてロングサービスを出されるという経験はほとんどないでしょう。そのため、2本続けてロングサービスを出されたら、森薗の頭の中はパニックになる。僕だったら、その状態に持っていったと思います。

及川 1-2 森薗(森薗がフォア前への少し長めのサービスからの3球目攻撃で得点)
 この森薗のサービスは、左利きの選手にとっては甘いのですが、右利きの選手にとってはレシーブが難しいです。「誘い球」と呼ばれるサービスで、攻撃すれば60パーセント入りますが、ミスするリスクもある。なので、とりあえず相手コートに入れようとしがちなサービスです。
 この森薗のサービスに対し、及川は早い打球点でストップしたり、ツッツキしたりと変化をつければよかったのですが、ボールが台から出るか出ないかを見極めてからドライブしていました。そのため、打球点が落ちてしまって、ミスしたり、このラリーのように森薗に3球目を打たれたりする展開が多かったですね。
 及川としては、ここ(フォア前に少し長く来たサービスに対するレシーブ)は鍛えなければいけない部分ですし、実際に彼は、全日本が終わって木下グループの練習場に帰ってきてからすぐ、このレシーブ練習に取り組んでいました。

及川 1-3 森薗(森薗がラリー戦を制し、得点)
 左利き対右利きは、先にストレートを打った方が有利になります。そして、森薗はストレート攻撃がとても多いので、及川はどうしてもこのラリーのように守備的になってしまいます。
 そのため、及川としては早い段階でストレートへ強打していきたいところです。

森薗の対応力が光る。
打ち抜けない及川は苦しい展開

及川 1-4 森薗(及川がロングサービスを出したが、ラリーで森薗が得点)
 及川としては、早い段階でロングサービスを出すことが大切なので、(失点したが)よかったと思います。
 対して、森薗はうまくレシーブしました。この1本目を入れられたことは森薗にとってとても大きいです。仮に森薗が失点していたら、及川は絶対にロングサービスを集めてきますから。
 一方、及川としては1本目に出したロングサービスを返されたことによって、「ロングサービスはあまり効かないのかな」という印象を持ってしまったと思います。
 加えて、このラリーでは森薗のバック側を攻めていますが、及川の課題でもあるのですが、威力がないので打ち抜けません。バック側に打っておけば森薗はバックハンドからの強打がないので本来ならチャンスのはずです。しかし、及川に球威がないことは森薗も分かっているため、無理せずブロックできるので、ここは及川にとって分が悪いところです。

及川 1-5 森薗(森薗がチキータで得点)
 森薗はここで初めてチキータしました。及川としては、こういうふうにチキータを混ぜられると苦しいです。
 ただし、この決勝に限って言えば、森薗はいいチキータができなかったし、チキータする回数も少なかった。及川がすごくバランスよくショートサービスとロングサービスを出し分けて、森薗のチキータをうまく封じていました。

及川 2-5 森薗(及川が長いラリーを制して得点)
 及川らしい粘り強さが出ました。ただし、森薗の(3球目での)ストレート攻撃が強いですね。このストレート攻撃をさせてしまうと、及川は守備に回らざるを得ません。

及川 2-6 森薗(及川がチキータするも、森薗がブロックして得点)
 及川はレシーブで展開が悪かったので、変えようということでチキータしましたが、森薗の処理がよかったですね。今のところ、森薗は相手がプレーを変えてきたときに、よい対処ができています。
 ここまで、及川はロングサービスやチキータなどを試みているのですが、それに対して森薗がうまく対応しています。そのため、及川からすると、何をしていいのか分からない状態だと思います。
「相手が変えてきた1回目に対応する」というのは、勝敗の大きな鍵になります。全日本の決勝ともなると、あれこれ試す余裕がないので、効いているプレーを続ける可能性が高くなります。となると、できる限り相手に弱点を分かられたくない。その点で、相手が変えてきた1回目に対応することはとても大切です。

及川 3-6 森薗(及川がサービスからの3球目で得点)
 森薗はまだ思うようにチキータできていません。及川は、サービスの配球がすごくいいですね。

及川 4-6 森薗(及川がストレートを突いてからのラリーで得点)
 この及川の(フォア側からの)ストレート(森薗のフォア側)へのコース取りはいいですね。森薗としてはチャンスがあればバック側に回り込みたいので、及川としては積極的にストレートを狙っていくべきだと思います。

及川 6-7 森薗(及川が森薗のチキータを3球目で狙い打って得点)
 及川の上回転系のサービスに対し、森薗が詰まってチキータが甘くなりました。この前までは下回転系のサービスが多かったのですが、このラリーでは明らかに上回転系のサービスを出して(森薗の)チキータを誘ったような感じですね。
 結局のところ、試合の勝敗を分けるのは、ラリーが続いたかどうかよりも「どちらが主導権を握ってラリーを始めたか」です。そして、主導権を握った方が得点するパターンが多い。そのため、僕は、主導権を握るためのサービスやレシーブはどうだったかを、特に注目して試合を見ています。
 今のところ、森薗が得意とするチキータは炸裂していないですね。

及川 7-7 森薗(及川がバック対バックからクロスに打って得点)
 及川としては、森薗のフォア側にボールを送るのは怖いのですが、バック対バックになった場合、森薗に強打されないので、甘いボールはこのラリーのように積極的にクロス(森薗のフォア側)へ強く打ちたいところです。
 特に、及川のバックハンドは癖が強い。ボールがきれいじゃなくて(笑)とても取りにくいので、積極的に使っていくべきです。

及川の球威不足を突き、森薗が鮮やかな盛り返しで得点

及川 8-10 森薗(森薗が中陣から盛り返して得点)
 チキータさせない及川のサービスもよかったですが、森薗がうまくレシーブしました。
 このラリーでは、やはり及川の球威のなさが目立ちます。及川は前で攻めているのに、後ろにいる森薗のボールの方が速いですから(笑)。こういう場面が、この試合はかなり多かった。球威が増せば及川はもっと強くなるし、ここが彼の伸びしろだと思います。

●男子シングルス決勝

第1ゲーム 及川瑞基 8-11 森薗政崇

調子の上がらない及川に対し、森薗はバックハンドが好調

 立ち上がりは、及川の出来がよくないですね。凡ミスが多いですし、全体的に攻めるチャンスはたくさんありましたが、森薗にブロックやカウンターで点数を取られています。
 調子が上がらないのは、「この全日本で及川が初めて左利きの選手と対戦した」ことも理由でしょう。対右利きと対左利きとでは相手のボールの軌道や戦術などがガラリと変わるので、その点で難しさを感じていたのではないかと思います。
 一方、先制した森薗は、得意のチキータがあまりできていないのにもかかわらず、安定してミスなくプレーできています。特に、バックハンドの調子がいいですね。攻撃的に回転をかけたり、ブロックも安定しているので、予想よりもいいパフォーマンスです。


(まとめ=卓球レポート)

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